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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第1章 店を開こう
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偵察と成果

物陰を移動しながら、建物を伺う。

ん、とルイは気づいた。

3階、部屋の中についているカーテンが揺れた。動きを止めて見つめていると、チラと隙間があいて、目が覗いた。周囲の様子を見たようだ。


あれは、完全に、侵入者だろう。


どうしたものか。どの程度の情報まで掴めばいいのか。

うーん。とりあえずもう少し近づいて、気配を探るほかないか?


***


ルイは慎重に進んで、建物のすぐ傍にまで移動していた。

まず1階にいるのかどうか知りたいが、窓にはカーテンがかかっている。


そういえば、侵入者はどこから建物に出入りしているのだろう。

普通に扉のカギを持っているのか?

ぐるり、とルイは建物を周ってみる。裏側、妙に汚れている一角があった。

「・・・」

ここだろう。2階の窓から侵入か。


ということは、扉は閉まっているのか。

バートンから建物のカギを持たされているが、扉を開ける音で気づかれたりしないかなぁ。


仕方ない。ルイは帽子をキッチリ直して、マスクがきちんとついていることを触って確認して決意した。

踏み込もう。目くらましの案はある。マズイと思った時点で引くほかはない。


決意してまた慎重に扉の方に歩いていると、近くの家の傍、2人の男がルイをじっと見つめていた。

手招きされた。

立ち止るルイに、2人がそっと近づいてきた。結界は効かないから悪人ではないようだが。


「あんた、何してるんだ」

「・・・空き家の様子を見てほしいと頼まれました。でも中に人がいる様子で。思い切って中に入ろうかと思ったところです」

「本当か?」


「はい。ご覧になったことは?」

「怪しいんだが、確信が持てないんだ」

「あんた、本当に様子を頼まれたのか?」


「はい。家の鍵を預かってきました。あなたがたはご近所の方ですか?」

「そうだ」

「すぐそこだ」

男たちは、近くの家を指差した。


「実は少なくとも3階に1人いるのは先ほど確認しました。中に入って様子を見ようと考えていたのですが、同行をお願いしても構いませんでしょうか?」

とルイは尋ねてみた。

この提案に、男2人は顔を見合わせた。

「いや、自警団を呼びに行った方がいいぞ」

と1人が言った。


「時間はどれほどかかりますか?」

「少し離れているからなぁ。だが、呼んだ方が絶対良い。俺は残るから、イーゼル、お前呼んできてくれるか?」

「分かった」


***


結果として、中に6人も不法侵入者がいた。

住み着いていたらしく、あろうことかコインの偽造を試みていた。

ちなみに質が悪すぎて騙せる人などいないのではないかと思う精度だったので、ルイは別の意味で驚いた。


自警団は5人いた。

到着して、3人とルイが、カギを開けてそっと中に侵入する。

細かくは伝えなかったが結界をずっと使っているので、ルイが慎重に先頭を進んだ。


入り口に、自警団1人と近所の男性1人が待機。

出入りは2階からのようだと先に伝えていたので、裏側にも自警団の1人と、近所の男性1人が待機した。


1階は誰もいなかった。2階に登り切った瞬間、少し離れたところで誰かがよろめいてしりもちをついた。ルイに殴りかかろうとして、結界に阻まれたようだ。

殴りかかろうとしながら勝手にこけた3人を、自警団の3人が捕える。

捕縛は任せてルイは部屋の中を見る。


残っていた1人が、窓から脱出を試みた。

「窓の外に逃げます!」

とルイは叫んだ。

外で揉み合う音がした。

「捕まえた!」

と声が上がった。


ルイは3階を見上げた。物音がした。

2階の様子を、自警団2人が見回っている。もう1人は、縛った3人を監視している。


