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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
ロイの怪物(完結)
11/31

呆気ない終わり

 苦しむ怪物は尚も倒れず牙を剥き出して二人と対峙する。手斧を抜いたオーグは怪物へ躙り寄り、ユーヴェは装填済みの射出機を構え爆風を避けるため後退る。オーグから怪物は足を引きずって距離を取りユーヴェへ話しかけた。

「戦っていて解った、おまえは視界を覗く魔術師だろ。こっちの木偶の坊は使い魔か。このまま私を殺せば死体を盗んだ奴の手がかりは消えてしまう。」

怪物は両者と距離を保ったままゆっくりと歩く。傷口からの出血は既に止まり、顔はいまだにぼんやりと光る。ユーヴェは怪物と距離が近く、自爆してしまうため引き金が引けない。

「提案だ、勿論この街から私は出て行く。そうだ、あんたの仲間になって奴を捕まえよう。役に立つはずだ。そうだろう・・。」

円を描くように歩く怪物へユーヴェは黙して射出機で狙いを定めるが、微かに鳴る足音が気になり後方を伺った。そこには言葉を発していた片腕の使い魔が彼の背後すぐそこまで迫っており猛然と彼へ掴み掛かってきた。肩を捕まれたユーヴェは悶え床に押し倒されてしまい、叩きつけられた弾みで手に持った射出機内の爆弾から異音が生じた。ユーヴェは慌てて射出機を放り投げると、射出機が爆発を起こしバラバラになった部品が飛び散り細かな破片が彼の頬を切り裂いた。使い魔はユーヴェへ覆い被さり歯をガチガチと鳴らす。ユーヴェは鏡を視界に入れ続けた。意図を読み取ったオーグは怪物へ斧を叩きつけるが、怪物は身ひねり斧を躱す。オーグは素手のまま怪物へ躍りかかり、取っ組み合った人外の両者は互いを建物の壁へ打ちつけ合う。一方、それどころでは無いユーヴェは鏡を手放し、両手で使い魔の肩を全身の力を込めて押さえ噛みつく口を遠ざけていた。すると、掴んでいた使い魔の服が破れてしまい大口がユーヴェへ近づくが、彼は冷たく硬い皮膚を握りしめ直し、使い魔を押し止める。拮抗していた両者だったが、使い魔の膂力が勝ち、ユーヴェは押し負けてしまい次第に牙が彼の喉元へ迫る。ユーヴェは左手の親指を使い魔の目玉へ突っ込み右手で腰のロングソードを引き抜いた。辺りは暗く、剣の狙いが定まらない。使い魔のよだれがユーヴェの顔へ垂れ生臭い吐息が漂う。とうとう片腕では使い魔を押さえ切れず、鋭い牙がユーヴェへ迫り使い魔の顔を押さえていたユーヴェの薬指を食いちぎった。ぽろぽろと鮮血がユーヴェの顔へかかる中、彼は歯を食いしばり狙いを定めたロングソードの切っ先が怪物の脇から心臓を貫き、何とか使い魔を絶命させた。死体はユーヴェへのしかかり余りの重さと臭いに彼は咳き込んだ。


 何とか重い使い魔の死体を引き剥したユーヴェは立ち上がり辺りを見回すと、オーグが怪物と取っ組み合っている様子が見えた。怪物はオーグの鉄板が取り付けられていない右腕を右手と屈強な顎で掴み、両足を金属の腰へ当てて絡みついた。怪物の首と右手の筋肉が盛り上がりオーグの肩口が異音を立てる。ユーヴェは転がる銃を探し空気銃が目に入った。ユーヴェは発射する薬液を微かな灯りを頼りに作成する中、怪物はオーグ右腕を引きちぎった。金属が割れる高い音が響きオーグは膝を突く。怪物は千切った腕を棍棒のように立ち上がるオーグへでたらめに打ちつけた。更に金属がぶつかる音が何度も鳴り響く。オーグの体は凹み背中のプレートは外れて中の骨組みが見える。ユーヴェは弾を込めた巨銃を床へ置き、ポーチの導火線の付いた爆弾へ予備の火打ち石を駆使して着火した。火は血に塗れたユーヴェの顔を照らし出し、爆弾は怪物の背へ投げられた。怪物は横目に投擲される爆弾を確認したがオーグの左手に腕を掴まれ、爆弾は怪物の背を焼いた。爆発の勢いを受けた怪物はオーグと共に床を転げ回った。肩で息をする怪物は逃げるために立ち上がろうとするが腰が上がらない。跳ね飛ばされた勢いで骨折した怪物の腕をオーグが掴み続けていたためだ。怪物は足を振り上げて何度もオーグを蹴りつけるが、中腰のままでは力が乗らずオーグはびくともしない。ユーヴェは薬液塗られた中心を窪ませた矢が取り付けられている。空気銃のレバーを何度も引き十分に蓄気をされていることを確認したユーヴェは脚を上げる怪物の元へ駆け寄り距離として馬二頭分まで近づいたところで引き金を引いた。発射された矢は怪物の腹へ突き刺さり悶絶する。毛むくじゃらな体を魚のように跳ね上げ、血涙を流し、口からは泡がこぼれやがて動きを止めた。


