終焉での世界の始まり11
拓哉はトイレから自分の教室に戻っていた。
5限目の予令のチャイムがなり、廊下を歩いている生徒達がバタバタと自分の教室へと戻って行く。
その時アリス達の姿が見えた。
何だアイツまだ教室に戻っていなかったのか……などと思っていると、バタバタと慌てて小走りで職員室を目指し駆けて行く亜理砂の後ろを彼女は見ていた。
そして彼女はスッと一枚のカード……トランプを取り出し、亜理砂の方へと向ける。
拓哉はその行動にぎょっとし、慌ててアリスへと駆け寄り、トランプを持つ手をガシッと掴んだ。
「お前、何やってんだよ」
慌てた様子でアリスを止める拓哉に彼女は振り向き彼へと碧色の瞳を向けて、経限そうに眉を微かに動かし、短く答えた。
「彼女……結城亜理砂から魔力反応を感じたの。それも《代表候補者》付きの《上核》レベルの。だから確かめようとしていたのよ、それなのに……」
「それなのに…じゃねーよ。思いっきりそれ使って攻撃しょうとしていただろーが!亜理砂は俺の友達なんだぞ。あいつは魔術師じゃない、ただの普通の人間だ!」
「それに亜理砂が仮に《代表候補者》付きの魔術師だったとして、何で俺を今まで襲わなかった? 何故今になって襲おうとした? 理由と辻褄が合わねだろ」
アリスは拓哉を冷たく一瞥し、拓哉に捕まれていた手を乱暴に振りほどいた。
そして腰に手を充て、短い溜め息を吐き、呆れたように、まるで聞き分けがない下らない人間を見るかのような瞳を向けながら口を開いた。
「拓哉、あなたは甘いのね……」
「魔力反応があって、それが自分の周りの人間から出た、それを疑うのは基本中の基本よ。いまどき普通の刑事ドラマでもそんなお約束展開が存在するのに……。結城亜理砂は確か高校に進学する前に《関西》にいた」
「彼女が《関西》の《代表候補者》付きの魔術師ならば辻褄が合うわよ。それに一年前は智也はまだ生きていた。私は智也の魔術師として一度だけ、それも正式な場で《関西》の《代表候補者》と会った事があるわ。その時彼は自分の魔術師を連れてはいなかった」
「そんなのたまたまだろう………」
ぶっきらぼうに言う拓哉の言葉にアリスは再び自分の言葉を被せた。
「本当にそうかしら?それに《代表者》《代表候補者》の中には本人が魔術師の人間がいる。智也のように…ね。そうすると彼女は一年前からあなたの存在に気づき、近づいた。それも友達の位置にいればいつでもあなたを襲えるから。彼女が魔術師と言う立場だとしたら彼女にも少なからず利益は生まれる」
「《生命の源》の血を手に入れる事が出来る。《契約》をしていない今のあなたの力では《代表候補者》付きの魔術師には到底敵わないのだから……」
「仮にそうだとしても、亜理砂から魔力反応が出たって、それは何かの間違えとか何かじゃねぇのか?魔術師がお前の混乱を招く為に敢えて式神を放ち、それを亜利砂にわざと付けたとかじゃねーのか?」
拓哉の台詞に対してアリスは首を左右に振りそして彼を真っ直ぐ見て言った。
「それは無いわ。私は結城亜理砂に直接触れて魔力を感じたの。確かに今まで結城亜理砂から魔力は一切も感じなかった。だけど…触れた瞬間に感じた魔力は…本物だったのよ」
「拓哉あなたは自分の命が狙われている自覚を少なからず持った方が良いわ。あなたの周りの人間全てを疑いに掛けるぐらいの考えは持った方が良い。結城亜理砂に限らず坂上庵…クラスメートにすらも」
「それに、どうしてあなたは結城亜理砂をそんなに庇うの?」
あまりにも感情もなく当然のように言葉を並べて問うアリスに拓哉はカチンときた。
拓哉にとってあの二人は大切な友人で友達だった。庵はお調子者で単純だが、情に熱い奴で、亜利砂も人当たりが良く、面倒見が良いタイプでもあり、いざと言う時は困っている人に手を差し伸べたりする。それが自分の利益にならないと分かっていながらも躊躇もせず、躊躇う事もせずに。
普通ならば女子は自分より強い立場の人間がいたら空気を読み、常にそっち側につく。
だが亜利砂はそんな事はしない。空気が悪そうになるとした瞬間、即座に話題をわざと切り替えたり、持ち前の明るさと人当たりの良さで場の空気をガラリと変える。
それに、彼女は話してくれたのだ。自分の気持ちを。
いつも人なっつこい彼女があの時話してくれた想いが嘘だとは到底思えない。
それに彼女達は初めて自分が信頼出来ると信じた友達だ。
確かに今まで友達と言う存在はいた。
だけどそれは自分の巨大なオプション…彩和月和也の息子と言うオプションに引かれて来た者が多く居たに過ぎなかった。それを理解していた拓哉は煩わしさを感じながらも差し当たりのない表面上の付き合いと態度で接していた。
だから拓哉は高校進学すると同時に《代表者》彩和月和也のオプションを全て隠し、捨て去った。
本当は中学の時も隠し通したかったのだが、どういう訳か教師達にバレ、いつの間にか学校中に広まっていた。
高校に入ってすぐに庵、亜利砂の二人に出会った。二人は自分と対等に付き合い、接してくれる。下らない冗談を言い、他愛ない会話をしながら、そして相手の事をきちんと考え思える良い奴らだ。
自分が初めて心から信頼出来る友達と言っても過言ではない。
その友達を疑う?
