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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
リキュアの怪物
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帰宅

 洞窟を出た二人は森を真っ直ぐに進む。ユーヴェの片手には鏡が握られ、広大な森が映り込む。森の来た道を引き返す道中で怪物の頭を下げたファウヌスは洞窟から拾ってきたロングソードを片手にユーヴェへ問う。

「街までは二日かかる。あんたの話しを聞かせてくれよ。」

「申し訳有りませんが、私は急ぎの用事があります。報酬の分配はまたお目にかかったときに。」

「急いでいる?じゃあ何で此処に?」

ファウヌスはユーヴェの言葉に驚き思わず彼の顔を見た。ユーヴェの顔は正面を向き、横転した古ぼけた二台の馬車を見つめていた。周囲には朽ちた木材が苔むして転がり側面には真っ白な茸が生えている。

「怪物を狩るためですよ。そのようなことよりも、ここにも馬車が有りますね。」

ユーヴェの言葉に肩をすくめたファウヌスは土に埋まる調度品類を一瞥した。

「この辺りに開拓村でも作ろうとしたのかもしれない。森の主の機嫌を損ねたのかもな。さて、この先に俺の馬がいる。」

朽ちた馬車を通り過ぎると、先は少し下り坂になっており、開けた場所があった。その広場で馬は二頭背の低い枝に繋がれ主を待っている。ファウヌスは目を細めて二頭の馬の手綱を枝から外してユーヴェへ近寄った。

「一頭はお前に貸す。」

「ありがとうございます。」

その場で礼を取ったユーヴェは手綱を受け取って馬へまたがり、軽快な足取りで木々を抜けて森の入り口に転がる馬車を通り過ぎる。街道から自身の馬車へ戻ったユーヴェは御者台へ登りファウヌスへ馬を返す。

「手助けありがとう。怪物狩りのユーヴェ、仲間にあんたについて話しておく。報酬を受け取ったら北東、クリオス城の側にある拠点へ帰るつもりだ。冬を越したければ来ると良い。家と飯は提供しよう。」

ファウヌスは主人を失った馬の手綱を引いて馬上からユーヴェを見つめてそう言うと、洞窟から拾ってきたロングソードをユーヴェに手渡した。

「これは報酬では無く俺からのお礼の品だ。古代魔術で作られた業物で怪物の筋肉も容易く切り裂ける。」

「業物、すると名前は?」

ユーヴェは受け取った剣を幾度かひっくり返して背中を向け始めたファウヌスへ尋ねた。

「ナイスというらしい。性能は保証する、使い手が弱かっただけだ。」

そう言ったファウヌスは今度こそ馬を走らせて豆粒のように小さくなり、街道遙か先で左折する。彼を見送ったユーヴェは腰の剣をナイスへ取り替えて馬車を真っ直ぐに走らせ、二十日後の早朝にセネスの屋敷のある森へ到着した。


 馬車から飛び降りたユーヴェは荷台から射出機を二丁引き出し先端に細い棘が取り付けられた射出物を込めた。続いて鳥を放って鏡を見ると、鏡面には普段と変わらない屋敷があった。両手に一丁ずつ射出機を持ったユーヴェは屋敷へ進んでいくと、屋敷から若い男の呼び声がかかってきた。

「魔術師ユーヴェ、待ちくたびれた。早く来てくれ。」

平坦な声色が屋敷前の林道に響いた。眉をひそめるユーヴェを一匹の鼠が見上げており、気がついたユーヴェは硬い靴裏でネズミを踏み殺す。粉砕された頭蓋骨から丸い眼球が飛び出した。赤い足跡を残しながらユーヴェは屋敷へ到着する。屋敷の前には腕を組んだ少年が立っていた。少年はユーヴェを見るなり口を開く。

「この身体を殺すな。」

ユーヴェは立ち止まったまま射出機を少年へ向ける。

「中で話そう。焼きたてのパンがある。」

少年はユーヴェを手招きすると屋敷へ入っていった。ユーヴェはその場を動かず周囲を見渡す。

「何も居ない、私には余裕がないからな。早く中に入れ。」

扉を片手で押さえたギブリスは空いた手でユーヴェを手招きする。暫くユーヴェとギブリスはにらみ合う。右手の射出機を腰に納めたユーヴェはギブリスを追って屋敷に入る。

「さあこちらに。」

ギブリスは短い足をユーヴェの大きな歩幅に合わせて世話しなく繰り出してユーヴェと共に応接室へ入る。中には骨組みの人造人間が立っており、顔はユーヴェの方を向いていた。

「座って、座って。長旅だ、疲れたでしょう?」

香ばしいパンは籠に幾つも積み重なって入り、ギブリスはそのうちの一つを掴みあげて長椅子へ座り気怠げに敷物の位置を整えた。ユーヴェは入口で立ち止まり射出機を人造人間へ向ける。

「止めて欲しいな。今の私には貴重な一体だ。」

ギブリスがユーヴェへ言い、彼は向かい合った長椅子を指差す。

「兎に角、座れ。お前はこの屋敷の住人だろう?」

尚も動かないユーヴェへ人造人間が近づく。ギブリスは無言で歩む人造人間を見つめ続ける。ユーヴェの射出機の目の前に人造人間の巨体が身を乗り出し、頭部を差し出した。

「止めろ!ユーヴェ、銃を下ろせ。」

ユーヴェは引き金を引いた。人造人間の頭部へ棘が突き刺さり、痙攣した人造人間は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「全く、なんと言うことしたんだ!これではパンを自分で焼かねばならない!」

