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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
炙り出された怪物達(完結)
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39/51

キュウリコスの怪物

 ユーヴェは馬車へ駆け寄ると荷台へ腰の軸が曲がったロングソードを収納し換えのロングソードを引き抜くと、それを腰へ吊し側に置かれていた肩掛け鞄を身につけて興奮した馬へ近寄る。ユーヴェはポーチから取り出した瓶の蓋を開けて馬へ嗅がせた。興奮した馬は落ち着きを取り戻し、黒く大きな目の焦点が合い始める。馬の鼻面を撫でたユーヴェは馬へまたがり怪物の白い輪郭を追った。飛び跳ねる白い輪郭はある一点で止まる。怪物の姿勢は這いつくばるように腰と胸を低く保ち手はしきりに動いている。

「食い始めたか。毒は効かなかったが、回復されるかもしれない。」

ユーヴェは馬上で空気銃の先端に綱が取り付けられた鉤を装着し胸の薬室を取り替えた。綱を滑車へ噛ませ張りを確かめる。ユーヴェの馬が白い輪郭の近くまで来るとユーヴェは下馬して目の前のアパートを眺めた。九棟を無理矢理組み合わせたような十六階建てのアパートの一点、六階辺りに白い輪郭はあった。ユーヴェがアパートを見上げていると、彼の顔へ雨粒が当たり始める。空気銃へ蓄気し、ユーヴェは空気圧が十分になった銃を四階へ向けて発射した。雨粒を砕いて飛ぶ鉤はサンルームの窓を突き破って窓枠へ引っかかる。ユーヴェ何度か強く綱を引っ張って手応えを確かめ、鉤と垂直に移動した彼は胸の薬室を押し込んだ。彼の体は持ち上がり始め、あっという間に四階へ引っ張り上げられる。窓ガラスを手で押し割りユーヴェはアパート内へ入った。サンルームの中は喉を割かれ内蔵だけ食われた死体がいくつも転がっていた。

「声を出させなかったのか。内臓は回復効率が高いのか?新しい知見だ。」

ユーヴェは空気銃下部の滑車からは綱を外し、手近な柱へ結び付けると空気銃を肩へかけて腰の短銃を引き抜いた。ユーヴェは弾を込めながら白い輪郭を追ってアパート内を歩く。一歩毎にほこり塗れの床が軋み、アパート内にはサンルームで見つけたような死体がいくつも転がっていた。建物の中を食いちぎられた内臓からこぼれ出す酸っぱい臭いと血の臭いが充満し、床からはこびりついた汗や乾いた糞等によって僅かに獣臭が漂ってくる。

「病気になりそうだ。」

ユーヴェは肩をすくめそう呟きながら五階への階段へ脚を掛け上階を目指す。階段を上るユーヴェは十二階で足を止めた。慎重に脚を進める。ユーヴェの耳には獣のような吐息、何かが折れる音、糸を引くような湿った音が聞こえ始める。ユーヴェはポーチから二本瓶を取り出し中身を呷る。彼の視界にはしゃがみ込んで何かを貪る怪物の背が大きく映し出されていた。同じ階、距離としては馬十頭程だった。短銃を右手に、射出機を左手に握りしめて銃の撃鉄をゆっくりと起こす。ユーヴェは半身にゆっくりと進む。肉が破れる音、舌を打ち鳴らす音。怪物は三部屋ほどぶち抜いて作られた大部屋にいた。ユーヴェは怪物の背後へ出る。うずくまった怪物は手を止めてゆっくりと立ち上がる。

「貴方は魔術師ですか。」

怪物が振り返って言葉を発した。その声は低く無理矢理に発声しているようだった。ユーヴェは銃口を怪物へ向けたまま背後の空間を確認しつつ返答する。腹部の傷は完全に塞がり内臓は体内へ収まっている。

「そうだ。お前は誰だ?」

「それはとてもおいしいです。魔術師達はお前達ですか。」

ユーヴェは怪物の質問に眉をひそめて答えた。

「貴方は誰ですか。」

「魔術師達はお前達ですか。」

背を丸めた怪物は右手の爪をこすり合わせ、黄色い目玉が大きくなる。ユーヴェは怪物との距離を測りつつ。

「・・違う。質問に答えろ。」

怪物は肩幅に足を開いたユーヴェの言葉に首をひねり、鋭い爪で硬い頭蓋骨で覆われた頭部をかきながら舌を遊ばせる。その間、怪物の目玉はユーヴェの端から端まで眺めた。

「おれはお前達のともだちです。それらはとてもたのしいです。」

「では、魔術師は楽しく無いだろうな。」

「違うでしょう。それはたのしいです。これから」

ユーヴェは爆弾を未だ話しを続ける怪物へ撃ち込み廊下へ飛び出し、胸の薬室を押し込んだ。途端に薄暗い部屋は昼間よりも遙かに明るくなり、ユーヴェは走りながら射出機を投げ捨て、ポーチから爆弾取り出して壁へ四つ等間隔に貼り付けていく。怒号を上げた怪物が壁を打ち破って廊下へ飛び出した。ユーヴェは十三階の階段口へ隠れ、胸の薬室を四つ同時に押し込んだ。怪物の足下に転がった瓦礫に埋もれた爆弾が爆発し無数の金属片がまき散らされた。怪物の腹や腕へ金属片が刺さり、切れた額からは真っ青な血液が流れる。ユーヴェは急ぎ十四階へ駆け上がり、床へ目を向けると白い輪郭が何度も飛び上がり天井を突き破っている様子が破壊音と共に見える。

