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終演での世界での始まり15

「何なんだよ……あれじゃぁ怪物そのものじゃぁねーかよ」

 壁に背を預け、その場に座り込みながら拓哉は吐き捨てるかのように言った。


 今、現在拓哉達は近くの教室にいた。

 あの後、亜利砂の攻撃を間一髪のところで拓哉達は避け、土煙に混じってその場から逃げたしたのだ。そして近くの教室に入ると同時にアリスが結界を張り巡らせていた。長くは続かないが、暫くの間この教室は安全地帯とも言えた。

「でも、あれが《代表候補者》付きの魔術師の実力なのよ。……」

 拓哉の隣に座るアリスは自分の脚に手をかざし、回復魔術《癒しの恵》の術を掛けながら、ポツリと呟いた。

 先程の戦いの中で斬られていた傷口が淡い光と共にスッーと塞がっていく。

 アリスのスカートからチラリと覗く太ももが拓哉の視界に入り、拓哉は思わずドキリとして視線をずらした。

「き、傷は大丈夫なのか……?」

 少しだけ声が上ずりながらアリスへと訪ねた。アリスは拓哉の邪な視線に気づいた様子は無く、視線を脚に向けながら平然と答えた。

「言ったでしょ。……かすり傷だって。この程度なら簡単に塞がるわ……」

 淡々とした言い方に内心拓哉は……人がせっかく心配してやったと言うのに可愛くない奴……と思った。

 だが、彼女は彼が亜理砂に殺され掛けていたところを駆けつけて助けてくれた。それも二度も。

 自分から彼女に協力関係を断ち切ったのにも関わらず彼女は駆けつけてくれたのだ。

 彼女は自分を護る為に。

 拓哉は口を開きかけようとした時、先に彼女の唇が動いた。

「訂正。可愛くない言い方だったわ。ごめんなさい……。せっかく心配してくれたのに…………」

 アリスは拓哉へと顔を向けると、

「あの時庇ってくれて有り難う。拓哉のおかけでこの程度で済んだわ。……」

 僅かに薄い笑みを向けて言った。

 その表情は凛とし、だが同時に可憐さを兼ね備えどこか美しさを感じさせる笑みだった。

「良いよ。別に……。それより亜利砂のさっきの術は何なんだよ? あの術明らかに俺が知っている魔術ではなかったぞ」

「あの魔術は《神の咆哮》。主に一般的に知られている四神の朱雀、青龍、白虎、玄武の全てを司った魔術の一つなのよ。……28宿の星座から魔力を一時的に借り受ける為、基本発動条件は魔力の詠唱が長く、失敗するリスクは高い。……だけど、彼女は《朝霧》の人間……。《朝霧》の人間は主に陰陽道を極めた人間なのよ……。だから、あの神器《緋色の腕輪》を使い、リスクと詠唱の長さを短縮し、術の成功をあっさりと為し遂げ、攻撃を仕掛けてきたのよ……。《朝霧》の末裔の彼女は強い……。それも普通の《代表候補者》付きの魔術師よりも……」

 アリスはかざした手をどけると、体育座りをし、床に視線を落とした。

「正直……私でも勝てるかどうか分からない……。だって今の私と彼女の力の力量は同じだから……。でも、それはこの“時の刻み”があって成し遂げられている事に過ぎないのよ……」

 そう言いながらアリスは無表情に、たが唇をきゅっと引き結んだ。

 アリスの首の上から下げている金色の懐中時計に拓哉は視線をやった。それは今の彼女の最大の武器と言える魔力増幅機。

 だけどリスクが生じる魔力増幅機なんって聞いたことがない。それに、拓哉自身を護る為だけに彼女は自らこの力を得る事を望んだ。

 どれだけ彼女は智也の死を悔やみ、同じ過ちを犯さない為にこの力を手にする事を望んだのだろうか……。感情を犠牲にし、己の命さえも犠牲にしょうとしている。

 こんな女の子が、自分と同じ歳の小さな女の子がこんなにも過去の過ちを後悔している……。

 今度こそは……と。

 今度こそは護れるようにと。


 拓哉は眉を寄せ、歯噛みした。

 そして彼は表情を変え、アリスの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でた。

「何するのよ。……」

 アリスは抗議の声を上げた。心なしか少しだけムッとした顔をする彼女を少し可愛く感じ、そして笑った。

「いや、なんかヘコんでいたからさ元気づけようと思って」

「ヘコんでなんかいない。……」

「なぁ……アリス」

 ぶっきらぼうに言うアリスに拓哉は低い声音でぽつりと呟くように彼女に言葉をかけた。それに対して彼女は彼の瞳を真剣な眼差しで見つめた。

「亜利砂とお前の実力は互角と言ったよな? それってさ、勝てる確率が50パーセントしかないって事なんだろ? だけど……もしも、それに1パーセント上乗せしたら明らかに俺らの勝ちって事だよな?」

