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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
リキュアの怪物
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二件目の依頼 死体置き場にて

 部屋から出たユーヴェの前には胸元の記章を弄るべストールが心配げにやや離れた位置で中腰に立っており、ユーヴェと顔があった彼は頬を持ち上げて愛想笑いを浮かべた。

「ユーヴェ殿、アリネイエ様からは何と?」

「吉報を待っているそうです。」

ユーヴェはロングソードを傾けて階段へ向かう。瞬きを四度したべストールはユーヴェ背後を付いて歩く。揺れるユーヴェの銃へべストールの目は吸い寄せられ、彼はこらえきれずに口を開いた。

「私のことは何と?」

「文明的な男だと紹介されました。ところで、魔術師の仕事について聞かせて下さい。」

鼻の穴を広げたべストールは満足げに笑みを浮かべて小走りにユーヴェと並んで得意げに話し始めた。

「外の馬車まで歩きながら話しましょう。」

べストールの手が通路の先を指さして、彼は話しを続ける。

「三体の死体がこれまで事は二日前の日没前に遡ります。我がリキュアには主要な通路が二つ、交差してその周辺に主要機関が並び建っておりまして、その交差点から徒歩で四分程ですかね横道へ入ったところに乾ききった死体が転がっておりました。発見したのは警邏の兵士、ヤーマンという元流民の男です。二体目は同日深夜に主要通路の中程で馬車が何かをひいたということで停車すると両断された状態でが転がっていました。馬車はリキュア経営の演目広告用の物です。三体目は、昨日、朝焼けと共に女達に発見されました。発見した彼女らは非常に混乱しており空を飛ぶ青い炎を見たとか。」

「先ずは死体の検分を行いたいです。次に目撃者、或いはアリネイエ殿から聞いたのですが捕らえた者が居るそうですね。彼らから話しを聞きましょう。馬車については御者でしょうか?」

「それについては残念ですが、彼はその日の内に自宅で首を吊っていました。死体は衛兵団の地下室に保管中です。先導しましょう。」

会話を続ける二人は侍女が開けた玄関扉を通り過ぎた。べストールは屋敷を出る際に足を組み換えて右足から外へ出る。その様子を横目に見たユーヴェは目を細めているとべストールは照れくさそうにユーヴェに尋ねた。

「これで正しいんでしたっけ?王宮の作法ですよ。」

「間違っておりません。ですが、この迎賓館は王国風ではありません。作法としてはどちらでも良いのではありませんか?」

べストールはユーヴェを追い抜かし、彼は顔をユーヴェへ振り返るように向ける。

「気持ちの問題です。より進んだ文化は取り入れるべきですからね。」

「成る程。」

肩を小さくすくめたユーヴェは視線をべストールから外しユーヴェの馬車の屋根へ停まる烏に向けた。烏は置物のように佇み、瞬き一つせず無機質な黒い瞳をユーヴェへ向けていた。馬車に着いた二人はそれぞれの馬車へ乗り込み、べストールを先導に馬車を走らせた。喧騒が絶えない街中をユーヴェは馬車を進めていると彼の背後にとまった烏から金属音とくぐもった老人のような声が聞こえてくる。

「金髪のリキュア人はどうも見栄っ張りが多い。傲慢なべストールはその中でもとびきりの男だ。衣服に気を遣ったとしても蛮族の腰蓑と差異は無い。議員証の元はそぎ落とした耳だったらしい。」

ユーヴェは背後へ少し目を遣ると胸を膨らませた烏がユーヴェを見つめており、黒い羽の隙間から僅かに金属の輝きが見える。視線を前へ戻したユーヴェはついでに腰のポーチに入った瓶を眺める。瓶に入った金髪は変わらず金髪だったがやや色が褪せている。

「短時間に複数の人間に化けているのか。」

「この街では仕事時間が短い。複数職を掛け持ちしている人間が殆ど、昨日職場に来ていた者が今日来なくなっても誰も不思議がらないだろう、その中でたんまりと居る人間を食って化ける事は容易だな。」

