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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
ロイの怪物(完結)
12/31

怪物の最期

章末話

 翌朝、ユーヴェは納屋で泥のように椅子に座ったまま眠っており、納屋の中は夜通しユーヴェとオーグによって片付けられ部屋の中央には荷物が山積みになっていた。怪物との戦いで施療院に残してきていた武器は昨夜中に彼の元へ届けられ、それらは残らず荷物としてまとめられ納屋の前にユーヴェとセネスの馬車が付けられていた。昇った日が納屋の中へ差し込む頃、ユーヴェは眩しさに跳ね起きる。軽く手の傷を確認してから起き上がったユーヴェは怪物の爪痕が残る外套では無く、鹿皮のジャケットを着込む。ストーブへ薪を放り込み白湯を貰いに納屋を出た。彼はそのついでに領主の書斎へ忍び込み毛髪や爪を探すつもりだった。しかしながら。屋敷の前には馬車が何台も停められ憲兵達がきびきびと馬車から箱を積み込んでいた。屋敷へは次々と憲兵達が出入りし、机やカーテン等あらゆる物が運び出されている。その光景は先日のユーヴェは使用人用の入り口へ周り屋敷の中へ入ろうと扉のノブへ手をかけると。彼の背へ声がかけられた。

「魔術師殿、おはようございます。中に何か欲しいものが有りましたか?」

ユーヴェが振り返るとカレイウスが部下を引き連れて立っていた。礼を取った彼は笑みを浮かべ扉を指差した。

「おはようございます。えーと、白湯が欲しくて。起きたばかりで喉がすっかり乾いてしまって。」

ユーヴェは軽く礼を返すと両手を広げて説明をすると、カレイウスは球を打ち返すように反応した。

「私が貰ってきます。セネス殿のご遺体はそろそろ焼き上がると思います。遺骨と遺灰は一纏めで宜しいでしょうか?」

あまりの話にユーヴェの目の前が真っ赤に染まったが、目を閉じて深呼吸を一度行って心を落ち着けた彼はカレイウスへ感情が抜けた声で返答した。

「・・そうですか。まとめ下さい、しっかりと全て集めていただければ問題ありません。ご対応ありがとうございます。ええ、本当に。」

カレイウスと別れたユーヴェはだだっ広い庭を寒さに身をすくめてふらふらと歩く。広い敷地は良く手入れされた芝生が広がり見る者には清々しく感じさせる。ユーヴェは目を細めて何気なく納屋や屋敷以外には何も無いさみしげな敷地をぐるりと見回す。彼の腕には鳥肌が立っていた。空しさを感じていた彼は敷地の光景に共感していたのだ。

「このままでは、私も殺されるな。」

ユーヴェはセネスが何故殺されてしまったのかについて考えがまとまっていた。

「あの吸血鬼擬きは吸血鬼から作られ、使い魔術に卓越していた。そうですよね、カレイウス殿。」

「気付かれておりましたか。納屋にいらっしゃらないもので探しましたよ。私は執事じゃないんですがね。」

ユーヴェは体を傾け肩越しに湯の入ったポットを持ったカレイウスを見る。

「貴方はカレイウス殿ですよね。」

カレイウスは笑みを浮かべてポットを持ってユーヴェへ歩み寄るが彼の目を見て足を止めた。

「この屋敷から詰め所へ続く道で美味しい食事処があるんですよ。広場の傍でアーレス殿のご友人が営まれておりまして、看板にはサカナの絵が描かれているやつです。あまりにも美味しい物で、私は一時期魚料理に凝ってしまったんです。毎日魚を買って料理をしては妻に怒られました。」

「飽きた、ですか。」

「ええ、本当にカンカンで暫くは魚料理だったんですよ。」

「・・良かったですね。」

「ええ?私はそんなこと言ってないですよ。」

蠅の羽音が聞こえる。心なしかカイウスの目が白く濁っているようにも感じる。

「そうでしたか。白湯、ありがとうございます。」

ポットを受け取ったユーヴェは館を見上げるとテネトールがさみしげに彼を見つめていた。テネトールの顔は以前納屋の前で見かけた時とは打って変わり、生気を失った土気色であった。ユーヴェは慌ててポットを放り投げ納屋へ駆けた。納屋の扉を体当たりするように開けるとオーグは鳥を肩へ乗せて既に立ち上がり馬車へ荷物を積み込んでいた。


「おはよう、ユーヴェ君。昨日はすまなかったね。報酬は馬車へ積んでおいたよ。」

ユーヴェが暗闇へ目を向けるとレイアスが作業台へ座り、台の焦げた辺りを左手でさすっていた。彼は親しげに笑みを浮かべており、その声色は親友へ話しかけるように柔らかかった。レイアスの部下を探すユーヴェへ、

