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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
トエラケイの怪物(完結)
26/31

見えない怪物

 ボイオティオスの屋敷の庭へユーヴェが戻ると、三台の馬車が並んで停められていた。天幕の前ではテレイアが都市図を前に憲兵達へ矢継ぎ早に指示を出していた。ユーヴェに気がついたテレイアは編隊を作る憲兵達と都市兵士達を尻目に駆け寄ると、

「早かったな。・・こちらは中々都市兵士が話を理解しなくてね。どうにも憲兵のことが信用できないらしい。」

と渋面を浮かべて言う。

「私の方では特に新たな情報は有りませんでした。調査には取りかかれましたか?」

「それはまあ、何とかね。しかしそれでも色々と手が足りんよ。それに加えて、あれ程に大きな蟲であれば既に人間を襲っているはずだ。まだ、この街に居ればと仮定した場合だが。」

「まだ怪物は居ますよ。きっとね。私はアパートの屋根へ登り見落としがないか探ってみます。」

賑やかな通りへ目をやるテレイアへユーヴェは努めて明るい口調で答えた。テレイアの目がユーヴェを捉えた後、彼は憲兵達と共に街中へ出発する。ユーヴェは道中で憲兵から都市地図を受け取り天幕へ入った。彼は真っ直ぐに作業台へ向かう。

「城か。」

都市地図を眺めたユーヴェはそう呟き、天幕内に積まれた荷物をオーグと共に解く。粗方荷を開いた後、鳥を肩に乗せたオーグが魔術触媒を仕分けして作業台へ並べる間、ユーヴェは新しい空気銃を組み立て滑車へ綱を取り付けた。

「そのまま準備を頼む。」

銃の点検を終えたユーヴェはそうオーグへ言うと、空気銃を手に胸へ四つの薬室が取り付けられた魔術具を金具で固定する。ユーヴェは試しに一番上の薬室を押し込むと、薬室内部の魔術触媒と薬液が混じり合い空気銃の滑車が回る。

「作動良し。」

使用後の薬室を交換したユーヴェは天幕を出た。


 街中をテレイアが率いる憲兵隊と都市兵士達が五人組に成り怪物を捜索していた。彼らの胸には小さな笛が一つ垂れ下がり、怪物を発見した場合は直ちに吹き鳴らすとこになっている。既に日は陰り街には灯りが灯され始めている。ユーヴェはテレイアが泊っていたアパートとは別のアパートの屋根にいた。このアパート屋根も穴が空いており屋根の下には一匹の曲輪蟲がうつ伏せに倒れ、額には鏃が深々と突き刺さっていた。ユーヴェの手元の都市地図には所々インクで小さな円が描かれており、彼は現在地にも円を描いた。ユーヴェはしゃがみ込んで地図を片手に腰のランタンへ火を灯す。明かりに照らされた地図へ付けられた印は天井に大きな穴が空いた建物の場所を指し示し、その場所は集合住宅が主だった。地図から顔を上げたユーヴェの目に大きな都市病院が映る。ユーヴェは立ち上がり隣り合ったアパートへ走りその屋根へ飛び移った。両足が隣のアパートの屋根を踏み締め、ユーヴェが次の足場となる建物へ目を付けた時、大きな影がアパートの屋根へ落ちた。ユーヴェは空を見上げ、ゆっくりと腰の短銃へ手を伸ばした。うるさいほどの風切り音が鳴る。すっかり沈みきった太陽の代わりに昇った月の光が荷馬車程大きい体を映し出した。それは真っ黒い目玉をした大きな人頭だった。頭の両側には太く長い強靱な腕が八本四対、腕の先には尖った五指が見える。人頭の口は一対の触腕が生え、開かれた口内には平たい歯がのぞき、後頭部には人間大ほどの蜘蛛のような腹が小さく付いている。ユーヴェは走り通りを挟んだアパートの屋根へ飛び移る。斜面に建てられたアパートの屋根へ丁度飛び移ったユーヴェは手元の空気銃を肩へかけ、反対の肩から小銃を下ろす。蜘蛛のような人頭は屈強な腕を曲げて跳躍しユーヴェがアパートへ飛び移る。ユーヴェは怪物へ向けて銃の引き金を引いた。弾丸は怪物を止められず、飛び上がった力でアパートの屋根が崩れ、巨大な体が空を舞う。怪物の大きな影が通路へ落ちるが住民は一向に気にしない。怪物は空中で傾きユーヴェが立つアパートの隣の建物に落下する。怪物の体重によって建物の屋上の床が音を立てて割れ、巨体は階下へ落下した。

「生首が此処に居るとは。」

ユーヴェは右手で自分の目に合図を送り、肩に掛かる空気銃の先端と滑車に取り付けられた綱の末端へ先端が鋭く鍵状の突起が三つ生えた鏃を取り付け、綱を鏃へかけて金具で固定するとレバーを引き蓄気を始める。ユーヴェは左手に蓄気を終えた空気銃を握り、生首を警戒して屋上で耳を澄ませる。彼の右手は爆弾が装填された射出機を持っている。屋上は静まり返り、階下の通りからは賑やかな祭りの掛け声が聞こえていた。ユーヴェは唇を舐め、周囲の影を確認し怪物を探す。目の前の陥没した建物から女のうなり声が立ち上り、板が割れる音や何かを叩く音が鳴った。ユーヴェは空気銃の滑車から垂れる鏃を引っ張り伸びた縄と共に後方の床へ引き延ばし、空気銃を足元へ置き両手で射出機を構える。


