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閑話:中堅貴族たるローテリゼ・トリッテン・ドライランターの思うこと



 ローテリゼが、父であるドライランター公爵について、巻き狩りに出たのは、十二歳の秋が最後だった。

 その狩りの前に父親から言われたことを、ローテリゼはまだ鮮明に覚えている。



 ローテリゼは、貴族の子女らしく、十歳にもならないうちから、毎年秋には、その父親である公爵や、その寄子の人達と一緒に狩りに出る習慣になっていた。

 けれども、ローテリゼは狩りというものが嫌いで、それで父親に、あまり狩りには行きたくない、とこぼしたのだった。

 かわいそうな魔獣や動物を山のように殺して、何が楽しいのか分からない、というようなことを父親に言ったのだった。


 もちろんローテリゼは愚かな子供ではなかったから(動物はともかくとして)魔獣は狩っておかないといけないのは分かっている。


 けれども父親は、公爵であるくらいだから、ものすごく強くて、そしてその寄子の人たちも強い。

 そうすると狩りが、ただ逃げ惑う動物や魔獣を、一方的にたくさん虐殺しているだけみたいに見えてしまう。だから狩りがあんまり好きになれない。



 ローテリゼからそんなことを言われた父親は、少し黙ってから、まあそう言うな、と言った。

 そうして

「狩りには貴族のすべてが詰まっている。おろそかにしてはいかん」

と、言葉をつなぐ。


「どういうこと?」


「貴族というものは、領地を持てば領地を、寄子を持てば寄子を、領地も寄子も持たずとも、そもそも強いから、それで人の上に立たざるを得ないことがある。

 つまりは統治される側ではなくて、統治する側になるということだ。

 そして統治するということには大まかに言えば二つの要素がある。ローテリゼは分かるか?」


「……分かんない」


「闘うことと、分配することだ。

 そして狩りには、そのふたつともがある。

 魔獣や動物と闘い、その猟果を分配する。まったく統治の本質がそこにあると言ってもいい。

 だから、たとえ気が進まなくても、貴族たるもの狩りはおろそかにしてはいけない。

 なぜならそれは貴族たることの義務であり、また訓練でもあるからだ。

 そしてお前が狩りの場でどのように行動し、何を言うかを皆は見ている。それを決して忘れるな」




 ……というのが、ローテリゼの父親の教えだったのだけれど、ローテリゼが十三歳になって、高位貴族の子女の例に漏れず、帝国学園に入ると、狩りが好きか嫌いかなどと言うまでもなく、学園主催の魔獣討伐演習には必ず出るようになった。

 闘える者は毎年、年度の前期ごとに演習に出て、それでその年度の前期の単位へと読み替えがなされる制度があるからだ。

 貴族たるものは狩りを嫌がらず魔獣と闘うべしという、父の教えと同じように、学園の制度もそうなっているということだろう。

 


 ◆



 さて、今日は後期の授業が始まる前の、わずかばかりの残りの時間を寄子たちと、学園の屋敷でのんびり過ごしていたのだけれど、そんなところに屋敷を訪問してきて


「アリシアさんと授業のときに何を話せばいいかねえ。どう思う?」


などと、少し浮かれた調子で言ってくるのは、ローテリゼの(血は繋がっていないが)事実上の兄であるエルゴル・セックヘンデだった。

 

 彼は低いテーブルを挟んでローテリゼの向かい側で、背もたれの無い、椅子というよりベンチのようなものに座っている。

 なぜソファーではなくて、そんなものに座っているかというと、長くて太い尻尾があるから、背もたれがあるものには座れないからだ。


「そんなのアリシアさんの好みが分からないと何とも言えないじゃない」


「そりゃそうだけども」


 そんなような話を、ローテリゼの寄子の女の子たちが、キラキラした目をして聞いている。


 そうして

「ゴルサリーズ様はとってもお強い方ですから、武芸のお話などなさるのが良いかと思いますわ!」


「やはりあのお可愛い森族(エルフ)のアリスタ殿下のことを話題にするのが自然でしょう」


「それは自然かもしれないけれど、それではエルゴル様がアリシア様に興味を持っておられることがボケてしまって伝わらないのではないかしら?」


「どんな場合でもまずは天気の話題から始めるものだと、私は父から教わりましたのよ」

とか、思いついたことを何でも好きに言っている。


 彼女たちは、他のお客さんにはこういうことは言わないのに、兄のエルゴルに対しては、自由に、好きに、言いたいことを言う。

 そしてそういうところが兄の人徳というか偉いところだなと、ローテリゼはつくづく思うのだった。



 兄のエルゴルには何か人を安心させるところがある。

 ローテリゼのことをよもや傷つけたりはしないだろうし、何かあればローテリゼを守ってくれるだろうし、そうでなくてもいつでも優しくしてくれるだろうと、それがしぐさなのか表情なのか、声なのか、何なのかは分からないが、それがそばにいれば分かる。