「居ないよ。彼らは魔術触媒?を王宮魔術師へ捜索依頼を起案するために屋敷の物を引っ張り出させているからね。俺は君を見送りに来たんだ。」

と語りレイアスはポケットからあめ玉を一つ取り出して口へ含む。

「ありがとうございます。私はそろそろお暇しますので。」

がらんどうの納屋の入り口へ歩むユーヴェへレイアスが声をかけた。

「君には夢が有るか?金が欲しい、うまい物を食いたい、好きな女性と添い遂げたい、王宮の魔術師に成りたい等、何でも良い。」

ユーヴェは足をピタリと止め、レイアスは口元に笑みを浮かべたまま、ユーヴェの背中を昆虫のような目で眺めた。ユーヴェは一言レイアスへ返す。

「貴方は死体を回収できたようですね。」

レイアスは目を伏せ、左手を左手型に焦げた跡へピタリと重ねると歩き出したユーヴェへ語りかけた。

「アーレスから事の仔細を聞いたよ。いやはや家令が怪物と協力していたとは。今回、君の仕事は怪物の討伐だったが、前領主の凶行を暴き出した功績から報酬には色を付けておいた。次の仕事も是非とも頑張って欲しい。」

ユーヴェは振り返り、レイアスへ無言で礼を取ると足早に納屋を出た。レイアスはユーヴェへ続いて納屋を出て手綱を握るユーヴェを見上げて更に言葉を掛けた。

「短い間だったが、本当に楽しかったよ。こんなに汗をかいたのは久し振りで若返った気分だ。ありがとう。」

「怪物は話している内容の割に、古い北方の言語を話していませんでした。」

ユーヴェはレイアスを鼻で笑い馬車を走らせた。馬車へ石畳の水を跳ね上げて進み見る見るうちに遠く離れて小さくなる。

「そうだったか、次から気を付けるよ。怪物狩りのユーヴェ。」

馬車は死の街ロイから旅立ち青空をゆっくりと走る。ユーヴェは御者をオーグへ任せ報酬の食糧が詰まった箱を確認していた。中にはたっぷりと干し肉、酒瓶、麦粉が入っていた。ユーヴェは中から酒瓶を一本抜き出し御者席へ戻り手早くナイフで開封し一口飲む。吐き出される息は白く、酒で少し暖まった彼は後ろを振り返りしみじみとする。街はやがて見えなくなる。

「次ね・・有ると良いな。」

馬車は青空の下、怪物を狩る魔術師を乗せて何処までも進む。


 夜、レイアスは自身の砦へ証拠品と共に戻っていた。目録を確認したレイアスは部下に安置室へ案内された。安置室入口で白衣へ着替えたレイアスはあめ玉をなめながら興味深そうに並べられた数々の死体を眺める。その中には下水道にいた怪物の体もある。

「壮観だな。臭いはきついがこれは悪魔的な芸術だよ。そうは思わないか?」

レイアスは部下へ問う。部下は終始悪臭によって顔を白くさせ頷くことが精一杯だった。レイアスはためらいもせず指で怪物の死体をなぞりセネスの目が移植された使い魔の元まで歩む。途中で死体の指を綺麗に揃えたり髪を整えたりと部下達は常軌を逸した彼の行為へ顔を背けた。レイアスは目当ての死体を前に興奮していた。レイアスはぱっと部下へ振り返る。

「気分の悪い者は休み給え。体調を整えてから此処の警護を行うように。此処は私一人でも問題ない。」

レイアスの言葉に部下達は皆出て行った。それは気分の問題では無く異常な彼の行動によるものだった。全員が部屋から出て行く様子を確認するとレイアスは鼻歌を歌いながら手袋を嵌めてユーヴェのロングソードで喉を貫かれた個体の口へ肘まで右腕を突っ込んだ。

「俺の箱、こいつさえ引っこ抜けば・・」

彼は薄目で手袋を嵌めた指先へ集中する。だが、その手は一向に何も掴めない。

「無い。ユーヴェか。」

レイアスは手を口へ突っ込んだままぼやく。すると使い魔の目が開き鋭い牙を持った口が閉まる。ミチミチと音を立てて歯が噛み合わされる。レイアスは悲鳴を上げようとするが使い魔の右腕が喉を掴む。革靴が冷たいタイルを必死に蹴る。左手で腰の剣を探るが剣は着替えた際にロッカーへ置いてある。常軌を逸した咬合力で皮は腕の肉と共に削げ、骨が音を立てて折れる。声にならない絶叫をあげるレイアス。遂には腕が食いちぎられ使い魔はレイアスの喉を掴んだまま起き上がり千切れた腕を床へ吐き出し、レイアスの腹へ食いついた。柔らかい腹皮が食い破られ腸が貪り食われる。大口を開けたレイアスの口からあめ玉が転がり落ちる。左手で必死に喉を掴む腕を引き剥がそうと試みるが、使い魔の膂力に腕が千切れ力が尽き掛けた彼には抵抗するすべは無く、人形の腹からワタを出すように無気力に臓物を引きずり出されていた。その後、事切れたレイアスを発見した憲兵達によって死体を貪り続ける使い魔は撃ち殺された。使い魔の肉体が誰の物だったのか最早、気にとめる者はおらずロイの怪物は完全に死んだのだった。

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― 新着の感想 ―
注意深く読み進めてきましたが、意ひょうをつく展開でとても面白かったです。
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