 拓哉の言わずと知れた事、考えをアリスは直ぐ様気づき、驚愕に似た声を発した。

「拓哉、あなたまさか!」

 それに対して拓哉はニィと意地の悪い笑みを浮かべる。

「そうだ。俺の魔術《鉄壁の壁》を使う」

「使うって言ってもあなた忘れたの? ……あなたの魔術は彼女の術の《朱雀の禊》すらも防ぎきれなかったじゃない! ……それにあの《神の咆哮》は《鉄壁の壁》だけでは防ぎきれはしない……。無謀よ……」

「確か《神の咆哮》は、あの腕輪……えっと神器だっけ? それでリスクも、長たらしい詠唱も全部クリアして術をぶっぱなす事が出来るんだったよな?だったらさ、その詠唱を途中で途切れさせちまえば術は完成しないって訳なんだろ?」

「そうよ。……だけど……そんな事出来る訳がない。……だって詠唱術は他の術を発動させるのとあまり変わらない……」


「出来るぜ」


 拓哉はアリスの言葉を遮りキッパリと言い放った。

「簡単に……とはさすがに言いにくいけどな。俺に考えがあるんだ。どのみち命が掛かっている戦いならさ、たった1パーセントしかない勝機でも相手に勝つつもりでいこうぜ」

 拓哉はスッと立ち上がり、彼女を見下ろしながら言った。

「俺にも戦わせろよ。このままじゃぁ俺カッコつかないだろ」

 アリスは初めキョトンとし、そして僅かに唇の端を吊り上げた。微妙に表情が変化した彼女を見て、彼女が笑ったと感じ、拓哉は思わずカッコつけすぎたのかと思い、込み上げてくる恥ずかしさを誤魔化すために頭をボリボリと掻いた。


「わかった。ならあなたの考えを聞かせてもらえるかしら? あなたが考えた敵に勝つ秘策とやらを……」



 結城亜利砂は一人廊下を歩いていた。

 周囲は先程彼女が放った術で、所々がひび割れ、荒れており、廃校のようになっていた。静かな静寂が支配する空間の中、彼女の足音だけがその場に響き渡っていた。

 亜利砂はふっと足を止め、左側の済みにある一つの教室へと視線を向ける。

 そこから僅だがうっすらと淡い光が漏れていた。それを見、亜利砂はクスリと笑った。

「それで隠れたつもりなのかしら?ずいぶんと浅はかな知恵しかないのね」

 呆れたように溜め息混じりで彼女はそう言いながら人差し指を出し、指先から奇跡を生み出しながら空中に文字を描いていく。

 描かれた文字から一羽のアゲハ蝶が現れ、ヒラヒラと舞いながら教室の戸の前に止まると蝶が自爆し、凄まじい轟音を辺り一面に轟かせた。


 ずいぶんと呆気ない。

 結局はこの程度だったのか……。


 そう彼女が思ったその時、後ろの方から気配が生まれ、彼女は振り向く。

 亜利砂は大きく瞳を見開いた。そこには彩和月拓哉がいた。

 拓哉は銀色に光輝く剣を持ち、床を蹴ると亜利砂目掛けて飛び掛かりながら剣を勢いよく亜利砂へと降り下ろす。

 瞬間、亜利砂は咄嗟の判断力で手にしていた白い剣を水平へと携え、その腹で拓哉の攻撃を防いだ。

「奇襲は失敗ね。拓哉君」

 顔色一つ変えずに余裕の笑みを浮かべる彼女に拓哉は眉を寄せ、苦々しく言った。

「やっぱり、そう上手くいかないよな……」

 受け止めた拓哉の剣をまるで振り払うかのように亜利砂は剣の速さを加速させ、凪ぎ落とそうとした。

 あまりの速さに拓哉は顔をしかめ、自ら剣を素早く引き、再び亜利砂へと斬りかかる。亜利砂はそれを白い剣で弾いた。

 彼女の剣さばきは早く、そして重い。

 それは刃と刃を交わらせる度に、より重く、より早く剣を振るスピードが加速される。刃を弾かれた拓哉は、思わずバランスを崩そうとするが、脚に力を入れ、なんとかその場に踏み止まった。そこに亜利砂の剣が拓哉へと閃いた。