 怪物が建物を昇る音が鳴り響く中、怪物を待ち受けるユーヴェの耳に羽音が飛び込んできた。ユーヴェが羽音へ振り返るや否や建物から怪物が崩落した穴から顔を見せた。ユーヴェは視線を戻して引き金を引き、直ちにその場へ伏せた。爆発音が鳴る、女の悲鳴と共に羽音が彼の頭上を通り過ぎる。ユーヴェが顔を上げると、彼の眼前には二体の怪物がいた。

「飛べるじゃないか。」

ユーヴェは空気銃を手に取り呟いた。一体は生首、八本の腕の右前腕がちぎれ飛び、真っ黒い目の周りには深い皺が刻まれ黄ばんだ歯が打ち鳴らしている。もう一体は大きく成長した曲輪蟲だった。身体の大きさは成人男性程、透明な羽根は体長の二倍程の大きさで小さな一対の後ろ羽根と共に小刻みに羽ばたいていた。透明な羽根を通した月光は美しい模様を街へ落とし、蝿のような頭部からは二本の長い触覚が生えて不規則に蠢く。街中からは祭りで盛り上がった若い男や女の呑気な談笑があちらこちらから上がり、憲兵達の笛や硬い靴の音は一切聞こえない。怒り狂った生首が七本の腕を蠢かせユーヴェへ突撃し、曲輪蟲は旋回し鋭く長い腕を真っ直ぐ彼へ向けた。ユーヴェはポーチの鏡を確認し、空気銃を飛び回る曲輪蟲へ向けて綱が付いた鏃を発射した。鏃は曲輪蟲の腹に直撃し、ユーヴェは胸の魔術具に取り付けられた薬室を押し込む。滑車が綱を巻き取りユーヴェは空中の曲輪蟲へ引き上げられる。青色の血が綱を伝い空気銃の蓄気用の筒を汚す。生首はユーヴェの真下を通り過ぎ勢いの余りアパートから落下した。曲輪蟲へ取り着いたユーヴェは腰のナイフを怪物の細い胴へ差し込み、力を込め捻って引き抜いた。次いでユーヴェは傷口へポーチから取り出した鉤を引っかけ穴を広げた。怪物は身体を震わせユーヴェを揺さぶる。肉へ食い込んだ鉤を握りしめるユーヴェは何度も跳ね上げられ硬い殻に包まれた細い胴へ全身を叩きつけられた。ユーヴェは開いた傷口へ爆弾を詰め込み、ポーチから細い綱を取り出し鉤へ結び付けしっかりと握りゆっくりと綱を送り出し怪物の身体からぶら下がった。ユーヴェは高速で飛ぶ怪物に揺られながら綱を巻き取りきった空気銃へ手を伸ばす。彼らの眼下には灯りで満ちた街が広がり祭りを楽しむ人々でごった返しており、丁度彼らの真下で青色の液体に塗れた大きなパイを満面の笑みで街人達が切り分けている。ユーヴェは風に煽られ空気銃へ手を何度もつかみ損ねるが、彼は指を蓄気用の筒へ引っ掛け何とか空気銃を掴んだ。ユーヴェは空気銃を何度か押し込み怪物から空気銃を外して肩にかけて固定し空気銃のレバーを引く。怪物が都市病院の尖塔へ差し掛かる時、蓄気を確認したユーヴェは綱から手を離し空中へ投げ出された。ユーヴェは空気銃の引き金を引き鏃の鉤は尖塔の展望台の手摺へ引っ掛かりユーヴェは振り子のように揺られながらぶら下がった。怪物が街の空へ飛んで逃げる。ユーヴェは逃げる怪物を見ながら胸の薬室の一つを押し込こむ。豆粒のように小さくなった怪物の影が一瞬で膨らみ、気絶した鳩のように落下した。


 一方、街中を走るオーグは崩落したアパートにたどり着いていた。彼は撃鉄が起こされた巨銃を片手に生首へ向かう。頭上には鳥が旋回し絶えず街の様子を映し出している。金属の足がぬかるんだ路地を踏み締める。痩せ細った物乞いの老人は白い目を剥いてオーグを見つめる。オーグは真っ直ぐに道を進み少し開けた裏庭へ出た。裏庭は洗濯物が幾つも干されたらいには血に染まった水が湛えられている。真っ黒な銃口が洗濯物へ向けられ、オーグは洗濯物を割って進み生首はそこに居た。骨が折れ、湿った舌を打つ咀嚼音が静かな路地へ大きく響く。生首が揺れる様は大きな手毬のようで、場違いな異質さを感じさせる。オーグは腰から手斧引き抜き銃口を怪物へ向けた途端に咀嚼音が止んだ。真っ白な腕が土をかき、黒い目がオーグを見据える。黄色い歯が打ち鳴らされ真っ白な七本の腕が左右対称に繰り出してオーグへ走り出す。怪物が迫る中、オーグの銃構えた腕が狙いを付け引き金を引いた。巨大な弾丸は飛び上がった怪物の左後ろ足を千切った弾は民家の扉を突き破り石で作られた壁を打ち壊し通りへ転がり落ちた。オーグは銃を投げ捨て腰から射出機を引き抜きアパートの壁面へ取り付いた怪物へ爆弾を打ち込んだ。爆弾は怪物が取り付いたアパートの壁を打ち壊し、怪物は瓦礫と共に落下する。オーグは悶える怪物へ早足に近寄り、怪物の右目へ手斧を振り下ろした。斧は目玉を切り裂き、半月型の刃は怪物の頭蓋へ食い込んだ。返り血がオーグの金属製の身体へ飛び散る。ひっくり返った怪物は痙攣し口からは透明な泡がこぼれ、オーグが手斧を引き抜くと動きを止めた。オーグは手斧を腰へ納めると鳥が彼の元へ飛来した。オーグは腰のランタンへ火を付けて鳥へ渡した。

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