冬の章 ひとり占め
アクセスありがとうございます!
一月三日――
明日から日々平穏の営業は今年最初の営業。
おせちに飽きた住民が日々平穏の料理恋しく押し寄せる毎年恒例の忙しない時間を前に、この日は自宅でのんびり過ごし英気を養うのも毎年恒例。
なのだが――今年は少し違う。
去年、家族の確執を修復した上條家はこれまでのすれ違いを少しでも取り戻そうと奮闘中。今日も正月に揃わなかった(好子も出掛けていたので夫婦で年越ししたらしい)家族四人で外食することになっていた。
優介や恋も普段お世話になっているからと真琴に誘われたが、空気の読めない二人でもなく(愛は残念そうだったが)、家族水入らずの時間を優先している。
そして午前十時を回った頃、迎えに来た真琴と新年の挨拶を済ませ
「ご遠慮なさらなくてもいいのですよ?」
「そうもいかんだろ」
改めて誘いを受け、優介は苦笑で交わす。
「せっかくの家族水入らずだ。遠慮もする」
「ですが――」
「なにより、こいつらを共にすれば目立つんでな」
「だいたい愛が――」
「そもそも恋が――」
更に申し出る真琴を遮り、優介が横目で睨む先では恋愛コンビがお約束中。なぜ新年の挨拶から言い争いが始まるのか謎だがどうでもいい。
「これはこれで楽しい余興になると思いますが」
「あんたにはな。しかし親父さんには不快だろう。故に、今以上に自然な食事を楽しめる家族になれるまで遠慮させてもらう」
「努力はしているのですが……今も仁と好子が仲良くなれるよう、二人きりでお店に置いてきましたし」
「荒療治だな。とにかく、これ以上待たせる必要もないだろう」
「……ですね。では、またの機会に」
ようやく納得したのか真琴は微笑み、その機会が早く来るよう更なる努力を心に秘めた。
「ところで、この余興はいつ終わりますか?」
「俺が聞きたい」
終わりの見えないお約束に真琴は首を傾げ、仕方なしにと優介が締めのお説教。
「では優介さま。行って参ります」
「楽しんでこい」
結果、何事もなかったように愛は一礼し真琴の運転する車で出発した。
「さてと、あたしものんびりしようかな」
同じく何事もなかったように恋は家の中に入ろうする――が
「恋」
「なによ」
「出掛けるぞ」
どうも今年は色々と違うらしかった。
◇
――あたしもそろそろかなって思ってたよ?
年末には愛をショッピングに誘って、カナンさんを水族館に誘って、今年に入ってソフィさんを夜の散歩に誘ってるから、次はあたしだろうなって。誘わなかったらむかつくし、あたしだけのけ者ってのも気に入らない。
ていうかなんで順番に誘ってんの? 公平でも期してんの? ぶっちゃけ端から見れば女とっかえひっかえしてるタラシなんですけど?
ま、ユースケに限ってあり得ないけど。多分だけど自分のやりたいことを思いついて、それを一番共有できそうな相手を誘ってるだけ。それに元々複数での行動は好まない、なら自分で誘うなら一人がいいってところか。
つまり天然ジゴロ、無自覚なのが腹立つけど……でも、周囲の目を気にせず自分に必要なことを実行できるのは悔しいけど凄い。なにより無理やりでもないし、相手が嫌がってるわけでもないしね。悪いことじゃないならいいんでしょ。実際あたしも誘われたことが嬉しくて、わざわざ着替えてる。せっかく二人で出掛けるなら……まあ、可愛く思われたいし……あたしも乙女なんで。
「ねぇ、バイク乗る?」
『歩きだ。いいからさっさとしろ』
廊下で待つユースケに確認すれば急かされた。まあ無視だけど……バイク乗らないなら必要以上に防寒しなくてもいい。ならニットのワンピースにしよっと。後は昨日ユースケに選んでもらったコートをさっそく下ろして(愛と色違いのデザイン(白メイン、ファーがピンク)を選ぶ辺りはさすがだ)準備オッケー。
「お待たせ」
「待ったな。たく、行くぞ」
「…………」
あたしが気合い入れてもこれですよ。女の子が頑張って選んだ服を褒めるとかしなさいっての。しかもユースケはいつもの黒一色に愛の選んだ若草色のコート羽織ってるし……自分からデートに誘っといて別の女が選んだ服着る? 普通。
「それはすみませんね」