「・・。」

ユーヴェは崩れ落ちた人造人間を横目にギブリスの前に立った。

「話せ。」

ユーヴェの言葉に頷いたギブリスは彼へ語る。

「先ずは王太子レムノスだ。あいつは王をどうにかしたようだ。今の王国の実権はあいつが握っており、堂々と自分の信奉者を王宮魔術師の任務へ付かせている。そこで問題なのが、用済みになった者の粛清を始めたようだ。十日前に私の本体が破壊されてしまった。」

「手間が省けたな。」

ギブリスは目の前に座ったユーヴェへ鼻を鳴らす。

「私の本体にはレムノスの身体情報が詳細に記憶されていた。今の私は分枝した若木に過ぎない。」

ユーヴェは頷いて続きを促す。

「本体の記憶には人工脳を使用していた。生の脳だと劣化や維持に金が掛かりすぎるからな。」

「つまり・・破壊されたのでは?」

「脳は回収された。脳に潜ませた私の分枝が大まかな場所を示している。」

「誰に、正確にはわからないのか?」

「不可能だ、あれは芽吹いていない。破壊した者については記憶している。青目の魔術師ボルティウスだ。忌々しい胡麻擂り野郎だ。肉体に機械を仕込んでやった恩を忘れおって。」

ユーヴェはギブリスの話しを聞きながら机のパンをつかみ取って食う。パンの欠片を嚥下したユーヴェは呟く。

「青目の魔術師か。解除魔術が使える特殊な死霊の話しを聞いたことがある。拠点は何処だ?」

ギブリスはユーヴェへ言葉を返す。

「王宮だな。記憶によると奴は王宮魔術師に加わったらしい。解ったか?」

「解ったとも、次に殺す奴を確認したかっただけだ。出来損ないの芽は何処を示した?」

「自由自治都市リキュアだ。私はあの都市に詳しくないが魔術具の流通量はかなりの物と聞く。その中に私の脳を持ち去った魔術拠点があるはずだ。脳の情報を読み取るつもりなのか、用途が掴めない。私のようにレムノスを殺す腹積もりなのかもしれない。」

「・・。」

「都市には私の人造人間がいる。数年前に領主の娘と入れ替えた。人間そっくりで完成度の高い外見は社交界で人気、手紙は毎日のように貰っているらしい。丁度、領主が魔術師向きの仕事を抱えているため、都市には容易く入れるだろう。・・どうした?」

ユーヴェの纏う気配に口を白湯で湿らせたギブリスは急ぎ身を引くが、ユーヴェは更に速かった。ユーヴェは机を蹴り飛ばしてギブリスを椅子と机に挟み腰から銃を引き抜いた。ギブリスは諸手を挙げてユーヴェへ尋ねた。

「私が何をしたと言うんだ。お前は何処も肉体を損壊していない。オーグは気の毒だったが、あれはもう終わったことじゃないか?」

ユーヴェは引き金を引いた。

「次に殺す奴を確認しただろ。」

赤黒い血液が掃除の行き届いた床の木目にそって流れ、その血液はユーヴェの言葉に揺れる。ギブリスの頭部は右目から上部がバラバラに弾け、黄色の延髄が震えている。ユーヴェは銃を腰へ納め、震える延髄を握りしめて体から引き抜いた。引き抜かれた延髄をユーヴェは床に叩きつけて踏み締めると、老人が咳き込むような声がユーヴェの足蹴にする肉から聞こえて来た。ユーヴェが足元を注視すると、人間のような顔が延髄の最も太い上部に張り付いており、そこから伸びる黄色で細長い体はくねくねととぐろを巻きながら蠢き、五指ある小さな手は無数のその長い体側から生え手のひらを開いたり握ったりとしていた。

「落ち着いてくれ、私たちは協力できる、誠実な気持が、十全な準備がある。そのためにお前の調薬室だって破壊しなかった、あの婆さんだって自己を残しやった。優れた体へ作り替えてあげたんだ。恩知らず。恥知らず。全く、寒いじゃないか。」

ギブリスは金切り声を上げてユーヴェの靴を引っかく。柔らかくて小さな手は硬い靴で柔らかく変形し、ただなでるだけであった。ユーヴェは靴を固く踏み締める。痛みに絶叫するギブリスは息も絶え絶えに言葉を繋ぐ。

「生きる意味なんて無い。そこらの人間に縄を渡したことはあるか?やることは一つだったよ。私は塵を拾っただけだ。あんたは怒り過ぎだ。」

ユーヴェは腰の剣を引き抜く。ギブリスは小さい手をすり合わせて懇願した。

「頼む。人造人間はまた作ってやる。前よりも良いやつだ。武器も希望があれば設計図を書こう。とりあえず、謝るよ。」

ユーヴェの剣はギブリスの頭頂部を貫く。叫んでいたギブリスは押し黙り、ユーヴェは真っ直ぐに切っ先を走らせて黄色い醜悪な体を真二つに切り裂いた。ユーヴェは剣を拭いて鞘に納め、深々と長椅子へ座り込んだ。それから彼は深く目を閉じた。

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