第12話【ハコビバチの花粉団子ってどんな味?】
しばらくして、ハコビバチが手に淡黄色の球体を持ちながらドームから出てきた。
風の魔法で自身と球体に付着した花粉を吹き飛ばしてから、それをメンヌの小さな手に落とす。
片手でも持てるほどの大きさで、ひんやりとした水晶のような球体で半月の目が反射している。
蜂、黄色、花粉とくればハチミツやローヤルゼリーだろうか。
「おい……怖いぞお前ら!?」
球体を眺めるメンヌに影を落とすのは二人。
真っ黒なシルエットに白い結膜と黒目が虎視眈々とその球体を見つめていた。
だが理性が止めている。
さすがに子供が受け取った物を強奪するのは人としての倫理が問われるぞ。
『せめぎあってる時点でおかしいけどな!』『顔がこええよww』
と視聴者達が危惧していると下心を察知したハコビバチが氷の魔法で2人の全身を凍らせた。
『良いツッコミだ――』『死ぬww』『氷柱になったww』
本来、魔法は気軽に使えるものではない。
二系統の魔法を扱うこの魔獣も、コメット同様かなり規格外だ。
高名な魔法使いですら生涯をかけて二系統が限界とされている。
安心安全の中、メンヌはそれを口にしてみた。
「……!」
ハコビバチに向けて渾身のサムズアップポーズを見せる!
配信画面はまるで彼女が主人公のように中心に収め、白い集中線が出る。
『可愛い』『ファンになります!』『切り抜きのサムネこれにして!』
全身が氷漬けになった筈の二人はいつの間にか氷柱を破壊し、ハコビバチにねだるが近づくたび距離を取られる。
「ハコビバチさん、この下僕にも一つ分けていただけあちょっと待って話聞いていただけますか」
そのまま土のドームまで移動し、しばらくして粉まみれのタンスイが転がって飛び出してきた。
「ねぇ~んハコビバチさぁ~ん、私にもちょうだ~い?」
そのまま土のドームまで移動し、しばらくして粉まみれのコメットが転がって飛び出してきた。
「……食うか?」
「え、いいんですか?」
茶番を尻目にメンヌは妖精達に黄色い球体を渡す。
配信者のタンスイを差し置いて申し訳ないと思いつつ皆一斉に齧ってみると。
「こっこれは!」
【ザックザクのクッキー生地のシュークリームッ!!】
妖精達とメンヌが手を繋ぎステップを踏み社交ダンスを踊りながら配信者の代わりを務める。
「球体は表面がひんやりとして硬く噛むとほんの少し弾力で沈み込んで次の瞬間ガリッと香ばしい音を立てて砕け散るその先に待つのはとろりとした柔らかな感触と甘味豊かな花の香りが広がっていくザクザクの生地とクリーム状のハチミツがまとまり喉をねっとりと通り過ぎ胃にどしんとのしかかるほど濃厚なのに口の中はまだ蜜と花の香りに包まれまるで花畑の中で眠るような甘い心地良さがいとお菓子――」
「「テ メ ェ が 食 っ て ん じ ゃ ね ぇ ッ ! !」」
理不尽にも妖精達は食い意地の張った二人に殴り飛ばされ消失した。
※実体に一切の影響なし。
『ひどすぎだろww』『共有どうしたww』『発作リスペクトしてww』
妖精は何事もなく再出現すると、ネットで検索した知識を披露する。
「これは【ビーポーレン】っていう、ミツバチが花から集めた花粉を酵素やハチミツでペレット状に固めたものかもしれませんね。食感はカリカリとしてるらしいです」
妖精達は鑑定の天技を発動させ球体を見るが【ハコビバチの花粉団子】と書かれ作り方しか書かれていなかった。少ない情報から地球の食材と結び付けたのだ。
ビーポーレンは100種類以上の栄養素を含む完全栄養食として知られる。
だがタンスイは食べたことがなかった――よだれが落ちる。
二人はメンヌに土下座しハコビバチに頼み込んでくれと懇願する。
やれやれとため息をつき、タンスイの頭上に座りハコビバチにお願いをして二人の両手に球体を落としてもらった。
仲良く頬張り目を細め穏やかに無言で食べる。
魔獣は呆気にとられるパーンにも渡した。
「ありがとう……で、タンスイ。オレは一人でも」
「待てパーン、これも食べな」
タンスイは自身の魔力からある物を生産した。
地球産のシュークリームだ。
それをパーンに渡そうとしたが、コメットの腕が蛇のようにしなり奪う!
「んまああああッ!! これが地球のお団子なのねえええええっ!!」
「おいコラ! すまんパーン盗られちまった」
「いや別に良いけどよ……」
腕蛇の女がシュークリームを食い尽くすと、身体を刺すような殺気を発してきた。
「タンスイ今の力何? 他にも出せるわよね? 出さないと殺すわよ」
『草』『見せてはいけない人に見せてしまった……』『狂気』
顔に影が落ち、目が今にも光線を放ちそうなほど輝いている。
身の危険を感じたタンスイはつい嘘をついてしまった。
一年に一回しか使えないと。本当は【投げ銭残高】がある限りいくらでも使えるが、それを聞いたコメットの表情は魂が抜けるほど脱力していた。
***
一層の中は相変わらず黄色い粉が充満しており鳥肌が立つ。
コメットが魔法を発動するまでに少し吸い込んだが、症状は出ない。
その時、タンスイは風の結界からわざと飛び出し吹き飛ばされる!
誰もが外の花粉で死んだかと思ったが、タンスイの呼吸は荒れていなかった。
「見ろこれ! 全然目もかゆくないし息もエホ゛ヴォッ!! 息も平気だ! 粉が入って物理的に息がキツいけど!」
「あのねぇ、そういうくだらない冗談は止め……パーン!? 危ないでしょ! ちょっとメンヌまで!!」
次々と風に飛ばされるので魔法を止めると、コメットまで花粉を吸ってしまった。
ふざけている場合ではない。呼吸が乱れれば魔力も乱れるのにこれでは――
と考えた時点で気づく。自分が平然と息をしていることに。
「なんというか免疫が付いているような……おいタンスイ、これが神格料理か!?」
パーンは粉まみれになりながら、どこにいるかも分からないタンスイに声をかけるが、タンスイも全身に粉を被り見えていない。コメットは慌てて全員を寄せ集め風の魔法を使う。
『物理的に危ない』『けど何が原因だったんだろう』『ビーポーレンじゃね』
「花粉団子を食べるとアレルギー症状が抑えられるっぽい……?」
つまりこの地の魔獣が攻略の糸口だったのかと、皆顔を向き合わせる。
これは魔獣と仲良くしてるメンヌがいなければ成立しなかった攻略法と言えるだろう――新たな発見だ。
***
奥には魔法陣があった。本来ならフロアボス撃破後に出現するのだが、この階層には存在しない。花粉がボスとでも言いたげだ。
皆が陣に足を踏み入れると転移する。
環状の大地に辿り着く。
直径100mほどのドーム状の空間。半透明の結界が張られ、鬱蒼とした森が結界外に広がっている。
見上げても枝葉で覆われていて空は見えず、洞窟のように窮屈な印象を受けた。
「タンスイさん、あれ」
「魔造だな」
巨大な結界の中心には四角いブロックの頭、胴体、肩、手足から構成されるブロック人形――魔造が立っていた。
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