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ハーフオーガのアリシア94 ― ゴルサリーズ男爵Ⅲ・アリスタ王の戴冠 ―



 パリシオルムの学園のお屋敷に戻った次の日、お嬢様は朝食にも昼食にも夕食にもでてこずに、一日寝込んでおられた。

 アリシアはお嬢様が心配で本当に不安になる。


 アイシャさんに聞いてみると、疲れてるだけだから大丈夫よとは言ってくれるけど、どうにも落ち着かない。


 するとアイシャさんは

「令術力が高くて、たぶん長生きする人はあんまり病気になったり風邪をひいたりはしないものよ。

 だからお嬢様は大丈夫。アリシアさんだってそうじゃないの?」

と、アリシアに言ってくれる。


 そう言われてみると、アリシアの家でも、体調を崩したり風邪をひいたりするのは、いつでも只人のお母さんで、アリシアやお父さんはそういうことは一切なかった。

 だからこそ、何が起こっているのかよく分からなくて、不安になったものだった。



 アイシャさんにそう言ってもらって納得はしたけれど、でもやっぱり少し不安で、だから次の日の朝にお嬢様が元気に起きてこられたのを見て、思わず涙が出そうになる。


 居間に漂い出てきたお嬢様を捕まえて、ソファーに座り、膝の上に乗せて、朝食前のおしゃべりをしていると、トラーチェさんがやってくる。


 トラーチェさんは朝の御挨拶をしてから

「今度、帝国のほうからですね、冠と頸飾(けいしょく)、それに(しゃく)の支給があります。

 それで宝飾店に作ってもらわないといけないので、サイズを測らせていただきますわね」

と言った。


「なんですかそれ?」


「冠っていうのは、頭の上に乗せる帽子みたいな飾り物ですね。

 頸飾っていうのは首飾りのことで、笏っていうのは……なんだろ、棍棒ですかね?」


「棍棒? 棍棒なんか作るんですか?」


「いや、棍棒っていってもですね。もっと宝石とかついたきれいなやつですよ」


 宝石とかついたきれいな棍棒ってなんだろう……

 いやそもそも、自分のような大鬼族(オーガ)が棍棒を持っているという姿はまわりからどう見えるだろうと心配になる。


「ではちょっと失礼します」

と言って、トラーチェさんは、とても細い縫い糸のようなものを取り出して、お嬢様の頭の周りや首周り、それに身長を測って、測った長さに糸を切っていく。

 アリシアも身長だけは(トラーチェさんの身長が足りないから)自分で測って、他はトラーチェさんに測ってもらった。


「宝飾店に急いで出してきます!」

 トラーチェさんはそう言って、出て行ってしまう。


 いったいなんだったのか、アリシアは膝の上に向かい合わせに抱っこしたお嬢様と、顔を見合わせて首を傾げたのだった。



 ◆

 

 

 その翌々日に、またトラーチェさんが盛装のチェックをすると言いだして、何かと思えば、さらにその次の日に儀式があるのだそうだ。


「そうなんですね」

とか返事をして、アリシアが暢気に構えていると、トラーチェさんは皆の衣服を破れや汚れがないか点検しつつ、アリシアを横目で見て


「私たちは参列するだけですけど、お嬢様とアリシアさんは主役で参加するんですからね」

と言ってきた。


「えっ?」


「前にアリシアさんが男爵様になられるって申し上げたことがあったでしょう。

 あれが明日あるんですよ。儀式っていうのは新しく貴族になられる方の公示の儀式です。

 今回はお嬢様が王様になられるので、その公示の儀式もありますね」


 男爵になるとは聞いていたけど、それが明日かあ、と思うと何か心の準備ができてない気がする。


 ともかくも不安になったアリシアは、自分の盛装をもう一度チェックしなおしたのだった。



 ◆



 さらに翌日に、皆で盛装に着替える前に朝食を食べる。


 朝食は、山盛りの菓子パンに葉野菜のサラダ。

 小魚と薄く切った玉葱と細く切った人参を、酢と塩で漬け込んだマリネ。

 それから胡椒と塩と香草で味付けしてオイルをかけた目玉焼き。

 ローストした林檎にシナモンと泡立てたクリームを載せたものに、ミルクたっぷりの暖かい珈琲がつく。


 朝からこんなに贅沢していいんだろうかというような内容だけど、トラーチェさんはなんだかピリピリしていて、食が進んでいないようだった。


「大丈夫ですか?」

と、声をかけてみると、トラーチェさんはなんだか緊張したような顔で目を上げる。

 なんだか顔も青白い気がした。


「はい、すみません。私が叙爵とかされるわけでもないのにダメですね。なんだか緊張しちゃって……」


「よくわからないけど……たぶん、ご飯のほうが大事ですよ」

 アリシアがそう言って、お嬢様のほうについっと目線をやって、トラーチェさんの視線を誘導する。


 お嬢様は小さなおててに菓子パンを握って、めちゃめちゃいっぱい食べていて、お腹が真ん丸になっている。


 トラーチェさんはそれを見て、ちょっと笑ってから

「そうかもしれませんね」

と言ってくれた。


 トラーチェさんが、何をそんなに緊張しているのかと気になったアリシアは

「今日の王様か貴族様かになる儀式とかいうので何かあるんですか?」と聞いてみる。


「何かあるってわけじゃないですけど……皇帝陛下もいらっしゃいますしね。

 お人形様越しですけど、ご本人がその場にいらっしゃるのと変わらないし、この国には一億人くらい人がいますけど、その中でいちばん偉い方なんですよ。

 それは緊張もします。お嬢様もアリシア様もあんまり緊張はしてらっしゃらないみたいですけど……」

 トラーチェさんはちょっと不満そうな調子で教えてくれた。


 ていうか億っていくつのことだったっけ。

 確か万の次で、でも、お嬢様がこのあいだ金貨十何万枚で小麦を買ったのがどうとか言ってたから、十万があるなら百万とか千万もあるはずだけど、万万だとおかしいからたぶんそれが億だったはずだ。

 お母さんに確かそう習った気がする。


 なんだか数字が大きすぎてアリシアにはどうもピンとこない。

 桁の順番もあやふやだし、後でトラーチェさんに確認しておくことにした。



 ◆



 それから皆で盛装に着替えてから出発した。

 いつも通り馬人族(ケンタウロス)のウィッカさんの曳いてくれる馬車に乗って、トラーチェさんの言う方向へ、道には雪の残る寒さの厳しい街を走る。

 けっこう人通りがあって道が混んでいた。

 そうして、同じ方向に向かうらしき大勢の人たちと一緒に、分厚い市壁を抜けて街の外へ向かう。


 やがて馬車は、街の外れにある競技場のほうへ向かった。

 入学式や、魔獣討伐演習の出陣式をやったところだ。※1



 競技場に近づいていくと、その競技場の、人が行進したりする楕円の横の、大きな四角い岩を階段状に積んで作られた客席に、人がいっぱい座っているのが見える。

 真冬で寒いのに本当に人がいっぱいで、アリシアは驚いてしまう。



 馬車が近寄っていくと、黒いマントを着て平べったい黒い帽子をかぶった、同じような格好をした人たちが二人で寄ってくる。


「おはようございます。今日の良き日にこのようにお目にかかれますこと嬉しく存じます。

 ゴルサリーズ様におかれましては、出番はもうすぐでございますので、私からご案内をいたします。

 ファルブロール様におかれましては、出番が最後でございますので、馬車溜まりの方にて、今しばらくお待ちいただければと存じます。後程に案内のものが参りますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言って頭を下げてくれる。


