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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ17 ツイオクタマゴ
313/365

秋の章 真夜中のお茶会

アクセスありがとうございます!



 一月一日――



 大晦日からの二年参り、初日の出を拝んでから仮眠を取ったいつものメンバーは正午に改めて新年のご挨拶。

 その後はおせちやお雑煮を囲みつつ、日々平穏毎年恒例の書き初めやお正月の定番の双六を楽しんだ。今どきの若者がしないであろう定番だが――


「……右隣の人を褒める? 誰よ、こんなお題書いたの」

「腕立て二十回……地味にしんどいな」

「独楽を三〇秒以上回せなければ一回休み……ですか?」

「次に三を出した者におせちをあ~ん……優介さま、ぜひ三をお願いします」

「初夢の話をする……覚えてない場合はどうすればいいのかしら」

「なんでもいいからものまねを披露……コケコッコー」


「「「「「…………」」」」」


「……なんだ」


 メンバー内で事前に書いたお題をクリアするお手製一〇八マス双六(孝太発案)。最下位になれば同じくメンバーが事前に書いている罰ゲームの一つを引いて実行しなければならないと、負けず嫌いな面々はガチで挑んでいた。


 二時間後――


「……はあ」


 洗面所で顔を洗い終えたソフィはタオルで拭きつつ重いため息。

 双六は面白かったが負けてしまえばそれも半減。しかも引いた罰ゲームは『墨で顔に落書きされる(愛の物だった)』、みんなに好き勝手顔に落書きされてそれを写真に撮られるという辱めを受ければ気が滅入るのも無理はない。

 新年早々酷い目にあったと続くカルタ対決でリベンジを誓う。頭脳勝負は得意分野、まず負けはないと気合いを入れ――


『――なんだ。その話か』


 居間へ向かおうとしたところでどこからともなく聞こえる話声に足が止まる。


「今のは……」


 声の主に吸い寄せられるまま歩を進めれば玄関口で携帯電話に耳を当てる優介の姿が。恐らく自分が顔を洗いに行った後、掛かってきたのか掛けたのかは分からないが


「案ずるな。ヘマはしねぇよ」


(……なんの話ですか)


 相手もさることながらその内容にソフィは首を傾げてしまう。言葉そのままに捉えると微妙にきな臭い。まあ優介のこと、悪事に手を染めることはないだろう……が、ここ最近は奇行が目立つ。自分に内緒で愛をショッピングに誘ったり、カナンと水族館でデートしたりと――


(…………)


 思い出すだけでも苛々する。別に悪くはないが、そもそも自分からデートに誘うなど優介のキャラじゃないし、後遺症の解決以降は二人きりで過ごす時間が減っている(と言うか全くない)のにどうして愛やカナンなのか。


「無理を言って済まなかった――では」


 などと思考を巡らせている内に優介は通話を終えて振り返り、ソフィと目が合う。


「……なにしてんだ?」

「特に何も。それよりどなたとお話ししていたんですか?」

「白河の爺さんだが……妙に機嫌悪いな」

「顔を真っ黒にされて気分いい人もいないでしょう」

「違いない」


 嫉妬してましたとも言えず、もっともな理由で交わすソフィに優介は苦笑。

 まあ元々なにを考えているのかよく分からず、それでも悪気があって何かをする人でもないと理解しているのでソフィも気持ちを落ち着かせた。


 のだが――


「ソフィ」

「なんですか」

「今夜暇なら俺に付き合わんか」


「……へ?」


 不意の誘いに落ち着くどころか心臓が停止し掛けてしまう。


「ま、眠いなら無理にとは言わんが」

「構いません……けど」

「では深夜〇時、そちらの家へ迎えに行く」


 それでも何とか頷けば待ち合わせ時間と場所を告げられ


「このことは誰にも言うんじゃねぇぞ」


 意味深な念押しに今度は心臓が早鐘を打つ。


「さて、そろそろ戻るか」

「……はい」


 うるさいまでの鼓動が聞こえるわけもなく、平然と居間へと戻る優介にソフィも続いた。


 その後――自信のあったカルタ対決でソフィが惨敗したのは言うまでもない。



 ◇



 ――別に男女のあれこれなんて期待していません。


 そもそも私と優介さんはお付き合いしているわけでもない。夜のデートに誘われたからといっても健全なデートです。そう言えば去年は恋さんが深夜に呼び出されて日の出を見に行ったらしいので、恐らく同じ理由でしょう。

