第9話 サキュバス・クイーンのお母さんとオーガ・キングのお父さん
都市の住宅エリアには庭付きの大きな樹家があった。
ギルドほど大きくはないが、三人家族には十分な二階建てのバオバブハウス。
パーンの実家だ。
引きずられて来たはいいものの、サキュバスクイーンの魅了って何なんだ?
コメットやメンヌまで一緒に来ているが、一体何が起こるんだ。
パーンだけ家の扉を開け室内に入り、残りは庭で待つ。
しばらくすると扉から三人の姿が見えた。
褐色の筋骨隆々の男性は笑顔でタンスイを迎え入れる。
膨れ上がった肉体は、まさにオーガの種族を象徴するようだったが……右腕がごっそり失われていた。
「ハッハー! 気にするな、名誉の負傷って奴だ!」
動物の毛皮のような物を纏いまるで原始人のような服装をしている。
快活な性格で、笑うたびに上体が揺れ、その笑顔は眩しい。
彼の腕を治すためにパーンは躍起になっている。
「聞いたわよ、エロさは魅力ではないと豪語した童貞さんがいるって♪」
――なんか曲解してないか!?
黒い蝙蝠のような翼と細い尻尾、角を持つ女性。
パーンの母親だが、娘は翼も尻尾も角も受け継がず天技だけを受け継いだらしい。
『ほほ^~』『露出しすぎてチャンネル消えそう』『いや絶対に消えないから大丈夫』
ピンク色の長髪に宍色の肌。成熟した胸や尻、それを支える細い腰――非常にスタイルが良い。
チューブトップにほぼTバックのようなパンティ。最早痴女で外に出ていい格好ではない!
タンスイが分析していると、突然彼女は接近し胸を押し当て、尻尾を太ももに絡ませ顔を吐息がかかるほど近づけ、目を合わせる。
――天技発動!!
――?
「ガハッ!!」
口元を押さえ、殺人現場でも見たような目でタンスイを見つめる。
数歩後ずさると、四つん這いになって痙攣し始めた。
『親子揃って似たようなリアクションしてやがる』『デジャヴww』
「サキュウウウウウウッ!!」
「――――」
「し、死んでる!!」
父親のオーガがやがて倒れた彼女を支えると、血ではなく涎を垂らし白目を向いていた。
「あの、結局どういう天技だったんですか?」
「――サキュバスの魅了よ――あれ?」
「もう喋らなくていいサキュ! ゆっくり休んでくれ」
父親はサキュを芝へ寝かせると、タンスイの前へ立ちはだかった。
影が落ちて表情は見えないが、明らかに背後に炎が揺らめいている。
「小僧、会って早々悪いんだが――死ねッ!!」
会って早々悪すぎるッ!!
【同時接続者数15,000,000】
【魔力供給】
【40%】
パーセンテージが微妙に低いのは気になるが、全身から噴き出す魔力を纏わせ頭上に迫り来るチョップを両手の平で押さえる。
真剣白刃取り!
両手で攻撃を止めるが、小隕石が大地に衝突するかのような衝撃が手から全身へと伝わり、足へ抜け、そのまま大地へとめり込む!!
衝撃波が芝と大地を割り、まるで重力魔法を直に食らうように圧力がのしかかる!
「バカな! オーガ・キングである父さまの【ギガ・メテオ・チョップ】を防ぐなんて!!」
オーガ・キングって何!?
膨大な魔力からくる身体強化で痛みは一切なく非常に軽いが、肌に響く衝撃はそうではないと警鐘を鳴らす。
恐ろしいことに、父親は魔力纏いすらしていない。つまりオーガの肉体のみで大地を破壊している!
しかしタンスイの圧倒的な強さに根負けし、力を抜き、ゆっくりと後ずさりすると仰向けに倒れた。
人生で二番目に危険な相手に会った。一番目はコメットだが。
パーンは倒れた家族二人に駆け寄り呼吸の有無を確認するように顔を近づける。
タンスイはそれを見下ろし、まるで仇敵のような構図で口を開く。
「これで分かっただろ、魅力ってのは色々あるんだ。気持ちの入っていない行為に魅了される訳がない。今まで上手くいってたとしても、いずれ限界が来る!!」
『いま何の話してんの?』『知 ら ん』『パーン思考ビタロック改善計画』
「じゃあオレは……どうしたらいいんだよおおおぉぉぉぉッ――ッ――」
雄叫びが庭に木霊する。
安らかに眠る父親の頭を抱え、空へ向かって放たれた叫びは、虚しく広大な青へと溶けていった。
「まぁ私も悪い部分があるから、とりあえず経緯を話しておきますか」
コメットが手を叩くと、映画のワンシーンが終わったかのように倒れていた二人は何事もなかったかのように起き上がり、皆を家の中へ案内する。
「……演技だったのかよ!」
『ノリが良すぎる』『ていうかタンスイ何もしてないしなww』
パーンも慌てて閉まる前の扉に触れ、中へ入った。
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