ユウジンラトノジカン
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日本からのフライト約一二時間。
「――やれやれ」
午前九時過ぎ、フランスはシャルル・ド・ゴール国際空港で入国手続きを終えた優介は長旅の疲れを吐き出すようにゆっくりと息を吐く。
昨日の昼前に(時差はあるが感覚的に)四季美島から明美の元へ行き、そのまま空港に立ち寄り飛行機でフランスへとの過密スケジュール。この国へ来るのは三度目だが、さすがに疲労は隠せない。
しかし休んでいる暇はない。相手の都合で滞在期間はたったの一日、その間に様々な用件を済ませる必要があるのだ。
故に迎えに来ている友人らを探す為、ロビーを見渡し――
「…………」
視界に入るとても目立つ集団に疲労が消えてしまう。まあ集団と言っても四人のみ、しかし人通りの多いロビーでも実に目立っている。
なぜならフランスの地で四人の手には『おいでませ、フランスへ』と毛筆で書かれた横断幕。これだけでも周囲から奇異な視線を向けられているのに――
「さあみんな! 声を合わせて、せーの――ユウスケくん、ようこそフランスへ!」
「よ、ようこそです……!」
「……はぁ」
「なぜボクが……っ」
意気揚々と音頭を取るカルロス、視線を気にしつつも精一杯声を出すテーラ、重いため息を吐くメゾ、羞恥で顔を真っ赤にしているロイとよく分からない歓迎。
誰もが元同じ学舎で学んだ仲で、学院が休みにも関わらず朝も早くから出迎えを申し出てくれた友人で。
「…………」
しかし優介は名を呼ばれても完全無視、四人の前を通り過ぎた。
「聞こえなかったのかな? ボク達はここに居るよ!」
「うるせぇ話しかけんな。誰だテメェ」
動じることなくカルロスが呼び止めるも睨みを利かせて優介は他人を装う。
「おやおや? ひょっとして時差ボケかい? ボクだよ! キミの永遠のライバル、カルロス・フランツェさ!」
「だからうるせぇんだよ」
もちろん空気を読まないカルロスはロビーに響けと言わんばかりに高らかな宣言。このままでは余計に目立つと悟った優介は不満を漏らしつつも仕方なく対応することに。
「で、このバカみたいな出迎えは聞くまでもなくテメェの考えか」
「さすが我が永遠のライバル、わかってくれるんだね!」
「次にバカやりやがったら俺は二度とフランスの地は踏まん」
「……もしかしてユウスケさん、怒ってる?」
「もしかしなくても怒るでしょ」
二人のやり取りに首を傾げるテーラに何を今さらと呆れるメゾ。
「カルロス……何が日本の伝統的なおもてなしだ! キミはこうすればユウスケが喜ぶと言っていたじゃないか!」
「違うよロイくん。彼は喜んでいる、ただシャイなだけさ」
無知が故に欺されたロイが怒鳴るも悪気もなく笑うカルロス。
どちらにせよ目立つ結果になり、見誤ったと優介は内心反省しつつ歩き出した。
「とりあえず、場所変えるぞ」
◇
移動をしながら再会の挨拶を交わし、一同は駐車場へ。ワゴン車に乗り込みロイを運転席に助手席へは優介、後ろにテーラとメゾ、最後尾にカルロスを一人座らせて最初の目的地へと出発する。
「ほう? ならお前も卒業か」
車内で思いがけない緊急報告に優介は感心していた。
聞けばロイは父親に認められたことで春から実家のレストランで働くことになったらしい。つまり専門教育を残したまま学院を去ることになるが、これもまた一つの卒業の形だ。
「正直、こんなに早く認められるとは思わなかった。キミのお陰だ」
運転しつつもロイは誇らしげに、そして感謝の気持ちを告げる。
一年半前の自分はどれだけ美しく、どれだけ美味しい料理を作るかを重要視していた。もちろん今も変わらない、ただなぜそうあるべきかを知らなかった。
なぜ見目美しくなければならないのか、なぜ美味しくあるべきなのか。それは難しい問いではなく簡単で、だからこそ考えようともしなかった。
食す者が見て楽しみ、食べて満足してもらいたいとの心。それを意識するのとしないのとでは味に天と地ほどの差が出るのだ。
自分なりに美しく作れた、美味しく作れた。しかし意識すれば食す者はもっと色使いを押さえた方がいいかもしれない、逆にもっと派手にした方が喜ぶかもしれない。もう少し酸味を、甘みを、または味を濃くした方が好みかもしれない。