 なのであれこれなんて私は期待していません。お風呂でいつも以上に念入りに体を洗ったのは新年だから清潔にしようと思っただけです。

 ただ……日の出を見るにしては待ち合わせ時間が随分と早い。もしかしてツーリングでもするのでしょうか? いいですね……新年の夜にツーリングなんてロマンチックじゃないですか。

 静かな町並みをバイクで走って、どこかで夜景を眺めて……二人で…………下着も新しいのを下ろしますか。新年ですし。

 とにかく、昨日今日と寝不足だったカナンは夜のティータイムもせずに就寝してしまったので内密に出かけられそうです。そのお陰で私は手持ち無沙汰に時間を待つことに。

 せっかくなので紅茶でも用意しましょう。日の出を見るにしてもツーリングにしても夜中に出歩くなら温かい飲み物はあった方が良い。魔法瓶に入れると味は落ちますが、そこは仕方ありません。

 優介さんの大好きなアップルティーを用意して、身だしなみも整え、バイクに乗るならパンツルックでしょうか。フランスに比べて日本の冬はそれほど寒くないのでそんなに重ね着しなくてもいいでしょう。

 そして待ち合わせ時間の十分前、魔法瓶を肩がけバッグに入れた私はカナンを起こさないよう静かに家の前へ。

 月と星の輝きでそれなりに視界は保てるけど、時間も時間なだけに静かな夜の世界。

 これからの時間を楽しみにしていた私はふと考える。

 なぜ突然夜のデートに誘ってきたのでしょう? もちろん文句はありませんし、むしろどんとこいですが。愛さんの事といい、カナンとの事といい、やはりここ最近の行動は読めません。

 ただ二人とは違って私にだけは秘密にしているのも気になる。もちろん蜜月な関係のようで大歓迎だけどいったい――


「――待たせたな」

「……っ」


 なんて考えていると声をかけられ心臓が止まりかけた。

 いつの間にか私の前に優介さんが。いつものように黒一色の服装なので全く気づかなかった。

 いや、それよりも……


「優介さん……歩いて来たんですか?」

「そうだが?」


 服装以前にバイクで来ると思っていただけに、優介さんが来ていることに気づかなかったのだ。


「あの……バイクでないならどこへ行くんですか? もしかして車で――」

「必要ない」


 もし私の車を当てにしているなら鍵を取りに戻らなければならなかったけど、違うらしい。

 ではどこへ? ツーリングでもドライブでもないなら、こんな時間に歩きで行ける場所なんてコンビニくらいしかない。


「では行くか」

「いえ、どこへ行くんですか?」


 私の疑問も知らず歩き始める優介さんの背に問いかける。まさかコンビニへ行く為に待ち合わせなどしないだろうし、ならば夜の散歩だろうか? それはそれでロマンチックで――


「ちょっとした火遊びをしにな」

「…………へ?」


 思いを馳せる私に向けて優介さんは苦笑する。


「まあ来ればわかる」


 言われるまま後に続く私は必死に思考を巡らせた。

 私の聞き間違えでなければ優介さんは火遊びをすると言った。

 火遊び――火をオモチャにして遊ぶ危ない遊びをこれから……するわけもない。いくら最近奇行の多い優介さんでも、悪事を楽しむようなことは絶対にない。

 では……比喩として口にしたのなら。

 火遊び――その場限りの危ない情事のこと。つまり夫婦ではない者たちの情愛に関する事柄で、お付き合いをしていない私たちには充分当てはまる。

 ならば秘密にしておくのも納得…………いえいえいえいえ! 優介さんに限ってそれこそないでしょう! この人ある意味女性以上に身持ちは堅いんですから!

