ルイ、財産の確認
ギルドで、魔道具に使う、球形のガラス瓶とネジも少し安く入手できた。
ただ、こちらも本来は金属板と金属線と同じく、注文してある程度注文が溜まってからギルドが安く一括購入したものを分配してくれる方式なので、入手できるまでに時間がかかるそうだ。
ギルドの在庫を少しなら分けてもらえるとの事で、今回はそこから購入させてくれた。
ギルドでは取り扱っていないパーツもあった。
厳密にいえば注文可能だが、別に安くもならない。
だから自分で買いに行った方が早いという事で、店を地図に書いて教えてもらった。親切で嬉しい。有難い。
そして、店の場所が決まったことで、何か買っても置く場所ができたのが本当に嬉しい。組み立てる場所が出来た事も。
ギルドを後にしたルイは、魔道具を作るにあたって基本的に使う部品を買いに歩くことにした。
***
もう昼過ぎだ。ルイは自分の店に戻った。
店は借りたままの状態で、掃除も何もきちんとしていない。床に荷物を広げただけだ。
ここもきちんと店にしていきたいが、今は後にしよう。
かなり所持金が少なくなったから、すぐにどうするか考えないと。
ルイは、買いこんだ材料を床に広げた。
露店で買ってきた昼食を食べながら、ルイは財産の確認をする。
まず。
現金は、もう2,500エラしかない。
自国通貨は78,730チルは残っている。
それから、売らず保留扱いにした魔道具として、魔力分解装置、結界作成具2つ、自動複写装置、通信具、音声記録装置が手元にある。
そして、新しいものを作るためにと購入した魔法石。
『熱』19個、『土』3個、『雷』5個、『水』5個、『凍』5個、『空』5個、『風』5個。
加えて、今日ギルドやお店で購入した素材が、金属板が大判5枚、金属線5巻、球形ガラス瓶10個、ネジ100個、ゴム100個、木版が小版6枚。
魔道具は作り始めることができる。
購入した魔法石が小さなものばかりなので、それなりの機能になるが、その分安いので手始めとしては良いと思う。
それにしても。
ルイは床に広げた財産をじっと見つめ、やはり床に置いた魔物に目を留めて話しかけた。
「所持金が少なすぎて驚きだ」
色々買い込んだり、バートンやギルドに支払った結果、現金があっという間に消えた。
自国のチルをエラに換金するか、何かを売るかして現金を増やさなければ。
ただ、自国チルを換金してしまうと本当に後が無い。正直、ギリギリまで換金せずおいておきたい。
そもそも、チルを換金したところで、70,000前後のはず。今後の生活を支えるにしても少ないから、またいつか同じ事態になる。
だから、できるだけ速やかに何かを作り、売らないと。
「単純に、魔法石に魔力を込めて売れば手っ取り早い」
とルイは魔物の銀に話しかけるように独りごちた。
「そもそも、それを資金源の一つに考えていたわけだし。でも、やっぱり何か作って売りたいよな」
そうなると・・・。うーん。
「真偽コイン判別は、きっと作るのに時間がかかる」
それに、バートンも露店の人たちも、叩いたりこすったり、独自の対策をしてきている。
だからルイ個人は絶対に欲しいけれど、他の人が買ってくれるのか、その程度がルイには分からない。
「あと、簡易冷蔵庫は、家賃の値引き交渉に使うから現金としては入ってこない、な」
今のルイには生活費として現金が必要だ。
バートン以外にも簡易冷蔵庫が欲しい人もいると思うが、今のところルイにはバートン以外に当てはない。
他に売れそうなものがあるなら、先にそちらに着手したい。
とはいえ、ルイ自身は冷蔵庫が欲しい。歩き回って帰って来た時に、冷たいものが飲める。
作成方法は分かっているので、作るのは比較的簡単だ。
それから。
「結界作成具は使い勝手が良いんだが、優秀すぎて不安が・・・。あと、家賃交渉で使うだろうから、現金化となると・・・。あ!」
ルイはハッとした。
そうだ、自分は、店相手に魔道具を売ろうと思っていた。瓶詰を売っていたあの店に、話を持ちかけてはどうだろうか?
