第8話【剣とブーメランってどんな味?】
「ホワイトソード、ゴールドソード、ウッドブーメラン。これらは全部食材だったわけだが」
「大根、人参、鰹節ですね」
「オーク肉もあるならあれが作れそうなんだがなぁ、でも作れないんだよね」
「分かりますよタンスイさん。……豚――ッッ!!」
妖精の眼前で剣とブーメラン、ゴボウの先端が止まる。
風魔法による武器操作によって、あやうくコメットに殺されかけた。
『セーフ』『生きた心地がしなそうww』『別に死にはしないけどねw』
一同は自由屋台エリアにいる。
イモモと変わらず、都市の大広場、探索者ギルド近くに設けられていた。
屋台の前でタンスイが作るのは【根菜のおかか煮】だ。
視聴者からレシピを提供してもらい、調理法を視界に映しながら実演する。
「根菜は皮を剥いて乱切り。ゴボウは皮が美味いからこそげ取るだけにして斜め切りにしてーっと」
「……やる」
「ありがとなメンヌ。じゃあ切ったのを鍋にいれて、醤油・みりん・酒・砂糖と水を――」
武器屋で買ってきた根菜と、市場で調達してきた調味料を入れて魔石コンロの魔石一つ――弱火で十分ほど煮る。
メンヌはここで機転を利かせ魔力結晶の粉も入れた。
「いいね! 鰹節と魔力結晶は相性が良いんだ」
「……フッ」
無表情で、しかしご機嫌なサムズアップポーズが配信画面中央に映った。
次にウッドブーメラン鰹節を紙のように薄く削り、鍋に入れ混ぜたら完成。
「このウッドブーメランは鰹節といってな、そのまま茹でるんじゃなくて削って使うんだよ」
「モグモグモグモグモグモグモグ」
おそろしいことに、気づいたら四人前の料理が消失していた。
コメットが頬をリスのように膨らませて咀嚼している。
誰かこの怪物を制御してくれよ。
ごくりと巨大な塊が喉を通り胃に落ちると、満面の笑みをして言う。
「うん、オイシー!」
『草』『悪びれない、くじけない』『いやゴム人間かよww』
とはいえコメットのお金で買ったわけだから責めづらい。
彼女にまた材料を買ってきてもらい、もう一度メンヌと料理を作る。
***
【同時接続者数12,000,000】
【試食したい人】
【90%】
タンスイの配信機能『アンケート』には魔力供給のほかにも使い方があった。
試食したい人を募り妖精を異世界に顕現させ、まとめて集合体妖精を作る。
6mほどの大きさになった約1000万人ぶんの妖精。
膂力もなく、すぐに弾けるので壁にもならない。
まさに視聴者と一緒に食べるためだけに使える力だ。
「大根の煮汁を吸ったみずみずしい食感にごぼうのシャキッとした歯ごたえがアクセントになって噛むほどに野趣のある風味が広がっていきそして鰹節からふわっと漂う燻製香と醤油の煮詰まった香ばしい匂いが混ざり合いおかかにすることで舌に乗せて食事としても楽めるまさにお手軽根菜煮物だ。うーんこれはご――美味しいねレシピを提供してくれたクックペットさんには多大なる感謝を!!」
「醤油と鰹節、この出汁の香りがほっとしますね~」
『この発作きらい』『これすき』『これきらい』『これすき』
集合体妖精の主人格はチャンネル登録者が早く、かつ最も視聴している者になる。
初期から応援してくれる者への恩恵といったところか。
『見た目が武器なだけで地球でも作れそうだな』『ご飯欲しいよね』
『いやあでもこの具材なら豚汁でしょ』『味噌が無い』
味噌は自前で作れるとは思えない。
よって生産ダンジョン頼みになるのだが、どこかで出たという話も聞かない。
豚汁を作れる日はくるのだろうかと、タンスイは思いを馳せた。
飲食スペースにてフォークが進むコメットとメンヌ。
そんな中、パーンはタンスイに語り掛ける。
「タンスイ。泥ポーションはな、超再生効果があるんだ。千切れた腕も元に戻るくらいの」
え!?
おい初耳なんだが!?
「今回のでよく分かった。お前は絶対にパーティに必要だ。だから――【魅了】」
パーンはタンスイの目を見て、武器屋店主を篭絡した天技を使った。
……だが、やはり通用しなかった。
がくりと肩を落とし「何故効かないんだ」とまた呟く。
『確かになんで効いてないんだ?』
『シンプルに魅力を感じてないだけでは』
『タンスイは冷笑系には見えないんだけど』
「やたらと胸とか肌とか強調してるけど、魅力ってそれだけじゃないだろ?」
「は?」
「そうだな、例えば作る飯が美味いとか。あとはホワイトソードとかかっこいいよな。そういうのに魅力を感じるから真逆なのかもな、パーンと」
「嘘だろ……そんな男の子がいるわけが……」
童貞が我慢してとか。性欲が無いとかではない。
単純に性的嗜好が合っていないだけだ。
タンスイはサキュバスの肢体よりも、オーガの肉体の方が魅力に感じるだけ。
「だから惜しいなパーンは。サキュバスじゃなくてオーガ方面で鍛えれば俺は魅了されただろうに」
「……ッ。嘘だ」
「え?」
「そんな男の子がいるわけがない! 男の子なんてみんな胸しか見ないだろうが!」
なんという偏見……といいたいところだが。
そういう男性が多いのは否定できない。
きっと彼女の周囲はそうだったのだろう。
「あのなぁ、いるわけがないっていうかここにいるだろ。俺は魅了にかかってないぞ」
「くっ……ならオレの母さま、サキュバス・クイーンの魅了に耐えてみろ! 実家に来い!」
「はい? 急に何を――ぐおお!!」
パーンはタンスイの外套を物凄い力で引っ張り、無理やり引きずる。
なんて力だ。見た目はしなやかなのにオーガだけのことはある。
……というか、サキュバス・クイーンって何!?
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