 が、間一髪のところで彼は瞬時に剣を水平にし、剣の腹で彼女の攻撃を受け止める。

 ギッギと、剣の擦れる音が聴こえた。

「その剣あの子に出してもらったの? 拓哉君って諦め悪いよね。だってもうすぐ死ぬのに必死で抵抗したりして無駄だって分からないのかしら?」

 呆れたような口振りで言う亜利砂に、

「ああ。んなこと分かりたくもねーよ。それにお前は俺を殺せない。何故ならば俺らがお前なんかに負ける訳ねーだろう」

 拓哉はニッとした笑みで自信あり気に言い放った。


 拓哉の手にしている剣は亜利砂の言うとおりアリスの魔力から生成された剣を拓哉へと貸し与えられたものだった。

 仮に魔術師である彼女の魔力が途切れたり、剣が折れたりしたら意図も簡単に消滅してしまう。

 魔力も魔術も一切宿っていない、ただの剣だ。

 丸腰のまま目の前の彼女とやりあっても勝ち目はない事は先程の戦いですでに証明されている。


 だけど彼には一つの勝算があった。


 それは――。


 亜利砂は眉をひそめ、感情のない表情へと切り替えた。

「なら、試してみる? 《生命の源》で復活するのが早いか、死ぬのが早いのか、どちらが早いのかをね!!」

 亜利砂は左の掌を拓哉へとかざした。掌からは淡い光の球のようなものが生み出され、それがしだいに、徐々に大きくなってきていた。そして、その光が放たれた。

 至近距離での攻撃。

 この距離で攻撃されたら、人溜まりもない。だが、それを見て拓哉はニヤリと笑った。


 掛かった――――と。


「今だ! アリス!!」

 声を張りながら、叫ぶ拓哉の声と同時に《蒼き宝石の華》の魔方陣が現れ、バシュッと音を立てて光の球が魔方陣に防がれた。

「《蒼き宝石の華》!! まさか!!」

 亜利砂は慌てて視線を動かす。そこには亜利砂目掛けて疾駆するアリスの姿があった。

 彼女の手にはトランプのカードが握られており、唇を動かしながら彼女は呪文を詠唱する。そしてアリスは空中でカードを勢いよく切りながら、そして叫んだ。

「second1紅い小瓶スペード!」

 亜利砂へと一直線伸びるように描かれた奇跡が迫る。

 短く舌打ちをし、亜利砂は脚に魔力を込め、拓哉の頭長より高く跳んだ。

 一直線の奇跡が《蒼き宝石》へと当たり、消滅した。

 拓哉の真後ろへとトンと軽い足取りで着地した亜利砂の足元に青い魔方陣が現れ、アリスは再びカードを切る。すると彼女の真上から氷のつぶてが降り注いだ。真上から高速で落下してくる氷のつぶてを今の彼女に防ぐ術はなかった。

 容赦なく降り注ぐ幾つもの氷のつぶてに対して彼女は剣を振るい続ける。粉々に幾つもの氷のつぶてが砕け散るが、幾つかの氷のつぶてが彼女の頬、脚、腕へと掠め続け、服の裂け目から血が所々出ていた。

 彼女はスピードをより早く加速させ、氷のつぶてを切り裂いていくが、明らかに疲労しているのが拓哉の目からしても分かった。

 それを見逃す手はどこにもない。


「うおおおおおお」


 拓哉は雄叫びを上げ、亜利砂へと駆け出し、剣を閃かせた。

「くっ……」

 亜利砂は顔をしかめながら、拓哉の攻撃を防ごうとするが間に合わない。

 拓哉の剣が亜利砂の剣へと叩き込まれ、そして剣の方向をそのまま変化させながら凪ぎ払った。

 亜利砂は手から白い剣を取り落とした。カランと乾いた音が床に響く。

 その時一瞬だけ拓哉をに隙が生まれた。

 それは武器を取り落としさえすれば、後は何とか頑張れば勝てるだろうという名の“安心感”だった。だが、それは浅はかな考え方であり、戦い慣れをしていない素人の考え方だった。