別にいいけど、ユースケらしいし。
とにかく戸締まりしてあたしたちも出発……したけど
「それで、出掛けるってどこに?」
「来れば分かる」
目的地を聞いてもお約束で終了。まあ最初からまともな返答なんて期待してないし、それにどこに連れて行ってくれるのかなって楽しみもあるからいいけど。
取りあえず向かう先は春海町方面かな? なんて予想を立てて並んで歩いていると
「恋? それに鷲沢くんも」
「ほんとだ。おーい」
商店街に入ったところでクラスメイトの香奈恵と由里にばったり。
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
今年初顔合わせなので形式に反って新年のご挨拶。
「あけ~」
「よろ~」
対し二人はおざなりなご挨拶。
「明けましておめでとう」
それでもユースケは注意せず会釈。こいつは礼儀にうるさい、でもだからと言って細かく指摘はしない。挨拶をすることが大事って感じだから。
「二人は買い物?」
「お年玉も入ったからちょっとね。それよりも――」
なんて香奈恵が意味深な笑み……ま、分からなくもない。
「そちらさんはデートかね? あらまあお熱いことで」
「ほんにねぇ。羨ましいですわ」
……冷やかしたいのは分かるけど、そのキャラはなに? 由里も付き合う必要ないと思うけど。
「まあね。ユースケにお誘い受けて」
それに今さら冷やかしで慌てるわけないし。日々平穏を再開させてからは減ったけど、ユースケと二人で出掛けるのなんて珍しくもないから。
「あらまあ鷲沢くんが。これはこれは」
「それはそれは」
…………だからそのキャラなに?
「で、どこ行くの?」
「後付けるなんて野暮なことしないから教えてよ」
「さあ? 聞いてないから知らない」
「聞いてないのに付いてってるの?」
「それがどうかした?」
とにかく質問されても正直に返したけど……なぜか二人は不満顔。なんで?
「恋ってさ……普段はめちゃくちゃガード堅いくせいに鷲沢くんには無防備だよね」
は?
「だよねー。このままホテルに連れて行かれても気にしなさそう」
はぁっ?
「やっぱ鷲沢くんならどこでもいいの! ってこと?」
「だよね、だよね」
頭痛い……いくら冷やかしても乗らないからってこれはどうなの? そもそもユースケがそんな場所に誘うはずがないし。
「香奈恵、由里」
「あ、ごめん。怒らないで」
「ちょっとしたおふざけだから」
静観していたユースケに呼ばれて慌てて謝罪する二人だけど――
「なにを謝罪しているのかは知らんが、なぜ俺が恋をホテルなんぞに誘うんだ?」
「「……は?」」
「だから、なぜこの島の住民である俺たちがわざわざホテルに宿泊する必要性があるのかと聞いている。宿無しでもあるまいし」
「「…………」」
とまあ、この天然ぶりだし。どうもユースケは二人の冷やかしに気づいていない。そりゃそっか、こいつは基本ルールを守る。ああ言った場所は未成年の利用は禁止だから思いつきさえしないもん。
「どう考えても無駄金にしかならんだろ。理解に苦しむ」
「「……ゴメンナサイ」」
「なぜ謝る?」
さすがに詳しく説明できない二人は降参と言わんばかりに誠意ある謝罪。
「はいはい。取りあえずあたし達はもう行くから」
これ以上は無意識なセクハラになるし、武士の情けだ。
「またご飯食べに来てね」
「ありがとう恋」
「助かったよ~」
「……なんなんだ」
二人に感謝されつつ、相変わらず気づいてないユースケの腕を掴んであたし達は先を行く……んだけど、どこに?
「で、結局あたし達どこに向かってんの?」
「少なくともホテルじゃねぇよ」
「あたりまえ」
意味分かってないくせに茶化しに使うな。墓穴掘りそうだからツッ込まないけど、さすがにあたしも詳しく説明なんて無理…………?
「どうした」
「いや、なんか違和感っていうか……」
表情で察したユースケが聞いてくるけど上手く答えられない。三が日だから商店街のお店は半分くらい閉まってて雰囲気違うから? ま、春海町のモールでは新年セールとかやってるし人通りはそれなりにあるけど……なんかみんなあたし達のこと避けてない?
