カワルケシキ
アクセスありがとうございます!
一月も半ばを過ぎた水曜日。
「……はぁ」
昼休み、撫子学園三年一組の教室で昼営業のない恋と共にお弁当を食べていたソフィは不意に小さく息を吐く。
「どうかした?」
「ああ、すみません。ちょっと寂しいな……と思いまして」
ソフィに釣られて恋も周囲を見渡せば、教室内にいる生徒は数人程度。学食を含む別の場所で食べている者もいるがその人数もたいして変わらない。別にインフルエンザが流行っているわけでもなく、この時期になれば三年生の教室は閑散としているものだ。
なぜなら受験シーズン真っ只中、進学希望の生徒は今ごろ各々の目指す学校の試験に向けて自主勉強をしているはず。出席日数に問題がなければ三学期にまで登校して授業を受けるよりも効率的だからだ。
特に四季美島内、近辺には大学や短大、専門学校がないので七割の進学希望者は卒業後に島を出て行く。
故にこの時期でも登校している三年生は推薦入学が内定している者、就職先の内定をもらっている者、ごく一部出席日数に問題がある者と進路が決まっている少数の生徒に限られていた。
日本の学校をまだ一年と少ししか経験のないソフィはこの状況に慣れなく、三学期が始まっても稀にしか友人が顔を出さないことが寂しいようだ。
「気持ちは分かるけどね」
逆に日本の学校しか知らない恋だが、受験のために学校を休む生徒がここまで居るのは初めてで。撫子学園は中高一貫、三年前は本土の高校へ行く一部の友人しかいなかっただけに授業中でも席が半分も埋まらない教室を寂しいと感じていた。
「でもさ、当人には寂しいなんて言ってる場合じゃないと思うよ? むしろ余裕があって羨ましいって言いそう」
「……そうですね」
恋の苦笑いにソフィも頷く。
こうして受験生にとって自身の未来を左右する大事な時期に、寂しがる余裕があるのは自分たちの進路が既に決まっているからで。
二人はそもそも受験どころか就職活動もしていない。なんせ四季美島でも有名な勤労学生、ある意味既に就職しているようなもの。
ソフィの進路は変わらずアリス・スーリール。まあメインシェフのカナンがもう一年学生を続けるので店を開けることは出来ないが、仕込みの準備や家事などこれまで以上に貢献できる。
恋の進路もまた変わらず日々平穏。こちらは店主の優介も卒業するので今までのような昼の一部のみではなく、先代と同じ営業時間になるとのこと。
ちなみに冬休みに恋の進路について優介から面接のようなものはあったらしい。進路希望にしては遅い時期だが、去年の夏以降は色々とありすぎて余裕もなかったので仕方がないが、それ以前に恋からすれば今さらな面接。
対しもう一人の従業員の愛はカナンと同じくもう一年学生、今までのように昼に抜け出してまで参加する必要がなくなり四月からは放課後と休日のみしか働けなくなってしまった。
面白くないが優介の決めたこと、なによりこれまでが特別な処置だっただけに素直に同意した。代わりに恋を弄り倒し、反発され、お約束の言い争いをして最後は優介から二人仲良く説教されたりしたのだが。
「変わって……いくんですね」
教室内の大きな変化、そして仲間内での変化にソフィは改めて卒業を実感する。
撫子学園の生徒となってまだ一年と少し、でもたくさんの思い出が出来た。
毎日が楽しくて、ずっとこの時間が続くような錯覚さえしていた。
しかし時間は進んでいく。
目前に迫った卒業という別れに、それぞれに変化があるように、変わらないと錯覚していた時間が変わってしまう。
本当に楽しかったからこそ、この物悲しい気持ちは拭えない。
「いいんじゃない? 変わっても」
なのに恋は全く物悲しさを感じさず、手を合わせてごちそうさまと告げ
「変わらないってのは停滞。停滞した絆はいつかさび付いて壊れちゃう」
「恋さん?」
「なら変わればいいの。衰退じゃなくて成長って変化でね。誰かさんの受け売りだけど」
弁当箱を片付けつつ笑顔を向ける。
「……優介さんらしいですね」
その誰かを言われずともソフィは理解して微笑を浮かべた。
衰退ではなく成長、戸惑うよりもまず一歩でも進む。時に身を任せて悩むよりも、自分で動いて今よりも、昔よりも楽しい時間を手に入れればいい。
難しいけど、とても簡単な答えで、そう考えれば変わるのもいいかと思えてしまう。
恋も一年前にこの言葉を聞かなければ卒業を控えて感傷的な気持ちになっていただろう。
「それに日々平穏にとっては良い変化だし。間違いなく売り上げは成長するから」
「そこですか……まあこちらもカナンに頼らず開店できるよう私も精進できるので、成長と言えばそうですけど」
雰囲気ぶちこわしの打算な物言いにソフィはため息一つ。
「なになに? ソフィちゃんまた胸が成長したの?」
「「……はぁ」」
