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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
トエラケイの怪物(完結)
29/30

王の舞台

 ユーヴェはランタンの灯りを消し、肩にかかる空気銃を取り出して無人の街を進む。石畳の通りには放置されたパイ焼き場や積まれた酒樽が点在し、路上には跡形も無く踏み潰されたパイが散乱している。ユーヴェとオーグの足裏にも木の実のジャムが付き、彼らの足跡が路上へ残された。空気銃を構えたユーヴェと巨銃を構えたオーグが進む石畳に青い血が混じり始める。武器を構えた二人が病院の鉄門に差し掛かかった。扉の金属は内側から押し倒され。折れ曲がった扉の残骸は馬車の木片と馬の赤い血肉で埋もれ、扉からは青い血がにじみ出ている。ユーヴェは血まみれの馬へ近寄りかがみ込む。

「首元に下から切り上げたような大きな切創が走っている。首の骨は粉々、首を掴んで投げたあるいは蹴りつけて扉へ叩きつけたか。馬に憲兵が挟まり頭部が潰れているようだ。破損した屋形は粉々だが後から蹴られここまで転がってきたのか。中のトエラケイ兵ごと潰れている。凄まじい力だが曲輪蟲の攻撃とは異なると見える。」

立ち上がったユーヴェは空気銃を肩へかけ、腰から射出機を構える。

「オーグ、射出機も持っておけ。体重が有る怪物だ。」

二人は武器を構え慎重に門を通り過ぎて見えてきた都市病院前の広場は更に凄惨な有様だった。死体は腹部や頭部が潰れ分かたれた死体が散乱し、血肉や腸内の臭いが甘い香りと混ざり合い悪臭となって漂っている。ユーヴェの視線はなめるように彼らの上を通り過ぎる。

「オーグ、前へ出ろ。怪物は一つ残らず銃を奪っていったようだ。」

オーグを先頭にユーヴェ達は病院へ進む。目の前には開け放たれた中からも広場と同様の臭いが立ちこめている。オーグが院内へ足を踏み入れた途端、声が院内を響き渡った。

「ユーヴェか。俺を殺しに来たのか?嘘つきの老いぼれは俺をなんと言った。離反者はあいつの方だぞ。俺を殺しに来たのであればお前を殺すしか無いが、お前が老いぼれの頭部を持ってくれば報酬を払おう。」

都市病院は大ホール、病室三十部屋、計百八床、医療用調薬室三部屋、職員室二部屋から成る。人気は全く感じられない。

「オーグ、左の通りへ迎え。三つ目の部屋までだ。」

ユーヴェはポーチから一本の瓶を取り出して中の薬液を飲み干し、オーグを盾に通路進む。二人の硬い足音が院内へ響く中、突然爆発音が鳴りオーグの体へ命中した弾丸は砕けて火花が散った。五月蠅いほどの羽音が打ち鳴らされ上階から滑空するテレイアが二人目がけて突撃した。テレイアの姿は艶やかな皮膚骨格で覆われ、背中には二対の厚く長い羽根、太い二対の腕は人での肩口、あばら下から生え、額には短い触角が二本、兵隊蟻のような顎を打ち鳴らし、両目は人間の物だった。オーグは右手の巨銃の引き金を引く。白煙を割って射出された目玉大の弾をテレイアは首を捻りオーグを蹴り付けた。ユーヴェは吹き飛ぶオーグを避け、ユーヴェはテレイアへ爆弾を射出し手近な部屋へ飛び込んだ。爆発が二度起こり、辺りが静かになる。ユーヴェは腰から短銃を引き抜き院内通路へ目を向けるが、テレイアは消えていた。足の違和感にユーヴェは壁へ背を預けて右太股を確認すると服が僅かに破れて血が滲んでいる。オーグは壊れた壁を跨いで通路へ戻り、ユーヴェが隠れている部屋へ戻って来た。オーグの足音に紛れて窓を割る音が鳴った。手当てを終えたユーヴェは床へ腹ばいになり鏡を窓枠へ向けて外を確認すると。

「割れた上階の窓が割れている。窓の枠は削れている。」

ユーヴェは鏡の縁を持ち、向かい合う尖塔を映し出す。

「飛ぶでは無く、跳ぶか。」

左奥尖塔の屋根によじ登ったような四本の傷跡が付いていた。ユーヴェは部屋から離れ、通路へ引き返すと一欠片の皮膚骨格が転がっており、彼はそれを拾い上げる。


 ランタンを片手に自身の屋敷の扉を開けたアンテロペロースは無人の廊下を進み館の二階へ上がると彼の耳へ微かな泣き声が聞こえる。その声を聞いた途端に彼は口を歪ませた。

「ああ、居たんだった。えーと誰だったかな。」

アンテロペロースは泣き声が聞こえる扉を開けると、中には毛布にくるまった彼の妻キーラがベッドへ腰掛けて震えていた。キーラは入り口に立つアンテロペロースを見ると絶叫を上げて部屋の壁へ背を押しつけた。アンテロペロースの蟲頭がうねり彼女へ語りかけた。

「お前は何という名前だったか忘れてしまったが、良い実験対象だった。おまえの脳へ私を入れてみたが、どういう訳か胎盤へ行くとはね。私がお前に会いに来た理由はお礼を言うためなんだよ。死んでいたら聞こえないだろう。我が友は順調に病院へ近づいているようで何より。」

