シバシノセイシュン
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担任の指示で職員室へ向かった優介を待っていたのは十郎太だった。
不意打ちに不満そうな優介に十郎太が告げた内容は更に不満なもので。
来月から卒業式までの一ヶ月、優介、恋、愛の三人から労働資格を取り消す――つまり昼の一部営業で抜け出す資格だけでなく、日々平穏そのモノの営業を禁止するという意味だ。三人ともあくまで学生、本業は学業なのでアルバイトなどをする資格は学園からの許可が必要。
いくら実家のような場所でも賃金が発生するならそれは手伝いの扱いにされないので、その資格を学園長自ら剥奪されれば働くことが出来ないのだ。
「だと言うのに、俺が卒業できないなんざ失礼とは思わんか」
「いや、あんたが――」
「俺の話を最後まで聞かず、先走って勘違いしたのはどこのどいつだ」
「……ここのあたしです」
批判を先回りで諭されて恋は粛々と反省。
「私もですね……はい」
「うう……優介さまに叱られました」
「ワタシはアイに指摘しただけなのに……どうして正座させられてるの……?」
「それを言うなら俺なんか止めようとしたんだぞ」
「どうも反省が足りんようだな」
「「「「「すみませんでした」」」」」
「立っていいぞ」
心からの謝罪が届いたのか、それとも視線が合わず話しにくくなったのか面倒気に優介が許可を出し、一同は立ち上がった。
「でもさ、どうして白河のお爺ちゃんは急にそんなこと言いだしたんだろ」
スカートの砂を払いながら改めて恋が疑問を持つ。そもそもが特別扱いなので強く言えないが、自分たちは何の問題も起こしていない。しかも二月と言えば三年生は自由登校、日中からお店を開けられると張り切っていたのにこの仕打ち。一ヶ月営業出来ないくらいでは生活に支障が出るほどではないも稼ぐチャンスを逃してしまう。
その疑問に優介は納得いかなくとも仕方がないようにため息を吐く。
「言いだしたのは島の連中だ」
「はい?」
「この三年、俺たちはまともな学園生活を送れなかっただろう。それを無駄に気にした連中が爺さんに持ちかけたんだとよ」
高校進学と同時に再開させた日々平穏。
優介や恋、愛からすれば自分たちの為に働いていたが常連客を始めとした住民は島の憩いの場、帰るべきもう一つの家日々平穏を学園生活を犠牲にしてでも守ってくれていると感じていた。一度きりの高校生活、とても大切な青春時代を仕事ばかりで忙しなく過ごさせたと。
だからせめて学生でいられる最後の一ヶ月くらいは普通の学生として過ごして欲しい。時間を気にせず放課後に寄り道したり、休日は友と楽しい時間を共有して欲しいと。本来なら一ヶ月も営業しなければお店としては死活問題、しかし元々働かなくても優介らは生活に困るわけでもなく、なにより一ヶ月休業しようと日々平穏の集客率は下がらないのだ。むしろ卒業後に営業時間が増えればそれだけ客足も多くなる。
ここまで考えた上で、今までの感謝の気持ちとこれからの感謝として常連客を中心に話がまとまり十郎太へ懇願したらしい。
「ま、愛にはとばっちりだが学生の俺たちと過ごす最後の一月こそ必要だろうとのお節介らしいな」
「お節介だなんて……優介さまと学生として過ごす貴重な一時。お心遣い、とても感謝しています」
「さらっとあたしを省いたのはどうでもいいとして、そういう気持ちなら素直に喜ばないといけないか」
伝えられたみんなの気持ちに胸に手を当て微笑む愛と頭をかきつつ納得する恋。
正直なところ一ヶ月もお客さまに会えないのは寂しいが、自分たちの頑張りを認めてもらえたからこその心遣い。無碍にするわけにもいかない。
「俺としては喜ばしくもないが、青春するとのくだらん契約があるしな。仕方ないが受け入れた」
不承不承といった優介だがその契約は元々好子のデマ、喜三郎の遺言で本当の資格を手に入れたことで契約そのモノが破棄されているが受け入れたのならやはり感謝しているのか。
「なにより来月は荒川さんの挙式がある。より細かな準備が出来ると思えばいい」
「素直に感謝すればいいのに。相変わらず捻くれてますね」