 これは自分が兄であるエルゴルの妹として育ったからそう思えるんだと、ローテリゼはそう考えていた。


 けれども実際はそうでもなくて、例えば兄の兵団の団員や、そこで面倒をみてもらっている人たちは、兄になんでも言いたいことを言いたいようにのびのびと言っていたし、ローテリゼの寄子たちも、今話しているように、自由に思ったまま話をしているように見える。


 それだけでなくて、ローテリゼの父である公爵も、兄が帰省すると何かと連れまわすし、母も同じで、お茶会やら、単なる買い物みたいな細々したことに至るまで、色々なところに連れて行く。

 どうも実の娘の私より気に入っているフシがあるなあ、とローテリゼは思っていた。

 弟や妹たちも、姉であるローテリゼよりは、兄であるエルゴルのほうにまとわりついて群がっていた。


 もっと言えば、このたび戴冠して王になられたアリスタ殿下さえも、エルゴルを見つけるとふわふわと飛んできて嬉しそうに抱っこされる。


 近くにローテリゼがいると、必ずローテリゼのほうに漂ってきて抱っこされてから、それからエルゴルのほうに飛んで行かれるが、あれはどうもローテリゼへの配慮という気がする。

 いちおうエルゴルの寄親はローテリゼなのだから、まずは筋を通してローテリゼの方に挨拶という意味で抱っこされに来てくださるということだろうか。



 ◆



 そもそも兄のエルゴルは、学園の新年度に、夏頃にこの学園に入学してきたのだけれど、その最初から動きが速かった。 


 状況としては、ローテリゼはちょっと公爵家の跡取りというにはだいぶん令術力が弱くて、戦力評価も弱いから、せいぜいお友達や与党を作って、公爵家は維持できないまでも、ちょっとでも将来のポジションをいいものにしなきゃいけないということで、兄のエルゴルが父である公爵の寄子から外れて、ローテリゼの寄子になって学園に来てくれたという、そういうことだった。



 それで進級して新年度が始まって、今年はどうしようか、などとローテリゼが考えているうちに、兄のエルゴルは、入学式が終わったその瞬間に、新入生のなかでは一番の注目株であったアリスタ殿下を昼食会に誘って、その昼食会で魔獣討伐演習の大隊を一緒に組みましょうと提案して、そのまま承諾をもらってきたらしい。

 あまりにも素早すぎる。


 それなのに当の本人は

「やっぱ若い子が多いから、年齢が合わないので友達が作りにくいんだよね。

 どうすりゃいいのかね」

などと言っている。意味が分からない。


 もっとも兄の目当てはアリスタ様ではなくて、そのアリスタ様にくっついている大鬼族(オーガ)のアリシアさんだったらしいのだけれど。



 ともかくローテリゼも十三歳で学園に入学して以来、これまでに何度か学園での魔獣討伐演習に出て、評価を受けて、戦力評価的には9,000ということになっている。


 これはまあ、そのへんの令術者ではちょっと荷が重いような、大型の魔獣が出てきても、いちおう単独で対抗できるというような評価で、そこそこ結構強いというところではある。

 でも例えば野生の天竜とか、そういう、稀な超大型の魔獣と闘うにはだいぶん力不足という、そんなイメージだ。


 だからローテリゼは、これまでの演習では、自分と寄子たちでなる中隊を、ローテリゼの中隊が普段から所属している治安連隊の、その先輩が率いる大隊に入れてもらって参加していた。


 けれども父親が、ローテリゼを気遣って、自分の寄子でローテリゼの(血はつながってないが)兄でもあるエルゴルを、ローテリゼの寄子に付け替えてくれた。

 それで、兄はけっこう強いし、大きな中隊も率いているから、二人合わせれば、まあ大丈夫だろうということで、ローテリゼは、今回の演習では大隊を任せてもらえそうではあったのだけれど、そこに唐突にアリスタ殿下の中隊が追加で入ってきたわけだ。