自分の感性だけでなく、様々な観点から見直し試行錯誤するのは大変で苦労する。だがそれもまた料理の奥深さ。なにより追求するだけ世界が広がる。
気づけばロイはこれまで以上に料理にのめり込み、楽しんで、時には悩み、結果として料理の師でもある父に認められた。
今のお前にならこの店をより良くする料理を作れるだろう――本当に嬉しかった。
そしてこの喜びを教えてくれたのは誰でもない、優介だ。料理は心で上手くなる、との心の教えがあったからこそ、今の自分がいる。どれだけ言葉を並べても感謝しきれない。
「俺は何もしてねぇよ」
「言うと思った」
なにより並べたところで否定されるのみ、相変わらずの優介にロイは苦笑する。
「だがまあ、祝いの言葉は約束を果たしてからにしておこう」
「ああ。落ち着いたらボクも約束を果たす」
だから感謝は約束を果たす時、優介が自分の店に来店したら料理で返す。そして自分が彼の店に来店したら今以上に料理の奥深さを知るだろう。
料理人は心と心で語り合うことで成長する――その日がロイは待ち遠しくて仕方がない。
「ユウスケさん……あの、わたしも約束を果たせるよう、頑張ります」
男同士の語り合いに蚊帳の外だったテーラが主張する。
「だから、忘れないでくださいね」
「むろんだ。その日を楽しみにしておこう」
「約束って何の話よ、テーラ」
「秘密です」
意味深なやり取りにメゾが問うもテーラは人差し指を口に当てるのみ。
去年の研修で交わした約束。
自身の心を見定めてもらい、多大な評価に恥じぬよう成長する。
そして優介の心に残る料理人になる――これは二人だけの秘密なのだ。
「ふふふ。若さとは素晴らしいね。みんなとっても素敵な青春をしている」
「……あんたも若いし。というかこの中じゃ一番テーラが若いんだけど」
せっかくの雰囲気を相変わらず空気の読めないカルロスが無駄に壊しメゾがため息一つ。
「メゾくん、これは気持ちの問題さ。つまりそう! 例え老紳士や老婦人でも、心次第で常にぴっかぴかの一年生――!」
「ねぇユウスケ、テーラとどんな約束をしてるかは知らないけど、あたしとの約束も忘れてないでしょうね」
いつものように意味不明な陶酔に浸るカルロスは無視してメゾは不敵に笑う。
「お前ら、との間違いだろ。どちらにせよ、忘れてねぇがな」
対し優介も不敵に返せば和やかムードのロイとテーラの表情が引き締まった。
なぜならこれから学院の寮で料理勝負が行われる。対戦カードはなんと優介一人に対しここにいるロイ、テーラ、メゾを含む学院の生徒二〇人。もっと言えばこの勝負に手を上げた生徒は三倍以上は居たりするも、時間が限られているので対戦資格を得る為に対抗戦が行われるほどの人気ぶり。その誰もが学院の誇る卒業生カナン・カートレットを凌駕し、心の大切さを教えてくれた憧れの料理人と勝負することで新たな成長を望んでいた。
実のところ今回の来日はライズナー学園理事長ジュダインとの会談が主な目的、カルロスはもちろん他にカナンやソフィも立ち会うことになっている。そのソフィは両親へ卒業の報告をするため既に帰国しているが、普通に授業のあるカナンは学校を終えてから空港へ向かう為別経路で到着時間にずれがあり、更に一度実家に顔を出すので夕方以降にジュダインの自宅で合流の予定。
つまりそれまで優介の時間は空いているが、それを知ったメゾら学院生から料理勝負をしたいとの要望があり、結果として過密スケジュールになってしまったのだが
「こちらとしてもいい機会だ。それなりに楽しませてもらう」
「それなり以上に楽しませてあげるわ」
「果たせなかったキミとの勝負、腕がなるよ」
「全力でぶつからせてもらいます!」
休む時間も惜しむ料理バカ、受けた優介も無理な要望をしたメゾらも子供のように楽しんでいた。
ちなみにライバルとして勝負したこともあり辞退したカルロスは取り残されていても一人とても楽しそうに浸っていた。
みなさまにお願いと感謝を。
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読んでいただき、ありがとうございました!