 亜利砂は取り落とした剣に目もくれず、拓哉の一瞬の隙をついて、身を屈め、腹部へと蹴りをいれた。

「がはっ……」

 拓哉は口から息を盛大に吐きながらバランスを崩す。

 亜利砂は降り注ぐ氷のつぶてを浴びながら両手で素早く印を切り、結びながらそれをアリスへと向けた。

 アリスへと竜のかたちをした稲妻が彼女へと襲い掛かった。だが、アリスはそれを素早く避け、カードを再び空中で切った。竜は胴体から首が切り落とされ、辺りにバチバチと稲妻を撒き散らした。と、同時に亜利砂の真上から降り注ぐ氷のつぶてが全て消え去った。そして亜利砂は拓哉の体へと掌をかざし、光の球を2、3発連続で叩き込んだ。攻撃を叩き込まれた拓哉は体を2、3回バウンドさせ床に倒れた。

 体中が焼けるように熱い。

 思うように体に力が入らない。

 おまけに視界が微かに霞み出す。

 きっと“痛み”と言う感覚をすでに通り越している状態だ。

 最悪極まりない。

 しかもさっきと同じように同じ体制で倒れている。自分自身の弱さにつくづく嫌気がさす。

 たださっきと一つだけ違うところは今死にかけていないところだ。

 あれだけの攻撃を至近距離で食らったら間違えなく死んでしまう。それが今の拓哉にはなかった。

 体はボロボロの状態だが、さっきとは違う。

 彼は視線を動かした。彼の近くには銀色の剣があった。

 銀色に美しく輝いていた刀身は今はボロボロになり、もう一度使えば次は確実に消滅してしまうと思える程だった。剣から淡い光が迸り、それが拓哉の体全体を先程から包んでいた事に、いまさらながら気づく。

 ……コイツのおかげで助かったっていうのか !?……

 これはアリスが貸し与えたもの。

 彼女の魔力を生成したものにしか過ぎない。だけど実際この剣が今の彼を救ったという事実は変えようがない事実だ。

 アリスは……彼女は常に拓哉を護り続ける。それはどんな形であろうとも―――。

 拓哉は床に手をつき、無理矢理体に力を入れると、上体を起こしながら片足に力を入れ、剣を手に取った。

「もう……見ているだけは嫌なんだよ……もう護られているだけってのはカッコわりぃだろうがよ!!」

 歯を食い縛り、立ち上がる。

 彼の視界に亜利砂達二人の姿が映った。

 亜利砂はアリスへと片手を突きだし、呪文の詠唱に入っていた。


「――契約者の名は《朝霧を受け継ぐ者》――――」


(あの術は……《神の咆哮》!! だけどさっき神器は振り落としたはずだ、それがどうして!!)

 拓哉は彼女へと視線を動かした。

 彼女の手首から、きらりと銀色のブレスレットが光った。

 おそらく彼女は拓哉とアリスを攻撃した後神器を元に戻し腕に嵌めたのだろう……。

 亜利砂へとアリスは、こく如く一直線に描かれた奇跡を連続で亜利砂へと放ち続けるが、それは彼女へと当たる事は無く、虚しく彼女の左右を通り過ぎていく。

 そんなアリスを亜利砂は値踏みするかのような表情で見ていた。そして唇の端を僅かに緩めた。それはまるで一つの余興でも楽しむかのように。

(あいつ……)