 それでアリシアはお嬢様と別れて、係の人に連れていかれることになったのだけど、その別れ際にトラーチェさんが

「アリシア様の付き添いを、ローテリゼ様にお願いしておりますので、また出番のときには迎えに来てくださると思います」

と言ってくれた。


 ローテリゼ様というのは、あの赤銅色の髪の、討伐演習のときに隊長さんをしてくれたローテリゼさんのことだろう。

 何の付き添いなんだろうとは思ったけれど、知りあいが迎えに来てくれるらしいので、それは心強い。


 それで、わかりましたとトラーチェさんに返事をしてから、案内の人に連れていかれるままに、競技場の、人が行進したりする楕円から、少し離れた端っこのほうに連れていかれる。


 そこには、魔獣討伐演習のときに、目的地の砦の広場に建っていたような(アリシアも中に入れるくらいに)大きな天幕がひとつ立っていて、係の人が、その天幕の入り口の布をめくって「中へどうぞ」と案内してくれた。


 天幕に入ってみると、中はとても暖かくて、中央の炉に術石の大きな塊が入れてあって、天幕の天井からは、灯りの術石が入ったランタンが幾つかまとめてぶら下がっていて、とても明るかった。


 天幕の床には、中央に背の低い丸テーブルが置いてあって、その周りを椅子が円形に取り巻くように十一個並べてある。

 その席が半分くらい、六人ぶん埋まっていて、男の子と女の子が半分ずつだ。

 アリシアが入っていくと、だいたいの人が会釈をしてくれたので、アリシアも挨拶を返す。

 椅子の中にひときわでっかいのがあって、どうやらそこがアリシアの椅子らしかった。


 アリシアが椅子に座ると、案内の人と似たような恰好をした男の人が、銀のトレイに、珈琲の入ったカップと、おやつなのかナッツに飴をかけたものを、載せて持ってきてくれた。


 ありがたくいただいて待っていると、隣の椅子に座っている女の人が話しかけてきてくれる。

 アリシアよりは少し年上に見えて、まあニ十五歳とかそれくらいだろうか。

 髪は栗色で、目がきらきらしている。


「あの、ゴルサリーズさんですよね」


「はい」


「私はラウタ・ゲルリヒト・プレヒャーと申します。

 ゴルサリーズさんは、魔獣討伐演習ではご活躍であったとお聞きしました。

 天竜の頸を落とされたとかで叙勲もされてらっしゃいましたよね。

 このたびの叙爵も、おめでとうございます」


「はあ、ありがとうございます……?」


「私は野生の天竜とか見たことはなくて、入学式とか討伐演習で人が騎乗してあるのしか見たことはないのですけど、あんなに大きなものをよく仕留められましたね」


「いや、あれはまあ……他の、うちの大隊の隊長さんだったローテリゼさんとか、エルゴルさんっていう人が天竜の気をひいてくれてたので、その隙に横から忍び寄ったらうまく頸を切れちゃったというか……」


「でも私なんかだと、そもそも立ち向かおうと思いませんわよ。

 寄っていって頸を落とそうだなんて……勇敢なんですね」


 勇敢というのは褒めてくれてるんだろうけど、魔獣とやりあっても怖いとか思ったことが、あんまりないからよく分からない。

 怖くてもがんばるというのが勇敢というやつだろうから、ちょっと違うような気がする。


 それで少し考えて

「あんまり考えてなかったんですよ」とアリシアは答えておいた。


 ご謙遜を、と言ってラウタさんは笑う。

 でも、本当なんだけどな、というのがアリシアの感想だった。


「そういえばアリシアさんの寄親のファルブロール様は、天竜を二頭も討伐なさったとか」


「そうですね。なんかすごい大きな岩を空中にいっぱい出して、天竜の上から落として、二頭まとめて下敷きにして一瞬で狩ってしまいました。すごいですよねえ」


「まあ! そんな流れだったんですね。

 討伐演習の報告書は読みましたけれど、概要しか書いてなくて、そのような細かいことは分からなかったので……毎日二千何百人もの人々に、食べ物や風呂を提供してくださるのですから、たいへんな荷物袋の異能だとは思っていましたけれど、そんなことまでされていたんですね。

 アリスタ様は普段はどのような方なのですか? お好きなものとか何かおありでしょうか」

 


 お嬢様が好きなものといえば、奥様とかアイシャさんとか、それから嬉しいことに自分。あと診療部のローラさんと、六本腕のエルゴルさんだとは思うけれど、たぶんそういうのが求められてる答えじゃないだろう。


 とはいっても、お嬢様って、赤ちゃんみたいな見た目だけど、おもちゃを欲しがるでもなく、金貨銀貨宝石みたいなものも、まるでどうでもいいものみたいに扱うことがあるし、お洋服やかわいいものが好きというわけでもなさそうだった。


 それでいろいろ考えたあげく

「お菓子とか、まあ菓子パンですかね」と答えておく。


 お嬢様は体の大きさの割にはよく食べるし、今朝だって菓子パンをいっぱい食べてお腹がまんまるになっていた。

 それにお嬢様のリクエストで、朝のパンが菓子パンになることがけっこうある。

 お嬢様はなんでも出されたものを黙って食べるし、自分であれが食べたいこれが食べたいともあんまり言わないけれど、菓子パンだけは、たまに朝のパンのかわりに食べたいと言うことがある。


 考えてみれば不思議なことで、お嬢様の荷物袋の異能の中には、だいたいなんでも入っているんだろうし、そうでなくても、お金持ちだから、その気になれば何でも買えるだろうに、お嬢様は自分のためにはほとんど何も使わない。

 たまに、朝のパンを菓子パンに代えてほしいと言うことがあるだけだ。


 お菓子やアイスクリームや果物も好きだけど、自分のために出して、自分が食べるということはない。

 寄子の皆に食べさせるために出してついでに食べたり、訪ねてくるお客さんや、あるいは討伐演習のときに皆のために出して、そのついでに食べるくらいだ。

 考えてみれば不思議なことで、何か自分で決めたルールでもあるのかなと思う。


 菓子パンですか……と言って、ラウタさんは考え込む。


「ファルブロール様には演習でとてもお世話になったので、お礼に何かお好きなものでもお持ちしようかと思いましたが、贈答品で菓子パンをお持ちするというのも何か変ですわよね」


「いいんじゃないですか? お嬢様って菓子パン好きだし。喜ぶと思いますけどねえ」



 そんな感じで、お嬢様がどうとか色々と話していると、空いてた席もすっかり埋まって、椅子に座っている皆がこっちのほうをなんとなく見ていて、話に聞き耳を立てているような様子だった。

 やっぱりお嬢様のことはみんな気になるよね、とアリシアはちょっと得意なような気分で思う。



 やがて、黒いマントを着て平べったい黒い帽子をかぶった案内の人が天幕の中に入ってくる。

「式典の始まる時刻となりましたので、皆様にお出ましをお願いいたします」

とのことだった。



 案内の人の言うとおりに、天幕を出て、並んで周りを見渡すと、いつの間に用意したのか、人や物がいっぱい増えている。


 まず、競技場の人が行進したりする楕円の、その観客席になっている階段状の石積みの前には、喇叭とか太鼓とか弦楽器とか笛とかの楽団が並んでいた。

 さらに競技場の楕円の、観客席がある側の、その逆側のほうに、観客席に向かい合うようにして、すごく立派な椅子のような台のようなものが置かれている。

 あれは椅子なんだろうか……?


