アイカワラズノ
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「……本当に勝負をしていたんですね」
午後八時を回った頃、パリにあるジュダインの屋敷前でソフィは力なく肩を落とす。
珍しく待ち合わせ時間に遅れた優介(むろんカルロスも一緒)に理由を聞けば学院生との料理勝負が長引いたと謝罪され、まさか半日のフライト直後に一〇時間休まず料理をしていたことに驚くより呆れるばかり。
「羨ましいわ。ワタシも参加したかったけど、さすがに帰国して実家へ挨拶しないわけにもかないし」
対しカナンは予想通りと思うどころか、この過密スケジュールを羨んでいる。
「それで、一応訊くけど戦績は?」
「全勝だ」
「さすが我が永遠のライバルと称賛せざる得ないよ。学院の猛者を相手に付け入るスキすら与えない調理技術。なにより、敗北を期しても悔やむどころか清々しく握手を求められるほどの料理の数々。また一段と腕を上げたようだね」
「そりゃどうも」
素っ気なく答える優介に代わり無駄に優美にカルロスが語り、その場に居合わせていないことをカナンは悔やむように眉根を寄せていた。
「みんなに遠慮していたが……こう滾ってしまうね。どうだいユウスケくん、これからボクと一勝負しようじゃないか」
「その滾る勝負を観戦できたのだからアナタは引っ込んでなさい。ユウスケ、ワタシと勝負なさい」
「俺は両方を相手にしてやっても構わんが?」
「構ってください……あなた達はどこまで料理バカなんですか」
これからジュダインと会談する約束も忘れて盛り上がる三人にソフィは嫌味をちくり。
「褒めるな」
「褒めないでよ」
「褒めないでくれたまえ」
「ですから褒めてません」
しかし全く通じず額に手を当て項垂れる。
「とにかく、ジュダインさまを待たせているんですから行きますよ。優介さんも、この場はあなたが望んだのですから忘れないでください」
「やれやれ。冗談の通じん奴だ」
「この人は……はぁ。もういいです」
なぜか逆に呆れられてしまいソフィはため息を吐きつつ屋敷に向かう。
出迎える使用人に挨拶を交わし、案内されたのは客間の一つ。
広い室内には暖炉があり、合わせたような調度類の数々が実にシックで。暖炉前に置かれたテーブルを挟むように置かれたソファが二つ。
「ようこそ、ユウスケ」
ソファの上座に座っていたジュダインは立ち上がり、にこやかに歓迎した。
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「まあな。あんたこそ元気そうで何よりだ」
微笑む優介と握手を交わし、続いてカナンとソフィへ手を差し出す。
「カナンもソフィくんもよく来てくれた」
「本日はお時間を空けていただき、感謝いたします」
「ジュダインさまもお変わりないようで」
二人と握手を交わしたジュダインはカルロスに目配せ、それだけで伝わったのかカルロスは一礼して部屋を出て行く。
「いまティーを用意しよう。立ち話もなんだ、座りなさい」
「失礼します」
言われるままカナンが下座のソファへジュダインと向かい合うよう腰を下ろし、フランスではお付きの者としての立場があるソフィは座ることなく背後に立つ。
「お前はここだ」
しかし優介が有無も言わさず腕を掴んでカナンの隣りに座らせてしまった。
「え? あの、私にも立場が……そもそも優介さんはどこへ座るんですか」
「俺はここでいい」
いつもならこういった場ではカナンの隣は優介なのに、わざわざ部屋の隅にある執務椅子をテーブル側面に引き寄せ腰掛けてしまう。
「何より、ここに居る間柄で立場もないだろう」
「ですがジュダインさまに話があるのはあなたです。ならここの方が……」
「気にするな」
「……ですが」
「ユウスケが気にするなって言ってるんだから放っておきなさい」
カナンが窘めるので、納得いかなくもソフィは従うことに。
そのやり取りを見詰めていたジュダインも気にすることなく、むしろずっと気にしていたことを問いかけた。
「さてユウスケ。ソフィが言っているよう私に話があるらしいが、そろそろ教えてくれないかな」
そう、この会談を設けたのは他でもない優介だった。ソフィが卒業の報告で一時帰国するタイミングをジュダインの都合のいい日程に合わせてもらい、同時にカナンにも立ち会うよう計らっていたのだが、お約束かいつものように話があるとジュダインに告げているだけで、詳しい理由は聞いていない。
半月近くもお預けをされたことで興味津々と目を輝かせるジュダインだが、実はカナンとソフィは知っていて。
