シンジツトヒキトメ
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『――テメェのケツくらい、テメェで拭ける』
やはりワシの目に狂いはなかった。
バカ弟子はワシの到達できんかった料理の道を歩めるじゃろう。
まあ今は素直に感謝してやらんとな。
やれやれ……まさか好子ちゃんにこのような歪みがあったとは気付なんだわ。
いや、ちーと違うかのう。さすがのワシも未来視は不可能、好子ちゃんが己の心を勘違いしてしまうほどの存在が現れると思わん。
ソフィちゃんか。バカ弟子に必要な存在ではあるが、お陰でややこしいことになってしもうた。
それに恋ちゃんと愛ちゃんのことを考えると複雑よ。
なによりバカ弟子には勿体ない良い女……むろんワシの婆さんが世界一良い女じゃが。
果てしてバカ弟子はどうするのか。
こやつは捻くれておる故、どうなるかもわからん。
杞憂か。
ワシの見出した大馬鹿者じゃ。
きっとワシの想像も付かん答えを導き出すか。
◇
『――確かに見た目も味も酷い料理だ。心の面も情けないほど拙い……が、弟子が心を込めた料理をもっとも満足できるのは師匠だろ』
……偉そうな口をきく。
お前さんも未熟なくせに。
しかしまあ……これでバカ弟子も気づくことができたか。ふん、せっかく色々と貶してやろうとしていたが残念じゃ。
残念じゃが……ワシもお前さんと同じ気持ちよ。
弟子が師匠の期待に応えてくれる、嬉しいものよ。
なら師匠もまた弟子の心意気に応えるまで。
後は待つばかりか。
リナちゃんよ。
バカ弟子の師として、お前さんという出会いがあったこと心から感謝する。
お陰でバカ弟子がようやく目覚めた。
お前さんの夢が叶う日を、ワシも心から待ち望んでおるよ。
バカ弟子を師匠に選んでくれて、本当に感謝じゃ。
◇
『――バカはなにやったところでバカにしか見えんだろ』
そのバカに何度も救われとるくせに、よう言うわ。
まあ、白河の孫がバカなのは否定せんが。
故にお前さんらはお似合いじゃ。
バカ者同士、ええ生涯唯一のダチ公になれておる。
孝太よ。
お前さんには礼を言わんぞ。不出来な親友を心配し、その上で言いたい放題やりたい放題なのはお前さんらの特権じゃからな。
それでええんじゃ。
バカ弟子にはお前さんのようなバカこそ親友に相応しい。
なんせバカ同士、気が合うしのう。
◇
『――これからも尊いライバル――カナン・カートレットで在り続けて欲しいと。どうしようもない、勝手な願いだ』
バカ弟子、その願いを生涯忘れるでないぞ。
お前さんの成長を促進させとるのは間違いなくカナンちゃん、そしてカルロスのお陰よ。
ライバル、そして盟友とはいいもんじゃ。
互いに鎬を削り成長する。
これほどの出会いは生涯にあるかないかの稀少なモノよ。
ワシにもダンやリスがおったようにな。
なによりカナンちゃんのような良い子を泣かせたんじゃ、必ずケジメを付けろ。
それが男というモノよ。
◇
『――ああして過ごしてるなら、良いんじゃねぇか』
よう聞いてくれた。
バカ弟子はな、こういう男なんじゃ。
誰かを思う心を強さに変えられる。
そんな大馬鹿者なんじゃよ。
故にたとえ己を見捨てた両親にさえ、恨みも持たず優しい心で接することができる。
だからこれからも聞いてやってくれ、愛ちゃん。
相手を思いやることも大切じゃが、それは時として孤独にさせるもの。
故に婆さんは託したのよ。愛ちゃんならきっとバカ弟子の良き理解者となってくれると。
なんせワシらでもお手上げだった仁と好子ちゃんの絆を取り持つことが出来るほど強く、純粋な子じゃ。
◇
『――もう俺は何一つ失うつもりはねぇ』
欲張りじゃからのうバカ弟子は。
大切なモノは何一つとりこぼさん、ガキかと言いたいわ。まあガキか。
なら恋ちゃんを手放すようなことはせんじゃろうて。
この子がおらなんだら恐らくバカ弟子の料理はもっと違ったかもしれんしのう。
せいぜい愛想つかされんように気張れ、バカ弟子よ。
と言っても、ないことか。
◇
恋ちゃん。
愛ちゃん。
ソフィちゃん。
カナンちゃん。
リナちゃん。
白河のバカ孫。
みなが共におる限り、バカ弟子はきっと間違えん。
それぞれの出会いに感謝せいバカ弟子よ。
◇
優介を二代目日々平穏店主に認めるか否かの味試し。
師、喜三郎の期待に弟子として見事に応えた。
この結果に恋も、愛も、ソフィも喜んでいた――にも関わらず、その優介から批判が返された。
「やれやれ……バカ弟子は成長しても捻くれておる」
弟子の反応に対し喜三郎はわざとらしく肩を竦めてしまう。
「ワシがせっかく認めてやったというのに、素直に喜べんとは。それとも勘違いとはテメェが成長していませんと自己申告でもしとるのか」
「さあな」
皮肉な物言いに優介もまた肩を竦めてお約束を口にして、視線を喜三郎から外した。
「ソフィ」
「え? あ、私……ですか?」
不意に名を呼ばれて自身を指さすソフィに優介は頷き
「お前は最近大きな勘違いをしていたな」
「急に言われましても……あの、優介さん? いまは私よりも喜三郎さまと……」
不意の指摘に訳がわからずソフィが注意しようとするも、言葉途中で思いついたようにハッとなる。
その変化に優介が苦笑を浮かべるので確信へと変わった。
「優介さんがリナさんへココロノレシピを譲っても、問題はない……ですね」