 その椅子のような台のようなものは、脚とかは金色に輝いていて、座る部分は、柔らかそうな赤い布張りで、すごく派手に見える。

 そして、とっても立派なひじ掛けのようなものがついている。


 それだけ見ると豪華な椅子のように見えるけれど、その椅子のような台のようなものには背もたれがなくて、それが不思議なのだった。


 酒場とかの簡易な椅子なら、背もたれがないのも分かるけど、キンキラキンに輝いていて、真っ赤な布張りで、立派なひじ掛けがついていて、すごく豪華そうに見えるのに、なぜか背もたれがないので、なんだかアンバランスに見える。


 そしてその観客席と豪華な椅子だか台だかの間を横切るように、金糸で飾りの入った真っ赤な幅の広い絨毯が長々と敷かれていて、その絨毯の中心あたりから、豪華な椅子の方に向けて直角に、また別に短めの絨毯がでていて、豪華な椅子のところまで続く道のようになっているのだった。


 それからその長い絨毯に沿って、立派なお仕着せみたいなものを着て、金色のまっすぐな喇叭を持った人たちがずらずらと、観客席に背を向けて、豪華な椅子だか台だかに向かい合うようにいっぱい並んでいる。


 案内の人が

「皆様の付き添いをしてくださる方がおいでになりますので、こちらで今しばらくお待ちください」

と言って、どこかへ行ってしまう。


 それで皆で待っていると、天幕の中にいた人数と同じ数の、つまり十一人の人が向こうからやって来るのが見える。

 そしてその中には、今日も立派で豊かな赤銅色の髪のローテリゼさんもいたのだった。


「お待たせ、待った?」


「いえ、いま天幕から出てきたところなので……今日は私の付き添い、とかいうのに来てくださったんですか?」

 トラーチェさんが確かそんなことを言っていたなと思い出しながらアリシアは聞く。


「そうだね、トラーチェさんから頼まれたの」


「それはありがとうございます。とは言っても今から何があるのか、あんまり分かってないんですが」


「皇帝陛下にお辞儀をして、書類と冠と笏と首飾りをもらって帰ってくるだけだよ。

 まあ皇帝陛下の御人形の前にでなきゃいけないから、緊張はするけど、そんなに難しいことじゃないから大丈夫」


 ローテリゼさんは、そんなふうに言ってくれたけれど、なんだか分かったような分からんような気分になる。


「アリシアちゃんは、新しく男爵になる人たちの中では、皇帝陛下の前に出る順番は最後だから、まあ前の人がやってることを見ててマネしたらいいよ」

と言ってくれて、やっとアリシアは安心したのだった。



『ご来場の皆様におかれましては、ご静粛に願います』

という、女の人のきれいな声がする。



 大きな声ではないのに、あたり一帯にずうっと響き渡るというのは不思議で、令術具というのはすごいなあといつも思う。お嬢様が部屋を涼しくしてくれたり、暖かくしてくれたりするのもそうだけれど。



『パリシオルム高等学院執行部首席ならびに来賓の皆様が入場いたします』



 すると少し離れた場所から金色の装飾がついた黒くてガラスみたいに艶々した、きれいな屋根のない馬車が三台ほど車列をつくってやってくる。


 そうして階段状になっている観客席の前の、立派な椅子が幾つも並んだところまでやってきて、そこで馬車から中の人たちが何人も降りて、その座席に座った。



 するとまた女の人の声がする。

『皇帝陛下が御人形にて臨席されます。皆様、起立してのお迎えをお願いいたします』



 また馬車が来るのかなと、アリシアがのんびり眺めていると、西の空が一瞬光るのが視界の端に入って、何かと思ってそちらを見ると、何か白っぽいものが、こちらに向かって、けっこうな速さで飛んできているのが見える。


 その白っぽいものは、競技場の観客席と反対側に、観客席と向かい合わせに置いてある、キンキラキンで真っ赤な布張りの、椅子だか台だか分からないようなものの前あたりに降り立ったのだった。


 降り立ってみると、その白っぽいものと見えたのは、人間で、でもただの人間ではなくて、鳥の翼みたいな、ものすごく大きな翼が何枚もいっぱい生えている。

 そのせいで、背中から大きな白い花が咲いているようにも見えなくもない。


 その翼がいっぱい生えた女の人が、観客席に向かって手を振ると、わあっ、と大きな歓声が上がる。

 

 キンキラキンで真っ赤な布張りの、背もたれがない椅子に、その人が座ると、背中から生えている翼が引っかからずに座れる。

 だから椅子に背もたれがないんだなとアリシアにも分かった。


 なんだあれはとアリシアは少し驚くけれど、普段からお嬢様が空を飛んでいるのをよく見ているから、そんなにものすごく驚くわけではない。

 でもお嬢様以外で生身で空を飛ぶ人が他にもいたんだとは思ったのだった。



 それから金髪で長髪の、細面ですごくきれいな顔をした若い男の人が、競技場の楕円の外から、その背もたれの無い椅子のほうに歩いていって、跪いて頭を垂れてから立ち上がり、その傍に控えるように立つのが見える。


 アリシアはとても面食いなのできれいな男の人にも大注目で、そっちのほうを食い入るように一生懸命眺めていた。



 すると出しぬけに

『ただいまより、第五百二十八年度、帝国パリシオルム高等学院、叙爵、陞叙、戴冠式を開催いたします』


『執行部首席式辞』


 という声がして、それでアリシアの金髪長髪細面美形お兄さんへの集中が途切れる。


 それから今度は、銀髪に銀縁眼鏡の、たしかブレイルさんとかいう人が、観客席の前にある椅子から立ち上がったけれども


「帝国パリシオルム高等学院執行部首席の権限において、帝国パリシオルム高等学院、叙爵、陞叙、戴冠式の開式を宣言する」

 ブレイルさんはそれだけ言うと引っ込んでしまった。


『唱歌【英雄たちの誕生】が演奏されます。皆様ご唱和ください』


 そうして重々しい調子で楽団が演奏を始める。

 ご唱和くださいと言われたって、そんな歌は知らないので、どうしよう、とアリシアは焦ってキョロキョロと周りを見回してしまう。



 ◆



『今日、この日に英雄たちが生まれる。喜ばしいこの日に!


 勝利の冠をもて治むる君たちよ!


