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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ17 ツイオクタマゴ
311/365

春の章 見立てあいっこ

オマケ開始です。

アクセスありがとうございます!



 伝説と可能性が奇跡の邂逅を果たして数日――



 期末テストも終わり、短縮授業となったある水曜。


「――ユウスケがおかしい?」


 HR前の廊下でカナンは首を傾げていた。

 今朝から愛がどこか上の空で何となく声をかければ廊下に連れ出されたのだが


「おかしいのはあなたの耳と頭です。優介さまのご様子がおかしいと私は言いました」


 手痛い言い返しをする愛だが、やはり表情には曇りが。

 なんでも愛が言うには最近の優介は一人でいる傾向が目立ち、仕事後もどこかへ行くようになった。特に昨夜は雨にも関わらず出掛けてしまい、手にしていた傘を使わなかったのか、帰ってきた時はずぶ濡れで。

 体調管理に気を配る優介の奇妙な行動にさすがの愛も心配していたらしい。


「……確かに変ね」


 理由を聞きカナンも頷く。普段の優介もわけがわからないが、ここまで意味不明な行動はさすがになかった。


「もしや遺言の件で何か思うことがあると私は考えていますが……問いかけてみても」

「さあな、でしょ」


 数日前、優介は師、上條喜三郎より最後の教えを受け取っている。それがどのような教えなのか実はカナンも知らない。約束はしていたが時期が来れば話すと言われているので話題に触れようとしないのだ。

 同時になぜ廊下に移動したのかは納得。遺言を知らないリナの前で話せないからだ。

 師の教えは優介が弟子として受け取り、それを今度は師として弟子のリナに受け継ぐ故に敢えて知らないままにしていた。

 だから知る者同士、秘密裏で相談したのだろう――しかし


「残念だけどワタシもわからないわ」


 愛としては料理人の優介に最も近い自分の意見を参考にしようと珍しく素直に相談してくれようとしたのだろうが、どのような教えなのかを知らなければさすがのカナンも予想が立てられない。

