逃走劇
宜しくお願いします
「ラッシャオラー!!!」
暗殺者の手から放たれた凶刃のナイフを間一髪の所で避けたユキナリ。無意識に奇声を発してしまっていたが、エルフ少女を抱えた状態でも何とか避ける事が出来た。
(運よく2回避けれたけど、相手は多分プロの暗殺者だよな。ここでモタモタしていたらスグに追い詰められてしまうかもしれないな。……一か八か、かな。)
床に着地したユキナリは間髪入れずにもう一度飛び上がった。
直後にその床へと飛来した4本のナイフが刺さる。
ターゲットの意外な俊敏さに暗殺者は内心驚きながらも、空中で身動きの出来ないはずのターゲットにナイフを放つために振りかぶった。その時。
ガシャーン!
大きなガラスの破壊された音が聞こえ、暗殺者の視線の先には、何か固い物によって無理矢理壊されたような木枠とガラスを飛散らかせながらぽっかりと空いた窓があった場所から外に飛び出ているターゲットの姿があった。
「くそ!?」
プロの暗殺者でも考えていなかった、ターゲットの想定外の行動に呆気にとられながらも、急遽ナイフの軌道を変えて放つ暗殺者。
「っつ!?」
慌てて修正された軌道であった為、直撃は間逃れたもののユキナリの肩に浅い切り傷を作って闇夜へと消えていくナイフ。
ホテルの三階から飛び降りたユキナリは、エルフ少女を抱えたまま繁華街の人通りの多いエリアへと走って行った。
1人部屋に取り残される事になった暗殺者は、依頼の失敗を通信の魔道具でギルドへと報告していた。このままターゲットを街中まで追走すれば、五権が出てくるような最悪の事態も想定されたからだ。そうなれば自分1人の命だけではなくギルド全体の存続に関わってしまう危険性があった。
通信を切った暗殺者は、先程の殺り損ねた男の事を考えていた。
この世界での暗殺者というのは立派な戦闘用職業である。素早さを生かしたヒットアンドアウェイ戦法で正々堂々戦う事も出来るのだ。
魔物や異種族がそこかしこに居り、戦いが日常茶飯事のこの世界において武の心得を持つ者は圧倒的に多く、自身の力にプライドを持っている者も多い。彼の同僚の暗殺者も、ターゲットに返り討ちにあって殉職した者もいるし、手傷を負わされた者もいる。暗殺者の常識としてターゲットが反撃もせずに尻尾を巻いて逃げ出すという事は考えられない世界なのだ。
しかし、そこは異世界からの転生者であるユキナリ。某怪盗漫画のように危険を感知したらアラホラサッサーと退却してしまう事こそが常識のチキンボーイである。幼き日の過酷な日々と天界での拷問トレーニングが彼の危機感知能力を開花させたのであろう。
「ふむ、面白い男ではあったが残念ながらもう会う事は無いだろう。」
そう言って暗殺者は闇に溶け込むように部屋から消えた。
暗殺者とは孤高の存在。群れず、単独で得物を狙うチーターのような職業。故にとっても独り言が多くなるという弊害が発生するとかしないとか……。
その頃、なんとか暗殺者の襲撃から逃げおおせたユキナリは、エルフ少女を抱えたまま繁華街を疾走していた。恥ずかしさから顔を真っ赤に染めたエルフの美少女をお姫様抱っこ状態で駆け抜けるユキナリを、街の人々は何かのプレイの一環なのかと見送るのであった。さすがは風俗街。奇行には慣れた物である。
暗殺者が諦めた事を知らないユキナリは安全な場所を探して右往左往していた。戦力面ではシャナのいる自宅に帰るのが安全なのだが、愛する仲間に危険が及ぶような事はできる限りしたくないという気持ちから、別の安全圏を目下探索中であった。決して腕の中の美少女とホテルに行っていた事をシャナ達に知られたくないなぁなんて事じゃないからな。マジでマジで。
しっかし身体がなんかダルイなと首を捻っているユキナリであったが、ある一軒の建物の前で足を止めた。
【龍宮城】。五権の一人である【カルリリス】が経営する世界最大の風俗店である。料金は莫大ながらも世界中に顧客を持ち、龍宮城に通えるようになったら一流の人物であるとさえ言われる程の最高級店である。
そのような高級店であるから、当然働いている女性も相応の実力を求められる。美しい容姿は当たり前であり、お客を楽しませるトーク術や知識、気品。床でのテクニックや演技力などを最高水準で納めている者のみが働く事が出来るのだ。
狭き門ながらも、龍宮城で働けるという事は女性として素晴らしい魅力を持っている事の証拠であり、貴族よりも豪華な生活や、大金持ちへの玉の輿などが待っているとあって常に人気の店となっているのだ。
ユキナリは先日、自分が死んでいる間にかけてしまった迷惑のお詫びとお礼の為に一度来訪しているが、その時は営業時間であった為にカルリリスには会う事が出来なかった。
しかし、五権である彼女であればなんとかしてくれるかもしれないと思い、意を決して受付にいたサキュバスの女性(巨乳)にカルリリスさんへの面会を依頼した。彼女は前回も対応してくれた女性であり、ユキナリの事を覚えてくれていたらしく、突然の来訪なのにイヤな顔せず対応してくれた。
カルリリスさんは会ってくれるそうなので、ロビーのソファにエルフ少女と並んで座って待つことになった。
エルフ少女はお姫様抱っこを解除してもまだ固まってしまっていた。
周りを見てみると、高級そうな衣装を着た人間族の客が大部分を占めており、自分の順番が来るまでにアルコールを飲んでいる者が多いようだった。
(あー、でもなんか身体が重いなぁ。身体も熱くなってきたようだし風邪かなぁ?)
暫くしてカルリリスがやって来た時、ユキナリの意識は深い闇の中へと沈んでしまっていた。
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