 ただ…………………………もしも、本気でそういうことがしたくて、私を誘ったのなら……………………ありえませんってば! いえ、求められれば受け入れますけどでも! 優介さんに限ってあり得ませんから!

 わからない! 今回ばかりは本当に、まったくと言っていいほど優介さんの思考がわからない! 私はこれからどこに連れて行かれるのか? なにをするのかされるのか?

 よくよく考えてみればどうして私は殿方の誘いを平然と受け入れているのか? 誰にも知られず二人きりで夜の外出なんて普通に考えれば警戒して絶対に乗らないのに。

 いえいえ、普通に考えれば優介さんなんだから乗るでしょう? この人は絶対に安全ですし…………別になにかあっても構いませんし。

 違います違います! 今はこの状況、この先を考えて……どうするのでしょう?

 ああもう! 何なんですか一体全体!


「着いたぞ」

「どこにですか!」

「……静かにしろ」


 つい声を荒げてしまい優介さんにジロリと睨まれてしまった――けど


「ここは……?」

「見りゃわかるだろ。学校だ」


 目的地に疑問を持つも優介さんはそのままの答え。そう、私たちは撫子学園高等部の校門前にいた。


「見ればわかります。私はなぜこんな時間にここへ来たのかを聞いているんです」


 そもそも火遊びはどうしたんですか火遊びは。まさかこんな場所で始めるんですか? さすがに拒否しますよ? 私だってどこでも許すつもりは――


「忍び込むためだ」


 ……なんですって?


「正門は施錠されているが裏のフェンスに穴が空いていてな。まずはそこから入る」


 言われるまま着いていくと、たしかに体育館側のフェンスに人がぎりぎり通れそうな穴が空いていた。

 状況を飲み込みきれない私を置いて優介さんが敷地内に。


「…………」


 仕方ないので私も穴をくぐり、優介さんに手を借りて立ち上がる。

 取りあえず忍び込むのに成功……しましたが、これのなにが楽しいのか。まさか更に校舎内へ忍び込むわけにもいきません。私の記憶では建物は完全に施錠されているし宿直の方も……お正月にいるのでしょうか?

 どちらにせよこれ以上侵入するわけにもいかないし、かと言って窓ガラスを割って強引に入るわけにもいかない。


「さて、火遊びするか」


 なんて思考を巡らせていると優介さんが怪しく微笑む。


 …………まさかここで? 道路よりはマシですが……ではなく、え? 本当に?


「優介さ――むぐっ」

「……静かにしろ」


 冗談ですよねと言おうとする私の口を優介さんが強引に塞ぐ。

 え? なんですかこの状況。


「誰かに気づかれたらどうする」


 たしかにそうですけども! それ以前に――


「とにかく騒ぐな。いいな?」


 ……はい。


 真剣な眼差しで見つめられ私は頷くしか出来ない。

 ですが一足飛び過ぎではないでしょうか? 私だって……このさい正直期待は少しだけ、本当に少しだけしていましたが、こんな場所で……ですか?

 とにかくここからどうすれば? さすがの私もこういった教育は受けてないので作法とか全くなんですけど優介さんがリードされるんですか? いえいえいえ! そもそも初めてが屋外で学校とかハードル高すぎませんっ? ああでも――!