 確かに喜三郎との邂逅後、優介に変化が見える。ただその変化なら愛でも気づいているだろう。


「力になれなくてゴメンナサイ」

「……誰があなたの力など借りますか」


 故に謝罪するも、なぜか愛から冷たい視線。


「あなたが優介さまに近い存在だとは悔しいが認めています。ですが、あなたのようなお花畑脳で優介さまの深いお考えを悟れるとは、とんだ自惚れですね」

「ヒドイ言われようね……なら、どうしてワタシに?」

「………………もし、料理に関する悩みがあるなら、優介さまはあなたを頼るでしょう。なので、その時はお願いしますと、妻として言っておこうと」


 その理由にカナンは唖然。あの愛が優介に関する問題で自分を素直に頼るとは意外で。

 ライバルとして同じ立場にいるので力になれないとは自覚していても、それとこれとは話が別が愛のスタイルなのだ。

 もしかすると喜三郎、並びにイチ子との邂逅で弟子の優介だけでなく、愛も変わったのかもしれない。それほどの教えなら、是非にとも知りたい。

 知りたいが、やはり優介自身の口からだ。なにより気むずかしい友人の良い変化に応えるのがいま必要なこと。


「……妻じゃないでしょ」


 お約束のツッコミで了承を伝えた。


 取りあえず後でさりげなく優介の話を聞いてみようとカナンは思っていたのだが――


「――失礼する」


 HRが終わると同時に担任と入れ替わるようにその優介が現れカナンは呆気に取られてしまう。いや、カナンだけでなくクラスメイトもだ。

 二年一組には愛やカナン、リナと言った縁ある者が揃って居るも、これまで優介が足を運んだことは一度も無い。珍しい訪問に誰もが驚くのは当然で。


「優介さま……あの、どうかなさいましたか?」


 対し愛はすぐさま我に返り、恭しくお出迎え。


「バカ弟子に用があってな」

「え? リナに?」


 名指しされ慌てて立ち上がるリナを制し、優介から歩み寄る。

 途端に女子生徒の何人かが顔を赤らめ隣り同士でヒソヒソ、男子生徒の何人かは憧れの視線を向けていた。

 男女問わずさすがの人気ぶりも優介は気づくことなくリナの元へ。


「師匠が来るなんて珍しいね」

「すれ違いになっても面倒なんでな。どうでもいいがバカ弟子、今日の修業だが――」

「もちろん頑張るよ!」

「……最後まで話を聞け」


 話の腰を折り気合いを入れるリナに優介はため息一つ。


「やる気があるのは結構だが、今日の修業はなしだ」

「……へ?」

「それとこれから二週間、バイトも出なくていい」

「……へ? へ?」

「……リナ、あなたはなにをしたのですか?」


 突然の勧告に気合いをへし折られ目をぱちくりさせるリナに愛はジト目。いったいどのようなヘマをして修業の中止を言い渡されたのかと思うも、リナは全く心当たりが無い。


「師匠? リナ……なにもしてない、よね?」

「してねぇよ」

「じゃあ……どうして?」

「店もさほど忙しくねぇからな。学生の内は年末年始くらい家族と過ごせ」


 その理由にリナも安堵。

 本来年末年始は忙しい時期だが日々平穏は一二月二八日~一月三日まで休業する。これは店主や従業員がまだ学生故の処置で、そもそも優介は普段からリナに家族と過ごす時間を大切にするようにと心がけている。

 加えてクリスマスイヴに開催する撫子学園のクリスマスパーティーの料理の仕事も控えさせている。恋人の琢磨と学生で過ごせる最後のクリスマスとやはり気を遣っていた。

 なにより二ヶ月前から修業時間が増えている、これも師匠なりの優しさとリナも納得。


「代わりに冬休みの課題を出してやる」


 しかけたが、机に置かれたノートに嫌な予感。

 恐る恐る開いてみれば料理関連の内容がびっしり。これを手書きで大変だろうと感心するより、この内容を全て熟すのはもっと大変かもしれない。


「二週間後にテストだ。サボるなよ」


 自信はないが師匠の期待に応えるのは弟子の勤めとリナは頬を叩き気合いを入れ直す。


「早速今日から頑張ります!」

「それでいい」

「でも師匠はいっつも急だよね。お休みにするなら先に言ってくれればいいのに」

「仕方ねぇだろ。お前に冬休みやると決めたのは一昨日だ。つーかギリギリまで判断悩ませたどこぞのバカ弟子の成果に問題あると思わんか?」

「……思います」


 つまり休む程の期間を与えてもいいかどうかと問題視させた自分の出来の悪さが原因とリナは謝罪。


「ところでユウスケ、ソフィとレンはどうしたの?」


 師弟の話が終わったところで静観していたカナンが遅ればせながらの疑問。同じクラスで帰りは常に一緒の二人が居ないのが珍しいのだが


「あいつらは買い物に行くらしくてな。教室で別れたが、それがどうした」

「そう……あの子たちも運がないわね」


 どうやら水曜の放課後は優介がリナに直接料理指導するので、空いていないと予定を立てたようだ。それが急遽の冬休み、つまりこの後優介は空いている。

 知っていればどこかに行こうと誘い合いとなっていただろうとカナンは苦笑。

 故にこのチャンスを彼女が見逃すハズもない。

 視線を向ければ自分と同じ考えに至ったのか愛がソワソワと落ち着きがなく、その表情からもなにを考えているのか手に取るように分かってしまう。


 ライバルが居ない間に優介と放課後デートがしたい。しかし迷惑では無いだろうか? 彼も忙しい身、加えて最近は一人になりたい傾向がある。ここで誘って断られては立ち直れない、いやしかし――


 本当に分かりやすかった。


 もちろんカナンは無粋な真似をするつもりはないが、このまま勇気を出さないのなら自分が誘うつもりだ。ちょうど二人で話もあるしとイタズラ心を抱いていた。


 のだが――


「さて、愛」

「ひゃいっ!」


 不意に声をかけられ葛藤していた愛の口から奇妙な声。


「……どうした」

「いえ何でもありません! こほん……なんでしょう優介さま」


 慌てて姿勢を正す愛に訝しみつつも優介は用件を告げた。


「暇なら春海町にでも行くか」

「は……い?」


 条件反射で頷きかけるも、思いもよらぬ誘いに硬直してしまった。

 それは愛だけでなく共にいたカナンやリナ、聞き耳を立てていたクラスメイトも同じで。


「なんだ、忙しいのか」

「とっても暇です!」


 奇妙な空気の中、愛の絶叫にも似た声が響き渡った。



 ◇



 ――もちろん私は勘違いなどしていません。


 今日から頑張ると気合いを入れたリナならともかく、特に予定のないカナン・カートレットもその場にいた。ならば当然のように彼女も誘うはず。少し邪魔でとても残念だが二人きりでのお出かけではありません。