 ◆



 そして、入学式から一か月ほど経った、秋の始めごろに、ローテリゼと、彼女が率いる大隊は、学園主催の魔獣討伐演習に出かけたのだった。

 アリスタ殿下は、もう演習の初日からとんでもなかった。


 演習に出発した、その初日の夕方に、ローテリゼが、その率いる大隊と一緒に行軍しながら、時計を睨んで、水場や平滑地の場所を思い出しつつ、野営地とする場所を決めて、街道から少し外れて、ちゃんと迷わずに、そこに到達して少し大隊をばらけさせたところで、アリスタ中隊が全員でローテリゼのところにやってくる。


 それがまあ、この王たるアリスタ殿下の伝説の始まりで、令術で地面を掘って、大きな堀を造り、大隊の全部を囲い込むような壁を造り、つまりは砦を造成してくださった。


 家屋敷よりまだ大きいような土塊が、無数に乱舞して、砦の壁になっていく様子は、何か神話じみていた。


 そのあとはアリスタ殿下は、大隊全員に、風呂を用意してくださったり、できたての食事を毎食用意してくださったり、下半身を天竜に踏みつぶされたはずの者を治療して、数日後には歩けるようにしてくださったり、別口で襲ってきた天竜を二頭まとめてあっという間に叩き落したり、襲ってきた魔獣の群れごと吹き飛ばしたり、そういうことを色々となさった。


 ローテリゼはその様子を見て、本当の高位貴族とはこのようなものなのかと、衝撃を受けた。


 というのは、ローテリゼは、現在は公爵家であるところの、トリッテン家の跡取りということになっているけれども、令術力が公爵としては全く足りておらず、だから自分が家を継いでよいのかとか、そういうことが気になって、戦力評価と爵位との関係とかそういうものを屋敷の書斎で調べたり、人に聞いたりしたことがある。


 それで調べたところでは、例えば、特殊なものを除いて、一般的な魔獣のうち、最も脅威度の高いものは、野生の天竜だけれども、この天竜の戦力評価が20,000とされている。

 そして、この天竜を単独討伐し得る戦力評価、例えば23,000とかだと伯爵位と、本人が希望すれば領地が割り当てられるということらしい。


 さて、そこでローテリゼの戦力評価だが、このたびの討伐演習でいくらか活躍できたので8,000が9,000に上がったというところだ。


 これは爵位に引きなおせば子爵相当で、子爵の中でもまったく平凡なくらいの戦力評価らしい。


 そうして子爵というのは、公爵の三つ下の爵位だ。

 公爵になって領地を任されるとなると、55,000くらいは戦力評価が欲しいというところだそうで、当然ながらローテリゼの戦力評価では全然足りていない。


 そこでまあ公爵位を維持するのはたぶん無理でも、できるだけ政治的な味方づくりをする必要があって、父の公爵も兄であるエルゴルを、自分の寄子から外してローテリゼに付け替えてくれたりしたわけだけれども、それでもやっぱり根本的にローテリゼ自身が力不足なので、難しいところがあって、それでローテリゼが悩んだりもしていた。


 けれどもアリスタ殿下を見ていると、なんというか全然違うなと、あれが高位術者というものかと、そういう自分との圧倒的な違いを見せられてしまうと、もう悩むのが馬鹿馬鹿しくなって、ローテリゼは吹っ切れることができたのだった。

 元から分かっていたことだけど、根本的に強さが違うのだから、色々小細工をしたところで限度があって、だからやるだけやって、あとは受け入れるしかないなと、そう腹を決めることができたということだ。



 ◆



 それに、アリスタ殿下がローテリゼや、特に兄のエルゴルには好意的で、そもそも演習のときには全面的に面倒をみてくださったのもそうであるし、その後も会うたびに必ず飛んできて抱っこされに来てくださるから、やっぱりローテリゼ自身の周囲からの扱いも微妙に変わってくる。


 ローテリゼとて、本人はあまり強くないとは言えど、公爵家の長子であるのは事実であって、だから父の公爵としての権勢がある以上は、ローテリゼ自身も別にあからさまに馬鹿にされたりとかはない。

 けれど、やっぱり公爵家の娘にしては弱い、ということで少しばかり侮りをなんとなく感じることもないでもなかったけれど、アリスタ殿下と親しくなってからは、そういうことはさらに少なくなった。


