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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
炙り出された怪物達
32/33

煙の中から

 人体発火事件が起きてから十数日、彫り師の男の怪死からは八日後、キュウリコスの街中は熱気がこもっていた。憲兵達は馬を駆り、銃を肩に掛けた憲兵達三十人程が列を成す。先頭には魔術師アストスとアーランメネスがいた。アストスは声を張り上げる。

「皆さん。怪物の住み家は正面の青い屋根の木造アパートです。」

彼の指し示したアパートは細長く、十四階程だろうか各部屋からは洗濯用の紐が隣のアパートに結びつけられている。蹄鉄は街の石畳を打ち鳴らし、アパートへすし詰めに過ごす街民達は窓の陰から走る一行を見つめていた。憲兵達はアパートを取り囲み、アストスはポーチから取り出した二本の薬瓶を飲み干し、ギリウスを含める五人の憲兵を引き連れてアパートへ乗り込んだ。彼の腰には三丁の短銃、ロングソード、鉤付きの縄が垂れ下がり、肩には通常の銃よりも口径が一回り大きい小銃が掛けられている。アパートの中は暗く細かな埃が外の光に照らされて舞っているのが見えた。アストス達は銃を構え火打ち石と火薬を確認して木製の階段を上がり始める。建物内には住人がおり、彼らは息を潜めて戸棚の陰などに身を隠していた。階段を駆け上がる一行が八階へ差し掛かった時、アストスは足を止めた。いぶかしんだギリウスはアストスへ問いかける。

「どうされました?」

「上階から呼吸が一つしか聞こえません。皆さん、壁から離れてください。引きずり込まれますよ。」

「一体何が」

ギリウスは言葉を言い終える前に壁を打ち破って伸ばされた土色の腕に叩き潰された。

「一階に退却、怪物の正体は巨人。後は私にお任せを。」

アストスはそう言うと銃を暗闇へ構えた。木床を踏み荒らす足音が絶え間なく鳴り、間もなく静かになる。アストスは呼吸音を頼りに真っ暗な部屋へ足を踏み入れた。一歩一歩で床が軋み聴覚を狂わせる。真っ暗な部屋の中は微かに見え、部屋の中は至る所に大穴が空いていた。アストスは真上の天井に銃口を向け引き金を引いた。天井板が砕けて鮮血がこぼれ落ちるが丸太のような腕がアストスへ伸ばされた。彼は銃を投げ捨て短銃を両手に一丁ずつ引き抜き、直ぐさま爆発が二つ起こる。怪物の血が飛び散るが、更に腕が伸ばされ遂にアストスの左足を掴んだ。ロングソードを引き抜いたアストスは怪物の手首へ刃を立てたが、骨で刃は食い止められた。怪物は足を掴んだままアストスを壁へ叩きつける。木造の壁が崩れる。アストスの顔面の皮は剥がれ、左足は湿った小枝のように折れ曲がっていた。アストスはロングソードを手放し腰の短銃で怪物の片目を狙い撃った。怪物はアストスを更に振り回し、弾丸は怪物の首筋を掠める。左足の皮と肉が千切れアストスは九階へ投げ飛ばされた。転がるアストスはポーチから薬液と触媒をいくつか取り出し、調薬しつつ息を殺し怪物を捜す。床を突き破って伸ばされた丸く太い指がアストスの胴体を掴んだ。


 アパートの上階が爆発し残骸が周辺へ降り注いだ。爆発は建材を通り二つ分まで飛ばし、真っ黒な煙を上げていた。

「包囲網を広げろ。巻き込まれるぞ。」

アーランメネスは力いっぱいに叫び、怯える馬を引いてその場を離れた。アパートは中程から折れ曲がり出入り口からは脱出する住人達がごった返し、火の点いた落下する建材が彼らを襲っていた。憲兵達は何も出来ず立ち尽くすしかなかった。炎上するアパートの中から音が重なったような太く鈍い叫び声が上がる。空気が震え馬達は固まって動かなかった。そして、煙の中から一つの巨体が姿を見せた。怪物の右腕は半ばからもぎ取れ、断面は真っ黒に炭化していた。顔は怒りのためか引きつったように左右に引き延ばされ、口の端からは曲がった牙が見える。土色の肌には血がこびりつき、口と腹部は特に血が塗れていた。

「怪物だ。あんな生物が本当にいたのか。あの爆発から生き延びたのか。」

怪物は飛び上がりアパートの屋根を足場に何処かに消えていった。呆然とした彼らだったが、怪物の巨影に気を取り直して馬の手綱を握る。だが、馬は固まり誰一人怪物を追うことが出来なかった。アパートは完全に崩れ落ち、瓦礫の隙間からは薄汚れた肌と血肉が覗いていた。肉の焼ける異臭は彼らの頭上から降り注ぐ。漸く馬が動き出しアーランメネスは部下を連れてその場を離れた。跡地には途方にくれた住民と野次馬、彼らを押しのける消防団の男達が残された。怪物を見失ったアーランメネス達は仕方なく詰め所へ引き返していた。厩舎へ馬を預けたアーランメネスはふと中庭へ停まる馬車に目をとめた。