「そう急くな。カルロスがいねぇ」
「焦らすねぇ……そうと分かっていればカルロスにティーの用意をさせなかったよ」
予想通りの優介の返答に肩を竦めるジュダインが少しおかしくて笑ってしまう。
「ジュダインさまはまだいいです。ワタシは二ヶ月もお土産を焦らされてるんですから」
「お土産……? ふむ、ますます興味深い」
表情をしかめるジュダインにカナンだけでなくソフィも内心楽しみにしていた。
果たして、これから始まる用件を聞いたら、どんな顔をするだろうと。
子供のようにそわそわとジュダインが待つこと一〇分、ティーセットを持って現れたカルロスを隣りに座らせ
「準備は整った。さあユウスケ、お土産とやらの話をしてくれないか」
「なんの話だい?」
待ってましたと言わんばかりに問う師の隣りで、事情を知らないカルロスが首を傾げる中、優介は焦らすことなく口を開く。
「あんたの盟友、上條喜三郎が俺へ遺言を残していた」
「喜三郎の……遺言?」
「キミへ……?」
「更に言えば二ヶ月前、久しぶりに会ってきた。爺さんだけでなく、婆さんともな」
「「…………は?」」
立て続けに告げられた内容にジュダインだけでなくカルロスまでも目が点になる。三年前に死別した喜三郎とイチ子と会ってきた、などと近所の祖父母に会ってきたみたいに言われれば当然の話。
予想以上の反応、特にいつも驚かされてばかりのカルロスにこの表情をさせたのは爽快だ。ジュダインには申し訳ないが。
優介がこの会談を設けた理由は師、上條喜三郎の遺言を盟友ジュダインへ報告するため。
この遺言にジュダインは直接的関係はない。しかし残された者として、盟友の代わりとして、自分たちの成長を見守ってくれている彼へ義理を通すと同時に少しでも盟友との思い出を増やしてほしいとの心遣いからで。
そしてカルロスを同席させたのはカナンへ土産話をするなら同じライバルの彼へもすべきとの計らい。だからカナンも遺言の概要を知らなく、こうして集う日を待ち望んでいた。
「す、すまない。よくわからないんだがどのようにして会えた? 彼の遺言とはなんだったんだい?」
今までになく取り乱すジュダインが矢継ぎ早に質問を浴びせる中、それ以上に待たされていたカナンははやる気持ちを押さえていた。
その場にいたソフィ、恋や愛にもあえて聞かず二ヶ月も我慢した師との邂逅で何を思い、何を得たか――この心こそカナンが最も聞きたい土産話。
果たして優介は何を語ってくれるのか――耳を澄ませていると
「ソフィ。頼んだ」
「仕方ないですね」
「て、あれ?」
面倒げに優介から指名され、平然とソフィが引き継ぐのでカナンは唖然。
「ちょっと待って。どうしてソフィなの? ユウスケが話してくれるんじゃないの?」
「なぜ俺が話さねばならん」
「アナタのことだからよ! ソフィもソフィよ! どーして当たり前のように変わるのよ!」
「この場にカナンだけでなく、私を同席させた時点で立ち会った私に丸投げすると予想できましたので。優介さんのことです、面倒くさいんでしょう?」
「さすが、よくわかっている」
「パートナーですから」
「なに通じあってんのっ? とにかくアナタが話してよ! ワタシはアナタから聞ける日をずっと待っていたのよっ?」
「誰が話しても特に変わらん。それに、遺言の詳しい概要を知らん爺さんやカルロスには俺よりも全てを見てきたソフィの方が語り部に向いている」
「あなたは言葉足らずですからね。カナン、気持ちはわかりますがまずジュダインさまに経緯を説明した上で、優介さんへ質問した方が効率的だと思いませんか?」
「……たしかに、そーだけどさ」
不承不承ながらもソフィの言い分も納得できるのでカナンは首肯。ココロノレシピの後遺症を知った上での方が遺言を説明しやすい。全てではなくもそれなりに見てきた自分はまだしもジュダインはここすらも初耳、ならばソフィが適任だ。
「すまないね、カナン。私が無知なばかりに迷惑をかけているようだ」
「いえ……仕方のないことですし、色々と迷惑をかけているのはユウスケですから」
さらにジュダインから謝罪までされてはわがまま言えず、代わりに優介へ嫌味をちくり。
まあそんな嫌味を気にする優介でもなく、我かんせずとカルロスの用意したティーセットで茶の用意をしていた。
それはさておき、ようやく状況が整ったとソフィは小さく咳払い。
「まずは遺言の経緯についてですが、実は――」
みなさまにお願いと感謝を。
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