アンテロペロースは喚くキーラへ一歩近寄る。キーラは身を縮めて彼女の夫の名前を呼んだ。

「さて、今まで有難う。ああ、やっと思い出した。キーカだったか、いやキーラか。どうでも良いか。」

キーラが溶けるように一纏りに集まり人間大の蛹が現れた。満面の笑みを浮かべたアンテロペロースは踊りながら執務室へ入る。机には葡萄酒が入った木箱と魔術書が数冊置かれていた。木箱には王家の押印が入った下賜品であり、当然受領者はアンテロペロースでは無い。アンテロペロースの二本の指が箱を撫で、街を響く爆発音に彼は感嘆するように深く息をついた。

「早くこの葡萄酒が飲みたい。そうだ、付け合わせが必要だった。」

アンテロペロースは呟いて椅子を蹴って立ち上がり、踊りながら執務室から飛び出していった。


 一方、ユーヴェとオーグは壁に沿って窓下へ身を屈め、青い血の海をかき分けて院内を進んでいた。這うユーヴェは時折止まり耳を澄ませる。硬い爪が床を掻く音や硬い皮膚骨格が擦れる独特な音が院内へ響く。ユーヴェは天井を見回しながらポーチから番号が書かれた手のひら程の装置を取り出して次々に壁へ貼り付けていく。二人は一階病室の一室へ入り、ピッタリと窓際へ寄った。数字が書かれた鏡を取り出したユーヴェは写し出されたモノを確認しながら胸の薬室を押し込んだ。破裂音が鳴り一拍置いて真上から銃声が鳴る。その後テレイアが走り、その音をユーヴェとオーグは目で追う。彼らの視線は部屋の出入口で止まった。二人は静かに射出機を構えて爆弾を発射した。爆発から飛び出したテレイアの羽根と腹部の右腕は焼け焦げて半ばから千切れ落ちている。テレイアの肩から伸びる右手には剣が握られ、左腕二本には壊れた銃が握られていた。テレイアはオーグ巨銃を握る右腕を蹴り飛ばし、右手の剣をユーヴェの脳天へ振り下ろした。蹴り飛ばされたオーグの右腕はもぎ取れ、剣の切っ先はユーヴェの右耳の耳介を切り落とし勢いのまま鎖骨を砕いた。ユーヴェは腰から短銃を引き抜きテレイアの腹部へ弾丸を撃ち込んだ。飛来する弾丸を目視で確認したテレイアは腹部の左手がその弾をつかみ取り、右足で驚愕したユーヴェの胸を蹴り飛ばした。ユーヴェは反応する事も出来ず背中を壁へ打ち付けて崩れ落ちた。激しく咳き込む彼の目は血走り、咳には血の痰が混じる。オーグは手斧を握り締め振り抜いたテレイアの右足へ振り下ろした。斧は足の節を叩き割って脚を半ばから切断する。テレイアは絶叫を上げ、床へ背中を打ち付けた。オーグは青い血に塗れたテレイアへ馬乗りにのしかかる。斧を握り締めた鉄の腕が糸を巻き取るような機械音を立ててテレイアを何度も殴打し、斧を抑えようとする左腕の手首を切断し、鋭い顎は割れ、触角は切り落とされ青い血が飛び散った。片目も潰されたテレイアは絶叫のような怒号を叫び、青い血で染まった機械仕掛けの胸へ剣を突き立てた。剣は火花を立てて突き刺さり、油に塗れた切っ先がオーグの背中から飛び出す。尚もオーグは止まらない。振り下ろされる斧はテレイアの頭蓋を割り、脳が皮膚骨格から染み出す。テレイアは剣を捻り上げてオーグの胴を引き裂き切っ先が頭部へ向かって進み始めた。咳こみながら起き上がったユーヴェはロングソードを抜き放ちテレイアの頭蓋へ刃を突き立てる。テレイアは激しく痙攣し始め、徐々にその痙攣が弱まりダランと手足を伸ばして息絶えた。ユーヴェは転がった自身の耳をポーチへ納め、その場に力無く座り込んだ。そこへ若い女の声がかかる。

「どうだ。楽しかったか。体組織を採られたせいで火炎魔術を恐れ勝負を急ぎ過ぎた。我ながら不甲斐ない。」

部屋の出入口から顔を覗かせる女の顔はユーヴェの見慣れないものだったが浮かべられた笑みには心当たりがあった。

「是非教えて欲しい。君は怪物を倒した後で座り込んだね。疲労からか、それとも達成感からかな?別にからかっているわけじゃない、私からの報酬に関わることだ。」

「お前は今何を言ったのか解っているのか?」

「何?」

アンテロペロースは目を訝しげに細めてユーヴェへ発言の意味を問う。

「報酬は変わらない。お前が私へ支払えるモノは命だけだ。」

ユーヴェはアンテロペロースの問いかけへ答えると、立ち上がり黙々とオーグの右腕を修理し始めた。苛立ったアンテロペロースが操る肉体がその様子へ口を開いた。

「君の耳も治したら良いんじゃないか?釘でも打ってね。」

関節の部品を取り替えたユーヴェは右腕をオーグへ取り付ける。

「オーグ腕を試せ。」

オーグは右手の指を折り曲げて握り拳を作ると、二人へ戯言を話すアンテロペロースの顔面へ拳を打ちつけた。アンテロペロースの頭部は弾け飛び、体は青い血を撒き散らして血の海へ倒れた。武器を拾い上げた二人は黙々と弾を込めると死体で満ちた都市病院を後にした。

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