なのに自分なりの納得を口にする優介にソフィは苦笑。
「さて、納得したところで今後の話を――」
「はい。優介さまと私の学生生活。一秒たりとも無駄にはできません」
改めて仕事の話に戻ろうとした優介だったが、恍惚と愛が呟き――
「……ちょっと愛。なんでユースケとあんたなのよ。卒業するのはあたし達、あんたは関係ないでしょ」
「相変わらず冷血駄犬ですね。ここは大人しく残される可愛い後輩に時間を譲りなさい。違いますか? 恋先輩(笑)」
「心こもってなくても気持ち悪っ! なにが可愛い後輩よなにが! だいたい――!」
「そもそも――!」
「……戻るぞ」
予想通りのお約束に、予鈴を聞いた優介は背を向ける。
「ほっといてもいいのか? あのままじゃ五時間目遅刻するぞ」
「何の話だ」
心配しつつも孝太は後に続き、優介は既に記憶から消していた。
同じように知らぬ存ぜぬでカナンとソフィも屋上を後にするも、これまで無言のカナンが口を開く。
「ソフィ、せっかくだからアナタも来月は仕事を休みなさい」
「……いいんですか?」
「代わりにコウタが入ってくれるわ」
「あれ? 初耳」
「それにヒビヘイオンが休業ならリナも空いてるし、なにより最後の時間でしょう?」
「俺も最後の時間だけど?」
「カナン……ありがとうございます」
妹の気遣いにソフィは心から感謝する。実のところ先ほどの話を聞いて羨ましいとは思っていた。自分もまた学生としてみんなと過ごせる最後の時間なのだ。
「孝太さんも、ありがとうございます」
「まあいいけど」
元より勝手にシフトを決められても同意するつもりだった孝太は、ソフィの笑顔も加わって苦笑で受け持った。
「なので優介さん。最後の時間、私とも楽しんで下さいね」
「好きにしろ」
「あ、ですがせっかく時間を頂けるのでしたら一度フランスへ戻りましょうか。卒業することをお父さまやお母さまにご報告したいですし」
「いいことだ。離れているからこそ直接報告を入れるのは礼儀、恋にも――」
うきうきと予定を立てるソフィに頷く優介だったが、ふと歩みを止め
「カナン、話がある」
「……ワタシに?」
二月最初の金曜日――
四季美島から県境を越えてすぐの小葉町。都市部から少し離れているので都会とは呼べなくも大きなモールや商店街、娯楽施設もあり、暮らす上で不便さは感じない。
中心部に位置する小葉駅を出て直ぐにある商店街は近年進出してきた大型ショッピングモールに押され気味ではあるが、地元民からすれば昔ながらの温かさを感じさせる憩いの場でもある。
そんな商店街の端にあるパン屋『サン・ミーラ』も老舗の一つ。といっても経営者が跡継ぎに恵まれず現在は別の夫婦が営んでいた。
「ありがとうございました」
「またお越しください」
小さな店構えのカウンターから鷲沢雄大は柔和な笑顔で、出入り口で丁寧なお辞儀で鷲沢千鶴はお客を見送った。
ショッピングモールの進出に右肩下がりになっていた経営も、ここ半年で少しずつでも持ち直している。今日も大繁盛とはいかないまでも二人で営業するには忙しく、お昼から続いた来店も二時を過ぎてようやく途絶えたほど。
「お父さん、お店は私に任せてそろそろ追加の用意をお願い」
「頼んだよ」
しかし二人は休憩もそこそこに次の作業へ。夕方になれば商店街は夕食準備の主婦、サラリーマンや学生でもうひとピークが訪れる稼ぎ時だ。
お店にとって忙しさは貴重、もちろん大変だがそれ以上に充実しているので苦にならない。なにより二人は真っ当に死ぬ気で働かなければならないのだ。
それが息子の――例えもう父母と呼ばれなくても――自分たちにとってはとても大切な息子との約束。心優しい願いを叶える為なら、辛いことはなにもない。
疲労も忘れて厨房では雄大が、店内では千鶴が必死に、それでも笑顔で働いていた――のだが
「いらっしゃい……ま……」
トングやトレイを確認していると来客を告げるドアベルが鳴り、振り返った千鶴の笑顔が固まってしまう。
「どうも」
対し優介は面倒気に軽い会釈で入ってくるが、千鶴は硬直したまま動けなかった。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!