ルイは俄然やる気になった。
あの店主に、欲しいかどうか聞いてみたい。
希望を聞いて作るから機能にも無駄はない。原価計算の上で売値を伝え、買うかどうか聞いてみれば良い。
すでにある結界作成具を見本に見せれば話も伝わりやすいだろう。
よし、早速行こう。
あ。その前に。
感想を聞かれても良いように、ルイは、瓶詰の店で購入した魚とソースのフタを開けた。
昼食を食べた後なので、今は味見程度にそれぞれ少しずつ。
あ、美味しい。
夕食に、きちんと温めて食べたい。
***
ルイは、魔力が十分に溜まった『熱』の魔法石2つも持って、瓶詰を売っている店へと出発した。結界作成具も忘れない。
ちなみにマスクかつけヒゲが悩んだが、前回と同じにマスクにした。
「こんにちは」
「おや。いらっしゃい」
場所を正確に覚えておらず、かなり歩き回った末に探し当てた。
今日も、1人で椅子に座って新聞を読んでいた店主の様子に、ルイはホッとした。
「おや。この前も来てくれた人だね」
新聞を折りたたみながらかけられた言葉にルイは感激した。覚えていてくれたとは!
「はい。お会いできてうれしいです」
率直に告げた言葉に、老人は不思議そうに笑んだ。
「今日は何をお求めかな」
「ええと・・・」
ルイは店内を見回す。所持金は少ないが、何かを買うべきだ。
ちなみに今日の夕食は、先ほど開けた瓶詰、魚の煮たものと何かのソースだから、パンをどこかで買うとして、追加で何を食べようか。
「これを」
豆の煮たものがあった。値段は420エラ。この店内では安い方だ。
「はい。他は良いかな?」
「はい。今日はそれだけを」
「どうもありがとうございます」
老人が、今日も丁寧に紙袋に瓶を入れてくれる。
その様子を見つめながら、ルイはどう切り出そうか緊張した。
いきなり魔道具いりませんか、ではなく、さりげなくそういう話題に出来たらいいのに。
「あ、あの」
「・・・うん?」
老人がルイを見た。ルイは覚悟を決めた。
「あの、実は、私、店を無事開くことができました」
「おや。もうですか。早い。おめでとうございます」
先日、魔道具の店をしたいとルイが話した事を覚えていてくれたようだ。嬉しい。
「はい。あの、それで、防犯対策のための道具を、作ることができますので、こちらの店にいかがかと、思いました」
どう話を繋げていいのか分からなくて顔が熱くなった。とりあえず、全くうまくない説明だと痛感する。
老人は無言でルイをジィッと見つめてから、少ししておかしそうに「ふふ」と笑った。
「そうでしたか。実はね、秘密という程の事ではありませんが、1つ、教えてあげましょうか」
「・・・え」
「この場所は、少し特別な場所だから、常に見回りなどの対策がされています」
話にルイはキョトンとした。
それが面白かったようで、老人はさらに表情を和らげた。
「せっかくの魔道具のお話なのに残念ですが、防犯対策はこのエリアでは事足りています。他に提案は?」
「あの、いえ、夜間の強盗を防ぐための結界などは・・・不要でしょうか?」
ルイの言葉に、老人は面白そうに目を丸めて、それからまた柔和に笑った。
「結界の魔道具ですか、優秀だ。ただ、このあたりの店には不要です。このエリアは、常に結界の中にあるのです」
「え?」
ルイは瞬いた。すでに結界の中? 全く気付いていなかった。
つまり、魔法使いが常時複数人待機して、ここを常に守っていると。
「だから、私どもは、安心して商売ができる」
ルイに瓶詰を入れた紙袋が差し出される。