 そして先日の戴冠と叙爵の式典によって、それはさらに確定的になっただろうと、ローテリゼは思う。

 


 ◆



 時系列を言えば、魔獣討伐演習は十月の頭から十一月の終わりまで行われる。

 そして演習が終わってしばらくたつと、演習の結果を含めて、参加した者の戦力評価がされて、それが公示される。

 これが十二月の終わりごろで、そこでいったん年度の前期が終わりとなる。


 それから端月と一月の丸ごと冬期休暇がある。

 休暇が終わりに合わせて学生が学園に帰ってきて、二月の頭から、年度の後期が始まるのだけれども、今年度に学園に入学してきた新入生の中で、演習その他で高い戦力評価をされて、前期末に公示を受けた者がいれば、新しい王として戴冠したり、貴族に叙せられるし、あるいは在学生でも演習で活躍したので戦力評価の評価替えということになれば、陞爵したりする。


 それで年度の後期の頭に、その戴冠や叙爵位の式典が行われるという流れになっている。


 そして、今回はアリスタ様が前期の魔獣討伐演習でとんでもない活躍をしたから、今度の式典で、新たに王として戴冠することになったのだけれど、その式典の数日前に、内々の使者として、アリスタ様の寄子のトラーチェさんが、同じくアリスタ様の寄子のコロネさんをお供に、ローテリゼが住んでいる屋敷にやってきて、アリスタ殿下の戴冠のときの付添人をやってほしいと言ってきたのだった。


 そう言われて、ローテリゼは少し驚いた。

 少し、なのはアリスタ殿下ならそういうことも言いそうという気もしたからだ。



「我が母であるアリスタ様は、このたびの式典にて戴冠され王になられます。

 王となられる方を陛下の前へお連れになる付添人は慣例によれば六名であり、そのうちのお一人をローテリゼ様にお願いしたいと我が母は申しております」


 トラーチェさんが屋敷の応接室でそう言ったときに、室内に緊張が走って、同席していた寄子たちが身じろぎしたことを、今でもローテリゼは覚えている。


「……しかし、私などは子爵に過ぎず、王たる方の付添人となるにはあまりに軽輩に過ぎます」


 ローテリゼは慎重にそう言ってみたけれど、トラーチェさんは表情を変えずに

「我が母は、あまり親しくない高位貴族の方々よりも、親しい方々に付添いをお願いしたいと申しております」

と言ってのける。


「ちなみに、他の付添人の方々はどなたがお務めになるのか教えていただいても?」

 よろしくお願いしますと言っちゃっていいものか、勇気が持てなくて、ローテリゼは時間稼ぎの意味で質問を重ねる。


「されば、執行部より首席であらせられるブレイル・ミット公爵閣下、また執行部を兼任しておられ、かつ診療部の副部長でおられるローラ・ヴァティカール侯爵閣下、診療部部長のランナ・シュバルツ男爵様、生産連絡会よりはテニオ・ソーモ侯爵閣下、ならびにウルス・アウレ伯爵様より付添人としてのご承諾を頂いております」


 執行部からは首席以外に他の公爵たちが入っていない。

 そして診療部からは侯爵のローラ様はいいとして、別に伯爵級も何人かいたはずなのに、その人たちを差し置いて、もちろん部長だからというのもあるかもしれないが、男爵のランナさんが入っている。

 ということは本当にお友達だけ集めたということで、その中にローテリゼも入れてもらえたということだろう。

 他の付添人には変な人も、ローテリゼと仲の悪い人もいない。

 ならば受けるべきだ。


「分かりました。精一杯務めさせていただきたいと思います」


 ローテリゼが、そのように答えるとトラーチェさんは、ありがとうございます、感謝いたします、と言ってから、ついでみたいに

「私と寄る母を同じくする、姉であるアリシアが、このたび男爵へと叙せられることになりましたので、我が姉にも付き添いを探しております。

 こちらのほうもお引き受けをお願いできないでしょうか」 

と言われてしまった。これも断る選択肢はない。


 こうしてローテリゼはアリスタ殿下と、その最も有力な寄子であるアリシアさんの付き添いを務めることになったのだった。



 ◆



 それで無事に式典は終わったのだけれども、ローテリゼが単なる子爵であるにも関わらず、王を皇帝陛下の前に連れて行く付添人のひとりを務めてしまったということは、つまりそれは王であるアリスタ殿下の意向でそうなったということになる。