 それでも贅沢は言えません。二人でなくとも優介さまと放課後を過ごせるならとても素敵な時間です。なにより初めて優介さまから誘ってくれたお出かけ、この事実だけでも充分と勘違いすることなく覚悟もしていました。


「…………」


 覚悟していたのに、今現在、春海町へ向かうバスには優介さまと私しかいない。もちろん同じように放課後を春海町で楽しもうとする撫子生は大勢乗っていますがリナも、カナン・カートレットも居ない。

 私が暇をアピールした後、なぜか優介さまはカナン・カートレットを誘わず『また明日な』と声をかけてしまった。その言葉から察するにどうやら優介さまは最初からカナン・カートレットを誘う気がなかったと思われる。

 ちなみに私と同じ予想を立てていたのか、カナン・カートレットは誘われなかった事実に驚き『ええ……』と間抜けな挨拶を返していたがどうでもいい。

 もっと言えば優介さまから早く来いと指示されるまま遅れて廊下に出た後、教室内が妙に騒がしくなったがやはりどうでもいい。

 とにかく今の私はこの状況を把握しておく必要がある。

 四季美島へ来て、撫子学園に通いもうすぐ三年。この三年間で初めて優介さまから遊びに行こうと誘われた。いや、遊ぶではなく春海町に行くだ。どうやら今の私は随分と浮かれているらしい。ここを間違ってはいけない、遊びに行くと春海町に行くでは意味合いは天と地ほど違う。

 例えば遊びに行くでは、私的理由でショッピングをしたりカラオケに行ったり、映画や食事などを楽しむこと。

 対し春海町に行くでは、ホームセンターで洗剤などの日用品や優介さまのご趣味のガーデニングに関する物、他には商店街で食材や調味料を調達する家庭理由の買い出しで必要だから行く。または優介さまが春海町の風景を見たくなり、暇をもてあましているであろう寂しい私に気を遣ってくださり声をかけてくれた――何と優しい御方でしょう――可能性もある。

 なぜ突然春海町の風景を見たくなったのかは分かりませんが優介さまのこと、きっと私ごときでは考えもつかない深い理由があるはず。

 なるほど……どうやら後者の可能性が高い。なぜなら優介さまは春海町へ行くと仰ったのだ。もし、もしも、本当にもしも私と私的理由でショッピングをしたりカラオケに行ったり、映画や食事などを楽しむつもりであるなら遊びに行くと仰るはずだ。


 しかし――現在買い出しをする必要があるのだろうか?


 私は日頃から家庭を預かる妻として日用品の備蓄は把握している。買い足さなければならない物はないと断言できます。私は出来る妻なので。

 ではガーデニング……いえ、出来る妻の私はその辺りも抜かりない。肥料などの備蓄もあるし十二月で苗植えの時期でもないなら……いえいえ、私としたことが私程度の常識で優介さまの行動を否定するなど何とおこがましい。恐らく何かしら深い理由があり、優介さまは苗植えをするつもりだ。ならばどのようなお花を植えるのか興味がある。


「――そうなんっすか。じゃあ今度試してみます」

「そうしろ」


 状況把握を終えたところで優介さまの方もお話が終わったらしい。

 不覚にも私が出遅れたせいで優介さまは座席に座れず、私と共に立っている状況。そこで私の逆隣りに居合わせた後輩に声をかけられお話をしていた。名は知らないがお店に来て下さった際、ご友人に戸浪と呼ばれていた一年二組の男子生徒だ。随分と親しげだが私の知らないところで交流を深めたのだろうか? それとも何か相談に乗ってあげたのだろうか?

 三年生になってからというもの優介さまは同級生だけでなく後輩にもよく声をかけられるようになった。放送部の企画で牧野灯里と共にパーソナリティをするようになって以降、優介さまと面識のない者達にもその素晴らしさが伝わったらしい。これまで優介さまを目つきの悪い先輩、怖い先輩と失礼千万な勘違いをしていた愚か者……とはもちろん批判しません。私は心の広い妻、むしろ優介さまの素晴らしさを知れて幸福でしょうと褒めてあげます。

 ただ……優介さまの素晴らしさを知ったが故に、色目を使う目狐も増えてしまった……いえ、それでも優介さまとお話がしたい、相談に乗ってもらいたいとの気持ちもまた否定できません。なにより私の知らぬところでも優介さまはみなの心を救っていると誇らしい。

 故に優介さまの評価が正当になったのは嬉しく、こうして多くの後輩に慕われているのもまた嬉しく思います。

 なのでお話の邪魔にならぬよう控えていましたが、終わったのであれば問題ない。


「優介さまはどのようなお花を植えるつもりですか?」


 早速これからご購入されるお花の話題を振ったのですが


「あん? なぜ苗植えの話が出る」


 私の問いに優介さまは怪訝に。これはどういうことでしょう?