 施療院の入口には緊張が漂っていた。眼前の建物から鳴る発砲や爆発音が空気を揺らし内部の激しい戦闘を憲兵達に想起させ彼らは固く銃を握りしめた。その中にはカレイウスもおり、彼は部下と共に建物へ隠れ固唾を呑んで見守っていると真っ暗な入口から何かを引きずる音が聞こえてきた。足音は二つ、一つはブーツでもう一つは独特な金属音を奏でている。

「銃を下ろせ!」

カレイウスが命令を下し護衛の制止を振り切って建物からでた。足音が近くなり遂に二人が怪物を引きずって姿を見せた。ユーヴェの全身は血に塗れ、左手は特にひどく濡れている。並び立つオーグは右腕を失い、体中の鉄板も所々が凹み満身創痍だった。その彼らは無事な方の手で怪物の足首を掴んでいた。カレイウスが近寄ると凄まじい苦悶の表情で固まった怪物の顔がよく見える。

「中の様子はどの様になっておりますか?」

「中には怪物が使用していたと思われる魔術触媒が陳列しておりました。使い魔は全滅させましたが中がとても暗いので調査は明日行った方が良いです。」

興奮気味に尋ねたカレイウスへ答えたユーヴェは怪物の脚を放り出し馬車の荷台へ腰を掛けて左手の処置を始め、興奮したカレイウスは怪物をじっと眺めた後小走りでユーヴェに続く。

「劇場はもう人を戻しても良さそうですね。」

「ええ、どうぞ。ご協力いただき、ありがとうございます。ですが一つ追加でお願いしたいことがあります。」

「どうぞ。私に可能なことであれば。」

「街から続く街道全てに検問を張ってください。死体を盗んだ人物が存在している可能性が有ります。また、その人物はこの一件を原因であると考えられます。」

目を鋭くしたカレイウスは頷く。

「ではそのように取り計らいます。もし、その人物を見かけたら・・」

「その人物は腕の立つ魔術師であると考えられます。即座に射殺してください。」

カレイウスが言い終える前にユーヴェが返答する。包帯を巻き終えたユーヴェは薬液を飲み干し荷台から降りるといくつかの蹄の音が遠くの通りから聞こえてきた。いくつものランタン明かりが揺れ、国旗を掲げた憲兵達が施療院前になだれ込んだ。国旗を掲げた一団の中には騎兵隊や王宮近衛兵達もいた。彼らの中から馬に乗った人物がユーヴェの前へ馬を進ませた。その人物は斎場で出会ったレイアスだった。彼は馬から降りるとユーヴェへ礼を取る。

「魔術師ユーヴェ殿、私はレイアス憲兵司令官です。斎場ぶりです。魔術師セネス殿の訃報を聞きました。残念なことです。彼は優先的に火葬して貴方へ遺灰と遺骨をお渡しします。」

ユーヴェは礼を返し返答した。

「お気遣いありがとうございます。怪物に関しては」

「倒されたのでしょう。また、この一件は陸軍憲兵隊が受け持つことになりましたのでこれ以上の調査は不要です。迅速な駆除、ありがとうございました。報酬は我々憲兵達とロイ領主テネトール殿からお渡しします。証拠品に関してはこの時点、えーただ今丑三つ時以降から持ち出しを禁止とします。本当に、良く休んでください。」

顔を血を拭って話し始めたユーヴェの言葉を遮り、彼へ笑みを浮かべたレイアスから一方的な命令と取って付けたようないたわりの言葉がかけられた。しかしながら、ユーヴェにはその命令を拒否する事は出来ない。王国の旗印がたなびけば従わなければたちどころに投獄されてしまうだろう。口をつぐんだユーヴェはレイアスの礼を欠いた態度に反発して荷台へ背を預ける。ユーヴェの無礼な態度は血まみれの彼の姿から黙認された。更にレイアスが彼へ語りかけた。

「明日の昼頃に屋敷へお越しください。そこで報酬と魔術師セネス殿の火葬を行います。」

「・・そうですか。では、後はよろしくお願いします。私からの最後の頼みはあちらのカレイウス殿から聞いて下さい。私達の武器の回収をお願いします。・・それでは私は帰ります、皆さんお休みなさい。」

脱力したユーヴェは投げやりな声でそう言うと荷馬車を引いて夜闇に消えた。

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