喜三郎とイチ子に会えるチャンスを拒み、しかし恋と愛が会いたいなら鍵となる能力を弟子のリナに受け渡す時に。
料理人にとって残酷な料理が作れてしまう能力を、なにより強き心がなければ心が消えてしまう危険な能力をリナに背負わせるのかと批判した時に。
優介から自分たちは大きな勘違いをしていたと聞いた。
「問題ねぇんだよ。あいつは俺と違って純粋だ。食す者の笑顔に虚しさを感じたりはしねぇよ。むろん相手に自分の作った料理と偽りさえしなければだが」
あの時はぐらかしていた理由を優介は教えてくれる。
確かにリナは良い意味で自分の料理にプライドがない。とにかく作ることが楽しく、食す者が満足することを優先できるタイプなので料理人としての虚しさよりも笑顔になってくれた事実を喜ぶだろう。
だが後遺症については――そう問いかけるよりも先に優介が口を開く。
「なにより、俺は爺さんと違ってバカ弟子の心に教えとして己の心を潜り込ませるつもりはない」
その言葉が何を指しているのかソフィには理解できなかった。
恋や愛もまた同じで目を白黒させたまま。
「故に後遺症の心配もねぇ。そうだろ? 爺さん」
「……よくわかったではないか」
しかし優介が三人から再び視線を戻した喜三郎は意味を理解したようでほくそ笑む。
「当然だ。あんたはともかく、婆さんが可愛い孫娘の心を危険にさらすような能力を渡すわけがねぇ」
「当然よ。ワシの婆さんは優しいんじゃ」
「ふん、俺たちの能力は他人の心が入り込む故に己の心に負担をかける……だったな。むしろ愛の心が絶えうる成長をするまで婆さんの心が支えていたんだろう」
「お婆さまが……私を」
優介の予想に愛は思わず視線を向けるとイチ子は肯定するように頷く。
「お婆ちゃんのわがままに巻き込んだんだから、せめてもと思ってねぇ。たいした力になれなくてごめんね、愛ちゃん」
今にして思い返せば未熟すぎる心の持ち主の自分がレシピノキオクを使用して疲労程度の代償は軽すぎだった。
それでも大事に至らなかったのはイチ子の心(支え)があったからと考えれば辻褄が合う。
加えて日々平穏に居る間に感じていた安らぎは、よりその心を感じられる場所だったからで。
まだ真意は掴めないがこれまでずっと心の中でイチ子が見守ってくれていたのなら、申し訳ない気持ちよりも嬉しい気持ちばかりで。
「そんな……私こそ、その……ありがとうございました」
故に謝罪ではなく感謝を述べればイチ子はどこか満足そうに微笑んでくれた。
その微笑みに成長できた自分が誇らしくて、愛もまた微笑む。
しかし――ならばなぜ?
「待って下さい……愛さんがイチ子さまに見守られて苦しみを軽減させていたのなら、なぜ優介さんは突然後遺症を発症させたのですか?」
この真実に新たな疑問をソフィが抱くのも無理はない。
愛の心にイチ子の心が潜んでいたのは自分の能力で呼び起こしているので知っていたが、それにより愛の負担をイチ子が補っていた。
では同じく喜三郎の心が潜んでいた優介の心がなぜ逆に蝕まれていたのか。
いや――喜三郎が言っていた。この味試しが始まる前、たしか――
「さすが聡明な二歳上のお姉さんは物わかりがいい」
先ほど同様口にした疑問を自分でもう一度思考していたソフィがその可能性を思いつくなり、優介から苦笑が漏れる。
つまり自分の導き出した可能性は正しい、そして自分たちがしていた大きな勘違いとは
「……そもそもココロノレシピに後遺症など存在しなかったんですね」
「そういうことだ」
「ですが、それでは好子さんが言っていたことと矛盾しています」
「心が消える、という話か。あれなら好子の勘違いだろうよ。恐らくだが婆さんが好子に遺言を託した際、詳しい説明をしなかったんじゃないか」
例えば『優介の心に潜んでいる自分たちの心が消える前に遺言で呼び出して欲しい』という意味を好子が『優介の心が消えてしまう』と解釈していればあり得る話だ。
「なら今まで優介さんが味わっていた苦しみは、喜三郎さまの故意で……でも、どうしてそのようなことを」
「言っていたとおりだ。俺に苦しみを教えるため以外にねぇよ」
「…………っ」
キッパリと言い切られソフィは息を呑む。
二人は師弟だ。
尊敬すべき師匠と愛すべき弟子、なのになぜ師匠が弟子に無慈悲な行いをする必要がある。
後遺症を発症した優介がどれほど苦しんでいたかを見てきただけに、分からずともソフィの頭にみるみる血が上っていく。
愛もまた敬愛する祖父が愛する人へ向けた仕打ちを理解し、先ほど感じた温もりが嘘のように冷えていく。
そして喜三郎へ詰め寄ろうと自然と歩を進め――
「……堪えて、二人とも」
しかし、これまで静寂を保っていた恋が踏み出すより先に愛とソフィの腕を掴んで制した。
「これ以上は、多分、違う。だから、堪えて」
二人の腕を強く握り、たどたどしい口調で再度制する。
「恋……」
「恋さん……」
反論しようと振り返る二人だったが、恋の表情を見るなり怒りが失せてしまう。
「本当にユースケを、思うなら……」
なぜならこの場に留めている自分こそ喜三郎に対する怒りを誤魔化すような、抑制する笑顔で。
「お願い、だから……」
普段の恋の笑顔を知る二人だからこそ、この懇願に込められた重みを感じ取りゆっくりと肩の力を抜いた。
次回、師弟が本当の意味で向き合います。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!