 そしてさらに、アリスタ殿下の最も重要な寄子であるアリシア男爵の付き添いもローテリゼが務めることになったわけだ。


 これはたぶん付添人は(王は、王より上の爵位がないから別として)新しく叙爵される者と同じか一つ上くらいの爵位持ちが付き添いをするのが通例だから、自分の爵位が子爵でちょうどよかったんだろうと、ローテリゼは思う。


 そういうわけで、アリスタ殿下の付き添いと、アリシアさんの付き添いで、二回も出てきたわけだから周りから見れば相当に仲良しに見えるだろう。


 ローテリゼは学園に入学してから今年で四年目だけれども、その三年と数か月にわたる様々な人間関係の政治的小細工が、王の好意にまったく及びもしないというのは何かむなしい気もする。

 そしてそれを引き寄せた兄のエルゴルはやっぱり偉いなと、人徳が違うなとも思うのだった。

 

 ローテリゼは自分の寄子たちともなるべくいい関係でいられるように、寄子たちがリラックスして過ごせるように心を砕いてきたけれど、ローテリゼの人への接し方は、両親から学んだのも大きいけれども、兄のエルゴルを観察したり、あるいは兄のエルゴルがローテリゼに接してくれたそのやり方を学んでいる面も大きい。

 兄のエルゴルはとても優しいのだ。



 ◆



「それでアリシアさんとのデートのご予定などは、もう立てていらっしゃいますの?」

 ローテリゼの寄子のナイーダが興味津々な様子で兄のエルゴルに聞く。


「ここは都会ですから、レストランや喫茶店も数が多いですからランチをご一緒なさるのも良いでしょうし、図書館とか、公園とか、劇場へ観劇にいらっしゃるのも良いですわね。妄想が捗りますわ」

 ローテリゼの別の寄子で、背が高いスヴァルテが、いつもは真面目で、そんなことを言いそうもないのに、今日はそんなことを言いだした。


 すると兄のエルゴルは

「うーん、デートも憧れではあるんですが……実はですね、ふたコマ分ではありますが、うまく話を持って行けまして、アリシアさんの受ける授業を、私の受ける授業と同じものに変更していただけたんですよ。

 ですからまずはそこで接触を増やしてからですかねえ」

などと言いだした。


 いったい何をどうすれば、意中の相手の取る講義を二つも変更してもらうまで話が進むのだろうか。

 まったくびっくりしてしまう。あまりにも手際が良すぎる。


 そうやってローテリゼが驚嘆していると

「凄いですわね! 顔を何度も合わせていればなんとなく好きになってしまうものですわ」


「それはあなただけよ。惚れっぽいんだから」


「そうかな……皆もそうだと思うけどなあ」


「ちなみにどの講義かお聞きしても?」


「芸術と器楽の授業ですね。うまくスケジュールが合ったんですよ」

 兄のエルゴルがそう答える。


「まあ! 楽器の演奏の指導にかこつけて触れ合う指先! というわけですね?」

 きゃーっ、と楽しそうな歓声が上がり


「い、いやさすがにそこまでは考えてないです……」

と、兄がたじたじとなる。



「それで今日はそのアリシアさんと一緒の授業のときに話す話題を相談に来たわけ?」

とローテリゼが助け舟を出すと


「ああ、そうそう、その件でちょっと話の流れで、水の神の日は一日中ずっとアリスタ殿下に貼りついて護衛にすることになったから、ちょっと誰と誰が一緒に行動するみたいなスケジュールの組み換えしなきゃなんなくなって、今日はその相談に来たんだよ」


「えぇー……何がどうなってそんなことになったの?」


「いやあ、それがさあ、アリシアさんにいい恰好したくって、アリシアさんにオフの日を作るために、どの神の日かだけは、私がずっと付いてますみたいなこと言っちゃったんだよ。

 まあ仕事だからお金はアリスタ様から頂けるんだけど」


 それを聞いたローテリゼの寄子の皆から、また歓声が上がる。


 なんとまあ、兄がこんなに口も手も回る人だとは思わなかった。

 ローテリゼは感心するやらあきれるやらという感じだったけど、兄の恋路は応援したいので、寄子たちと相談しながら、水の神の日の行動予定を練り直したのだった。




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