↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公務員になりたいだけなのに!~ダンジョンのある世界で普通に生きたい~  作者: のほほん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

真実の目

「うーん……あの子は白でしょ。あの子は黄色……」


 生徒たちが次々とダンジョンから出てくる。その様子を少し離れた場所から見つめながら、アヤメは一人ひとりを確認していた。


「ぱっとしないわね。よくて緑か……」


「緑なんていらないからな」


 隣に立つアキラが、退屈そうに言い捨てる。


「分かってるわよ。私だって紫を探してるんだから」


 アヤメはそう言いながら、生徒たちに目を凝らす。白、青、黄色、そして時折混じる緑。しかし、二人が求めている高貴な紫のオーラを持つ生徒は、一向に現れなかった。


「……いないわね」


「まだ全員出てきたわけじゃないだろ」


「そうね」


 アヤメが再びダンジョンの出口へ視線を向けたその時、一人の女子生徒が姿を現した。


「……あ」


 アヤメの目が、その少女を捉える。ダンジョンから出てきたのは、少し前を歩いていたカナエだった。


「次は……あの子ね」


 じっと観察していたアヤメは、わずかに首を傾げる。


「惜しい……赤だったわ」


「赤か。まあ、紫じゃないなら仕方ないな」


「そうね。でも、赤なら将来的にはかなり伸びる可能性があるわ」


 そう言いながらも、アヤメは次の生徒へと視線を移す。しかし、しばらく待っても紫のオーラを持つ者は現れない。


「……これで最後かしら?」


「みたいだな」


 すると、出口の向こうから、最後の一人がゆっくりと姿を現した。


「……あの子は?」


 アヤメが目を細める。歩いてきたのは、ケンだった。


「…………」


 ケンの姿を捉えた瞬間、アヤメは息を呑んだ。


「……え?」


 思わず零れた声に、隣のアキラが怪訝そうに振り返る。


「どうした?」


 アヤメは答えない。ただ、ケンを見つめたまま、信じられないものを見るように目を凝らしていた。


「黒……?」


 呟いたアヤメに、アキラが声を荒らげる。


「はあ? 黒なんてオーラねーだろ!」


「そうよ、私も知ってるわ! 白、青、黄色、緑、赤、そして紫……。黒なんて存在しないはずよ」


 自分の目を疑い、アヤメは何度も見直した。それでも、視界に映る色彩は変わらない。


「でも……確かに、あれは黒なのよ……」


「見間違いじゃないのか?」


「違うわ!」


 アヤメは即座に否定した。


「私の『真実の目』が、こんなものを見間違えるはずがない」


「じゃあ……なんなんだ、あいつは?」


 アキラも怪訝な視線を向けるが、当のケンは二人の視線に気づくこともなく、クラスメイトたちの後ろをトボトボと歩いていた。


「……分からないわ」


 初めて見る不気味な黒いオーラを前に、アヤメはこれまで感じたことのない動揺を隠せなかった。


「でも……あの子、普通じゃないわ」


 全員がダンジョンから出ると、直ちに班分けの点呼が始まった。


「じゃあ、全員ステータスを見せてくれ!」


 先生の指示に、生徒たちは次々と自身のステータス画面を空中に展開していく。


「お前は右。お前は左だ」


 先生は一人ひとりのステータス画面を手際よく確認しながら、生徒たちを左右に分けていく。


「やった……!」


「これで、もうダンジョンに入らなくていいんだ……!」


 安堵に顔を緩ませる者や、嬉し涙を流す者で一帯がざわめく中、ついにカナエの番が来た。


「お前は右だ」


「はい!」


 カナエは晴れやかな顔で右側へ移動していく。


 そして――最後に残ったのは、ケンだった。


(頼む……どうか見抜かれないでくれ……!)


 ケンは冷や汗を拭いながら、祈るような気持ちで自分の番を待った。


「おい、そこの! 早くステータスを表示しろ!」


「あ、はい……っ!」


 追い詰められたケンは、慌てて虚空に向けて手を突き出した。


「ステータスオープン……っ!」


 パッと光を放ち、ステータス画面が展開される。その瞬間――。


「――ザザッ!」


 画面が激しく明滅した。


 一瞬どころではない。浮かび上がった文字がぐちゃぐちゃに崩れ、視界のすべてを覆うように黒いノイズが走り抜ける。


「ザザザザザッ――!」


 まるでステータスそのものが、何かを拒絶し、あるいは隠蔽するかのように激しく暴れた。


「な、なんだこれ……!?」


 ケン自身が青ざめて目を見開く。


 しかし次の瞬間――。


「…………」


 嘘のように、すべてのノイズがピタリと止まった。


 乱れが嘘だったかのように消え失せ、そこには何事もなかったかのような「正常な」ステータス画面だけがぽつんと残されていた。


「……は?」


 ケンが呆然と瞬きをする。


 そして、少し離れた場所からその一部始終を見ていたアヤメもまた、激しく息を詰まらせていた。


(……今の……何……?)


 アヤメの『真実の目』には、ケンのステータス画面を覗き込もうとした瞬間、まるで視界そのものを塗り潰すような、凄まじいエラーノイズが飛び込んできたのだ。


(私の『真実の目』が……弾かれた……?)


 そんな異常事態は、生まれてこのかた一度たりとも起きたことがない。


 動揺を抑え込みながら、アヤメはもう一度ケンのほうへ目を凝らした。しかし、今度は何事も起きていないかのように平穏だった。


「…………」


 そこに表示されていたのは、ただの「レベル10」。

 そして、見慣れた文字。


『これ以上レベルが上がることは無い』


「……どういうことよ、一体……」


 アヤメは複雑怪奇なものを見る目で、表情を凍りつかせた。


「どうなんだ!?」


 隣でアキラが苛立ったように声を上げるが、アヤメはそれに答えられない。


 その間に、先生は目の前のケンへ淡々と告げた。


「お前は左だ」


「…………!」


 一瞬、思考がフリーズしたケンだったが、次の瞬間、脳内で何かが爆発した。


「……よっしゃあああああっ!!」


 思わず力強く、ガッツポーズの拳を握りしめる。


 左側。そこは、レベル上限に到達し、これ以上の探索授業を免除された者たちが集う場所だった。


「はあ?」


 アキラが不審そうに眉をひそめる。


「おいおい、あいつ、レベル10で打ち止めじゃねーかよ」


「そう、ね……」


 アヤメはケンを見つめたまま、うわ言のように呟いた。


「確かに、ステータスには『これ以上レベルが上がることは無い』って書いてあるのよ……」


「じゃあ、黒いオーラはなんなんだよ?」


「…………」


 アヤメはもはや言葉を発しなかった。


 ありえないはずの黒いオーラ。そして、自分の固有スキルすら一瞬で弾き飛ばしたあの異常な拒絶反応。


「……分からないわ」


 アヤメは静かに首を振ると、嬉しそうに列を抜けるケンの背中から、どうしても目を離すことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。