「2階は他に誰もいない様子だ」

「3階で物音がします。何人で行きますか」

「2人残れ。キミと俺とで行こう。おい、上から呼んだらすぐ来てくれ」

「分かった」


ルイと1人で、3階まで登った。

ドン、とまた向こうが勝手に転んだ。なんて便利なのだろう、結界作成具。己の作品とはいえ、しみじみする。

部屋を見回すと、もう1人ルイに向かってきている。手に長剣を持っていた。

ルイはとっさに熱の魔法石を握り込み、取り出そうとした。

ドン、と相手がこけた。お前もか。


捕縛にとルイが近づいたら、向こうがズリっと遠くにずれた。

うーん。

とはいえ、この状態で結界を解くのは不安がある。

立ち上がろうとするのを、ルイが近寄り、よろめかせて転ばせる。繰り返して壁に追い詰めた。


「くそっ!」

と向こうが毒づいている。


それより、これ以上ルイが近寄ったらどうなるのだろうか。ルイは眉をひそめた。

相手が壁をすり抜ける・・・なんてはずはないだろう。潰されるんじゃないかなぁ。

その場合、こちらも圧迫を受けるのだろうか?


ルイは試しにもう少し近寄ってみた。

「ぐぅっ!?」

と壁に押し付けられて向こうが苦しんでいる。ルイの方に圧迫はない。

うーん、移動時に使ったら、うっかり、壁と結界に悪人を挟んで押しつぶしかねない。知らず殺人者になりたくはない。使用時の注意事項が増えた。


2階の自警団2人も3階に来た。

壁に張り付いている男2人を見て警戒しつつ不思議そうにするが、向こうは身動き取れないでいる。


自警団はやすやすと敵を捉えることに成功した。


ルイは、残りはいないかと、周囲に耳を澄ませた。

ぽこ、ぽこ、ぽこ、

と小さな妙な音が聞こえてくる。何だろう。


捕縛完了後、ルイたちは慎重に3階を見て回った。

1室、銅板を何かの液体につけている器械が置いてあった。

ぽこ、ぽこ、ぽこ、

と泡が出ている。


傍に銀色の薄っぺらい丸い板が散らばっていた。


***


「ルイ! ありがとうよ!」

夕食を食堂でとっている。

バートンが大感激している。今日は奢りだそうだ。ちなみに注文は、ルイの分までバートンが勝手にすませた。


自警団と近所の人とルイの活躍で、住み着いていた者たちが捕まった。

なお皆で、無事と活躍をたたえ合った際に、ルイには自警団から質問を色々受けたが、『開発中の道具を使いました』とだけに答えるに留めた。


そして、ルイは、活躍を称えてつけヒゲを貰った。これはルイの希望による。

まさかのリクエストに変り者だと笑われたが、別に良い。

ヒゲを伸ばしたいのにきれいに伸びないと悩み事を言ったらまた笑われた。肩まで叩かれた。

とにかく、2つも貰った。皆様、ありがとうございます。フィリスティアの毛皮では無く馬のシッポ製だそうだが、充分にヒゲだった。勉強になります。


なお、今回の件は、先にバートンにも連絡が行ったが、ルイからの直接の報告は、夕食の待ち合わせの今になった。


「ここ数か月の悩みの種だったんだ。本当に有難いよ」

バートンが、焼き肉をフォークに刺しながらしみじみと言った。


「あの近所の人が協力してくださったのが大きいです。本当は一人で中に入ろうと思っていたので」

「危ないところだったね」

バートンは顔をしかめた。


「無事でよかったよ。まさか偽造コインだなんて忌々しい。しかも6人もだ」

バートンは怒りを覚えたのか、ギリギリと肉を噛んでいる。ルイは冷静に情報を足した。

「素人集団だったのは幸いでした」

「全くだね」

本気の集団ならこんなに速やかに解決できたかどうか。

そう思うと、『近所の悪ガキ』という噂は案外、的を射ていた。


バートンはため息をついてから、ルイを見た。

「アタシは、ずっとグラオンで暮らしてる。そもそもは『古い時代の家の愛好家』の集まりだったんだけどねぇ。そのうち、歳を取って店を辞めたり、他の町に移動したりで、知り合いに後の管理を頼まれるようになった。どんどん増えていってねぇ」

