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ハーフオーガのアリシア97 ― エルゴルの奮闘 ―


 今日はエルゴルさんが来る予定があると聞いていたから、何となく注意はしていたのだけれど、昼を過ぎて、お茶の時間の少し前に、前庭の土を踏む音が聞こえたので、アリシアは迎えに出た。

 音からすると、たぶん三人。



 玄関のドアを開けて外を少し覗き、それから大きく開いて外を見ると、エルゴルさんと、知らない中年の男の人と、あと女の人がひとりだった。


 エルゴルさんは相変わらずでっかい。

 普通の人よりずっと大きいアリシアより、さらにだいぶん背が高いし、横幅も厚みもすごい。

 太くて長い腕が六本あって、太くてすごく長い尻尾が、今日はなんだか機嫌が良さげに? ゆらゆらと揺れている。


 エルゴルさんは、アリシアの姿をみとめると、左側の三本の腕を全部上げて手を振ってくれた。



 三人が正面玄関からホールに入ってきたところで、出迎えに漂ってきたお嬢様にご挨拶をする。


「きてくれて、ありがとお!」とかお嬢様が返事をしている。




 エルゴルさんは、自分の大きな体に合うような、でっかいマントをメイドのミーナちゃんに渡したら大変だろうと思うのか、そのままマントを渡すのではなくて、六本もある腕で、マントを器用に畳んでから、ミーナちゃんに渡していた。


 エルゴルさんがマントを手放すとすぐに、お嬢様がふわりと漂ってエルゴルさんの一番上の手に抱っこされる。


「あのね、るすばん(留守番)ひと()と、もんばん(門番)ひと()がいるんだって」

とかお嬢様がエルゴルさんに訴えていた。


「お呼びたてをして申し訳ありません」

 トラーチェさんが口を挟むけれど


「いえいえ、こんなふうに歓迎してくださるのですから、ありがたくあります。

 お仕事もいただけるとのことで、それもありがとうございます」

と、優しい顔で言ってくれる。

 


 皆が椅子やらソファーやら厚手の布やら長持の上やらに落ち着いたところで、豚鬼族(オーク)のアイシャさんとメイドのミーナちゃんが、皆のぶんのお菓子と飲み物を運んできてくれた。


 今日のお菓子はホットチョコレートに、クッキーに、口の中をすっきりさせるためなのか? ぜんぜん季節外れの桃と梨が添えられてある。


「それでね、こうき(後期)じゅぎょう(授業)が、もうすぐはじまるんでしょう?

 うちはひとがすくないし、やしき(屋敷)から()になる()もありそうなの。

 それにクリーガが、もんばん(門番)をおいたほうがいいっていうのよ」


 エルゴルさんのお膝の上に座ったお嬢様が、そんなふうに言っている。

 それでいったん皆で屋敷の外に出て、正門のあたりを見に行った。


 すると敷地の、その門側の壁沿いにずうっと、門を跨ぐように建っている、木造二階建ての建物があるのだけれど、その建物に、ちょうど門番の人のためらしき部屋が、門の左右側にひとつづつ、ちゃんと二部屋あった。


 なんだ、じゃあここでちょうどいいじゃないか、となる。

 それでまた屋敷に戻ると、エルゴルさんのところの人を借りる値段交渉を、エルゴルさんと一緒に来た中年の男の人と、トラーチェさんがして、すぐに話がまとまった。

 聞いていると、明日から三人ほど人が来てくれることになったらしい。



 それで用件が終わってしまったから、まったりした空気になって、お菓子の残りを食べながら雑談していると、エルゴルさんが

「皆さんが後期の授業で出払ってしまわれるということで、私どもは留守番のお仕事をいただけましたが……あれ授業を組み合わせるの大変じゃなかったですか?

