第6話 ギルドマスターにご挨拶
鳥の囀りと共にゆっくりと目を開ける。
まだ頭が働かないまま上体を起こし、大きく伸びをしてから両開きの窓を開けると、朝日が肌を照らす。
『おはっす』『こっち寝るとこなんですが』『時差が』
視聴者と挨拶をし外の景色を眺める。
視界いっぱいに広がる茶色の巨大な大樹の幹。
歩いて一周するだけで、いったい何時間かかるのだろうか。
見上げれば枝葉が巨大なパラソルのように広がり、都市全体を覆っている。
「樹がでっかいなぁ。どこのダンジョン都市だろう……ってコメットが言ってたか」
『東京スカイツリーの倍くらい?』『1000m以上ありそう』
ここはダンジョン都市・大樹コロスケ。
ダンジョン街イモモのように、ダンジョンの入り口を中心に環状型に拠点が立てられ発展し都市となった。
家屋はバオバブの樹のように幹が太く、中がくり抜かれ住居になっており、難燃・耐水性に優れ、上下水道も整備されている。
生産ダンジョンは偏りはあるが資源資材が豊富で、建築系の天技を持つ者がいれば生活基盤は発達する。
本当に料理だけ遅れた世界だ。
地面は木質系舗装された大通りがあり、人々が往来している。
遠くには、大きな魔獣の姿も見えた。
前夜、コメットは超転移魔法を使ったが、距離が遠ければ遠いほど時間にズレが生じるそうで、真夜中にこの都市の探索者ギルドに転移した。
一行は常駐の職員に事情を説明して、タンスイはギルド併設の宿舎の空き部屋を借りてそこで一旦解散となり、現在に至る。
樹の宿舎を出ると隣に探索者ギルドがあり、扉を押して開ける。
ダンジョンに関わる仕事を円滑に行うために作られた組織、探索者ギルド。
資源資材の回収、魔物の処理、ダンジョン探索や攻略、その他諸々の依頼が集まり、探索者はそれらをこなして生計を立てる。
宿舎も探索者ギルドも樹をくりぬいた建物だが、木造や石造りの家屋と変わらず床も壁も平たい。
視界に入るのはギルドホール、受付、クエストボードで他のギルドと同様の構造だが、イモモと違いここには人間の姿はなく、魔族ばかりだった。
『魔族ってか亜人じゃないか?』『昔の人らが呼称を気に入ったとかなんとか』
『まぁ争ってもないしなんでもいいっしょ』
狼や猫など獣の顔を持つ獣人や、人顔の獣人、耳の長いエルフ。
なぜか皆、タンスイを凝視していた。
一人の若く毛並みの良い男性獣人が声をかけてくる。
「お前が肉奴隷のタンスイか?」
……は?
「ギルドマスターが呼んでたぜ。二階に行きな」
『肉奴隷は草』『どういう意味?』『いや料理の方のな』
階段を上がった先の扉前に二人の女性が立っていた。
メンヌは駆け寄ってきて両肩に跨り、パーンは首と肩の力が抜け重力に従いながら、突然顔を向けずに尋ねてきた。
「なぁ、オレに魅力は無いのか?」
「いやあると思うよ。てかパーンの天技って実際何なの?」
「【サキュバスの魅了】だよ! じゃあなんで効かないんだ!?」
「魅力ってのはエロさだけじゃないから」
パーンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、タンスイは頭上に疑問符を浮かべた。
曲線美な肢体は魅力的なのだろうが、一切気持ちの籠もっていない誘惑に価値を感じないというのがタンスイの認識だ。
パーンが疑問を投げ返す前に扉の奥で「入れ」と女性の声が聞こえた――っていうか聞き覚えがある声だ。
扉の先はギルドマスター室。
格式の高そうなテーブルと椅子、そして窓の朝日が座る者を射す。
逆光で顔はよく見えないがもうシルエットと声で分かる。
「どうもギルドマスターのコメットよ。よろしくね♪」
えぇ……。
手で目を覆うタンスイ。
組んだ両手の上に顎を置いて微笑むコメット――の横にある本がひとりでに浮いてコメットの頭上で落下した。
「あいだっ」
「冗談はそこまでだよコメット」
コメットの背後に影が浮かびあがると、長身の獣人が姿を現し彼女の両脇を掴んで立たせ、代わりに椅子に腰かけ自己紹介を始める。
【バリダリン】――種族:獣人 女性
狼の顔立ちに白と灰の毛並み、片目を隠す長い前髪を結んだポニーテールの獣人。
身長は2mほどあり、ショート丈のジャケットにチューブブラ、ボディラインの出るジーンズを着こなす。艶のある毛並みと露出した肩や腹部が、大人の色気を漂わせていた。
探索者というより現代の私服に見えるが、ダンジョンの宝箱や生産品は布地、服も出すのでこのような格好の者もいる。
基本的には魔力纏いで戦うため、自信さえあれば極論、全裸でも戦える。
公序良俗に反するので禁止されているが。
『ダウナーお姉さん系ウルフきちゃ!』『ダウナー要素どこ?』
『目つきかな』
彼女こそギルドマスターであり、コメットは普通の探索者だったようだ。
タンスイはやり取りがアットホームすぎる疑問を感じつつ、四人は整列する。
挨拶もそこそこに、バリダリンはタンスイに正常な判断ができているかを念を押すように確認し、コメットに話を振る。
ランクを再度確認すると、パーンとメンヌはCでタンスイはD。
ドラゴンダンジョンレースの参加条件を全く満たしていない。
別途開催されている、娯楽特化の低から中難易度ダンジョンレースにランク制限は無いが、今回目的としているのは高難易度レースだ。
コメットがパーティリーダーなのだがそも何故この三人なのか、バリダリンは理由を尋ねる。彼女は意気揚々と悪びれずに喋った。
「パーンは魅了役で相手パーティに忖度させ、メンヌは天技による武器製造で飛び道具を作り相手パーティを脱落させ、タンスイは料理が上手いから料理奴隷として使います」
おい合同戦って言ったよな? 妨害しか頭に無いじゃねえかこのクズエルフ!!
『いるいる、レースで逆走する奴』『真剣勝負の場だと冷めるな』
『競争だけど合同攻略の趣旨に反してないか?ww』
「あのねぇ、高難易度レースでの利敵行為は命に関わるから。だからしっかりとパーンとメンヌ、タンスイそれぞれを強化しランクを上げて。じゃないとこちらで人選するから。あと依頼をパーンの魅了で無理くりこなしてランク上げようとするの禁止だからね」
そんな問題児だったのかよ――
かくして魅了ブッパ妨害編成が禁止されてしまったコメット達。
果たして二十九日後までにランクを上げ、レースに挑むことがででで、
できるのかぁ~!?
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