ルイは気づいた。つまり、自分もこのエリアに入る時点で選別されていたのだ。帽子にマスク、しかもどこから来たのか分からない若造を、このように安らかに迎え入れるのは、万全の体制があるからこそ。
「そうでしたか・・・」
妙な敗北感と共に納得も感じながら、ルイは紙袋を受け取る。
それから、ふと顔を上げて尋ねた。
「では・・・何か、お困りのことはありませんか。解決できるものを魔道具で作ることができるのではと考えているのですが」
「はぁ、まぁ・・・そうだねぇ」
老人は少し首を傾げて考えた。そして答えた。
「何でもいいのなら・・・。この瓶が、もう少し軽くなればいいのにと思うね」
うっ、とルイは思った。それ、どうすれば良いんだろう。
「あとは、そうだなぁ。この瓶詰の中身が、今よりも長く持って欲しいね。それから・・・あぁ、店番がもう一人居れば良いね」
ニコリと笑われて、ルイもニコリと笑みながら、軽く絶望していた。
魔道具に繋がりそうな要望が、無かった気がする。
***
「また来てね」
と穏やかな笑みで見送られながら、ルイは紙袋を荷物に入れて店を出た。
うーん。むしろ瓶詰代の出費が痛い。
せっかく希望を聞いたのだから、何か良い案がでると良いんだけど。
ルイは一生懸命考えようとした。
瓶の重さに、保存期間に、店番。
保存期間なら何とかなるか? いや、全ての瓶を魔道具にするなら可能性はあるが、費用的に無理だ。
なら、魔道具を使い料理を作る事で長く保たせる・・・? いや、料理と言うのは素材が色々あるから難しいと思う。そもそも自分は料理をしないので想像しにくいという問題が。
瓶の重さはどうだ。せめて、店内で軽くなれば良い?
いや、そうなれば力持ちの店番が1人いればいいような。店番・・・そんな当ては無い。そもそも魔道具の出番では無い。
ルイは途方に暮れて宙を見あげる。
現在、お客になってくれそうな唯一の店だったのに。暗雲が。
とりあえず、『熱』の魔法石2コを売りに行こう・・・。
***
さて、魔法石を売るにあたって、売値も把握しよう、とルイは思った。
目についた店に適当に入り、魔法石の買取をしていないかを尋ねていく。前は、同じような大きさで12,500エラで売れたから、それより高値であれば売るのだ。
結果として、1つずつ、別々の店で売る事が出来た。
1つは、丁度在庫が少なくなっていた、と言って20,000エラに。
1つは、18,000エラだった。
ルイは驚いた。やはり、魔力を入れただけでこれほどの値がつく。
ひょっとして、魔力を入れる人間が不足しているのだろうか。
ルイは試しに、最後に売った店で尋ねてみた。
「あの、失礼を承知で、お伺いしたいのですが、売値はどれぐらいなのでしょうか。いえ、店頭で魔力が入ったものを見たことが無いように思いましたので」
ルイの兄の年頃の店員に、ルイは丁寧に尋ねた。店頭で魔力が入ったのを見たことが無いのも事実だ。
「えぇ・・・」
店員は少し言い淀んだが、店内で他の店員と目くばせした上で、話してくれた。
「大きさや質によってさまざまな値が付きます。本日お売りくださったものは少し小さいのですが、使い勝手が良く好まれるサイズです。ですので・・・なんとも申せませんが、そうですね、その時々の在庫などにより変動しますが、40,000エラ程度・・・でしょうか?」
随分濁しながらの金額提示だったが、その価格に驚いた。
しかもこの様子は、本当はまだ高値なのを、持ち込んだルイからの不満を抑えようと低めの値段を出した雰囲気があった。
ルイは店員の様子を見つめつつ丁寧に礼を述べた。