 授業をする場所がそれぞれ離れてて、取り方によっては移動が大変ですよね」

と話しかけてきた。


 それは確かにアリシアもそう思う。

「確かにあっちこっちしなきゃならない日もあるみたいですね」


「兵団の者も色々授業を取ってみるみたいですが、あんまり一人でうろうろさせると危ないかもわかりませんから、行き帰りがなるべく一緒になるようにしないといけませんが、何かこの授業を取っておかないと来年に取りたい授業の内容が分からない、とかもあるみたいで、誰と誰をどのタイミングであっちこっちさせるとか、もうパズルみたいですよ。

 あげくに誰と誰は仲が悪いから一緒に行きたくないとか、いろいろ言いますからもうね……」


 エルゴルさんはそう言って困ったように首を振った。

 それから

「また兵団の者などが、ご一緒できるところがあれば、ご一緒させていただければ嬉しいです」

と皆に向かって言う。


 そう言われてみて、アリシアは、自分はどの授業を取ることになってたかなと思ったから、いったん皆に断ってから部屋に戻って、授業の内容が詳しく書いてある案内の冊子を取って、また居間に戻ってくる。



 魔獣討伐演習に出る前のことだから、もう何か月も前のことだけれど、紐で綴じた大判の分厚い冊子みたいなやつをもらっていて、その中から取る授業を選んで、そのページの上のほうに小さく帯状に切った紙を糊で貼って付箋にしてある。


 ざっと見てみると、歌唱、初等数学Ⅰ、文芸、公衆衛生概論、大鬼族(オーガ)諸語、建築学Ⅰ、調理実習、西方帝国の政治と社会、帝国法概論、武芸Ⅰとなっていた。


 そこでアリシアはふと不思議に思って顔を上げる。


 そういえばお嬢様の予定はどうなっているんだろう?

 皆と相談しながら、好きなように取る授業を決めてしまったけれど、お嬢様と別の授業を取っていたら離ればなれになるんじゃないだろうか?


 それでお嬢様にどんな授業を取っているのか聞いてみたら、教えてもらっても、何を言っているのかよく分からないくらい難しそうなやつで、少なくともアリシアと同じ授業は一個もない。

 

 自分は一応はたぶん護衛なのに、そんな授業とかいうもののために、お嬢様をほっぽりだすわけにはいかないと、アリシアは思ったから

「じゃあ、私は授業を受けるのやめます」と言った。


「えっ、なんで?」

 お嬢様が目をぱちくりとさせて驚いたように言う。


「だって護衛の仕事があるんだから、そっちのほうが大事ですもん」


「えーっ、そんなのダメだよ。ごえい(護衛)はクリーガがしてくれるからいいよ」


 そんなふうに言われてしまうと、アリシアは自分を否定されたような気分になって、とても悲しくなって泣きそうになってしまった。

 でも半分意地になって、そんなわけにはいかないですよ、と弱々しく言って抵抗する。


 けれども、実際のところ全く理由がないわけでもなくて、それは、この間の男爵になったときの式典でもそうだけれども、自分よりだいぶ強いだろうなという人がたくさんいたことだった。