裏表がない彼らを?
自分の身を守る為に。そんなのは彼らに対する裏切りでも何でもない行為に近い。
「友達だからだよ」
拓哉は静かに低い声音でアリスを睨みながらポツリと漏らした。そして。
「自分の友達に、自分が狙われているからって、魔力反応があるからって「お前が俺の命を狙っている魔術師だな!」って常識的に考えて攻撃なんか仕掛けられる訳ないだろうがッ!それに調べるとしても他に別の方法で調べる方が先なんだよ。お前のやり方は矛盾している。魔力反応が俺の友達……周りの人間から出たから攻撃して確かめる?」
「そんなやり方は横暴でしかない。それにお前は《上核》レベルの魔力反応があれば他の人間にもいきなり攻撃ぶっぱなして確かめるのか?そんなの敵の魔術師と何も変わらないじゃねぇかよ!」
「必要ならばそうするわ」
拓哉の言葉に彼女は顔色を一切変えず、平然とした態度と共に、唇から滑り落とすような声で言った。
「多少の犠牲はしょうがないの。それに魔術師同士の争いは何処かに多少の犠牲は必ず生じる……綺麗事ではないのよ」
「でも私には、ほんの少しだけ相手の記憶を一時的に消す魔術を持っている。それに…攻撃するにしたって、かなり力を押さえて攻撃するわ……例えば軽くその場で相手を躓かせて転ばせる程度よ。それに加えて一時的に記憶を奪えば相手は何も覚えていない事になる……」
「何も問題はない筈よ」
「ふざけるなっ!!」
アリスの言葉に拓哉は声を大にして叫んだ。
周囲にはもうすでに誰もおらず、彼と彼女の二人きりだった。
拓哉はずいっとアリスへと一歩近づくと、彼女へと睨み付けるような鋭い視線と、冷たく低い声音で言う。
「じゃぁ何か?お前は敵の魔術師を倒す為だったら、他の人間は巻き込んで言いと本気で言っているのか?自分の身を護る為に他の人間に犠牲になれと、そう言っているのか?そんなのは全然違うだろう」
「そんなのは何も考えていない傲慢で自分勝手な奴のやり方だろうがッ!仮にもお前は兄貴の魔術師だったんだよな?今までそんなやり方で兄貴……《代表候補者》を護って来たのか?少なくとも俺はそんな他人に危害を加えてまで護ってもらいたくねぇよ!!」
アリスは拓哉の言葉に動じる事はなく、ただただ真っ直ぐに強い瞳を向けて言う。
「本当に何も分かってないのね。あなたの力はあなたが考えているより、それ以上に価値があるものなのよ。それに私は智也に言われたの、あなたを護ってくれって。だからその言葉に従い護っているに過ぎないのよ……」
「あなたの言うような言葉では、この世界から生き残れない……少なからずとも何かしらの被害は出てしまう。それは大きいか、少ないかのどちらかが……。もし最小限のやり方があるならば当然そちらの方を取る。そうでしょ?」
「あなたの言っている意味、言葉では誰一人として傷つかない方法を取ると言っている。けどそんな甘い考え、方法はないのよ。そんなのは理想論でしかないわ。あなたが言っている事は何もしないでただ自分の理想を押し付けている我が儘な子供にしか過ぎないのよ」
「少なくとも智也は……」
「はー……もう良い」
拓哉はアリスへの言葉を遮るように盛大に溜め息をつきながら呆れたかのように言った。
そして、鋭い瞳を彼女へとぶつけて再び言葉を放った。
「俺とお前の考え方は違うとよく分かった。それに俺は兄貴とは違うからな……」
「アリス……お前とはもう組めない」
「どうして、私は……」
はっきりとそう告げる拓哉の言葉にアリスは彼の言っている意味が分からないかのようにそう言葉を続けようとしたが、拓哉は彼女の言葉にイラッとし、言葉を遮り怒鳴るかのように言った。
「分からないのか!?お前とは組みたくないって言っているんだ!お前のやり方は気に入らないって、そう言っているんだよ!!」
「それに……」
一度言葉を切り、彼は静かにそして酷く低い声で冷たい表情をしながら言った。
「相手の魔術師ぐらい一人で何とかしてみせるよ。お前の手を借りなくってもな。だからここで協力関係は終わりだ」
放課後拓哉は不機嫌そうな顔をしながら一人廊下を歩いていた。
肩に鞄を引っ掻け、ズボンのポケットに片手を突っ込み、イライラしながら昇降口を目指す。