「そういや随分と視線を感じるな」
煩わしげにユースケがため息吐くように、たしかに視線を感じる……ていうか、妙にニヤニヤしてるのは――
「……あ」
周囲を観察してあたしは合点がいく。香奈恵と由里から別れる時、ユースケの腕を掴んだあたしの手がそのままで。
つまり腕組んで歩いてるみたいに見えるから、みんなお邪魔でしょうねって避けてくれて、ついでに生温かい目で楽しんでるわけだ。
これはハズイ! 直球の冷やかしよりもかなり応える!
でも今さら放すわけにもいかない! せっかくだからこのままユースケと腕組んでいたいって乙女心よりも深い理由だけど!
「たく、俺らのなにが珍しいんだ」
だって冷やかしにユースケが全く気づいてないこの鈍感ぶり。
そりゃあ二人で出掛けるのなんて珍しくないけどここまで密着したことはないじゃない? なら気づけ、ていうかあたしと腕組んでるのに少しは意識しろ! なんであたしだけ恥ずかしがってんのよ?
だからあたしから放したら負けた気分になってむかつく! こうなったら気づくまで意地でも放してやんないから。
なんて意味不明な勝ち負けに拘り、仕事上知人だらけで絶えることのない冷やかしの視線を受けつつ商店街を抜けると
「着いたぞ」
ようやく目的地に着いたのかユースケが立ち止まった。そしてようやくこの羞恥から解放されたと安堵する……間もなく、あたしは予想外の場所に唖然。
「なにしてんだ? さっさと来い」
「……ここに入るの?」
「ホテルの方がよかったか」
「それはもういいから」
しつこい茶化しに手を振りあたしはもう一度確認する。
ここは撫子生御用達のカラオケボックス。あたしも友達とよく利用するし、ユースケとも何度か来たことはあるので別段珍しくないけど……二人で来たのは初めてだ。
「高校生二人、フリータイムで……あん? おい恋、機種がどうのと聞かれているがどれがいいんだ」
いつも人任せで機種を知らないユースケが受付で困惑しているから、取りあえず無難なのを選択。
二人だけだからか指定された部屋は広くもなく、それでもテーブルを挟んでソファが二つ。
脱いだコートをソファに置き、そのまま座るユースケの対面にあたしも同じくコートを脱いで座った。
「まずは何か飲むか。たしかドリンクバーにグラスはあったな」
なぜかどや顔で立ち上がるユースケと一緒にドリンクバー飲み物を用意。あたしは定番のアップルジュース、ユースケはホットの紅茶を手に部屋に戻った。
「さて」
改めて落ち着き、ユースケがリモコンを渡して――
「歌え」
「いや、なんで?」
あたしもやっと落ち着いてツッ込んだ。
「そうだな……まずは『コスモス』にするか。むろん『ヒトシズク』と『ここから始まる』も忘れるな」
「なにをじゃなくて、なんでカラオケなのって聞いてんだけど」
しかもバラードばっかり。まあユースケは基本賑やかな曲は嫌いで、普段はバラードばっかり好んで聴くタイプだから分かんなくないけど。
ていうか、曲に限らず賑やかな場所も好きじゃないから進んで来ようなんてまず考えない。今までだって誘われて仕方なく。なのにカラオケなんて……水族館や夜の散歩、ショッピングもまあわからくないけど、これはさすがに予想外すぎた。
いったいどんな気まぐれなのかと疑問を通り越してちょっと怖いんですけど。
「のんびりと歌を聴くため以外にないだろう」
「カラオケってのは歌を歌う為の場所……ちょっと待って。まさかあたしにだけ歌わせる気?」
今度は違う意味で怖い。こいつフリータイムで部屋取っといて延々あたしに歌わせる気だ。明日から仕事なのに喉つぶれるわ。
「理解したようで何より。ああ、バラード以外は歌うなよ。のんびり聴けん」
「あたしはジュークボックスか! 一緒に来たならあんたも歌いなさいよ!」
「ここの支払いは俺が持つ」
「それで納得すると思ってんのっ? たく……」
どうやら譲る気はないのであたしはリモコンを操作。もちろん歌う気になったわけじゃなく、二人で楽しめる方法としておにぎりといくつかの軽食を注文した。こういった場所の料理って割高だけど楽しむのにけち臭いことは言ってられないし。
