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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
トエラケイの怪物(完結)
23/31

魔術具技師の誘い

 アリオンの一件の後で夕食を楽しんだ二十日後の早朝、その間に静養していたユーヴェは屋敷外の調製場にて再び屋敷へ訪ねてきたアルドルアスと話し込んでいた。話の内容は空気銃の事であり、アルドルアスは抱えるほどの長い箱を作業台へ置く。アルドルアスはユーヴェへ笑みを向けて箱の鍵を開けて蓋を開いた。中には一丁の空気銃と滑車が入っており、蓄気用の筒が二つそれぞれに発射口が付いている。

「驚きますよ。これはネレイエさんとの合作でして、強度を保ったまま以前のモノよりも軽く蓄気筒の下には滑車が付けられていてユーヴェさんの魔術具で自動的に滑車の巻き取りが起こります。それからこちら。」

続いてアルドルアスは手提げ袋程の小さな箱を作業台へ置き蓋を開けた。

「こちらはご要望にあった射出機用の爆弾と展開式鏃です。爆弾の威力は変わらず、水濡れに強く水没しても半刻は持ちます。1年毎に交換頂ければ耐水性は確実でしょう。鏃に関してはユーヴェさんから頂戴した見本を元に作成しました。突き刺さればより多くの薬を相手に注入できるでしょう。他魔術触媒やオーグの銃弾について目録は以下通りになります。」

手の平程の球状の爆弾が幾つか並んでいた。ユーヴェは目録へ目を通した後、爆弾の一つを手に取りアルドルアスへ答えた。

「爆弾は三十個、鏃は二十個お譲り下さい。支払いについてはいつも通り金でよろしいですか。」

「はい、いつもありがとうございます。」

ユーヴェの言葉に喜んだアルドルアスは笑みを浮かべて続けた。

「ところでユーヴェさん。魔術書に興味が有ると仰っていたと思いますがどうです。私の買い付けに同行しませんか?行き先は五年前に我が国と併合した南方の都市国家トエラケイです。そこの領主アンテロペロース殿と二年前に魔術具の物々交換の約束を交わしておりまして、十日前トエラケイ行政指導官の使者から受け入れ許可を頂いたのです。魔術師の同行も許可が下りました。」

「・・そうでしたか。しかし、アンテロペロース殿は有名な方なのですか。私は豪族の関係図については寡聞にして存じません。」

「魔術に関する遺物コレクターとして豪族や商人の中で有名です。彼の屋敷には古今東西の貴重な品々が飾られているそうです。招待された私の友人達も絶賛しておりました。きっとユーヴェさんが気に入る品もあるはずです。何か持って行けば交換に応じてくれるかも知れません。今は収穫祭の時期です。祭りを楽しむためにも、出来ればすぐに発ちたいところです。」

「お誘いいただき、ありがとうございます。馬車の物を何か見繕っておきましょう。」

会話を続ける二人の側に調薬場の戸をくぐったネレイエが声をかける。

「丁度パンが焼き上がった所だけど、二人とも昼食は持って行く?」

ユーヴェとアルドルアスは頷き、ユーヴェがネレイエへこれからトエラケイに出かけることを告げると、

「行ってらっしゃい。でも出発前に貴方には渡すモノがあるから納屋で待っていなさい。」

と彼女はユーヴェに答えて屋敷へ小走りに向かった。ユーヴェとアルドルアスは作業台の荷物を纏めて調薬場前に立っているオーグと共に馬車へ両手に抱えるほどの荷物を運んだ。ユーヴェがオーグと共に荷物を荷台へ積んでいると屋敷の庭へ停め置いた自身の馬車へ荷物を積んでいたアルドルアスがユーヴェへ声をかける。

「オーグは連れて行くのですか?」

「はい。旅先で怪物退治を依頼されるかもしれませんからね。」

笑みを浮かべて答えたユーヴェにアルドルアスは納得がいったように頷き、彼へユーヴェは続けた。

「丁度依頼で頂いた金が有るので、支払いの金を此処でお渡ししても宜しいでしょうか?」

是非、と答えたアルドルアスの荷馬車へ元に金が半分程入っている箱をアルドルアス積んだ。運ばれた箱は頭がすっぽり入る大きさの物だった。箱の中身を確認したアルドルアスは確かにと言うとユーヴェへ歩み寄り二人は握手を交わした。そうして出発の準備を整えた彼らの元にネレイエが二つの弁当箱と一着の外套を持ってきた。ネレイエは先ずアルドルアスへ弁当箱を渡し、続いてユーヴェの元へ歩み寄った。オーグへ弁当箱を渡した彼女は手に持った外套をユーヴェに見せる。

「これを貴方に。昔セネスが着ていた物だけど、貴方は体格が良いから丈を調節したの。ぜひ受け取って。」

ユーヴェはネレイエから外套を受け取り羽織った。ネレイエは微笑み四歩後ろへ下がって外套を着たユーヴェの全身を眺めた。ユーヴェは外套をいじりながら彼女へ口を開く。

「丈は問題ありません、ありがとうございます。ポケットが使いやすそうですね。」

ネレイエは満面の笑みで頷いた。


 雲一つ無い春の青空の下を二頭引きの立派な馬車が車輪を転がし街道を進む。屋敷を出発した二台の馬車の屋根には真っ白な幌が太陽の光を反射し眩しく輝いていた。馬の手綱を握るアルドルアスの馬車の荷台にはユーヴェが乗り、ユーヴェの荷馬車は鳥を肩に乗せたオーグが引いている。アルドルアスは晴天の空をと街道の境を見ながらユーヴェへ声をかけた。