あの後、アリスと口論になった後彼はすぐに踵を反してその場を後にした。
その時彼女の無表情で、そして何処か寂しそうな顔が一瞬だけ目に移った。だけど彼はそれを無視した。
彼女の言い分は理解できるし、分かっているつもりだ。
彼女の言葉は酷く正しい。
確かに魔術師同士の争いにはどうしても避けられない場面、犠牲は付くのだろう。
だけど彼女は言ったのだ、最小限のやり方があればそちらを取るだろう…と。
それは最小限のやり方で下手をすれば犠牲になるかもしれないやり方の中に自分の友達が含まれている。
それも自分の身を護る為だけの為に……。
それだけはどうしても納得が出来ず、また彼女の゛最小限犠牲″と言う台詞にも不愉快さを感じた。
その時フッと突然違和感を感じたと同時に周囲が赤い空気に包まれた。
「何だ…?…これは…」
そう呟いた瞬間、強い突風が彼へと襲いかかり窓ガラスはバラバラに砕け散り、拓哉の体は宙を舞い、そして近くの教室のドアに体を乱暴に強く叩きつけられズルッと体が落ち床に尻餅をつく。
「うっ……」
短い呻き声と共に瞳を開く。
そこには広がった赤色の空間と廊下の窓ガラスの粉々に砕けた破片が地面に落ち、周囲の建物は一瞬にしてボロボロになっていた。
「何なんだ……これ…は…」
驚愕しながらも痛む体をゆっくりと起こし、立ち上がる。
さっきまでの景色とは全く違う……。
周囲を慌てて見渡すと自分以外人一人も居ず、ただただ赤い空間が目の前の景色を包んでいた。
ぼーぜんと立ち尽くしている拓哉の耳に微かにカシャとガラスの破片を踏む音と共に後ろから声が発せられた。
「魔術力結界だけど?もしかしてそれすらも知らないの?」
クスクスと馬鹿にしたような笑い声だった。
(まさか《代表候補者》付きの魔術師!!)
そう思い拓哉は身構え、バッと後ろを振り向いた。
振り向いた途端彼は瞳を大きく見開く。
そこにいたのは彼が予想をしていない人物だ
った。そしてもっともそこにいて欲しくない人物だった……。
その場所に立っていたのは……結城亜理砂だった―――。
ギリッと歯を食いしばりながら拓哉は震える声で小さく呟いた。
「あ…亜理砂……お前が魔術師だったのか?」
拓哉の台詞に彼女は小さくフッと鼻で笑いながら、唇をの端を緩めて、口元に手を充てながら妖艶のように微笑んだ。
「そうよ。いかにも私が《関西》の《代表候補者》進藤青葉様付きの魔術師よ」
こんにちは、せあらです。
white・アウト3話ここまで読んで下さり本当に本当に有難うございます。
今回は前回に比べて急展開に書かせて頂きました。
拓哉とアリスが仲たがいをした後、本性を現した亜理砂。
次回はその亜理砂と拓哉のバトルシーンと、
アリスの過去を書かせて頂く予定になります。
魔力がほとんど無い拓哉が《代表候補者》の亜理砂にどう対抗して行くのかを見て頂けたら嬉しく思います。
そしてピクシブで今回white・アウトのイラスト設定を冬原さんに描いて頂きました。
主人公の拓哉達を始め、ヒロインのアリス、
亜理砂、進藤などもいますので本当に素敵に描いて頂いたのでもし宜しければ見て頂けたら嬉しく思います。
ここで少しお知らせなのですが「white・アウト」4話は来年の春あたりに投稿予定となります。
イラスト担当の冬原さんが少し事情により春までお休みされる予定なので、それに合わせております。
本当に本当にお待たせして大変申し訳ありません……。
冬原さんも土下座しておりました。
なので春あたりには4話で亜理砂のバトルシーンを面白くなるように死ぬ気で原稿書きます!
私せあらとイラスト担当の冬原かなぎさん二人で力を合わせてwhite・アウトをより面白くなるように頑張って書いていきますので、どうぞこれからも宜しくお願い致します。
white・アウトがお休み期間中は小説家になろうでは以前ミライショウセツに応募させて頂いた作品「三次元に降臨したギャルゲーの嫁
」の改良版を載せたいと考えております。
こちらの方もどうぞ宜しくお願い致します。
最後になりましたがここまで読んで下さり有難うございました。