 民の喜びに満たされ、愛された君たちよ。


 いとも強大な魔獣さえ、君たちには敵わず


 愛こそが、大波に耐える巌の如く、御国を固く護るなれ。


 炎よ! 燃え上がるべし、絶えることなく。


 御国のために!



 戦士たる君たちの行いは、御国にありて、決して朽ちざる誉れなり。


 我らの永き誉れにして、人々の誇りよ!


 輝かしき御国にあり、民の喜びに満たされ、愛された君たちよ。


 勝利の冠をもて治むる君たちよ!』



 ◆



『ご唱和ありがとうございました』


 という声はしたけれど、アリシアの周りの天幕で一緒にいた人たちは歌っていなかったし、ローテリゼさんも歌っていなかったので、自分は歌わなくてもよかったのかな……? と疑問に思わないでもなかった。

 観客席のあたりの人たちは、一生懸命に歌っていたようだけれども。


 

『続きましてご来賓の、帝国軍南東第八方面軍参謀副長マグノ・カピーテ閣下より、ご挨拶をいただきます』


 そう声がかかると、立派な口髭を蓄えた、でっぷり太ったおじさんが立ち上がって話し始める。


「今日、このような良き日に、新たな支配者たちが、公に知らされる場に列席できたことをまことに喜ばしく思います。


 新たな男爵が十一名、子爵が五名、伯爵が三名、天竜候と、侯爵がそれぞれ御一方ずつ。

 そして何より新たな王が、それも極めて強力な王がこの世にお出ましになった。

 これを私は深く慶賀するものであります。

 我らは皇帝陛下の臣民たる民を、魔獣の脅威、また列国との諍いから守護せねばならない。


 この崇高な責務を果たすうえで、新たなる諸卿が力を添えてくださることを、またとりわけ新たなる王が、その御力を顕されんことをお願いするものであります。


 諸卿また殿下にあっては、観客席に座っているような、普通の人々をどうか愛し、慈しみ、彼らをどうか貴重な、極めて貴重なものと見てくださいますように。

 それは全く事実そのものだからです。


 されば、いとも慈悲深く偉大なる守護者であられる皇帝陛下は、名もなき、普通の、一般の臣民たちが、特に何ということを成し遂げずとも、あるいはもっと恵まれない人たちが、社会の負担にさえなろうとも、そのような人たちを愛しておられます。

 御自ら、御人形様方を通して、そのような人たちに世話や保護や扶助を賜る。

 それはすなわち人というものには、普遍的な価値があるということを陛下御自らお示しになっておられるということになるのです。


 また、そのような理想を離れた実際的な面から言っても、数の上では普通の平民たちが圧倒的に多く、かつ数が多いために、社会における生産活動のほとんどは彼らが担っているということは、まったくの事実でもあります。

 実際に数えてみれば、今日の主役であるような貴族たる方々は、社会において三百人に一人ほどしかおられない。


 そうであれば食料を生産すること。様々な物品やサービスを考案し作成すること。

 これらの大部分は一般の臣民が行うことと言えるのであり、すなわち豊かな生活というものは、彼ら無しに成り立ちえず、故にこそ彼らこそが社会の生産における主役とも言い得ることであるのです。

 諸卿方、また殿下も、ただ魔獣の肉のみをお食べになり、魔獣の革のみを身に纏われるわけではないはずであります。

 貴族でも王でも、畑の恵みと農夫の働きを食べ、糸紡ぎの婦人たち、機織りの職人や針子の働きを身に纏われるのです。


 人はそれぞれ自分の持ち場で、自分にできることをやっている。概ねにおいてそうです。

 そうして社会を、国を、人々を支えている。


 もちろん能力において個々人に差はあって、そうであるからこそ、殿下と諸卿方が貴族に叙されるのではあります。

 殿下と諸卿方は、普通の人に比べて能力が高く、できることも成果も多いでしょう。


 しかしながらこの国において、皇帝陛下ほどのお働きをなさる御方は他におられない。

 けれども陛下は、ご自身と我らをお比べになって、我らの働きが悪いなどとは仰せにならず、かえって能力の高いものも低いものも、貴族も平民も、我らそれぞれを愛して喜んでくださる。


 その陛下の寛容と愛に我らが救われてあるのなら、我らも他の者に対してそうすべきではないか。

 殿下と諸卿方に申し上げる。

 どうか人々に対する燃えるような愛を抱かれよ。

 そのようにして生きることが、貴族たるの喜びである。


 ……ひどく説教臭くなってしまったが、最後に再び、殿下の戴冠と、諸卿方の叙爵、陞叙をお慶び申し上げ、以上をもって私の(はなむけ)の言葉といたします」


 

 そう言ってから立派な髭のおじさんは台を降りていった。



 ◆



 なんだか難しい言い回しもあって、分かりづらかったけど、まあ、貴族になっても偉そうにせずに、みんなを大事にしましょうってことだなとアリシアは簡単に理解する。



『お言葉をいただき、ありがとうございました。続きまして、叙爵、陞叙、戴冠が行われます』


『本年度、新たに男爵へと叙される皆様が入場されます』


 そんな声がしたから、ひょっとして出番なのかなと思って、アリシアがキョロキョロしていると、同じ天幕にいた人たちが、歩きはじめて赤絨毯のほうに向かう。

 それでアリシアもついていこうと動きかけると、ローテリゼさんが

「アリシアちゃんは男爵の中ではいちばん最後だよ」と言って止めてくれた。


 見ていると、天幕の中にいた人と、後からやってきた付き添いとやらの人が、ひとりずつ組になって、一定の間隔を開けながら列になって歩いていく。


 最後の二人になったところで、じゃあ行こうか、とローテリゼさんが言ったので、それで二人で連れ立って歩いていく。

 一人だったらまごついて、変な動きをして恥をかいたかもしれなかったから

「来てくれてありがとうございます。助かりました」とアリシアは歩きながらお礼を言った。


「いや、お礼を言うのはこっちだよ。トラーチェさんか、アリスタちゃんか、二人ともか、私に気を遣ってくれたんじゃないかなあ、とか思うわけで……」


 どういうことだろう? とアリシアが疑問に思っていると、ローテリゼさんはアリシアが分かってない顔をしていると思ったのか、アリシアの方を横目で見ながら

「アリシアちゃんてさ、アリスタちゃんの寄子の中ではいちばん重要人物なの」と言った。


「……そうなんですか? お嬢様は、たぶんアイシャさんがいちばん大事なんじゃないかと」


「そうなの? まあそりゃアイシャさんはアリスタちゃんの乳母なんだろうし、内側ではそうなのかもしれないけれど、アイシャさんは貴族ってわけではないし、戦力評価ではアリシアちゃんが一番だからね。勲章とかも貰ってたし。

 それでそういう寄子のなかの重要人物であるところの、アリシアちゃんの付き添いを任せてもらえるということは、それくらいアリスタちゃんと親しいんじゃないかなー、と周りが思ってくれるってわけ。

 そうなると私や私の寄子の身が安全になったり、私の話を人が聞いてくれやすくなったりとか、変なちょっかいをかけられづらくなったりとか、そういう色々効果があるんだよね」


