トクベツナオキャクサマ
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「……やれやれ。優坊はいつも急じゃな」
自宅から日々平穏へと続く夜道を歩きつつ、十郎太は愚痴をこぼすもその表情は機嫌よく。
「少しはこちらの都合も考えんか。なあ荒川よ」
「仰るとおりです」
故に後を歩く荒川は調子を合わせて同意した。
今から二時間ほど前に優介から連絡があった。
内容は何時になってもいいから店に来いとの簡潔なもので、急いで業務を熟して都合を付けるのが大変だったので愚痴をこぼすのも無理はない。
しかし簡潔でも用件は分かっている。
今日は残された遺言で優介は喜三郎とイチ子と一度きりの再会を果たした。
ならその時、何が行われたかを話してくれるのだろう。
喜三郎の親友として、イチ子の幼なじみとして、優介の土産話が十郎太は楽しみで仕方がないらしい。
ただ荒川には気になることがある。
十郎太だけでなく自分も同席するよう言われたこと。まあ秘書として傍に仕えているので今さらなのだが、なぜわざわざ念を押したのか。
続いてなぜ今日中なのか。
明日は学校、話をする時間が限られているなら改めてゆっくりと時間を空けた方がいい気もする。
そして一番気になるのは、必ず歩いて来いとの条件。
普段から余り車を使用しない十郎太も、さすがに夜の外出ともなれば基本は車で移動している。
だからこそ条件を出したのだろうが、これは何を意味しているのか。
嬉しさで気になっていない十郎太は素直に従っているも、荒川はその真意を考えていたが――
「優介さんのこと……きっと素晴らしい何かがあるのでしょう」
自分の見えない何かを見通す優介の真意など考えつくハズがないと降参してしまう。
「何か言ったか?」
「はい。優介さんの思考はいつも興味深いと」
「確かに。単純故にワシらも常々見落としてしまうからのう」
上機嫌に笑う十郎太と共に荒川も楽しみにしつつ歩を進め――やがて日々平穏が見えてきた。
休業日で、そもそも営業時間外にも関わらず店内の明かりは灯されていて。
「さて……どのような成長を遂げているか拝見させてもらおうか」
表情を引き締め(残念ながら口元は緩んでいた)戸を開ける十郎太を出迎えたのは
「いらっしゃいませ。本日ご予約していただいた白河十郎太さまですね」
恋の笑顔だった。
◇
恋が口にしたのは特別なお客を出迎える際の常套句。
日々平穏には一部の人間しか知らない裏メニューがある。
メニュー表記はされていない。
なぜなら料理ではなく、日々平穏でのみ味わえる時間。
誰しも懐かしい味、思い出の料理がある。
優介は相手の目からそのレシピを読み取る能力を持っていた。
ココロノレシピ――思考に残る料理の形や味だけでなく、料理人の込めた想いまで読み取り完璧に再現できる。
料理人の心を夢幻の世界で伝えることが出来る愛の能力――レシピノキオク。
この二つの能力が合わさることで裏メニューは完成する。
そして必要なお客様がいれば招き、懐かしい味と時間を楽しんで貰うのが日々平穏。
懐かしい味と時間を楽しむ必要があると判断された特別なお客様が招かれる。
つまり十郎太には必要だと判断されたのだが、いったいどんな理由で、どんな料理を食す必要があるのか全く心当たりがない。
「では一名様、ごあんな~い!」
腕を掴む恋に案内されるまま店内に入り、十郎太は更に混乱してしまう。
普段は出入り口の壁沿いに並んでいる四つのテーブル席が撤去され、店内中央に椅子が二つ用意されたテーブルが一つだけポツンと置かれている。
更にカウンター席には孝太、愛が座り、二つ空けてカナン、ソフィが座っていた。
「料理はすぐにご用意しますので、こちらに座ってお待ちください」
されるがまま十郎太はテーブル席に腰を下ろし、案内を終えた恋は愛と一つ空けたカウンター席に座ってしまう。
「荒川さん。こちらへ」
「あ、はい」
ソフィに手招きされて出入り口に立っていた荒川も静かに歩み寄り
「ソフィさん……これは、いったい」
「気持ちは分かりますが、今は優介さんの好きなようにさせてあげてください」
理由を尋ねるもソフィは苦笑で返すのみ。
「アイツはカリを返さないと気が済まない性格でしょう?」
「……わかりました」
ただ更にとなりのカナンから付け加えられ荒川も追求することなく頷いた。
そして調理服姿の優介が厨房から現れ、呆然としたままの十郎太の前へ。
「わざわざ呼び出してすまんな」
「優坊……これはどういうことじゃ」
ようやく我に返った十郎太が真意を問うも優介は肩を竦め手にしていた日本酒の一升瓶とグラスを二つテーブルに置いた。
「外は寒かっただろう。こいつでも飲んで暖まれ。それと、優坊は止めろ」
「説明せんか。なぜワシが選ばれた……いや、ワシからどのような料理を読み取った」
「心配しなくとも用意している」
思わず立ち上がる十郎太の質問を無視した優介は厨房に下がり、お盆を手に戻ってくる。
「酒のつまみにはならんだろうが、仕方ないか」
「……これは」
お盆に乗る小ぶりな丼には黄色いご飯、匂いから卵かけご飯だとわかるも別段特別な調理をされているわけでもなく、そもそもなぜこの料理を自分から読み取ったのか。
「なんせ爺さんらは酒のシメに必ずこいつを食っていたんだろう?」
「ワシらが……? まさか――」
しかし優介の問いに十郎太はピンとくる。
最後はいつも卵かけご飯でシメるのが自分たちのお約束。
そう、二人で酒を飲み交わした後、生涯唯一の親友、上條喜三郎が自ら調理してくれた卵かけご飯を共に食していた。
つまりこれは喜三郎の料理――だがどうしても分からない。
いつこの料理を読み取っていたのか。
なぜこの料理を今になって再現したのか。
いったい優介は自分に、何を伝えようとしているのかが、どうしても分からない。
「言っておくがこれは俺からじゃねぇ。爺さんの言伝だ」
「喜三郎が……ワシに」
「先ほど託されてな。ま、詳しくは直接本人の口から聞け――愛」
感慨深く卵かけご飯を見詰める十郎太から優介は背後にいる愛へと視線を向けた。
「白河の爺さんに聞かせてやれ。年甲斐もなく照れで伝えていなかった……親友の心をな」
「お任せください」
愛は立ち上がり十郎太の肩に左手で触れ、続けて卵かけご飯の上へかざした。
「――思い出に残る料理には記憶が残ります」
一連の行動に見向きもせず、十郎太は耳を澄ませていた。
「誰と食し、どのような時間を過ごしていたか」
呟きに呼応するように左手が淡いオレンジ色の光に包まれても、夢中に。
「それは過ぎ去った、温かな時間」
目を閉じた愛が、光に包まれた手をかざしても。
「では思い出してみましょう。料理に刻まれた優しい時を」
パチンと指を鳴らして、霧散する光に包まれながらも。
我が親友が、いったい何を伝えようとしているのかを知りたい一心で。
オモイデレシピは今年最後の更新です。
今年から投稿を始めてこちらの作品は毎日更新を無事続けることが出来ました。
また来年からも毎日更新をしていく予定です。
第三部も間もなく終了し、オモイデレシピそのもののラストも見えてきましたが最後まで楽しんで頂くように頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!
良いお年を!