「あれはどちらの物か解りますか?」

詰め所へ入った彼は一縷の希望を込め、出張税務官へ歩み寄って尋ねた。

「あれは片耳の無い魔術師の物です。今は隊長と街長から依頼を受けているそうです。名前は確かユーヴェだったと記憶しております。その様子ですと、必要な依頼ですね。」

税務官はアーランメネスの様子を見ながら両肩を上げて答えると広間中央から伸びる階段を指差した。

「隊長は何時も場所です。」

「ありがとうございます。」

アーランメネスは礼を取り、部下を引き連れて駆け足に階段へ向かった。


 ユーヴェは街長のキリオンと憲兵隊長のウロスに向かい合って長椅子に座っていた。ユーヴェの背後にはオーグが佇み窓へ顔を向けていた。ウロスはこれまでの経緯をユーヴェへ説明し、

「如何です?ご依頼を受けて頂けませんか?」

ユーヴェを伺った。

キリオンはウロスの話を遮って身を乗り出した。

「勿論、報酬についてはお約束します。金貨六百枚で如何ですか?貨幣の発行年代は去年で、金含有量は八割です。」

ユーヴェは首を振った。

「一般労働者の年間給与の六百倍ですよ?・・では二倍払います。」

「魔術触媒の取引には黄金が使われておりますので、金貨では無く黄金にてお支払いを、価格については王国が定める当代国王陛下の体重から算出する方式でお願いします。」

キリオンはウロスを伺った。

「確かにそのような規則が有ったかと。本日、怪物の討伐に向かっている街付きの魔術師への支払いは金貨で良かったがね。あんたの出番は無いかもしれませんよ。張り切って用意した魔術何たらは無駄になるかも。」

口を開いたウロスはうんざりしたように小声で呟いた。キリオンはため息をつき目を寝かせてユーヴェとウロスへ語りかけた。

「まあまあ、ウロス殿。さてユーヴェ殿、報酬は成功確認後にお支払いしますよろしいですね。ええ、キチンとお支払いしますよ。街倉庫の隅に支払い用の金塊が有ることを今、思い出しました。」

ユーヴェはキリオンの言葉に頷き、質問を口にする。

「成る程、では報酬は如何ほどでしょうか?」

「国王陛下の体重の半分で良いですね。怪死事件は拡大の一途を辿っております。ユーヴェ殿のように交渉で一生懸命になる時間が惜しい。早く魔術で何とかして頂きたいですね。出来るのであればですが。」

「勝手に決めないでください。領主様へ報告しますよ!」

横から答えたウロスをキリオンは怒鳴りつけた。

「我々憲兵を差し置いて陸軍に頼ろうとした貴方に言われたくないね。こっちは仕事をこなしている。貴方が博物館建設に人員を割かせた影響が今出ているでしょうに。私は責任を転嫁する貴方とは仕事をしたくない。」

「貴方は全くもって幼稚な男ですな。手が足りないので有れば言えば良い。」

ユーヴェは言い合う二人へ声を張り上げる。

「キュウリコス憲兵隊で依頼を受けた場合、私の雇用先はこの街となります。憲兵隊は私の行動を監視するために憲兵を付ける権利が有ります。尚、依頼者は相談料として金を一掴み支払う必要が有ります。」

彼がそう言い終えると部屋の扉が三度叩かれ、アーランメネスが返事も待たずに部屋へ飛び込んできた。言い合いを続ける二人が先ずアーランメネスの目に入り、次に彼の視線は全身に武器を身につけて向かい合って座るユーヴェと背後のオーグの両者へ吸い寄せられた。アーランメネスはウロスへ気をつけの姿勢でアパートの爆発等の報告をした。いがみ合っていた二人は椅子へ腰を下ろし、ウロスが一言言った。

「ユーヴェ殿。私達は貴方を雇います。既に四十人が殺されております。早急な解決をお願いします。支払額は先程の申したとおりです。」

キリオンは片眉を上げて頷いた。二人を見たユーヴェは立ち上がり口を開く。

「承知怪物の正体は森に生息する欄干巨人でしょう。山地付近の橋で人間を待ち受ける習性持っております。手足が器用で高層化したアパートは格好の住み家となるでしょう。先ずは死体を確認させてください。」

「別棟の氷室に保管しております。そこまでは私が案内しましょう。」

案内を申し出たアーランメネスへユーヴェは礼を取り部屋を退出した。

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