「……お嬢様が強いから、お嬢様と仲良しっぽく見えると、いじめられづらい、みたいなことですか?」


「そうそう、だいたいそんな感じ。

 だからアリシアちゃんの付き添いを任されるくらいだから、アリスタちゃんと私は仲がいいんだろうと皆が思ってくれるってわけ。

 それに今日はアリスタちゃんの出番のときにも付き添いに来てくれって頼まれてるし、とても助かるんだよ。ちょっと恐れおおいってくらいだけど」


 目立ったというのか主だったというか、友達が多かったりとか、そういう立場が強い女の子と仲良しの女の子はいじめられたり仲間外れにされたりしにくいっていうなら、それはなんかアリシアにも分かる。


 アリシアは大鬼族(オーガ)だったし、村の外の山小屋で狩人をやっていたせいで、故郷の村の女の子たちの人間関係の中でも、どこか特別枠みたいなところがあって、ある意味で外側の存在だったから、当事者ってわけじゃなかったけれど、それでも女の子たちと一緒にいて、話を聞いていたり観察していたりすると、女の子たち同士の力関係とか、状況や立場が、なんとなく分かったりしなくもなかった。


 貴族になるなんていうから、どんなことがあるのかと身構えていたら、どうもそういうわけでもなくて、故郷の村で見たり聞いたりしたようなことと似たようなものらしい。


 アリシアはなんだか懐かしい気分になったり、おかしかったりで、ちょっと笑いそうになってしまった。



 ◆



 そうして皇帝の御人形とやらのすごく立派な金と赤の立派な(ただし背もたれはない)椅子に座っておられるところの前まで行って、右から左へ横向きに敷かれた赤絨毯の上に皆で並ぶ。


 すると金髪で長髪の、細面ですごくきれいな顔をした若い男の人のそばまで移動してきて顔がよく見えるようになったから、内心でこっそり喜びながら観察する。


 そして同時に皇帝陛下の御人形とやらも、とってもきれいな顔をしてたけれど、人形であればきれいに作るのがあたりまえだろうから、そんな嬉しがるようなものでもない気がするけど、でも見た感じは人形というより本物の人間にしか見えない。

 銀色の髪と、深い青の眼がとってもきれいだ。自分もこんなふうになってみたいものだなあとアリシアは思う。



 すると皇帝陛下の御人形のそばに控えて立っている、金髪で長髪のきれいなおにいさんが


「ラスキ・スヴァルキ殿。前へ出られよ」

と、そんなふうに言った。


 あんまり大声じゃないのに、そのあたりじゅうにしっかり響くというような感じでおどろく。

 これも令術具だろうか。


 するといちばん先頭というか、皇帝陛下の御人形のほうを向いた今では右端ということになるのか、その人と付き添いの人が連れ立って前に出て絨毯を少し戻って、左右に長々と敷かれた絨毯の真ん中あたりから、皇帝陛下の座っている椅子のほうに続く。


 そうして二人でひざまづくと、付き添いの人のほうが

「レブ・ソージェ・フルソーシェが、ラスキ・スヴァルキ殿を案内して参りました」


 皇帝陛下の御人形は

「ありがとう。手間をかけたわね」とだけ言った。


 それで付き添いの人は離れていく。


 金髪で長髪のきれいなおにいさんが、どこからともなく書類を取り出して体の前にひろげ、朗々と読み上げる。


「西方帝国は、帝国軍ならびにパリシオルム領邦軍の参与のもと行われたるパリシオルム高等学院学院議会の審査ならびに推薦によってラスキ・スヴァルキ殿を帝国男爵として公示する。

 またラスキ・スヴァルキ男爵が、帝国議会及び、その居住せる領邦における地方議会において保有すべき票数は現刻においてそれぞれ2101票とせしむる」


 書類をそのように読み上げたお兄さんはそれを畳むと、そのラスキさんに渡した。


 すると今度は、皇帝陛下の御人形という人が立ち上がり

「では、その証として、冠と頸飾と笏を与えましょう」

と言って、どこからともなく、人の背丈ほどもあるような銀色の長い棒のようなものを取り出した。


 その長い棒は、先のところに、何か燭台のような花のようなきれいな飾りにしてあって、そこに真っ赤な宝石のような石を、でっかいのひとつと小さいのを幾つか嵌めこんであった。


 ああ、トラーチェさんの言ったとおり、確かに『きれいな棍棒』だとアリシアは感心した。


 それから皇帝陛下の御人形は、同じ色味の、銀色の土台に赤い宝石が付いた首飾りを首に巻き、同じような色味の銀に赤い宝石がついた冠をかぶせる。


 全部終わると、皇帝陛下の御人形はラスキさんの肩に手をかけて、くるりと後ろを、つまり観客席のほうを向かせる。


 すると金髪で長髪のきれいなおにいさんが

「彼の者を畏れよ!」と大声で言い、タイミングを合わせたように、ずらりと並んでいた直管の喇叭を持っていた人たちが、その喇叭をいっせいに吹き鳴らす。


 そうしたら大きな歓声が沸き上がって『栄光を!』とか『祝福を!』とか、そんな掛け声がかかる。


 なんかちょっと異様な雰囲気で、びっくりしてしまう。

 何がそんなに嬉しいんだろうか。


 そうして、同じ要領で儀式が順番に進んで、やがてアリシアの順番がくる。


 斜め前を歩いてくれるローテリゼさんの後をついて、アリシアは皇帝の御人形様とやらの前に出た。


 ローテリゼさんのマネをして、それらしく跪く。


「ローテリゼ・トリッテン・ドライランターが、アリシア・ゴルサリーズ殿を案内して参りました」


 皇帝陛下の御人形は、ありがとうね、とローテリゼさんに言って、役目を終えたローテリゼさんは立ち上がって離れていく。

 アリシアも立ち上がったけれど、ひとり残されてしまったのでちょっと不安になった。


「あなたがアリシアさんね。アリスタちゃんの寄子だと聞いているわ」


 皇帝陛下の御人形様が、お嬢様とちょっと親しいような口調で言ったので

「お嬢様のことをご存じなんですか?」とアリシアは聞いてみた。


「三年くらい前に一度、今みたいに人形越しに会っただけだけどね。でも手紙のやりとりはたまにしてるわよ」


「そうなんですね」


「まあそれ以外にも色々と話は聞こえてくるわ。

 あの子はたぶん善かれ悪しかれ、普通の人生は送れないと思うんだけど、だからなるべく支えてあげてね」


「はい、それはもう……」


「お願いね」


 皇帝陛下の御人形様はアリシアにそう頼むと、横を向いて、金髪で長髪のきれいなおにいさんに

「じゃあ続きをお願い」と言った。


 金髪のきれいなおにいさんは、はい、と返事をすると、手に持った書類のほうに目を落とす。


「西方帝国は、帝国軍ならびにパリシオルム領邦軍の参与のもと行われたるパリシオルム高等学院学院議会の審査ならびに推薦によってアリシア・ゴルサリーズ殿を帝国男爵として公示する。

