第二十七話:エリーさんにバレちゃいました
「エリーさん、お話っていうのはどういったものでしょうか? もしかして愛の告白とかだったら、私は席を外したほうがいいかしら」
ディーネがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて覗き込む。
「……ディーネ。なんでこの私が愛の告白なんてするのよ。貴女にも是非聞いてもらいたいわ。アレンのことは、貴女が一番よく知っているみたいだし」
エリーは若干顔を赤らめながらも、すぐに騎士団長としての冷静さを取り戻し、アレンを真っ直ぐに見据えた。
「な、なんだよ。……面倒なことには答えないぞ」
アレンはエリーの嘘を見抜くような真摯な眼差しに、わずかな動揺を見せる。
「私が話したいことは二つよ。……答えたくないことは、無理に言わなくていいわ」
「わかった。……手短に頼むな」
「努力するわ」
エリーは水を一口飲み、意を決したように神妙な面持ちで語り出した。
「まずは一つ目。……先に謝罪させて。グランシーヌに帰ってから、あなたのことを調べたわ」
その言葉に、アレンの瞳がピクリと動く。エリーも気づいたが、構わずに続けた。
「アレン・フリッツ。二年前、魔王を討伐した勇者クラウス率いるパーティーの一員。……ここまでで間違いないわね?」
アレンは返答に迷ったが、もはや隠し通せる相手ではないと観念し、小さく頷いた。
「……ああ、その通りだ」
「そう。……続けるわね。実力はせいぜい冒険者ランクC程度。しかし【無限】という二つ名が示す通り、当時唯一の『無限袋』を所持していたために、パーティーの荷物持ちとして迎えられた。……そして魔王との戦いの際、実力不足のアレンがエレナ・ライナスを盾にして見殺しにし、その責任を問われることを恐れて王都から逃亡した――」
「ちょっと待ってください!」
ディーネがテーブルを叩いて立ち上がった。
「誰がそんなことを……嘘です。全部、真っ赤な嘘です!」
「落ち着け、ディーネ」
「でも……!」
「『でも』じゃない。……最後まで聞くんだ」
アレンは腕を組んで平然を装っているが、その体は小刻みに震えていた。ディーネも主の気配に気圧され、黙って椅子に沈み込む。
「私が調べられたのは、たったこれだけ。ちなみに、討伐の調書は全て、勇者クラウスの証言に基づいて作成されていたわ」
「あの男……」
ディーネの瞳に殺意のような怒りが宿る。一方、アレンは乾いた笑い声を漏らした。
「……それで、エリー。それを俺に伝えて、何がしたいんだ? 英雄になるはずだったエレナを死なせた、この卑怯な男を責めにきたのか? 捕らえて責任を取らせようってのか?」
氷のように冷え切ったアレンの問いかけに、エリーは真っ直ぐに答えた。
「まさか。私は、その調書にはおかしな点が多いと思っているわ」
「……何?」
「目の前にいるあなたがアレン・フリッツなら、実力がCランクなんてあり得ない。どう低く見積もっても、あなたはSランク以上の実力者だわ。それに……あなたは、決して誰かを犠牲にして生きようとする人間じゃない。まだ二日しか付き合いがないけれど、それだけは誰が何と言おうと譲らないわ!」
エリーの迷いのない言葉に、荒れていたアレンの心が波打つように鎮まっていく。ディーネもまた、誇らしげに深く頷いた。
「俺はそんな大層な人間じゃない。それに俺のせいでエレナが死んだのは間違いない……で、クラウスに文句の一つでも言ってくれたのか?」
「戦場に立ち会っていない私に、そんな無責任なことは言えないわ。……だからこそ、私の二つ目の話よ」
エリーは勢いよく立ち上がると、ビシッとアレンを指差した。
「あなたを、グランシーヌ第四騎士団長に任命するわ!」
あまりの突飛な提案に、アレンは呆気にとられた。
「……任命する、だと? そんな簡単に団長なんてなれるわけがないだろう」
「大丈夫。現役団長の推薦があれば問題ないわ。悔しいけれど、実力だって私より数段上でしょう? 下の団員から文句は出るかもしれないけれど、あなたの力を見ればすぐに収まる。……団長として活躍して、その調書が間違っていると世間に知らしめるのよ!」
「……断る」
アレンは即答した。
「えっ、なんでよ!?」
「俺にはこの店があるからな。団長なんてやっている暇はない。……話は終わりだ。もう遅い、寝るぞ。エリーも泊まる場所がないなら隣の部屋を使え。……後は任せた、ディーネ」
アレンは苛立ちを露わに寝室へと向かい、バタンと激しい音を立てて扉を閉ざした。
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