 拓哉は奥歯をギリッと噛み、駆け出した。


「くそぉぉぉぉぉぉぉ」


 拓哉は二人が戦いを繰り広げる渦中の中にいきなり突っ込んだ。

「拓哉!!」

 アリスは驚愕の声を発しながら慌てて術を止め、対して亜利砂の方は平然とした態度で術の詠唱を続けていた。

 そして拓哉は亜利砂へと迫ると、同時に剣を閃かせた。間近に迫る刃を亜利砂は避けた。チッと彼女の頬に刃が掠め、術の詠唱が中断された。

「ほんっっとうに目障りね!」

 イラッとしながら彼女は拓哉へと再び掌をかざしながら光の球を連続で放つ。が、同時に拓哉は早口で片手を突きだし、術を発動させた。

「――我の誓いを元に我を護れ!《鉄壁の楯》!!」

 間一髪。ギリギリ寸前のところで魔方陣が出現し光の球を全て防ぎきる。

「きみってとことん諦めが悪いんだね。弱いくせに」

「ハッ、諦め悪くって結構! 俺はもう逃げないって決めたばかりなんだよ。つーても、今さっきだけどな!!」

「なに綺麗ごと言っちゃってるの? 幾らきみが変わろうとしても、変わらない未来だってあるんだよ」

「そんなことねぇよ! やってみないと分からないだろーがよッッ」

 そう叫び、拓哉は一歩前へと踏み込むと剣を振るい、攻撃を仕掛けた。

「馬鹿ね」

 ふっと小さく亜利砂は笑い、ブレスレットを手から素早く外すと、それを白い剣へと変化させ、迫り来る刃を白い剣で受け止めた。

 ギッと刃が軋む音が耳につく。

 拓哉が手にしている銀色の剣の刃に小さな亀裂が入っていた。

 このままだと確実に刃が折れて、もう使い物にならなくなってしまう。拓哉は額に脂汗を流しながら《鉄壁の壁》へと自分の魔力を注ぎ込む。それを見て亜利砂は自分が持つ剣へとより力を込めた。

 ビキッと、銀色の剣の亀裂がより深くなる。

「もうここまでね。本当につまらなかったわ……だけど、拓哉君にしては頑張った方だと思うわ。今度こそさようなら拓哉君」

 亜利砂は剣をそのまま拓哉が手にしている銀色の剣を叩き落とした。

 宙へと真っ二つに切り落とされた刃が舞う。

 白い剣の刃は《鉄壁の壁》へと向かった。自分へと向かう刃を見据え、彼はその場を動かなかった。


 そして彼は静かに、静かに、獰猛に笑った。


「えっ……?」

 違和感を感じた時にはすでに遅かった。

 彼女の足元には魔方陣が浮かび上がり、同時に一瞬だけ時間の流れが止まった。

 正確には亜利砂の体の動きだけが止まったのだ。

 背後から気配を感じた。

 その気配、殺気は紛れもなく神宮時アリスのものだった。アリスは床を蹴り、跳んだ。

 そして数枚のトランプを宙に投げる。

 まるで雪のように舞うトランプが淡い光を放ち床へと落ちた瞬間、ダイヤ、スペード、ハート、クローバーと言った四つの形を現した大きな魔方陣が床へと描かれた。

 そしてアリスの唇が動く。



「“時”の盟約に従い汝等の主アリスが命じる我にその力を貸し与え、共に破滅の道を我と汝等の敵に与えよ、《時の破滅の道標》!!」


 亜利砂の足元の魔方陣がゆっくりと、ゆっくりと回り出した。


 そしてアリスは剣を携えながら、四つの模様が描かれた魔方陣へと剣の刃を下に向けながら落下していった。

 魔方陣から氷で出来た美しく小さな花の形をしたものが幾つも咲き乱れた。それの中の一輪の花をアリスは剣で貫いた。


 瞬間――――


 ズドドドッ!! と氷で出来た刃が床の下から這うように亜利砂へと向かってきた。

 鋭く尖った刃が、凄まじいスピードで彼女へと迫る。


 本来《時の破滅の道標》は元は《時の道標》と言い、基本相手の時間を奪う魔術の一つだった。時間と言っても相手の動きを3秒程、封じ込む簡単な魔術にしか過ぎない。

 だが、アリスはそれに応用を幾度となく重ね続け、自分自身の技として編み出したのだ。相手の動きを3秒間封じ込み、そこに彼女が生み出した魔方陣の中に咲く氷の花を砕く事により、敵に巨大な氷の刃を撃ち込む事が可能になる。簡単に言うと、この術は敵の足元に浮かぶ魔方陣に標準を合わせ、それに連動させ敵にダメージを与える事が可能となる技。

 それは彼女の必殺技でもあり、それを食らった相手はその場に立つ事すら許されない、大技の中の大技に近いもの。

 だけど、それには大きな欠点がある。

 魔術を発動させる前に回避されれば無効化してしまう事と、長い詠唱と言うスペックが付いている。

 その二つを相手に防がれてしまえば《時の破滅の道標》は全くの意味を成さないまま消滅してしまう。

 イチかバチかの賭けだった。

挿絵(By みてみん)


 亜利砂は避ける事が許されない状況の中で床から這う氷の刃に体を何度も、何度も弾かれた。弾かれた彼女の体は床にそのまま崩れ落ちながら倒れてしまった。

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