ユーヴェの呟きを拾ったギブリスが答えた。

「脳を取り返して欲しいはずだ。変身する怪物を殺すことと関係性が見えない。」

「関係は有る。」

「根拠は。」

「経験と自己分析だ。お前依頼通りに怪物を殺していれば良い。それで全てうまく行く。」

そう言ったギブリスの烏は翼を広げ、歯車が噛み合う音を立てて空へ飛び立っていった。眉をひそめたユーヴェは黙々と馬車を進めていると、べストールの馬車が路肩に止まった。側には木造の立派な建物がそびえ、砦のように切り出された岩が壁面に組上げられている。建物から迎えの兵士達が六人ほど二人の馬車へ歩み寄り、べストールはユーヴェの馬車と自身の馬車を指差して兵士達へ命令をする。ユーヴェは彼らと距離があり、何を言っているのかは解らない。

「ユーヴェ殿、馬車はここに停めて中へ入りましょう。」

笑みを浮かべたべストールは大股で馬車に乗ったままのユーヴェを見上げて大声で言った。ユーヴェは馬車から飛び降りて彼の足下に泥が跳ねたが気にせずべストールへ歩み寄った。疑わしげな視線を向けるユーヴェにべストールは大げさな身振りで付け加えるように言った。

「信用できる部下がしっかりと見張りますので心配ご無用です。アリネイエ様ご推薦の魔術師に無礼を働く等あってはなりませんからな。それに、盗もうにも何処にも売れませんからね。彼らに売買許可は下りませんから。」

「べストール殿、貴方を信用しますよ。」

ユーヴェの言葉にべストールは両眉を上げて付け加えるように口角を引き上げた。呆れた素振りで扉へ向かったユーヴェにべストールは大股に駆け寄り建物へ入っていった。


 建物内は暖かく適温だった。各部屋では警邏の報告や書類整理の音が聞こえる。硬い靴底が床を踏み締めてユーヴェとべストールは廊下を進んでいた。

「如何です衛兵団の本部は?かつてこの団は放浪の旅に明け暮れていたリキュアの民を導く戦士達でした。我々には勇敢な血が流れ、昨今はアリネイエ様によって文化的な風を吹き込まれ、規律ある由緒正しい組織となったのです。」

べストールは後ろ歩きに木造の廊下を歩き、彼はユーヴェの顔を見つめ得意げに語る。

「成る程。死体の部屋はそろそろですか?」

左手を廊下奥へ向けたユーヴェは得意気なべストールに尋ねた。背後を確認したべストールは再びユーヴェに向き直って口を開いた。

「ええ、この突き当たりを曲がれば直ぐです。」

突き当たりを曲がった二人は地下へ向かう階段を降り始めた。段差を降りて行くにつれて冷気が身体を包む。

「さあ、こちらです。」

べストールは引き戸の鉄扉を両手で引っ張って開け、ユーヴェを中へ入れた。

「何かお役に立てば良いのですが。件の死体が乗った台は手拭きが掛けられているものです。発見後直ぐさま此処へ運び込まれましたが、気味悪がって誰も手を付けないのです。」

死体置き場には台が二十あり、床には石が規則正しく並べられていた。壁に掛けられたカンテラへ火を灯し、手袋を取り替えたユーヴェは並んだ台へ向かう。二人は三つの台を部屋の中央へ引き出した。ユーヴェは腰のランタンの明かりを点けてしげしげと死体を観察し始め、彼は手持ち無沙汰なべストールへ尋ねる。

「身元はご存じですか。」

「はい、右から左にかけて最新の物になります。どれも劇団の木っ端役者でして、一体目はクレイアス、二体目は恐らくアルクリス、三体目はキロコネスです。死体発見から数日前に全員ウラテュスという俳優と屋台で酒を飲んでいた様子が目撃され、それが最後です。死体は切り開いて頂いて結構です。」