「あの……これからホームセンターへお花を見に行く……のでは?」

「……なに言ってんだ?」


 おかしい。話がかみ合わない。


「先輩、ホームセンターに行くんですか?」


 混乱する私を他所に戸浪なにがしが質問を。


「いや、春海町をぶらぶらしようとな」


 ――ますます混乱する。

 どうも優介さまの目的はホームセンターではなく春海町を歩くつもりらしい。つまり春海町の風景を見たくなったのだろうか?

 しかしなぜ突然春海町の風景を? いやいや、優介さまのこと、きっと私ごときでは考えもつかない深い理由があるはず。


「へぇ、先輩も放課後に遊んだりするんですね」


 戸浪なにがし! あなたは優介さまを何を失礼なことを! 優介さまが目的もなく遊びに――


「まあな」


 行くんですかっ? 風景を見るのではなく遊びに?


「つーか、お前は俺を何だと思ってんだ?」

「すんません。いつも忙しそうなんで」


 ……すみませんでした。そうですね、優介さまもたまには気晴らしに遊びに行くこともあるでしょう。私の悪い癖です。孝太さんにも言われたではないですか。

 優介さまも人の子、神聖化しすぎては見えるモノも見えなくなると。気晴らしに遊ぶことに何の疑問があるでしょう。

 ………………しかし、私と? いえ、もちろんお誘い下さったのはとてもとても光栄ですが、なぜ私と? しかも…………二人きりで?

 いえいえ、自惚れるな上條愛。勘違いしてはいけません。恋とソフィ・カートレットも買い物に行っていると言っていたではないですか。

 つまりこういうことですね。お優しい優介さまはリナへ課題を出しに足を運ぶ用があるので、先にあの二人は向かった。そして合流し、気晴らしに四人で遊ぶと。

 あの泥棒犬と卑猥兎も一緒なのは気に入りませんが、優介さまの決めたこと。ならば従うのみ。

 それに、こうして二人だけで春海町のバスに乗っているのです。あの二人よりは共に過ごす時間が長いだけでも充分です。

 なにより、勝手に浮かれ、勝手な期待をして違うと分かり落ち込んでは優介さまにご迷惑をかけてしまう。お優しい方故、沈んだ表情をされると心から楽しめないのだ。

 では、心構えも出来たところで。いつものようにあの二人に優介さまの気晴らしの邪魔をしないよう、顔を合わせてすぐに注意しておきましょう。妻として。

 同時にバスが停車、春海町に到着。大勢の撫子生と共に優介さまと私も下車。

 後ろに続く私より先に降りる優介さまはバスの料金を二人分入れた。どうやら自分が誘ったので私の分まで払ってくださるらしい。

 優介さまは自身で決めたこと、例えば何かを飲みたい何かを食べたいと思い立ち同伴させる場合は必ずこうして支払いをして下さいます。逆に私や恋が誘った場合は割り勘を譲らない。学生といえど私たちは毎月それなりの収入がある。しかし優介さまと私や恋とではその金額が違う。つまりより稼いでいるご自身が、よほどの理由でもない限り支払いをさせるのは忍びないのだろう。何とも不器用な御方。

 以前ならこのような気遣いに申し訳ない気持ちになっていたが、私もこの三年で成長している。


「ありがとうございます」

「気にするな」


 そう、申し訳なく思うよりもそのお優しさを素直に受け取ることが、何よりも優介さまが喜んで下さると知っている。そして、優しさには優しさで返す大切さも。

 このような考えを持てるよう成長した自分が、少しだけ誇らしい。

 ならば優介さまの邪魔をしないよう、あの二人にもきつく注意すべき――と思っていたのに


「……優介さま?」

「どうした」

「恋とソフィ・カートレットはどこにいるのでしょう?」


 バス停から人が少なくなっても二人の姿が見当たらない。それどころか優介さまは探そうともせず歩き出している。

 なので気になったのだが


「あいつらなら二人で買い物に行っていると言ったが?」


 ……?


「はい。つまりここで合流する予定ですよね?」

「なに言ってんだ? そんな予定ねぇよ」


 ? ?


「……しないのですか?」

「なんだ、したいのか?」


 ? ? ?