 またアリシア・ゴルサリーズ男爵が、帝国議会及び、その居住せる領邦における地方議会において保有すべき票数は現刻においてそれぞれ4501票とせしむる」


 そう言うと、今しがた読んだ書類を畳んでアリシアに渡してくれた。


 それから、皇帝陛下の御人形が立ち上がって

「では、その証として、冠と頸飾と笏を与えましょう」

と言って、どこからともなく、たくさんの真っ赤な宝石や花飾りで飾られた、銀色の棍棒のようなものを取り出して、他の、さっき男爵様になった人たちが貰っていたのと同じように、アリシアにも渡してくれた。


 握りやすいし長さもあるし、確かに魔獣とか熊とかを殴るのに使えないことはないだろうけど、何かを殴った瞬間に宝石とかが取れて落ちたり、花飾りがひしゃげそうで、これは使えないなとアリシアは思ったのだった。


 それから皇帝陛下の御人形は、アリシアの身長に合わせてか、少し浮かび上がると、同じ色味の、銀色の土台に赤い宝石が付いた首飾りを首に巻いてくれて、同じような色味の銀に赤い宝石がついた冠をかぶせてくださる。


 全部終わると、皇帝陛下の御人形はアリシアの肩に手をかけて、くるりと後ろを、つまり観客席のほうを向かせる。


 すると金髪で長髪のきれいなおにいさんが

「彼の者を畏れよ!」と大声で言い、喇叭の音がいっせいに響き渡る。


 そうしたらまた歓声が沸き上がって『勝利を!』とか『栄光を!』とか、そんな掛け声がかかる。


 やっぱりちょっと異様な雰囲気で、何がそんなに嬉しいのかよく分からない。


「手とか振ってもいいわよ」

と皇帝陛下の御人形様がおっしゃったので、観客席のほうにミーナちゃんとトニオくんを見つけたから手を振っておく。すると余計に歓声が強くなった。


 

 なんなんだろうなと首をかしげながら、皇帝陛下の御人形の座る椅子の左側の少し離れた場所に、こんどアリシアが男爵になったのと同じように、男爵になった他の皆が並んでいるので、アリシアも同じように並ぶ。



 すると今度は、アリシアたちが来たのとは反対側から、人がやってくる。

 全部で十五人ほどもいて、その中には六本腕のエルゴルさんもいた。

 エルゴルさんのそばには付き添いなのか、ローテリゼさんと、あと知らない人がひとりいる。

 見た感じは三人一組になって順番に並んでいるみたいだった。

 

 エルゴルさんも貴族になるのかとアリシアは驚いたけど、考えてみればエルゴルさんは確か評価が七千五百でどうとか言っていたような気がする。


 それに演習で見た感じとか、近くで立ってみた感じだと、たぶんアリシアよりだいぶ強そうな気がしたので、そう考えたらアリシアが男爵様なのだったら、エルゴルさんも貴族で全然おかしくないのかもしれない。


 知り合いだからと、興味深くアリシアが見ていると、エルゴルさんたちの列は、どうも付き添いの人が二人になっているのか、三人一緒に皇帝陛下の御人形の前に来ては、一人だけそこに残して帰っていくみたいだ。


「西方帝国は、帝国軍ならびにパリシオルム領邦軍の参与のもと行われたるパリシオルム高等学院学院議会の審査ならびに推薦によってエルゴル・セックヘンデ殿を帝国子爵として公示する。

 またエルゴル・セックヘンデ子爵が、帝国議会及び、その居住せる領邦における地方議会において保有すべき票数は現刻においてそれぞれ7502票とせしむる」


 子爵って男爵より偉いんだっけ? とかアリシアが考えていると、皇帝陛下の御人形様が、椅子から大きく浮かび上がって、冠とか首飾りをエルゴルさんに付けている。

 アリシアは自分より大きな人が儀式に参加していて、自分の大きさが少しでも目立たなくなったたことに、心密かな満足を覚えた。


 エルゴルさんの冠とか棍棒とか首飾りは、銀色なのはアリシアたちの男爵のものと同じだけれど、宝石は橙色のものが付いている。

 それで、宝石は赤いほうがかっこいいなとアリシアは思った。



 続いてどんどんと色々な人が貴族になっていくけれど、知りあいは別にいなかったので、アリシアは退屈になってぼんやり見ていた。

 言われる言葉も決まっているみたいで、票数のところがそれぞれ違うのと、後のほうになると、伯爵とか侯爵とかになる人が出てきて、たぶん偉いほう?をあとに残してあるみたいだった。

 見ていると、付き添いの人の数も、偉くなると、どんどん増えていくらしく、伯爵になる人は、三人も付き添いがいて、侯爵になる人は四人付き添いがいるみたいだった。

 これはお嬢様のときには何人になるんだろうか。


 なんとか伯爵とかなんとか侯爵とか発表されるたびに、ものすごい歓声を上げなきゃならないみたいだから、観客の人たちも大変そうに見える。

 あれでは明日はみんなで喉がガラガラだろう。


 暇だったのでちょっとあくびくらいしそうになって我慢していると、赤絨毯の端っこに、やっとお嬢様が出てきたので、アリシアは眠気が覚めて、わくわくと見守る。


 お嬢様は診療部の副部長さんのローラさんに抱っこされていて、そのすぐ前には執行部の首席のブレイルさんがいて、左斜め前には輸送のところのあの失礼な黒髪のテニオさんがいた。

 右斜め前にも輸送のところの熊みたいな金髪のなんとかいう人がいたし、左斜め後ろにはローテリゼさんがいて、右斜め後ろには診療部の部長さんの長い黒髪で眼鏡のランナさんがいる。

 つまり、お嬢様を抱っこしているローラさんを中心に、五角形にお嬢様を取り巻いていて、付き添いは全部で六人もいるということらしい。


 お嬢様は王様になるとか聞いているけど、だからお嬢様は付き添いが豪華なんだろうけど、そんなにもいっぱいいるのかと思わなくもない。


「ブレイル・ミット・シルヴェイレム、ローラ・ヴァティカール・ダーム、テニオ・ソーモ・グラック、ウルス・アウレ・ティベリ、ローテリゼ・トリッテン・ドライランター、ランナ・シュバルツ・ハウル、以上の六名が、アリスタ・ゲルヴニー・ファルブロール殿を案内して参りました」