「ありがとうございます。」

べストールに答えたユーヴェは右端の死体から観察を始めた。死体の手足は完全に曲がり、背は海老反りに曲がっていた。顔は干しぶどうのようにしぼみ、落ちくぼんだ目には泥が詰まり、黄色い歯はしっかりと噛み合わされており、舌は団子のように丸まっている。

「爪は剥がれ、体表は細かな傷が縦に入っている。」

ユーヴェの欠けた左手が死体の肌を撫で、何度か押した。表皮は押されたまま凹み指の跡が付く。続いてユーヴェは死体の頭部を見回すと、後頭部の皮膚が弧を描くように寄っている様子が見つかった。ユーヴェは皮を指で捲ると真っ白な骨が見え、楕円状に剥がれた骨が台に転がった。台へ落ちた骨は割れて白い粉が舞う。

「殴ったのは人間だな。乾いたのはその後か。」

ユーヴェはそう呟き、のぞき込むように傷口へ光を当てた。

「何かわかりましたか?」

べストールは身をかがめて死体の頭部を遠巻きに見つめながらユーヴェに尋ねた。死体から顔を上げたユーヴェは死体の肌を指さしながらべストールからの質問に答える。

「乾燥による肉体の劣化および、人間による殴打。この人間は守護霊に殺されたのでしょう。」

「守護霊、それは何者です?」

「この世とは異なる世界の生命体です。特定の人間に纏わり付き、その人物から敵意を向けられたモノを異界へ連れて行く習性を持っています。」

「異界ですか。」

「守護霊のみが往来出来る、永遠と続く暗闇に雷雲の様に光る怪物が漂う死の世界です。人間で生還した者はおらず、皆この様になりました。」

ユーヴェの語りにべストールは口元を歪め、彼は片手で鼻を押さえながら死体をのぞき込んだ。おっかなびっくり死体を観察するべストールを余所にユーヴェは二体目と三体目を観察し始めた。三体目は一体目と同じく縮みあがって仰け反った姿勢で横たわり泥と馬糞に汚れていた。

「これも同じだな。纏わり付いた人間が殴りつけ、守護霊が異界へ連れ去った。」

ユーヴェは中央の台へ歩み寄り、馬車に両断された二体目を観察した。死体は全裸で他二体よりも干し途中の乾物のようにやや柔らかく、未だ水気が残っていた。剥がれた皮膚には黒ずんだ斑点が転在し、歯を剥き出しにした泥だらけの土気色の顔がユーヴェを向いていた。ユーヴェが手で死体の顔に付いた槌を払い落とすとその右半分には斑点が付き、破れた下唇から覗いた前歯は銀歯だった。眼孔にはとろけた目玉が肉と骨にへばりつき、にじみ出た腐った体液が異臭を放っ。更に喉仏は潰れやや左に膨らんでいる。下半身は腰と足首が千切れそれらしく並べられ、足は素足で爪は剥がれかけ、爪と肉の間は泥等で黒ずんでいた。

「全裸で馬車の通る大通り、風呂に入っている所を連れ去られたか。べストール殿、アルクリスさんの詳細な動向はわかりますか?」

べストールは首を振る。彼の手袋は既に外され右手に纏めて握られ、左手は右の首筋を撫でていた。

「わかりません。ですが、この街の入浴場は二カ所のみです。ひょっとしたら何かあるかも。」

ユーヴェはべストールへ軽く頷き死体を眺めていた。ふと、彼は切断された足首を下半身へ合わせる。足首には黒い三角の刺青が彫られそれは上へ向かっている。

「これは、べストール殿、新しい台を」

ユーヴェは千切れた上半身を下半身の断面を見比べ、身体の中から内臓を手掴みで引き出した。やや湿った内臓は次々と台へ並べられる。

「へその位置が低すぎた。」

ユーヴェは並べられた内臓を見つめて呟く。彼の目の前には膵臓が二つ並び、その隣には両断された大腸と萎んでいるが無傷の物が隣り合わせに置かれる。

「誰なんだこいつらは。」

べストールは呻き、仕立ての良いズボンからメダルを二枚取り出して内臓が並べられた台へそっと置いた。

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