が、学食から戻ってきた孝太のもっと雰囲気ぶちこわしの最低な発言にソフィだけでなく恋も大きくため息。
実のところ卒業するにあたり一番の変化が孝太の進路だ。彼は卒業後、本土の大学へ進学する。こう見えて成績上位者なので推薦入学も決まっていて、その事実を聞いたのは正月だった。
つまり孝太は四季美島を出る――こんな大事な話を何故今までしてくれなかったのかと恋やソフィだけでなく、カナンや愛までも衝撃的で。
ただ優介のみは『そうか』と驚くこともなく、特に追求することなく受け入れていたが。
「どうしてでしょうか。このようなやり取りもあと僅かなのに、全く寂しさを感じません」
「むしろ清々する。だからコータ、元気でね」
「なんで俺とのお別れが清々するのっ?」
話を聞いた時はさすがに寂しくて、今も寂しさはあるのにどうでもよくなってしまった。
「まあソフィちゃんの成長や俺とのお別れはさておいて、鷲沢まだ戻ってねぇの?」
ツッ込みつつもぞんざいな扱いに耐性のある孝太は気を取り直して問いかける。
昼休みになって直ぐ優介は先生に呼び出されて職員室へと向かったが、昼休みが半分を過ぎても教室に戻っていないのが気になるようだ。
「まだよ。コータと違って悪い話じゃないだろうけど、ちょっと心配ね」
「そうですね。孝太さんと違ってお叱りを受けるような人ではないのですが」
「地味に苛めないで!」
恋とソフィも気になり始め、取りあえず孝太が二度目のツッコミ――同時に教室のドアが開き
「お待たせしました!」
「愛?」
「……ま、待たせてないでしょう。どうやったらそんなに早く歩けるのよ……」
「カナンまで?」
意気揚々な愛と息を切らせたカナンが現れ恋とソフィは目を丸くする。
対し愛は教室内を見渡すなり怪訝そうに眉根を寄せ、舌打ちするなり恋の元へ。
「優介さまをどこに隠しました」
「は?」
「しらばっくれるのではありません。あなたが優介さまと私の素敵な一時を邪魔しているのは分かっているのです」
「あたしはあんたがなに言ってるのか分かんないんだけど」
「これだから卑劣な駄犬は。惚けるのが上手いこと」
「誰が駄犬よ誰が! だいたい――!」
「そもそも――!」
「……カナン。どういうことですか?」
恋愛コンビのお約束を無視して状況を知ろうとソフィは疲労の色が濃いカナンに問いかけた。
「知らないわよ……ただ、食事をしてたらアイに教室に来るようユウスケからメールが来て……ワタシも興味があって付いてきただけだし……」
「優介さんから? ですが……」
その呼び出した優介は居ないのでソフィも理解に苦しむ。
「……なにさわいでんだテメェら」
「あ、戻ってきましたね」
同時にタイミング良く優介が教室に入ってきたのだが
「……どうかしましたか?」
いつもより二割増しで目つきが悪いので、恐る恐る事情を聞くも優介は無視して今だお約束を続ける恋愛コンビへと歩み寄る。
「恋、愛」
「泣くね! 間違いなくあんたは泣く! なんせ泣き虫猫――なにユースケ!」
「転けます! 絶対にあなたは転けます! なんせ駄犬――なんでしょう優介さま!」
呼びかけられ、言い争いの合間に顔を向ける恋と愛だったが
「話がある。とりあえず、さわぐな」
「「……はい」」
機嫌の悪さを感じ取り、借りてきた犬や猫のように大人しくなった。
無駄に注目を浴びた為、場所を移すとの優介に従い恋と愛は屋上へ。当然のように付いてくるカナンとソフィ、孝太を無視してようやく本題へ入った。
「資格を取り消された」
「「「「「…………」」」」」
が、不満げな呟きに一同は目が点になる。
なにを取り消された? いや、この時期に取り消す資格など一つしかない。
「ユースケ卒業できないのっ?」
「あん? なに言って――」
突然の知らせに恋が詰め寄るも優介は怪訝そうに顔をしかめる。
「卒業取り消しなんて、何をしたんですかっ?」
「……おい」
「そんな優介さまが……いえ、しかしつまりもう一年学生と言うことでつまりつまりは私と同級生……いけません私、喜んでは失礼……」
「アイ、顔はニヤッニヤよ」
「…………」
続けてソフィ、愛、カナンと口々にはやし立てるので優介のこめかみに青筋が走り
「おーいキミたちー? 人の話は最後まで聞いた方が身の為だぞー」
嫌な予感を覚えた孝太が宥めるも聞く耳持たずで、優介から重いため息が漏れた。
「……テメェら、正座だ」
「「「「「…………はい」」」」」
囁くような声にも関わらず、怒鳴り声よりも迫力のある命令に一同は素直に膝を付いた。
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!
また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!