 おかしい。またまた話がかみ合わない。

 どうも優介さまは最初から恋やソフィ・カートレットと合流するつもりはないらしい。そして買い出しではなく気晴らしに遊ぶ予定でここに来ている。

 そもそもよく考えてみるべきだった。恋やソフィ・カートレットと合流するつもりならカナン・カートレットを誘うはず。彼女だけのけ者にする理由などないのだから。

 つまりこの状況は――


「あの……つまり優介さまは最初から私と春海町で気晴らしをする為に、お誘いしてくださった……と?」

「そのつもりだが」

「つまり、優介さまと私の……二人で?」

「不服か?」

「…………いえ」

「なら行くぞ」


 背を向ける優介さまに遅れないよう私も後に続く。

 優介さまが私だけを誘い、二人きりで放課後に遊んでくださる。

 これは果たして、どんなご褒美だろうか?

 不意に訪れた幸福を受け入れきれず、足下がふわふわする。とにかくこれからどうればいいのか、どのようなお話をすれば楽しんでいただけるのか。

 経験のない状況故に、全く分からない。


「……愛」


 ただ混乱する私に優介さまは足を止め振り返る。


「不服なら不服と言え」


 そして振り返り、面倒気な視線を向けている。


 …………私はなんと愚かなのでしょう。

 申し訳なく思うよりもそのお優しさを素直に受け取ることが、何よりも優介さまが喜んで下さると知っている。そして、優しさには優しさで返す大切さも知っているのに。

 ならばこの幸福もまた素直に受け入れ、共に楽しむべきなのに。

 優介さまは人の心に敏感なのだ――向けられる好意はさておいて――なら私の心がここにあらずなのも気づいてしまう。

 混乱し、戸惑いばかり先行していれば、迷惑をかけていると捉えられても仕方がない。

 不服なものか。優介さまが私だけを誘って、放課後を共に過ごしてくださる時間を。

 なぜ突然、このようなお誘いをして下さったのかは分からないが、少なくとも私と過ごしたいと思って下さったのは分かる。

 必要なければしないが優介さまだから。

 これまでのように反省したのなら、またこれまでのように少しでも成長した私を見せよう。


「……不服などありません」


 言葉だけでなく、表情でも。


「優介さまと二人きりで過ごす時間、とても楽しみです」


 幸福を素直に受け入れれば、自然と浮かべられる幸せな笑顔で。


「楽しめるかどうかは知らんがな」


 どうやら上手く笑顔になれたようで優介さまも苦笑して再び歩き始め、私も隣りに並ぶ。


「優介さま、まずどちらに行かれますか?」

「そうだな……服でも見に行くか」

「服……ですか?」

「明美に黒い服ばかり着ていると指摘されたのを思い出してな。汚れが目立たぬ故、黒い物を選んでいたが、たまには違う色もいいかもしれん。コートを新調しようと思っていた、いい機会だ」

「なるほど……お付き合いいたします」

「ちょうどいい、お前が見立ててくれ」

「私が……?」

「たまには誰かに選んでもらうのもまたいいだろう」

「では……私のコートを優介さまが見立ててください。私もコートを新調しようと思っていたところです」

「構わんが、後で不服を言うなよ」

「とっても楽しみです」


 本当に……なんて楽しいのでしょう。



 それから二時間、優介さまと私は洋服屋を何軒か回り、共に選んだコートを購入。

 光栄にも私に見立てさせて下さった優介さまの着るコートは明美さまのご忠告通りに黒ではなく、シックな若草色。どのような色でもお似合いでしたが、落ち着いて派手すぎずを心がけて。優介さまはとても喜んで下さいました。

 そして光栄にも優介さまが私の為に選んだコートは白いファーの付いたチェリーピンクの可愛い色。どうやら優介さまの中では私は春色のイメージが強いらしく。

 自分では選ばない、少し派手な色でも優介さまが私の為に選んでくれたことがとてもとても嬉しくて。

 大切に着ようと思いました。



 ……ちなみに。

 帰宅後、先に帰っていた恋とリナの修業の様子見に来ていたソフィ・カートレットが事情を聞き嫉妬でぎゃーぎゃー騒ぎ立て、次は自分たちのコートを選べと優介さまにご迷惑をかける始末。

 お優しい優介さまは仕方なく了承したようですが、今日は許しましょう。

 なんせ優介さまのコートは私が選んだのですから。




オマケは内容通りエピローグ後の後日譚、四季娘と優介の交流を描いた短編となります。

つまり明日は夏の章、お楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!                    

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