 ガチャリ


 葛藤する私の耳に何かが外れる音。

 我に返れば目の前にいたはずの優介さんが校舎裏の非常口前に居て。


 ガチャリ、ガチャリ


 なにをするつもりなのかと思うより先に、優介さんは扉の上下にある施錠を解除してしまい


「さっさとこい」


 難なく扉を開けて手招きするので私も校舎内へ。

 扉を閉めると背後から再びガチャリと物音三回。どうやら内側から鍵を閉めたらしい。


「靴は脱げよ」


 言われるまま私は靴を脱ぐ。途端にひんやりとした冷たさが靴下越しに感じる。


「行くか」


 薄暗いけど何とか視界を保てる中、平然と歩き出す優介さんに遅れて私も――


「どういうことですか!」


 着いていくはずもなく問い詰めた。


「騒ぐなと何度言えば分かる。それともこの状況を理解できんのか」


 出来るから意味が分からないんですがっ? ですがこれ以上声を荒げれば大問題とも理解できるので私は声のトーンを絞り改めて――


「どういうことですか? というよりもどうやって扉を開けたんですか?」

「鍵を使った」


 問い詰める私に優介さんはコートのポケットから鍵を取り出した。なるほど、ピッキング能力を持っているのかと驚きましたが納得――


「どうして鍵を持ってるんですか?」


 するわけにもいかない。なぜ優介さんが校舎の鍵を持ってるのかわからない。


「教室に忘れ物をしてな。取りに行く為にと爺さんに借り受けた」

「……は?」

「だが生徒一人で夜の校舎に入らせるわけにもいかん。故に同伴すると言っていたが正月なんで爺さんは酔いつぶれてしまい、仕方なく一人で取りに行くことになった」

「嘘ですよね?」

「まあな」


 確認すると優介さんは即答。まあこんな穴だらけな理由を誰も信じるはずが…………愛さんは信じそうですけど。優介さんの言葉は絶対な人ですし。


「今のは爺さんと話し合った体裁だ。実際は俺が夜の校舎を歩きたいと頼んで鍵を借りた。ま、借りたのは非常口の鍵のみだがな」


 それでも十郎太さまの優介さんに対する信頼の強さが窺える。一生徒に校舎の鍵を渡す学園長など世界中探してもいないはず。


「火遊びもたいがいにしておけと昼間に念を押されたが……どうした?」

「…………なんでもありません」


 急にしゃがみ込む私に優介さんが疑問を持つが言えるはずもない。

 学園長の許可を得たとは言え、夜中に校舎内へ忍び込むのはたしかに火遊び――危険な遊び。なのに私は……なんて勘違いを……愛さんに卑猥だと罵られても今後は否定できません。


「ならいいが、くれぐれも内密にな。理由は言わなくとも分かるだろ」

「……はい」


 今ほど優介さんが細かいことを気にしない性格で感謝したことはない。

 とにかく、これで色々と疑問も払拭できました。いくら学園長の許可を得たとは言え、いくら仲間内とはいえ、こんな火遊びが公になれば優介さんだけでなく十郎太さまも不祥事として罰せられてしまう。


 ただ――まだ疑問は残る。


「日中とは空気が違うな」

「……ですね」


 用心のためか窓側を避けて廊下を歩く優介さんが呟くように、私の知る校舎内とはまるで違う。

 深夜という薄暗さよりも、たくさんの生徒たちが行き交う賑やかな声、楽しげな空気を全く感じさせない暗さとでも言うべきか。

 静かで、肌寒くて、暗くて。怖さというより寂しさから心細くなり、私は自然と優介さんに寄り添っていた。


「上へ行くか」


 一階を一通り歩き、二階へ。階段を上がる際、暗がりで躓かないようにと気遣ってくれたのか私の手を握ってくれる。

 感じる温もりは安心を与えてくれて、二階に辿り着いても私は手を離さなかった。

 優介さんは最初から放す気がなかったのか力を緩めることなく二階の探索を始める。もしかして私と同じで心細いのか……なんて思うまでもなく。


「やはり見るもの全てが新鮮に映る」


 静かにドアを開け入った音楽室を興味深く見回すその表情はどこか楽しそうで。恐怖や寂しさなど微塵も感じさせない。


「まるで別世界だ」


 続く三階、私たちが普段授業を受ける三年一組の教室でも満足そうに笑っていた。

 対し私は心細さがより強くなる。窓から射し込む月明かりで廊下に比べて視界は良好、しかし慣れ親しんだ教室だからこそ友人らの笑顔や温もりを感じさせない殺風景な世界に見えてしまう。