 自分は戦力評価ということで、四千五百票だかをもらってだから男爵ということらしいのだけれど、ということは、子爵以上だとアリシアより強い人がいっぱいいることになる。


 実際に、前になんかの学園の式典で、強い順に名前を貼りだしてる大きな紙を見たけれど、そこではアリシアは確か九十三位だった。

 ということは、この学園にはアリシアより強い人があと九十二人いることになる。

 その紙では、いちばん強いのはお嬢様ということになっていたけど、それでも他に九十一人だ。

 クリーガさんはこの屋敷の中では強いほうだけど、それでもアリシアよりは、たぶんだいぶ弱い。なんとなく分かる。

 この学園ではいちばん強いらしいお嬢様でも、それでも不意を突かれたら危ないかもしれない。


 でもクリーガさんじゃ弱くて不安だとかは、さすがに本人を前に言えないから、どうしたものかと一生懸命考えていると


「アリシア殿の言われることが正しいと思いますぞ。

 尊い母上の御身の周りに、あまりにも人が少のうございます。

 私は、あまり強くはありませんから、私ごときでは、正直に申しまして不安を感じまする」

と、なんとクリーガさん自身がそんなことを言い始めた。


 するとそれを聞いたお嬢様は

「そんなのいまさらなにいってるのよ! もうアリシアのぶんのがくひ(学費)だってはらってるのに!」

と、ぷんぷんと怒り始める。


 アリシアはこの学院の学費とやらを払ったことがない。

 まだ授業もないことだし、お金とかは後で払うのかと思ってたというのもあるけれど、実際のところ、あんまり気にしてもいなかったというのが正直なところだった。

 でも、お嬢様が払ってくださっていたらしい。


「で、でも何かあったら大変だし……」

と、アリシアはなんとか抵抗してみる。何かあったら後悔どころじゃないし。


「だれでもきょういく(教育)はうけるべきだって、おかあさまは()ったわ。

 わたしだってこのがくえん(学園)()たいわけじゃなかったけど、こうやって()てるんだから、アリシアもちゃんとじゅぎょう(授業)をうけるのよ」


 そんなふうにとっても立派に、お嬢様に諭されてしまったけど、でもやっぱり何かあったらいけないのは変わらないわけで、アリシアは困りはてる。



 そうしたら、お嬢様を膝に乗せたままのエルゴルさんが

「まあまあ、そういうときは何かうまい方法がないか検討してみるものですよ」

と口を挟んでくれる。


 うまい方法といったって、そんなものがあるんだろうか?


「例えばですね、授業に出た先で、どなたかご一緒できる方はおられませんか?

 私どもが、先ほど皆様に『ご一緒できるところがあれば、ご一緒させていただければ』とお願いしたのと同じことです。

 友好的などなたかとご一緒におられることが可能であれば、それだけでだいぶん安心ですしね」


 聞かれたお嬢様は

しんりょうぶ(診療部)のみんなといっしょになるじゅぎょう(授業)がおおいみたいだけど……」

と、考えながら答える。


「それは良いことです。

 ローラ・ヴァティカール様をはじめ、お友達がたくさんおられますね。

 あとは移動経路と受ける講義の日時ですね。どなたか街の地図をもっておられませんか?」


 するとコロネさんが、自分が持っていますと言って、いったん部屋かどこかに戻ってから、そうして持ってきてくれる。

 ありがとうございます、とエルゴルさんはお礼を言ってから、今度は自分のお膝の上にいるお嬢様に

「この地図と同じくらいの紙を七枚ほどいただけませんか?」と頼んだ。


「ん」


 お嬢様は荷物袋の異能から出したらしき、紙を小さなおててに握って、上を見上げながらエルゴルさんに渡す。

 エルゴルさんは紙を受け取ると、一番上側の手でお嬢様を抱っこして持ち上げ、それから自分は屈みこんでは、ペンを取り出して、いちばん下側の腕で、地図から街の外観を、もらった紙に大雑把にに写し取った。

 そうしてそれぞれ、紙の端っこに月の神の日とか、火の神の日とか、水の神の日とか書いていく。

 たぶん週日ごとに紙を作っているんだろう。


 それから真ん中の手を使ってアリシアの冊子をぺらぺらめくって、週日ごとに授業を受けるだいたいの位置を、その簡単に写した地図に書いていく。


 次はお嬢様にお話を聞きながら、やっぱり同じように、お嬢様が授業を受ける場所を、地図の写しに書いていく。


 それから今度は余った二枚の紙に、それぞれアリシアとお嬢様が週日のどの日の何時から授業があるかを一覧にして書いていく。


 そうしてできあがった紙を見ていくと、お嬢様が授業を受けているときに、アリシアが別の授業を受けているときが、一週間で五回あった。


「……じゃあ、授業を受けるのをやめなくても、五個減らせばいいということですか?」

 アリシアがエルゴルさんの手元を覗き込みながら、そう聞くと


「うーん、それだと進級するには単位が足りないんじゃないですかね」

と言われてしまった。


「進級ってなんですか?」

とアリシアが聞くと、今度はトラーチェさんが


「ひとつの授業を半期のあいだ受けると、2単位がもらえるんですが、これを集めて半期で16単位にしないと、上の級に進めなくて、投票権も貰えないという仕組みになってるんです。