「今までお聞きしたことが有りませんでしたが、何か狙っている魔術書はあるのでしょうか?教えていただければ私が見かけた時に購入してお譲りしますよ。」

「お気遣いありがとうございます。それでは、デュイデスという魔術師著作の本が有れば是非お知らせ頂きたいです。他にも欲しい本は有りますがそれが一番の狙いです。」

「デュイデスですか。二三年前に王国の魔術研究公開実演の目録で見かけた記憶が有ります。題名は確か」

「師が保管していた当時の版画絵によると『異種変態による上皮組織の変異』です。前回殺した人狼が興味深かったのでつい欲しくなりました。」

ユーヴェは一枚の版画絵を懐から取り出してアルドルアスの隣へ座る。彼の手に握られた版画絵には正装を纏った壮年が瓶を片手に切り出した皮膚へその中身を注いでいるものだった。アルドルアスは横目に版画絵を伺っていた。

「印刷所で写しをいただけませんか?王都で拠点を構えている魔術具技師の仲間に聞いてみます。」

「勿論です。ご協力、非常に助かります。連絡は師の屋敷へお願いします。私が居ない場合はネレイエさんへ言伝を頂ければ幸いです。」

アルドルアスの提案はユーヴェにとって渡りに船だった。


 セネスの屋敷から出立した一行は四十日程かけて南下すると漸く元都市国家トエラケイの天へ聳え立つ大きな尖塔が見えてきた。時間は昼ごろだった。トエラケイは山岳地帯に位置し、都市その物が山の斜面に木々のように生えているようだった。都市の麓には田んぼが広がっており、均一に植えられた緑の苗が小さな木々のようで一層街を大きく見せていた。アルドルアスはひときわ高い尖塔を指差してユーヴェに語りかけた。

「ユーヴェさん、あれがトエラケイの都市病院です。十年掛けて建てられたあの建物は王国から派遣された行政指導士官によって運営されているそうです。」

巨大な病院に圧倒されたユーヴェは感嘆を漏らす。

「素晴らしい建築物ですが、王国式の建築物ではなく新鮮に感じます。面白いですね。」

「四年前に王都で聞いた噂ですが、更に南方の礫砂漠によく似た遺跡が有るとか。王国の建築士官が併合前に何度訪れていたとか聞きますね。」

ユーヴェの感嘆に反応したアルドルアスは街の話を補足する。彼らの馬車が舗装された街道を通り抜ける様子をあぜ道で遊んでいた子供達が見つめている。子供は皆ユーヴェが目を向けると走って逃げる。視線を街へ戻したユーヴェは街道から馬を走らせるトエラケイ兵達を目にした。兵士達の装備は王国化されており、肩に柄の長い小銃がかけられ階級章と色の違う軍帽をかぶっていた。一行へ近づく兵士達の先頭に居た身なりが整った男が赤い帽子を揺らして声を張り上げた。

「お待ちしておりました魔術具技師アルドルアス殿、私は主アンテロペロース様の使い、大アンテロペロースの従兄弟カマイウスです。屋敷までご案内致します。また、魔術師殿が同行されていらっしゃるとのこと、どうか魔術師殿のお力をお貸し頂きたい。」

一行は兵士達に誘導されて青い田んぼを抜けて都市トエラケイへ入っていった。都市へ入ったユーヴェは王国行政官指導士官の館へ、アルドルアスはアンテロペロースの屋敷へそれぞれ通された。荷馬車を降りたユーヴェは屋敷の中を憲兵達に真っ直ぐに通された。廊下や調度品には飾り気が無く仕事のための屋敷といえるだろう。行政指導士官の執務室へ通されたユーヴェの前には秘書官を伴って制服をきっちりと着こなした男が立っていた。男の髪は極端に短く切られ根元は白い。男は部屋へ入ったユーヴェに向かって一歩前へ出ると口火を切った。

「こんにちは、魔術師ユーヴェ殿。私はトエラケイの行政指導士官のボイティオスと申します。かの吸血鬼殺しの勇士、お目見え出来て光栄です。」

ユーヴェへボイオティオスは王国式礼を取りユーヴェも同じく王国式礼を返す。礼を終えたユーヴェはボイオティオスへ尋ねた。

「ボイオティオス殿、私への依頼についてお聞かせください。」

「勿論です。実はアンテロペロース殿の息子、小・アンテロペロースが脳天に穴を開けて怪死したのです。世話係が目を離した一瞬の間にです。可能であれば、今からアンテロペロース殿の屋敷へ向かいましょう。死体も残されたままですので、是非見て頂きたい。」

ユーヴェは少し考えるように空中へ目をやると答えた。

「承知しました。状況把握のため、領主殿の屋敷に着いてから幾つかの質問をさせてください。」

領主の屋敷と行政指導士官の屋敷はさほど離れておらず、背負い物を荷台から引っ張り出したユーヴェとオーグはボイオティオス率いる憲兵隊、トエラケイ兵と共に領主の屋敷へ徒歩で向かった。

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