 ブレイルさんがお辞儀をしながらそう言うと、皇帝陛下の御人形様は

「ありがとう。とっても大勢ね」と返事をして、少し笑った。


 お嬢様を抱っこしたローラさんが前に進み出て、お嬢様を抱っこしたまま膝を折ってお辞儀をする。


「おいで」

と言って、皇帝陛下の御人形様が腕を広げたので、お嬢様はローラさんの腕の中から抜けて、その腕に収まった。


「最近は元気なの?」


「ちょっとちょうしがわるかったけど、いまはげんきになりました」


「そう、それは良かったわ。

 でも……アリスタちゃんも、もう少しゆっくりやるのかと思ってたのに、学生生活の一年目の後期からもう王様なんてことになっちゃって。お母さんが嘆くわよ」


「このあいだいえ()かえ()ったら、ママは()いてました」


「あらら……」


 お嬢様はそこで少し考えるように黙る。


「でも、ママのいうことにはむり(無理)があります。

 まじゅう(魔獣)がでてきたらたた()かないといけないし、おおけが(大怪我)をしたひとがいたら、なおさないといけません。

 ひもじいおも()いをしてるひとがいたら、たべさせないといけないし、ひつよう(必要)ならおふろ(風呂)だってようい(用意)してあげないといけません。

 ママはそうやってきたし、へいか(陛下)もそうしてこられたはずです。

 ちがいますか?」


「違わないわ」


「そうであれば、わたしもママやへいか(陛下)とおなじようにします。

 のうりょく(能力)があるのに、それをかく()してゆっくりしろというのはむり(無理)があります」


「うーん……」


 皇帝陛下の御人形様は、そういって唸ったきり黙り込んでしまった。


 やがて口を開いては

「まあ、あんまり無理はしちゃだめよ。誰でもできるより多くのことはできないんだからね」


「はい」


 お嬢様が返事をしたのを見届けると、皇帝陛下の御人形様は、横を向いて、金髪で長髪のきれいなおにいさんに

「じゃあ続きをやってちょうだい」と言う。


 金髪のきれいなおにいさんは、はい、と答えると、手に持った書類のほうに目を落とし


「西方帝国は、帝国軍ならびにパリシオルム領邦軍の参与のもと行われたるパリシオルム高等学院学院議会の審査ならびに推薦によってアリスタ・ゲルヴニー・ファルブロール殿を帝国王として公示する。

 またアリスタ・ゲルヴニー・ファルブロール帝国王が、帝国議会及び、その居住せる領邦における地方議会において保有すべき票数は現刻においてそれぞれ54万1票とせしむる」


と言うと、今しがた読んだ書類を畳んでお嬢様に渡した。


 それから、皇帝陛下の御人形が立ち上がって、お嬢様をいったんローラさんに戻す。

 

「では、王たるの証として、冠と頸飾と笏を与えましょう」

と言って、どこからともなく、たくさんの青い宝石や花飾りで飾られた、金色の棍棒のようなものを取り出して、お嬢様に渡す。

 それから、これも金色に青い宝石のついた冠や首飾りも、お嬢様の体に着けた。

 お嬢様の体格に合わせて、全部がちっちゃなサイズなのでとても可愛らしい。


 全部終わると、皇帝陛下の御人形は、お嬢様を抱っこしているローラさんに

「この子のこと気にかけてあげてね」と言う。


「はい」

とローラさんが答えると

「お願いね」

と言ってからローラさんの肩に手をかけて、ローラさんが抱っこしているお嬢様ごと、くるりと後ろの観客席のほうを向かせる。


 すると金髪で長髪のきれいなおにいさんが

「彼の者を畏れよ!」と大声で言い、ずらりと並んだ人たちが、喇叭をいっせいに吹き鳴らす。


 すると本当に地鳴りのように大きな歓声が上がった。

『祝福を!』とか『新たな王が栄えますように!』とかいう声が次々とかけられる。


 お嬢様は小さなおててをふりふりと観客席のほうに振って、そうしたらまた、喉も裂けよとばかりの歓声が湧きあがった。


 それからローラさん以外の付き添いの人は帰っていったけれど、ローラさんはお嬢様を抱っこしたまま横にずれて、観客席に向かって、アリシアたちが並んでいるように列に、皇帝陛下の御人形様が座っている真横に並ぶ。



『以上をもちまして、パリシオルム高等学院における本年度の叙爵、陞叙、戴冠が終了いたしました。

 続きまして、皇帝陛下より御人形様にてお言葉を賜ります』


 そうして皇帝陛下の御人形様は、観客席に向かって数歩前に出る。


「皆様、こんにちは。

 今日のこのような良き日に、人形越しではありますが、新しい王と貴族の誕生を言祝ぐ、このような式典に出席できたことを嬉しく思います。

 まずは本日、新たに戴冠し、また叙爵、陞爵された方々にお祝いを述べたいと思います。

 おめでとう。

 このたび世に顕された、新たな王、また君たちが、ここに住まう人々の力となり、またひいては帝国の力ともなることを願ってやみません。

 とは申しましても、それについて心配しているというわけではないのです。

 なぜなら、このたび新たに戴冠し、また叙爵、陞爵された方々の中には、このようにして王や貴族となる前からすでに、魔獣を狩り、人々を癒し、また弱い立場にある人々を保護してこられた方もおられるくらいだからです。

 そのような気高い皆様の在り方を私は公に称賛いたします。


 またこの式典に列席しておられる貴族ではない普通の方々に対しても、お願いを申します。

 それは進歩することをやめないでほしいということです。

 例えば私は、公衆衛生と統計の概念を帝国にもたらすことにより、赤子の死亡率を大幅に下げましたが、これは令術とは直接には関係がないことです。

 あるいは水車を用いて糸を紡ぐ機械も考案しましたが、これも令術とは関係がないことです。

 活版を用いた印刷も、雑草を用いた紙もそうです。

 これらによって人々の悲劇が少なくなり、生活が向上し、あるいは楽しみごとが増えたことでしょう。


 それらは令術ではなく、ただ知恵によって造られたものであり、そうであればそれらは貴族ではない一般の人々にも考案し、造り得るものであるということなのです。

 知識の集積と悟性によって試行錯誤して作り上げるのです。

 あるいは新しいものではなくても、既存のものを用いて、我々は生活を改善してきました。

 例えば、手や家畜で臼を回しているところがあれば、水車を用い、歩いて水を汲みに行っているところがあれば、灌漑を整備してきたのです。

 

 大事なのはこのような歩みを止めないことです。

 大きなことができない個人であっても、例えば手をよく洗うこと。可能であれば薬液や石鹸で、それもなければ灰でそうすることができます。

 ゴミは街路に投げ捨てるのではなく、適切に処理することも、清潔であることが確認されている水以外は沸かして飲むこともそうです。

 

 手に着いた微小な排泄物などが原因で、子供が下痢や嘔吐をして命が危険な場合には、もちろん令術士が治癒令術を用いて、わずかばかりのナノマシンを子供の体内に入れて、それらに菌やウイルスを食べさせて、かつ輸液をしてやれば、子供は回復します。

 しかしそうではなく、ただ清潔に生活して、子供をよく教育して、排泄物をおもちゃにしないこと、手をよく洗うことを教えるべきではないでしょうか。


 子供が嘔吐して下痢をしたら、それを治してくれる貴族との関係を気にするのも大事なことですが、それとともに、そのようなことにならないように自立することがもっと大事なことではないでしょうか。

 きちんと生活し、進歩を止めないことです。


 子供を幼年学校などにきちんと通わせ、あるいは家庭で読み書きや基礎的な計算を教えることです。

 あるいはここはせっかく学園都市なのですから、付加的な教育をいくらか受けさせるのも良いことでしょう。

 そのようにして社会を発展させ、その末に人は社会として自ら立てるようになるのです。


 ……説教のようになってしまうのは私の悪い癖ですが、今日ここへ来る前に街を少し歩きました。

 街路はきれいで、人々は健康そうです。皆さんはよくやっておられるようですね。

 私はこれを大いに褒めます。

 そしてぜひこれからもそのような努力を続けてくださることを期待します。

 