 だから最低、週に8個は授業を受けないといけないんですよ。

 いまアリシア様は、10個授業を取っておられるんですが、ここから5個もやめちゃうと、残りは5個ですから、8個に足りなくなっちゃいます。

 それに、授業の後の試験に合格しなかったら落第といって、その授業の単位が貰えなくなりますから、そういうのも考えて、10個くらいは授業を取るのが普通なんです。

 だからアリシア様も、お嬢様も10個授業を取っておられるんですね」


 そう言われてしまうと、やっぱりアリシアは困ってしまう。


 するとエルゴルさんは、アリシアが付箋を貼ってある冊子をもう一度ペラペラとめくりながら

「アリシアさん、この中でどうしても受けたい授業と、あきらめてもいい授業ってあります?」

と聞いてきた。


「そんなこと言われても……そもそも授業というのがどんなのかもよく分かりませんし、なんにも分かりませんから、特にこだわりとかはないです」


「そういうことであれば、取る講義を別のに変えればいいんですよ。

 アリスタ様が講義を入れていない時間に、アリシアさんが講義を取るようになさったらいいんです」

 エルゴルさんはそう言って、アリシアとお嬢様が週日のどの日の何時から授業があるかを一覧にした紙をそれぞれ一枚ずつ手元に引き寄せた。

 七枚の紙をお嬢様からもらって作ったうちの二枚だ。


「この学園はですね、土の神の日と、陽の神の日は講義がお休みです。

 ですから授業は、残りの、月の神の日から金属の神の日までの、五日間にあるんですね。

 つまり平日にあります。

 それで、一日に一限から四限まで、四つ講義を入れられる時間の枠があるそうなので、最大で週に二十個の講義が取れるんですよね。

 ということはですよ。アリスタ様の講義のない時間だけで、アリシアさんが取る講義の分を十個選ぶこともできるということです」


 エルゴルさんが書いてくれた、自分用とお嬢様用の、予定表の紙を見てみると、確かにそんなふうに見える。

 授業を受けないと言うと、お嬢様が怒るし、でも護衛の仕事を放り出すわけにはいかないから、それなら、お嬢様が授業に出る以外の時間で、別の授業を選べばいいということだろう。


「じゃあそうします」と、アリシアがエルゴルさんに言うと


「きにせず()きなのえらべばいいのに……」

と、お嬢様はそれでも言っていた。


 それで、アリシアが授業の案内が書いてある冊子を手に取って眺め直していると、エルゴルさんがアリシアに

「私の取ってる授業があるんですが、たしか時間がアリスタ様の授業とぶつからないと思いますので、どうですか?」

と言って、アリシアから冊子を受け取って、そのページを開いて見せてくれる。


 中には、美術がどうとか書いていた。


「美術ってなんですか?」


「彫刻とかも多少あるみたいですが、だいたいは絵を描くみたいですよ」

 アリシアが聞くと、エルゴルさんはそう教えてくれる。


「絵って……そんなものを勉強するんですか」


 絵なんてものは、地面とかに木の棒で描いたりとかするものだと思っていたから、不思議な感じがする。

 あんなもんをどう勉強するんだろう。


 ああでも、貸本屋さんで借りた本の中に、ごくたまに挿絵が入っているのがあったりして、それは確かにきれいだと思う。

 挿絵が描けるようになるんだと思えばけっこういいかもしれない。


 というかもう別になんでもいいので、絵だろうとなんだろうと構わない。

「じゃあそれにします」とアリシアが言うと


「他にはこんなのもありますよ」とエルゴルさんは、また冊子のページをめくって見せてくれる。


 そこには器楽と書いていて、器楽ってなんだろうとアリシアが考えていると

「これはですね、楽器の演奏を習うんですよ。楽器は持ち込みですが、私もこの授業をとっていますし、楽器はお貸ししましょう」

とエルゴルさんが言ってくれた。


 アリシアの実家がある山の、その麓の村の酒場で村の皆で宴会とかしていて、雰囲気が乗ってくると、()オラを弾いてくれるおじさんがいたけれど、ああいうのを習うということか。

 学院というと、もっと真面目にお勉強のようなことをするものだろうと想像していたけれど、案外とそうでもないのかもしれない。

 まあこれも楽しそうだし、別になんでもよかったから、じゃあこれも受けますとアリシアは言った。


 

