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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第十一話:少し本気を出しますよ

「ははっ、やる気満々だな」


 アレンはそう笑うと、ディーネと並んでエリーを庇うように一歩前へ出た。


 エリーは咄嗟に二人を止めようと手を伸ばしかけたが、その背中が放つ圧倒的威圧感に、言葉を飲み込んだ。


 頼もしく、揺るぎない安心感。他人に守られるなど、騎士団長という立場になってからは久しくなかった。本来なら守るべき立場の自分が守られていることに悔しさを覚えるべきなのだが、不思議とそんな気は起きない。気づけば、伸ばしかけていた手は力なく下ろされていた。


 そんな三人のやり取りを目の当たりにし、セリエルは苛立ちを露わにした。人間など、自分を前にすればエリーのように恐怖で震え、命乞いをするのが当然だ。それなのに、目の前の男女には恐怖の欠片も見当たらない。それどころか、男の方などは薄ら笑いさえ浮かべている。


「……気が変わった。三人とも、なぶり殺しにしてやろう。まずは、その余裕そうなツラから四肢をもぎ取って――」


「おい。色々と御託を並べてないで、さっさと来いよ。こっちも暇じゃないんだ」


 アレンは腰に手を当て、欠伸でもしそうな態度でセリエルの言葉を遮った。魔人の怒気が、沸点を超える。


「……分かった。死ね」


 セリエルが漆黒の剣を構え、踏み込もうとした瞬間だった。


「――ウォーターバースト!」


 ディーネの詠唱が、爆音となって轟いた。セリエルの体を巨大な水球が包み込み、次の瞬間、内側から激しく爆発した。辺りは一面の霧に包まれ、無数の水滴が雨のように降り注ぐ。やがて視界が晴れると、そこには衣服をボロボロにし、全身から緑色の血を流して呻くセリエルの姿があった。


「あらあら。苦しまないように一撃で仕留めてあげようと思ったのに、なかなかお強いのですね」


「貴様……何者だ……っ!」


「雑貨屋エレールの、しがない看板娘ですよ」


「自分で言うな」


 傍観していたアレンが即座にツッコミを入れる。


「ふ、ふふ、ふざけるなぁぁぁぁっ!」


 セリエルが絶叫すると、どす黒いオーラが全身を包み込み、眼球が真赤に充血した。傷だらけだった体がみるみるうちに再生していく。


「これが、俺の本気だ……!」


 魔人は言葉を残すと同時に消えた。一瞬でディーネとの距離を詰め、猛烈な連撃を繰り出す。ディーネもまた、瞬時に形成した水の剣でそれを受け流していく。


「接近戦は苦手なんですけどね」


 そうぼやきながらも、ディーネはセリエルの神速の斬撃をすべて完璧に捌いていた。だが、その勢いは凄まじく、反撃の隙がないようにも見える。


 エリーはその光景から目を離せずにいた。目の前で繰り広げられている戦いは、確実に自分の限界を超えた領域にある。


「……あの魔人、なかなかやるな。ディーネがあんな真剣に戦うのは珍しい」


 横から聞こえた場違いなほど冷静な声。エリーが視線を向けると、アレンは腕を組んで突っ立っているだけだった。腰の剣に手すら掛けていない。


「……貴方は戦わないの!?  危なくなったら私は加勢に行くわよ!」


「止めた方がいい。ディーネの邪魔になるだけだ」


 エリーはカチンときた。自分の実力がこの戦いにおいて足手まといに近いことは分かっている。だが、何もせず眺めているだけの男に、そんなことを言われたくはなかった。


「ぐはぁっ!?」


 エリーが視線を戦場に戻したとき、すでに戦況は動いていた。ディーネが何を仕掛けたのか、セリエルが腹を押さえて大きく後退していたのだ。


「ふぅ……思ったよりタフですね。アレン、このままだと時間がかかりそうなので、もう少し『貰います』よ?」


「ああ。何なら、久しぶりに『アレ』を見せてくれてもいいぞ」


「バカ! 絶対に嫌です!」


 エリーには理解不能なやり取りを交わした後、ディーネが静かに目を閉じた。直後、周囲の大気が震える。彼女の全身を鮮烈な青いオーラが包み込み、魔力が指数関数的に跳ね上がっていく。


「その魔力……ま、まさか……貴様……っ!」


 セリエルはその姿を見て、ようやく何かに気づいたようだった。だが、もう遅い。


「ふふ、気づくのが遅かったですね。……では、サヨウナラ」


「エレメント・ジャッジメント」


 ディーネが天に手を掲げ、カッと目を見開いた。上空に、美しくも禍々しい青い球体が次々と現れる。十、二十……その数は瞬く間に増殖し、空を埋め尽くしていく。


「この俺様が……こんなところで……」


 死を予感したセリエルは、抗うことすら忘れ、絶望と共に上空を見つめた。


 エリーがその幻想的な光景に目を奪われていると、突如、自分の周囲を透明な膜が覆った。


「これは……マジックシールド?」


「そこから出るなよ」


 アレンが短く告げた。


 次の瞬間、ディーネが振り下ろした手に呼応し、無数の青い球体が光の雨となって降り注いだ。鼓膜を震わせる爆音。視界を白く染める閃光。土煙と蒸気が渦を巻き、何が起きているのかエリーには全く理解できなかった。


 やがて、衝撃が収まり視界が晴れていく。そこには、アレンとディーネ、そしてエリーだけが立っていた。緑が生い茂っていた周囲の森は跡形もなく消え失せ、クレーター状の更地へと変貌していた。アレンのシールドがなければ、エリーも今頃、塵になっていたかもしれない。


「アレン、終わりましたよ。……褒めてくださいっ!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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