↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
王都の怪物(完結)
PR
62/71

誰でも無く

章末話

 ユーヴェは空気銃を拾い上げて滑車の縄を外して周囲を見渡した。無造作に転がった生首は虚空を見つめており、人気は全く無く一羽の梟が彼を見つめていた。梟を鼻で笑ったユーヴェは横転した横転したテラス席の机を避けて通りを折れた足を引きずって歩く。路上には夜食のパンやケーキが撒き散らされその傍らには寄宿学生の死体が向かい合って倒れていた。ため息をついてテラスを通り過ぎる。ユーヴェはうつ伏せに倒れ伏した小さな変異体元までやって来るとその死体を蹴り上げた。蹴り起こされた変異体の濁った目が夜空を見上げるとユーヴェ腰のランタンに火を灯しその顔を照らした。

「哀れ。」

血と涙に塗れた顔は恐怖に歪み、頭蓋骨の入っていない頭部は重力によって軟体生物のようにゆっくりと形を変えた。ユーヴェはその場で立ち止まって物思いにふけっていると頭上で硬質な爪の音が鳴る。梟が脚を組み替えユーヴェに向かって礼を取っている。それを目にしたユーヴェの目の前は真っ赤に染まった。

「お前達は今まで何をやっていた!世界を変えた結果がこれか。あの怪物、あの地下は・・」

梟に向かって叫んだユーヴェの声は小さく潰れ、視線は再び怪物の顔に映る。目を閉じると暗闇が広がり暗闇は白く何度も点滅する。深呼吸をすると生臭さと酸っぱさが混じった空気がユーヴェの鼻腔へ入り込む。呼吸を整えたユーヴェは王都から出るため脚を進め始めた。その歩みは遅く夜はまだ明けない。


 ユーヴェが王都の門を通り抜けると後方から車輪と蹄が血肉を跳ね上げる音が聞こえた。構わず歩み続けるユーヴェを呼び止める声が響く。

「魔術師ユーヴェ、我が友よ。報酬だ。」

立ち止まってユーヴェが振り返るとエレディウスと彼の八人の弟子がゆっくりと二頭引きの馬車を進めて来た。

「怪物を殺したのだから報酬を渡さなければならない。これは我が国の法で定められている。馬車ごと受け取りたまえ。」

エレディウスは親しげにユーヴェへ近づくと美しい王国式礼を取った。

「ユーヴェ殿、ご協力ありがとうございます。生き残りの始末は我々が行います。」

付け加えるように発せられた言葉に彼の弟子達も同様に礼を取る。ユーヴェは王国式礼を返すと口を開いた。

「軍馬ですか。血に色は?」

「把握済か。勿論、色は赤だ。あれは一体の何者なのだ。」

ユーヴェはエレディウスの問いにこれまでの道のりを語った。じっと聞いていたエレディウスは話しが終わるとユーヴェの肩を軽く抱きしめた。

「私はお前の兄弟子であり友だ、何かあれば頼ってくれ。これから王宮魔術師の力はますます強くなる。野良魔術師への支払い額も引き上げて地位も向上しよう。約束する。」

抱擁を解いたエレディウスとユーヴェは並んで馬車まで歩く。道中ユーヴェは口を開いた。

「馬よりも速い移動手段を開発して欲しいです。馬では怪物の追跡が難しく、寄生される可能性も大きいので。」

「それについては研究中の物がある。特別予算を組もう。それにしても毒は抜群だっただろう。あれは奴らの再生能力を利用し、奴らにしかない脳へ直結する器官を可再生させて損傷させているんだ。傷口に入れればあっという間だっただろう。」

馬車の側に来たユーヴェは荷台を覗きこむと中には大量の魔術触媒が入った木箱と火薬や銃弾に加えて射出機に対応した爆弾が小分けして小箱に収められていた。荷台に乗ったユーヴェは折り畳まれた網と発射機も見付ける。小麦粉、干し肉、葡萄酒も有った。

「次の狩りに必要だろ。」

エレディウスがユーヴェの背に声をかけると荷物を夢中に確認していたユーヴェは返事を返す。

「全てが揃っています。」

「次は何処に行くつもりだ?」

伺うような調子のエレディウスにユーヴェは訝しげに目を向けるとそこには小さく笑みを浮かべたエレディウスが立っていた。

「私からも貴方に伺いたい事があります。」

「言ってみろ。」

ユーヴェは意を決しエレディウスの目を見る。

「街を見て貴方は何を感じましたか?」

エレディウスの視線門へ僅かな時間向けられ、再びユーヴェの視線とかち合う。

「好機を得たと思う。魔術師がより王家へ取り入り力を増す事が出来るはずだ。心配は無用、街は直り変わらない日常が続いていくさ。」

ユーヴェは口を結びエレディウスの揺れない目をジッと見る。やがて短く息を吐いたユーヴェは質問に答えた。

「魔術都市です。師が注文していた魔術具が出来上がっている頃なので。」

「ロイの北か。寒さがきつい。春まで静養しないか?それにまだ夜だ。我々は歓迎する。」

ユーヴェの答えに少しエレディウスは両手を広げて提案し、続いて星を見上げ言葉をかける。馬車から飛び降りたユーヴェはエレディウスの肩を叩いて馬車の御者台に飛び乗った。

「魔術師エレディウス。報酬は確かに受け取りました。私はこれで失礼します。」

馬の手綱が揺れて馬車がゆっくりと進み始め、エレディウスは両手を腰に当て、目を細めるとユーヴェの背を見つめる。

「良き旅を。怪物狩りのユーヴェ。」

エレディウスは更に遠ざかっていくユーヴェに声をかけ、門をくぐっていった。


 夜明け頃、ユーヴェは丘を登り王都へ入る際に乗り捨てた馬車まで戻っていた。ユーヴェは馬車から降り空気銃を構えて放棄された馬車へ近づくと木陰から一体の小柄な怪物が現れた。咄嗟に空気銃の鏃が向けられると怪物は両手を上げて口を開いた。

「待ってくれ。俺はレムノスじゃない。あいつは今居ない。ある瞬間からすっきりした、それで思い出したんだ。本当だ信じてくれよ!」

ユーヴェと怪物は同時に言う。

「俺はデュイデスだ。」

「お前は怪物だ。」

鏃が怪物の胸に突き刺さり、酩酊したようにふらついた怪物は膝をついた。怪物は諦めたように目を瞑り横たわる。風が吹きユーヴェの髪を揺らす。

「人間は怪物になり得るが、怪物が人間になることは無い。」

そう言い残したユーヴェは馬車の荷台の中に残された銃や射出機等を抱えて新しい馬車へ積んだ。御者台のバネを軋ませて乗り込んだユーヴェは横たわる怪物へ目を向けた。怪物の両手には己で食いちぎったと思われるギザギザな爪が両頬へ当てられており、目は青瑪瑙色で下瞼は陽光に輝いていた。身体は赤い血がこびりついた白い寝間着を着込み、袖は千切られており胸の鏃からは青い染みが広がっていた。「さらばだ、デュイデス。眺めの良い丘がお前の墓だ。」

馬車は走り出した。夜明けの橙黄色の世界をユーヴェは進む。彼の手には遅い夕食として手の平二つ分程の大きさの干し肉が握られている。馬車は街道を通り遂には王都が見えなくなった。

次章、最終章

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
緊迫したシーンの連続で読後の強い余韻に浸っています。期待以上の面白さでした。怪物からの立ち位置でのユーヴェとの戦いは新鮮でした。怪物狩りのユーヴェ は大好きな作品で、次章が最終章との事で寂しさを感じて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。