「失礼する」


 なのに優介さんは私の手を離し、中央最後尾の席に座ってしまう。そこは優介さんの席じゃない(自席は窓際最後尾なので外から見られないよう自粛したのだろう)から一声かける辺りは相変わらず律儀だ。


「……失礼します」


 私の席は廊下側の中央、でも心細さから同じようにお借りして優介さんの隣りに座った。


「そういや、お前と隣りあったのは一度もないな」


 黒板を見つめたまま苦笑する優介さんに私は頷く。転校して一年半、同じクラスにはなれているのに私と優介さんは一度も隣の席になったことがない。というより席替えのクジでなぜか彼は高確率で窓際最後尾を引く為、隣り合う確率が低いのだ。そしてその低確率を引くのはなぜか孝太さんで、私は恋さんと隣り合うことが多い。


「こうして隣り合っていれば教科書の見せ合いっこが出来ましたね」

「それは忘れ物をした場合の話だ」

「優介さんは忘れ物したことがないんですか?」

「むろんだ。寝る前に確認するのは常識だろ。お前は」

「常識なのでありません」


 でも、優介さんが隣りだったらしてたかもしれません。週一くらいは。

 なんていけない考えを抱くと同時に疑問がどんどん膨らむ。

 優介さんは授業中に居眠りもしないし遅刻もない、宿題は必ず提出するし廊下も走らないと規律を乱さない模範生だ。普段は誰に対しても尊大な態度だが、生徒として所属する以上教師に対する礼節は心がけている。一部例外はありますが。

 しかし今の状況はどうだろう? いくら学園長の許可を得ても、深夜の校舎内を徘徊するのは規律を乱した行為。しかも自ら望んでこの無理を通した。

 優介さんは規律を乱さない、しかし例外はある。それは自分の中で必要のない規律か、誰かを助ける場合だ。

 先ほど自分で火遊びと称したように、この行為が悪いことと自覚している。そして優介さんが深夜の校舎内を徘徊することで誰かの助けになるはずもない。

 つまり全く優介さんらしからぬ行為をなぜ望んだのか疑問はある。


「どうして夜の校舎を歩きたいなんて思ったんですか?」

「なんとなくだ」


 質問しても優介さんからは答えにもならない答え。もともとなにを考えているのか分からないし、最近は奇行も目立つのでますます理解不能。なによりこの人、意外と考えなしな行動も目立つので本当になんとなくなのかもしれない。

 なのでこれ以上の追求は無意味と私はもう一つの疑問を口にした。


「では……どうして私を誘ってくれたんですか?」


 内密にする理由は理解できるも、恋さんや愛さん、カナンや孝太さんにまで内密にするこの奇行をなぜ私にだけ打ち明け、誘ってくれたのか。


「なんとなくだ」


 …………この人、答える気が全くないですね。


 少しは期待していたんですけど……私と一緒に居たいから、なんて甘い台詞を。

 まあ無理ですね。優介さんですし、恐らく私を誘ったのは十郎太さまとのやり取りを聞かれて仕方なく巻き込んだとかそんな理由でしょう。


「なんとなく、夜の校舎を歩きたくなった」

「それはもう聞きました」


 一人納得すると優介さんが繰り返すので私はため息交じりに返す。


「しかし一人でというのもつまらんと思い立ってな。火遊びってのは共犯者がいた方が盛り上がるだろ」


 それに巻き込まれた私の気持ちを少しは察してくれませんかね。


「故に誘った。どうせなら、お前がいいと」

「…………」

「なんとなくな。理由なんざそれでいいだろ」

「なんとなくが……好きですね」

「まあな」


 私の皮肉に優介さんは視線を向け苦笑する。

 周囲が薄暗くてよかった。間違いなく私の顔は赤く染まっているから。

 落胆させておきながらこの口説き文句。本当に優介さんはずるい。狙ってるとしか思えないけど、優介さんはこのような駆け引きをする人じゃない。


「ま、恋は恐がりで向いてねぇし愛は昨日今日と寝不足だ。体調を崩せば親父さんがうるせぇとの理由もあるがな」

「…………カナンや孝太さんは」

「騒がしいのは嫌いでな」

「……そうですか」


 ほらね? この人は天然なんです。落胆させて持ち上げて、最後にはわざわざオチまで付けてくれます。

 つまり消去法で私を誘ってくれたと、ええそうですか。

 なんて、以前の私なら怒っていたんでしょうね。残念でした、私もこの一年、あなたのパートナーとして時間を共有してるんですよ?