 帝国に住まう皆さんの健康と平穏を願い、最後に、もう一度、今日新たに王また貴族として立たれた方々にお祝いの言葉を述べ、私の言葉といたします」



 なんだか難しいことを言われたので、アリシアにはよく分からなかったけれど、まあ手はちゃんと洗って清潔にして、勉強はよく頑張りましょうってことだろうなと、大雑把に理解した。

 うんちをおもちゃにするなっていうのも分かった。

 たまに男の子たちはそういうことをしたりするから困りものだと思う。



『お言葉を賜りまして、誠にありがとうございました。

 続きまして、唱歌【神よ、君たちを護りたまえ】が演奏されます。皆様ご唱和ください』



 ◆



『おお神よ。我らが慈悲深き、君たちを護りたまえ。

 我らが気高き君たちよ。とこしえにあれかし。


 君たちに勝利を、幸福を、栄光を賜い、彼らの長からむことを。

 神よ、君たちを守りたまえ。



 おお神よ、立ち上がられよ。

 汝と君たちの敵を消え去らせたまえ。


 敵たちを打ち砕き、彼らの策略と罠を打ち破りたまえ。

 神よ、君たちと我らを救いたまえ。



 神よ、貴方は君たちに良きものを賜れり。

 君たちに喜びが注がれんことを。


 君たちが法を守るようにし、君たちに絶えず理想を与えたまえ。

 我らは、声大なるも声小なるも歌う。


 神よ君たちを護りたまえ。



 神の御慈悲は、この帝国に注がれる。

 我らが父、我らが母、我らが娘、我らが息子、我らが兄弟、我らが姉妹を護りたまえ。


 君たちを護りたまえ。

 その助けにより、君たちに勝利を与えたまえ。

 神よ、君たちを護りたまえ! 』



 ◆



『ご唱和ありがとうございました』


 という声があって、今度もアリシアが全然知らない歌だったので歌えなかった。

 これも観客席のあたりの人たちは、一生懸命に歌っていたようだから、有名な歌なのかもしれない。

 どこかで歌詞の書いた本でもあったら買おうかなとアリシアはぼんやり思う。



『執行部首席式辞』


 という声がして、銀髪に銀縁眼鏡のブレイルさんが、観客席の前にある椅子から立ち上がる。


「帝国パリシオルム高等学院執行部首席の権限において、帝国パリシオルム高等学院、叙爵、陞叙、戴冠式の閉式を宣言する」

 ブレイルさんはそれだけ言うと引っ込んだ。



『皇帝陛下の御人形様、退場されます。皆様、起立してのお見送りをお願いいたします』


 その言葉が流れると、皇帝陛下の御人形様は、背もたれの無いキンキラキンの椅子からゆっくりと浮かび上がって、それから観客席の方へ向かって大きく手を振ってから、徐々に高さを増して、それから飛んできた方向へすっ飛んで行った。


『来賓の皆様が退場されます』


 すると少し離れた場所から金色の装飾がついた黒くてガラスみたいに艶々した、きれいな屋根のない馬車が三台ほどやってきて、階段状になっている観客席の前の、立派な椅子が幾つも並んだところから、馬車の方へ何人か乗せてそのまま競技場から出ていく。


『第五百二十八年度、帝国パリシオルム高等学院、叙爵、陞叙、戴冠式は終了いたしました。

 ご来場の皆様におかれましてはお気をつけてお帰りくださいませ。

 ありがとうございました』


 そんな声があって、それでざわめきが戻ってくる。

 どうやら全部終わったみたいだ。



 ローラさんに抱っこされた、お嬢様のほうに寄っていくけれど、お嬢様はアリシアのほうには来てくれない。


 お嬢様はローラさんが好きだから、ローラさんに会うとそっちに寄っていく。

 アリシアには毎日抱っこされているので、こんなふうにローラさんに会う機会があるときは、ローラさんが優先なんだろうとはわかるけれど、アリシアとしてはちょっと悔しくはある。


 アリシアもローラさんにご挨拶などしていると、ぬっと大きな影が差して、見ると六本腕のエルゴルさんだった。


「こんにちは、アリスタ様。この度は帝国王への戴冠おめでとうございます。

 アリシアさんも男爵への叙爵、おめでとうございます」


 そうやって声をかけられた、お嬢様はエルゴルさんを見つけると、ローラさんの腕からふわりと抜けて、エルゴルさんのほうに漂っていく。

 お嬢様はエルゴルさんもなぜか好きだから、見つけるといつも寄っていく。


 エルゴルさんに抱っこされてご満悦のお嬢様は

「ありがとお! エルゴルさんもししゃく(子爵)になっておめでとう!」と言っていた。


 そう言われたらそうだったと思いだして、アリシアもお嬢様と同じようにエルゴルさんにおめでとうございますと言っておく。


「ありがとうございます。まあ私は特に生活が変わるわけじゃないと思いますが、アリスタ様は……お屋敷に人が押しかけてきたりとか色々あるかもしれません。

 何かお手伝いできることがあればいたしますから、いつでも言ってください。

 あまり強い者はいませんが、数だけはたくさんいますので、とりあえず数合わせの人手だけでも確保したい場合などはお役にたてると思います」


「誰か屋敷の方にやってきたりするんですか?」


「まあ、わかりませんけれどもね。ひょっとするとアリスタ様に何か頼みごとでもしたいとかで、お屋敷に大勢の人がやってきたりするかもしれません」


「ありがとお!」

と、お嬢様がエルゴルさんに抱っこされながらお礼を言っているけど、そういえばお嬢様になんか持って行きたいと言っている人がさっきいたなと思い出す。あの人は菓子パンを持ってきてくれるんだろうか。

 でもアリシアにはよく分からないから、後でトラーチェさんやクリーガさんに相談しようと決めた。


 やがてアリシアたちの方には、ウィッカさんの曳く馬車に乗って、寄子仲間の皆が迎えに来てくれる。

 そうしてエルゴルさんのほうにも、ローテリゼさんやその他のお仲間らしき人が迎えに来ていて、ローラさんにも寄子らしき人たちが迎えにきていた。


 お嬢様はローテリゼさんの方にも飛んでいって抱っこされながらお礼を言って、ローラさんの方にももう一度飛んでいって抱っこされてはお礼を言っていた。

 見た目は赤ちゃんみたいなのに、こういう気の使い方はとても大人みたいなところがすごい。


 それから

「今日のところだけでもお送りしますよ」

とエルゴルさんが言ってくれたから、帰り道は、ローテリゼさんたちや、エルゴルさんたちが大勢でついてきてくれて、お嬢様はエルゴルさんに抱っこされてご機嫌でお屋敷に帰ったのだった。




 ■tips


 ※1 入学式と魔獣討伐演習の出陣式については以下を参照。


 ハーフオーガのアリシア46 ― 入学式と観閲式 ―

 (https://ncode.syosetu.com/n2133ga/56/)


 ハーフオーガのアリシア52 ― 出陣式 ―

 (https://ncode.syosetu.com/n2133ga/65/)


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更新ありがとうございます。男爵に叙爵、お嬢様は王になり新展開へと期待が高まって参りました!
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