 そうしたら、話を聞いていたお嬢様が、エルゴルさんのお膝から上を向いて、エルゴルさんの顔のほうを見て

「エルゴルさんってけっこうろこつ(露骨)だよね」と言う。


 露骨ってのは何のことだろうか。


「まあこういうのは不慣れなもので……勘弁してください」

とエルゴルさんが頭を下げる。


「なんですか?」

と聞いてみるけれど、お嬢様は

「そのうちわかるから、ゆっくりまってたらいいわ」と言って教えてくれなかった。

 いったい何だろうかとは思うけど、そのうち分かるらしいので、気にしないでいることにする。



 するとお嬢様が

「それより、このままだとアリシアのふたん(負担)がおおきいわ。

 まいにち、ずうっと、あさ()からゆうがた(夕方)までになっちゃうじゃない」

と言いだした。


 せっかく話が収まりそうだったのに、と思ったアリシアは

「でも土の神の日と、陽の神の日は、お休みでしょう? 大丈夫ですよ」

と言ってみた。


 けれどもトラーチェさんが

「それがそうとも言えないんですよ。

 政治向きの会合とか、出ておいた方がいいパーティーとかが、夜やお休みの日にあったりしますからね。

 護衛にずっと付かれるのであれば、あんまり予定を詰めすぎるとよくありません」

と言ってくる。


 狩りにでたら何日か徹夜とかすることもあったし、夜に普通に寝られるんなら、体力には自信があるし、なんとでもなるんじゃないかなとアリシアが考えていると、エルゴルさんが


「お仕事という形でご依頼いただけるのであれば、私がアリスタ様に付かせていただくことも可能ですよ」

と言った。

「ほんと!?」と、お嬢様はとても嬉しそうに言う。


 アリシアは、とても嫌な気がしたけれども、エルゴルさんは自分よりだいぶ強いとも思う。

 そうなるとクリーガさんでは弱いから心配だ、みたいな言い方もできない。


 お嬢様を取られるのは嫌だから全部私がやりますとは言えず、アリシアが黙っている間に、お嬢様とエルゴルさんは、アリシアの授業の予定表を眺めて、どの神の日にしようかとか相談している。

 それで水の神の日は、朝から夜までアリシアのかわりに、エルゴルさんがお嬢様に付いてくれることになってしまった。


 話がついたお嬢様が、ふとアリシアのほうを見て、ちょっと怪訝そうな顔をする。

 それからエルゴルさんの膝の上から浮かび上がって、ふわりとアリシアの方に飛んできた。


 そうしてアリシアに向かい合うように抱っこされると、お嬢様はアリシアに言い聞かせるようにして

「あのね、ねっしん(熱心)なのはうれしいけど、いっしゅうかん(一週間)のうちにいっかいもやす()みがないのはよくないわ。

 ひとにはやす()みがひつようなの。じぶんでもほんとうにそうおもったわ」

と、しみじみと言った。


 それを聞いていた豚鬼族(オーク)のアイシャさんが、おかしそうに笑いだして

「お嬢様も、あの十九日くらい連続で働いたのは、しんどかったのね」※

と聞くと、お嬢様はすなおに


「うん、ほんとうにつかれたわ」

と返事をして、それからアリシアに向き直り


「だからね、アリシアもいっしゅうかん(一週間)にいちにちくらいは、じぶんだけの()があったほうがいいのよ」

と言ってくださった。


 どうもアリシアの顔に不満が出てしまっていたようで、それでそんなふうに気を遣ってもらいながら諭されてしまうと、アリシアとしてはもう何も言えなくなってしまって、わかりました、と返事をするしかない。


「でもセックヘンデ様も、授業などのご予定がおありでしたでしょうに、ご都合とかはよろしかったのでしょうか?」

 トラーチェさんがそう聞いてくれたけど、エルゴルさんは


「まあ授業は、それはそれで楽しみにしてはいましたが、私は授業を受けにここに来たのではありませんからな。

 それに、色々と入用ですから、お仕事を頂けるのはありがたいことですよ」

と笑顔で答えた。



 それからエルゴルさんは、長い尻尾をまたゆらゆらと揺らしつつ、機嫌が良さそうに悠然と帰っていったのだった。



■tips



※ハーフオーガのアリシア93 ― ゴルサリーズ男爵Ⅱ ―

(https://ncode.syosetu.com/n2133ga/112)を参照



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