「速いな。」

十五階へ登ったユーヴェは廊下を静かに歩き腰へ短銃を納めロングソードを引き抜いた。各部屋からは人の震える吐息や子供の泣き声聞こえる。ユーヴェは白い輪郭へ向かい大部屋へ入った。部屋には労働者の一家がくつろいでおり、ユーヴェの姿を見た彼らは怯えて後ずさった。

「これで新しい部屋を借りろ。ここに怪物が来る。」

懐から金貨を家長であろう男へ二枚放り投げたユーヴェの脇を一家は金貨を拾い上げて駆け抜けていく。呼吸を整えユーヴェは怪物を待ち受ける。四度深呼吸した後、真下には怪物白い輪郭が迫っていた。怪物の輪郭の正面に向かい合うように二歩下がった彼は両手でロングソードを握り締め大きく振りかぶった。床が揺れる。怪物の吐息がユーヴェの耳へ入り、ユーヴェは一層剣を握り締めた。床を破って怪物が飛び出した。破片がまき散らされる中、ユーヴェはロングソードを右から左へ真横に振り抜く。木片はユーヴェの頬を裂き、ロングソードは怪物の右目を切り裂いた。絶叫をあげた怪物はユーヴェへ左手を振り下ろす。ユーヴェは刃を振り上げて怪物の人差し指と中指を切り落とし、爪の一撃を打ち反らす。間髪入れず振り下ろされた怪物の左腕が振り上げられユーヴェを跳ね飛ばした。もんどり打って倒れたユーヴェの右太股は浅く切れ鮮血がにじみ出ていた。右目を失った怪物は平行感覚を失い右手で壁を触りながら中腰に警戒しながらユーヴェへ近づく。起き上がったユーヴェは近づく怪物を見つめながら剣を床へ置いてポーチから取り出した消毒液を太股へかけ軟膏を大雑把に塗る。怪物の一歩一歩で床は揺れ、歪んだ口の端から粘度の高いよだれが垂れている。右手で剣を拾い上げたユーヴェは空いた手で三丁の短銃を引き抜き次々と怪物へ発砲する。怪物は左腕で頭部を守りつつユーヴェへ近寄る。三つの弾丸は怪物の腕から肉を千切ってひびの入った骨を露出させた。続いてユーヴェは怪物から離れながら射出機を引き抜く。射出機を見た怪物は四つん這いに床を蹴りユーヴェへ突撃しユーヴェを跳ね飛ばし、壁へ激突した怪物は廊下へ飛び出して倒れた。射出機はユーヴェの手から離れて壁へ当って床へ転がり、彼の体は宙を舞いアパートの壁を突き破って隣の部屋へ転がり込んだ。ほこり塗れのユーヴェは刀身が真っ青に染まった剣を片手にゆっくりと立ち上がる。彼の目は血走り、折れた鼻からは鼻血がこぼれていた。

魔術師の様子に怯えた男は壁へへばりつき小刻みに震えていた。

「お邪魔しました。」

手近な机へ金貨を一枚置いたユーヴェは右足を引きずり、床に真っ白な右腕が転がる大部屋へ戻った。ユーヴェはロングソードを両手に握り廊下側の崩落した壁へ刃を真っ直ぐに構えた。鈍重な足音が鳴り、指が欠けた青く汚れた左手が壁を掴み、怪物の肥大化した頭部が姿を現す。怪物の体は痩せこけふらついていた。沈黙した一人と一体はにらみ合う。アパートの住人達は戸へ隠れ、陰から様子を窺っていた。怪物の口から涎がとめどなく零れ、床の青い血と混ざり合う。ユーヴェは剣を寝かせ怪物へ突撃した。一歩吹き出す毎に木片が跳ね、ほこりが舞う。窓から差し込んだ光が反射しユーヴェ背を真っ白に照らし出す。怪物は左腕を振り上げ走るユーヴェを待ち構えた。ユーヴェの剣は徐々に彼の陰へ隠れ、遂に怪物の間合いへ入る。力を失った怪物の一撃は緩慢であり、ユーヴェは腕をかいくぐって刃を腹へ突き刺し切っ先を持ち上げた。怪物の腹皮が切り裂かれユーヴェの手袋へ真っ青な血液と臓物がこぼれ落ちる、怪物はもがき左腕の爪がユーヴェの背中を切り裂いた。怪物の脚が震えて膝を突き、そこへ、ユーヴェは渾身の力を込めて剣を押し込んだ。切っ先は骨を避け遂に怪物の心臓へ突き刺さった。ユーヴェは剣を捻り上げて傷口を広げる。傷口からは青い血が噴き出し、痙攣する怪物は血の泡を吐き出すとぐったりとユーヴェへもたれ掛かって死んだ。

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