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オモイデレシピ  作者: 澤中雅
レシピ17 ツイオクタマゴ
310/365

エピローグ コレカラノ

アクセスありがとうございます!



 島の中枢に位置する山の頂上付近、島全土を見渡せる場所に墓地がありここに上條夫妻が眠っている。

 昨日の命日は遺言の力で喜三郎だけでなくイチ子とも会えることになっていたので、翌日改めて出向く予定で。

 本来はそれぞれが一人で赴くが命日ではなくても昨日の今日だからこそ三人で赴く方がいいと恋が提案し、優介と愛も特に反論する理由もないので、放課後になると三人で花屋に立ち寄り学園と日々平穏の途中にある横道へ入った。


 のだが――


「……なぜお前らまでついてくる」


 先頭を歩く優介がぼやくように、三人だけではなかった。

 待ち合わせの校門には愛だけでなくカナンが居て、そして優介と恋に続くようソフィまで付いていたりする。


「家族へのお墓参りには家族みんなで、当然でしょう」

「ソフィの家族ならワタシにとっても家族よ」


 自信を持って胸を張るソフィと、意味もなく自信を持つカナン。

 以前は日々平穏の三人でと気を遣っていたが、あの邂逅でソフィも恋や愛のように家族として認められた。

 なら墓参りも日々平穏関係なく家族として出向いてもいいと思えるようになっていた。

 そしてカナンも姉の家族という立場を抜きにして、喜三郎へ言伝の御礼を伝えておきたかった。


「誰が家族ですか誰が。これだから面の皮が分厚い発情うさぎさんと年中お花畑脳は困ります」

「まあいいんじゃないの? 二人とも賑やかな方が嬉しいだろうし」


 故に文句を言いながらも愛は拒絶せず、元より歓迎の恋は楽しげで。


「……だからと言って墓地でまで騒ぐんじゃねぇぞ」


 墓参りとは思えない賑やかな雰囲気に呆れつつ優介がクギを刺しつつ、申し訳ない程度に舗装された道を黙々と登っていたが


「先に行ってろ」


 木製の手すりが囲む開けた場所に出ると不意に優介は立ち止まり、通り過ぎる四人を山頂付近を視線で促す。


「なにか忘れ物?」

「いいからさっさと行け」


 恋が首を傾げるも理由は告げず、手にしていた花束とお供え用に買っていたペットボトルのお茶二本の内一本を近くにいるカナンに渡してしまう。

 にも関わらず優介は道を戻るでもなく、動こうともしないが、問いかけたところで返事は同じと慣れっこな四人は無言で頷き先を行く。

 その姿が見えなくなるとようやく優介は歩を進めるも、後を追うではなく手すりの方へ。

 おもむろに乗り越えた手すりに腰を下ろし、お供え用のペットボトルのフタを開けて一口飲む。


「……はぁ」


 ゆっくりと息を吐き、空を見上げる。


「いい天気だ」


 自然と出てきた言葉に、なぜか笑ってしまった。


 冬の澄みきった空気が見せる雲ひとつない青空。

 陽射しはそれなりにあるも冷たい空気が少し肌寒い。

 だがそれがまた心地いい。

 温かな風よりも冷たい風の方が身も心も引き締まるからだ。

 なのに今、自分の身体からは力が抜けきっている。

 心も今までにないほど緩んでいる感覚がある。

 そもそもこの行動には何の意味もない。

 ただこの場所に着いたら漠然と、こうしてみたいと思えただけで。

 改めて昨夜、孝太からされた指摘を実感した。

 自分は今、良い意味で緩んでいる。


 喜三郎が亡くなってから――いや、両親に捨てられて心を停止させ、生き返ったあの日から一度でも無意味なことをしようなどと思ったことはなかった。


 生き返ってからは料理を教わり。

 恋と再会し。

 喜三郎とイチ子が亡くなり。

 日々平穏を再開させ。

 愛と出会い。

 バカ弟子の師となり。

 ライバルと出会い。

 ソフィと出会い――


 この濃密な六年間は悲しみ以上に楽しくて、一秒たりとも無駄にしたくないと休むのも惜しんで歩み続けた。

 なにより休みたくなかった。

 目指すべき背中が遠すぎて、歩みを止める暇などなかったから。

 もちろん諦めたわけではない。

 むしろ思いはより強くなった。


 師――上條喜三郎の最後の教え。


 言われるまでもない当然な、しかし困難な道の先にある。

 だからこうして無意味な時間を過ごしているのかもしれない。

 これまでは黙々と歩み続けた。

 無駄なことはせず。

 やるべき事をひたすらに。

 大切なものは失わないよう。

 自分にとって大切な人。

 大切な場所。

 大切な背中。

 守り続けることに必死で。

 到達することに必死で。


 故に世界は狭かったのかもしれない。


 歩みを止め、無意味と思える時間で周囲を見渡せば、これまでと違う景色が見えてくる。

 今のように、視線を下ろせば――


「……いい景色だ」


 見慣れた四季美島が初めて見る風景に感じている。


 自然がより鮮やかに。

 海はより広大に。

 見渡す世界がより美しく。

 結局のところ、無意味な時間などないのだ。

 無意味な時間を、意味のある時間へと変えていく。


 歩みを止めるからこそ、歩み続けられる――これが遺言により学んだ心のあり方。


 ならば必ず到達できる。


『さっさとワシを越えろ――バカ弟子』


 最後の教えの、その先へ。


「言われるまでもねぇよ……クソ師匠」


 ◇


 日々平穏。

 四季美島にある小さな定食屋は美味しい料理と楽しい時間、温かな思い出を提供する不思議なお店。

 そこは伝説が魅入られるほどの可能性が、心を込めて持て成す幸せな場所。


 やがて伝説を越える――その日まで。 




これにてレシピ17と第三部は終了となります。

つまり次回はお約束のミンナノレシピ……ではなく、全五話のオマケを予定。

内容はお楽しみと言うことで!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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