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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第十二話:アレンのいじわる!

 凄絶な戦いを終えたディーネは、まるで頼まれたお使いを完璧にこなしてきた子供のように、満面の笑みでアレンの元へ駆け寄ってきた。


「よくやったな、ディーネ」


「もぉ、そこは『さすが俺のディーネだ』って言いながら、優しく頭をナデナデするところですよ、店主殿!」


「はいはい、一人でやってろ」


「アレンのいじわる!」


 じゃれ合う二人を、エリーはただ茫然と見つめることしかできなかった。あの絶望的な魔人を、無傷で、しかもこれほどの余裕を持って退けてしまった。こんな規格外の手練れが、辺境の田舎町でただの雑貨屋を営んでいるなんて……。


 アレンという男。あれほどの実力を持つディーネが心酔し、仕えている以上、彼にはそれ以上の力があるのか。あるいは、何か特別な弱みでも握っているのか。だが、この二日間のやり取りを見る限り、後者の可能性は限りなく低い。ディーネがアレンに向ける視線には、隠しようのない好意と信頼が溢れている。


 それに、あのアレンが展開したマジックシールド。魔人を一撃で消し去った極大魔法の余波を、完璧に無効化した。その一点だけでも、彼が保持する魔力量が常軌を逸していることは明白だった。エリーが様々なことを考察していると、不意にアレンが声をかけてきた。


「ところで団長さん、これからどうするんだ? マグニー火山に向かうって言っていたけど、流石に一度引き返すか?」


 エリーは息を吐き、顎に手を当ててしばし考え込んだ。


「……いいえ、このまま向かうわ。私の任務はグレイグや魔人を倒すことじゃない。このまま手ぶらで王都へ帰ったら、死んでいった仲間たちが報われないもの。……でも、今回は本当に助かったわ。ありがとう」


 二人に向かって深々と頭を下げた彼女は、感傷を振り払うように踵を返し、森の奥へ進もうとする。


「ちょっと待てよ。俺たちもマグニー火山に火口石を取りに行くんだ。でも、久しく行ってないから道に自信がなくてさ。……よかったら、ついて行ってもいいかな?」


 エリーは再度足を止め、じっとアレンの瞳を覗き込んだ。アレンは「しまった」という顔をして視線を逸らす。


「……貴方、本当に嘘が下手ね」


「う……」


「いいわ。こちらからも是非お願いするわ。……それと、『エリー』でいいわよ。別に貴方の団長じゃないんだし」


 そう言って髪をかき上げたエリーの頬は、わずかに朱に染まっていた。


「あ、ああ……わかったよ、エリー。俺のこともアレンでいい」


 答えるアレンもまた、気恥ずかしそうに顔を赤らめる。その二人の姿をディーネは母親のように微笑ましく眺めていた。


「さぁ、二人とも。いちゃついてないで早く行きましょう。日が暮れてしまいますよ」


「だ、誰がいちゃついてるっていうのよ! 道が不安なんでしょ、早く来なさい!」


 ますます顔を赤くしたエリーが、逃げるようにスタスタと歩き出した。


 道中は、先程までの惨劇が嘘のように平和だった。グリズリーの気配すらなく、ただ火山の接近を知らせる熱気だけが増していく。エリーの額に汗が滲むのを見て、アレンが足を止めた。


「エリー、そろそろ着く。その前に少し休憩しよう。この先に休めそうな開けた場所があるんだ」


「……分かったわ」


 三人は岩場に腰を下ろし、


「ところで。火山への道、すっかり『思い出した』みたいね?」


「え? あ、ああ……そうだな。歩いていたら記憶が繋がってきたというか……」


 露骨に動揺するアレンを見て、エリーは小さく吹き出した。


「もう下手な嘘なんてつかなくていいわよ。目を見なくても分かる。……サラマンダーに会う私が、心配だったんでしょ?」


「う……そ、そんなんじゃない。本当だし」


「もうさすがに無理ですよ……アレン」


 ディーネにまで畳み掛けられ、アレンは観念したように大きく溜息をついた。


「……ああ、そうだよ。サラマンダーは四大精霊の中でも、とりわけ厄介だからな。そもそも、生身の人間が会いに行こうってこと自体が無茶なんだ。……一体、何のためにそこまでするんだ?」


 エリーは迷う素振りを見せたが、やがて重い口を開いた。


「……これは極秘任務なんだけど。今、アノールドの王女様が奇病に伏しているの。身体が徐々に凍りついていく、原因不明の病よ。それを救うには、サラマンダーの鱗を煎じて飲ませるしかないの」


「なるほどな……」


 サラマンダーの鱗。常に超高温を放ち、氷の池に投げ込めば一瞬で熱湯に変えるという伝説の素材。


「エリー。サラマンダーとの交渉は、俺に任せてくれないか?」


「えっ? それは構わないけど……貴方、もしかしてサラマンダーと面識があるの?」


「ああ。昔、ちょっとな……」


 アレンは当然のように「厄介だ」と言った。


 エリーの中で、疑問が確信へと変わっていく。あんなにも底知れない魔法使いを従え、四大精霊を知り、自分を救ったこの男は何者なのか。


「……じゃあ、次はアレンの番ね。私は極秘任務まで話したんだから、逃げちゃダメよ。――貴方、一体何者なの?」

お読みいただきありがとうございました!


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