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第5話 泥ポーションとタンスイの配信方針

 至高の泥ポーションとはカレーのことで、コメットの願いは解読して作って欲しいというものだった。言葉だけではなく、実演をしろという。


『わかる』『画像や映像つきじゃないと分かりにくいよな』


「よし分かった。ドラゴンの肉取って泥ポーション作るか!」


 世界を救いたいでも、誰かを助けたいでもない。

 ただ知りたい、食べたい。たったそれだけ。


 だが目的は一致した。

 彼も異世界の――ドラゴンの肉の味が知りたい。


 タンスイは改めてコメットと握手を交わす。



【ドラゴンの肉ってどんな味?】



 二人のやりとりを見て、ふと妖精は疑問を口にする。


「なぜそこまでファンタジー食材にこだわるんですか?」


 それはタンスイが転生する前の趣味が理由だった。



「――食事シーンを見ながら飯を食う」

「は?」


「アニメとか漫画とか小説とかにある食事シーンあるだろ。あれと一緒に飯を食うのが前世の趣味だったんだよね」


『グルメ系とかか』『分かる気がする』


「あぁ、同じ料理食べると没入できますよね」


「そう。物語の中に自分もいるみたいで楽しいと感じるんだ。だけど問題があった」



【ファンタジー系の食材は地球の味に例えてくれない】



『そりゃ地球に無いんだから』『まぁ』『ドラゴンの肉か』


「味が想像できないし、似たものを買うけどなんか違う。だから俺は思うわけだ。あぁ地球人なら例えてくれよって。そしたら同じ物が食べられるのにって」


 ドラゴンの肉は美味しい! 未知の味だ! 牛でも豚でも鶏でもない!


 それ以外表現のしようが無いのは、ファンタジーだから。

 ただ、未知の味を食べられても地球に無いものは共感しづらい。

 美味しそうだなぁ、いいなぁとしか思えない。


 タンスイは羨ましがられたいのではなく、共有したいのだ。


「まぁマンドラゴラが生姜って分かった時、生姜の見方は変わりましたが」

「俺はそれがしたい! 未知の食材を地球の味に例えて、皆と共感したい」


『その心は?』


「異世界と地球、俺と視聴者。同じ物を食べて、楽しみたい!!」


 タンスイは握り拳を掲げて声を発した。

 妖精も、コメントも勢いに半ば呆れる。



『転生してやりたいことが一緒に食べようてww』

『作り手側に回ってるがww』

『思い出作りなら冒険とか、絶景とか見に行くでもいいよね?』


「景色で腹は膨れないだろ」


 タンスイはそういう奴だった――


「んな理由で危険を冒そうとしてるんですか、はぁ」

「それが俺の異世界配信の方針だ。というわけで視聴者手伝ってくれ!」


 面白いかどうかは分からないが、面白いと思って進む。

 方針は、ファンタジー食材の味を地球の味に例えて、皆で食べる。

 そうすれば地球は、異世界は。お互いが身近に感じる。

 生姜はマンドラゴラ。魔力結晶はうま味調味料。

 

 なんでそんなことを。


 楽しいから。


『あと寂しいんだろ』『ちょww』『異世界ぼっちだからな』


「うるさいなぁ」

「あなたがそうしたいなら応援しますよ。それが視聴者ですからね」


 妖精はタンスイの手を掴む。

 コメントの言葉は的を得ていたのかもしれない。



 ――タンスイは異(・)世(・)界(・)で(・)も(・)孤(・)児(・)だ(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)。



 この光景をコメットとメンヌも見ているが、彼女達はタンスイの独(・)り(・)言(・)について敢えて何も訊かない。

 知っているのか、察しているのか。

 ただ一言だけ。



「食い意地張ってるわねぇ」

「お前が言うのかよ!」



 コメットとメンヌも、タンスイと妖精の交わした手に手を重ねる。

 こうしてタンスイは彼女達のパーティに加わった。

 目的は至高の泥ポーション作りと――ドラゴンの肉だ。



「んじゃ、私達のいる都市【大樹コロスケ】に行くわよ!」



 一同は魔法陣から外に転移する。



***



 宿屋に戻り、店主に窓の件を謝罪し引き払う旨を伝え二階の部屋に戻ると、パーンが布団を被って眠っていた。

 コメットは風魔法で彼女を浮かしてタンスイに背負わせ、メンヌはタンスイの肩から頭上に上り器用にあぐらをかく。

 絶対に下りないという意思!


「ん重い!」



【同時接続者数 24,000,000】

【魔力供給】

【80%】



 タンスイの【天技:精霊配信】は配信に関する力を得られる。

 これはアンケート機能を使って賛同者から魔力を供給してもらうという力だ。


 コメットは改めて目を見開き、断言する。

 その魔力量を超える人物はこの世界に存在しないと。

 称えられているが、地球人達に自覚は無い。


「って言われてもよく分からないんだけど」

「魔力供給して疲れたーって話も聞きませんし」


『てか地球に魔力があるのかも分からんのだが』

『認識できないよなぁ』

『魔法も地球じゃ使えないね』



「ま、それはともかく魔力もらうわよ 転移魔法使うから」

「転移魔法ってそれ超上級――」


 宍色の手がタンスイの腹部に触れると、魔力が移動を始めた。

 黄緑色の魔力が白色へと変わり、タンスイの腹からコメットの全身へと流れる。


『何をして……』『魔力奪ってない?』『ドレイン!?』『スティール!?』


 もらうと彼女は口にしているので、魔力を奪うという表現が近いか。


 魔力纏いは魔力量に応じて身体能力を向上させる強化法だが、こういった特殊行動においては無力な面もある。



『まさにタンスイキラー』『草』『味方にチート看破されてますけど』



「これ豆知識なんですが、異世界無双ジャンルでは変に主人公を苦戦させると人気落ちるんですよね。味方に看破される場合どうなんでしょう?」


「知 ら ん が な」


 談笑する中、コメットは何かの詠唱を終えると四人の身体が白く発光する。


「――【強制帰還(ルーンラン)】」


 その言葉を最後に、全身が白のシルエットになった四人は跡形も無く消え去った。



 はたしてタンスイ達はドラゴンの肉――泥ポーションを食べることができるのか。


読んでいただきありがとうございます。


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