なるほど。ルイは頷いた。

手が回らないそうである。大変そうだ。役所に任せれば良いと思うのだが、色々あるのかもしれない、とルイは思ったので口には出さないでただ聞くのみにする。


バートンとルイは話をしつつ、焼き肉にサラダに具の多めのスープにパンを食べた。

バートンは店員に追加でコーヒーを2つ頼んでから、ルイに向き直った。


「さて。店舗の事だ。約束通り、3か月間、家賃は30,000エラで良い。それから、保証金は10,000エラ。これだけは、初めに払ってもらいたい。家賃は1か月目は後払いで良い。本来は、先払いだよ。契約書はこれだ。よく読んで、問題ないならここにサインだ」


ルイは、バートンが取り出して渡してきた書類にざっと目を通した。バートンが説明したことが文章で書かれてあるだけの書類だ。

ルイは頷いて、サラリとサインした。


「もう読んだのかい。アンタ、こういうのはきちんとよく読まないと後で問題になるもんだ」

バートンが、小言のように文句を言いながら、ルイがサインした紙を取り上げ、バートン自身がサインしようとした。


「・・・ルイ=ヴェンディクス?」

バートンが、ルイのフルネームを小声で疑わしそうに読み上げて、目を上げた。

「ヴェンディクス?」


コクリ、とルイは頷いた。まさかとは思うが、ヴェンディクスの家名は隣国でも有名なのか?


バートンは無言でじっとルイを見つめ、それからため息をついた。

「まぁ良い」

「・・・問題がありましたか?」


「いいや。そこまでとは思わなかっただけさ」

その返事に、ルイがじっとバートンを見つめると、バートンは呆れたように教えてくれた。

「ウチの国の王子の1人が、何年前だったかね、隣の国のお姫様を嫁さんに迎えた」

ルイはハッとした。ルイが幼少時に憧れた、第二王女様の事だ。


ルイの瞳が輝くのを見て、バートンは面食らったようだが、説明を続けた。

「活発で言いたいことを言う人だって、人気があるんだけどねぇ。嫁入り当時も、騎士みたいな人だって随分話題になったんだよ。お姫様の親友が、かの魔法剣士レンの子孫、レミティア=ヴェンディクスって話もね。あんたの姉さんかい」

「レミティアは叔母です」


レンのハッキリとした返事に、バートンはどこか呆れたように小声で話した。

「アンタは身分を隠したいんだろう? サインの家名は、頭一文字だけにしたらどうだい」

「それでも良いのですか?」

「1回目そうして、文句が出たら正しく書きな」

「では、そうしてみます」


「身元保証書は持ってるかい。一応確認するから見せな」

「はい」

ルイが折って渡した紙を、バートンは背後に注意を払ったうえでそっと開いてみて、なぜか仕方なさそうに頷いて、ルイに戻した。

「はい。身元確認は完了だ。10,000エラは今払えるかい? 後でも構わないよ」

「今払っておきます」

ルイはコインをバートンに渡した。バートンはやはり机で硬度を確かめてから受け取った。


「それから、今日は、えー、19日。来月の19日に家賃の回収にアンタの店に行く。今後の話し合いもその時にしよう。提案があるならまとめときな。分かったね」

「はい」


「よし。じゃあ、こちらの書類が、アンタに渡すものだ。この3ヶ月アンタに貸すって証明書。ギルドに入るんだろ、この証明書が手続きに必要だ。ただし、忘れず返してもらうんだよ」

「はい」

ルイは、バートンから、『店舗貸出証明書』を受け取った。ルイの名前、店の住所と、バートンの名前、バートンの住所が書いてある。


「さぁ。気合い入れて頑張りな。商売は、始めるのより続ける方が難しいんだ」

「はい。ご指導ありがとうございます」


「だからその物言いを止めろって言ってるだろうが」

バートンに小声で怒られた。

気を付けよう。


けれど嬉しくて、ルイは笑った。


***


翌日。ルイは金属工芸ギルドに行き、店を出すための手続きをした。ギルド加入金5,000エラも支払って、めでたくギルドに加入する事が出来た。なお、店名は、加入から1ヶ月の間にきちんと届ければいい。


加えて、早速ギルドで保管している金属板と金属線を安く買う事もできた。

本来は、事前に注文をしておいて、ある程度注文が溜まったら、ギルドがまとめて購入し、それを届けてくれるらしい。注文から品物が届くまで日が空くので注意してほしいとの事だ。

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