「もうすぐお昼だしお腹空いたでしょ? 安心して、支払いはあたしが持つから」
「……仕方ねぇ」
奢られた側が歌うならこれでお相子。ユースケも観念したように譲歩する。ま、当然でしょ。二人で来たんだから一緒に楽しみたい。
「ただし、交互には歌わんぞ。今日はあくまでお前の歌を聴くのが目的だ」
「仕方ないか……でもさ、なんで今さらあたしの歌を聴きたいの?」
ただ楽しむならこの状況を理解する必要がある。どうせ歌うなら気持ちよく歌いたい。
なによりあたしの歌なんて日常茶飯事、仕事中でもわりと歌ってるなら珍しくもないでしょうに。
「なんでなんでとうぜぇ……」
なかなか歌わないあたしにユースケは苛立ちを吐き捨てるように息を吐いた。
「一度こうして共に来ようと思っていた。複数で来ればバラード縛りもできんし、合間に別の歌声を挟む故、ゆっくりと聴けんだろ」
「…………」
「ようはお前の歌が聴きたい、他に理由があるか」
……単純すぎて呆れる。
でもそっか。あたしが歌を練習したのも小学生の頃にユースケが褒めてくれたからで、普段はカラオケなんて行きたがらないのに、あたしが誘うと来てくれてたっけ。ただ二人で来たことも、あたしがユースケだけの為に聴いて欲しくて歌ったことはない。
「あんたって、あたしの歌声好きよね」
「今さらなに言ってんだ」
今さらだけどちゃんと聞いておきたかったの。それで気持ちよく歌えるから。
じゃあ今日はあたしの歌声を独占させたげましょう。
代わりに、今日はユースケの歌声を独占だ……なんてね。
「あたし『うつろう日々』と『祈り』は絶対聴きたいからよろしく」
「いいだろう。お前も先ほどリクエストした歌は外すなよ」
「いいでしょう。他にリクエストあるなら受け付けるけど?」
「森のくまさん」
「まさかの童謡っ? あれってバラードなのっ?」
「童謡をお前が本気で歌うとどのように聴けるのか興味がある」
「多分……ただの童謡だと思うけど」
「ああ、歌に感動するという心にも興味がある。せっかくだ、ぜひ体験させてもらおうか」
「ハードル上げてくれるわ……絶対に泣かせてやる」
「やれるものならな」
「あ、じゃあさ。あんたも『ひなまつり』歌って。もちろん本気で」
「……仕方ねぇ」
なんて、二人だけの音楽会が始まった。
それからあたしたちは歌って、聴きたい曲をリクエストしたり、合間に食事をしたりと時間も忘れて楽しんだ。お店を出たのが四時過ぎで五時間はいたことになるかな?
目的を達成したユースケは満足そうでなにより……だけど、あたしはちょっと喉が痛い。なんせほとんどあたしが歌ったし。ユースケは四曲に一曲くらいだったかな?
なにより不満が残った。冗談交じりに約束した歌に感動って心をユースケに体験させることができなくて……逆にあたしが体験する羽目に。
最後にユースケが選曲した『恋の花』。最初に聴いた時、なんとなくあたしのイメージに合ってたから歌ったらしい。
女性の恋する気持ちを花に見立てたラブソング……まあ単にタイトルから想像しただけかも知れないけどユースケがあたしの為に選んで、歌ってくれたって考えると我慢できなくて。
あ~もう悔しい! 次は絶対に泣かしてやるんだから!
ちなみに――
その機会はすぐに訪れた。帰宅した時に愛から今日は何してましたかって聞かれて(もちろんあたしにじゃなくてユースケに)ユースケが正直に言うもんだから。挙げ句、あたしたちが出掛けてたのを結構な人に見られてたんでソフィさんの耳にも入って。
後は言うまでもないかな。
もちろん結果もね。
オモイデレシピで普通の日常は珍しい……。
さて、これにて季節は一巡りしましたがオマケはもう一話あります。
誰がメインを張るのかご期待ください!
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!
また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!