 だから構いません。だって――


「ようはなんとなく、一番最初に私を誘おうと思ったんですか」

「だからそう言ってるだろ」


 誰かを誘おうと思い直し、最初に私を思い浮かべた後の消去法なら関係ありませんし。

 なぜそう思えたかですか? それこそなんとなくです。

 なんとなく、内密な行為にはパートナーの私を最初に思い浮かべてくれるかなって。


「本当に……あなたは素直じゃありませんね」

「なんの話だ」

「さて、なんの話で――ひゃいっ」


 ちょっぴり意地悪しようとしたところでスマホが鳴りだし驚いてしまう。


「……音くらい切っておけ。あと騒ぐな」

「すみません……」


 忍び込んでいるのにサイレントにしておかないミスと無防備な悲鳴をあげたことを謝罪して私はスマホに出た。


「もしも――」

『ソフィ!』


 途端に聞こえるカナンの怒鳴り声。


『アナタこんな時間にどこ出歩いてるのよ!』

「……すみません」


 どうやらお手洗いか何かで目を覚まし、私が居ないのに気づき慌てて連絡を取ってくれたらしいので素直に謝罪。


『謝らなくていいから早く帰ってきなさい! そもそもどこにいるのっ?』


 そう言われましても……学校に忍び込んでいるなんて答えるわけにもいかない。

 取りあえずカナンを安心させるのが最優先ですか。


「ちょっと夜の散歩を」

『散歩っ? いくらこの島が――』

「優介さんと一緒に」

『……へ? ユウスケと?』

「はい。誘ってくださったので」

『…………』

「なのでご安心を。それではおやすみなさい」


 無言になるカナンを理解してくれたと判断して通話終了。優介さんが一緒に居ると分かれば少なくとも心配しないでしょう。


「帰るか」


 それでもカナンが起きたなら、あまり遅くなるのも忍びないと優介さんは立ち上がる。

 でもせっかくなので――


「その前にお茶していきませんか?」

「あん?」

「夜中に出歩くなら温かい飲み物が必要かなと」


 私がバッグから魔法瓶を取り出すと優介さんは苦笑して座り直す。


「気が利くな」

「当然です」


 カップにアップルティーを注ぎ、二人で乾杯。


「深夜の教室でお茶をするなんて不思議です」

「たしかに。本来はあり得ん時間だ」

「ええ……だから、二人だけの秘密ですね」

「……だな」

「はい」


 私と優介さんだけの……秘密のお茶会です。



 一杯分の時間を満喫した後、私たちは校舎を後に。もちろん施錠も抜かりなく。

 そのまま優介さんに送ってもらい帰宅した私を待ち受けていたのはカナンのお説教。

 エッチなことはしてないでしょうね、と――言える立場ではないですが、どうしてこの子もそっちに思考が回るのか。

 それと出掛けるなら書き置きくらいはしなさいと叱られました。

 でも、悔いはありません。

 私が撫子生となって一年半、みなさんに比べて思い出の少ない学園生活ですが、卒業を前に素敵な思い出が出来ました。



 ちなみに――

 優介さんも深夜の外出を恋さんと愛さんに気づかれたらしく。

 どこへ行っていたと問い詰められて、バカ正直にも私と散歩していたと答えたようで。

 翌日、面倒な尋問を受けましたが、これはこれでいい思い出です。




学園モノらしい内容が書けて満足です。

明日は冬、お楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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