盥
宜しくお願いします
「…………ん?」
意識が戻ったユキナリが横たわっていたベッドから起き上がった。
軽く周りを見回してみるが、見覚えのない部屋であった。パッと見、高級ホテルのようなインテリアが飾られた室内は落ち着いた雰囲気の中にも決して下品でない高級感を感じる。先ほどまでいたホテルも高級ではあったが、ここはさらにグレードが高そうだ。
「……ホテル?……ホテル……、……ホテル!?」
ユキナリが現状の把握が出来た事と同じ時に部屋の扉が開いた。
開いた扉からは、桶を持った赤いドレス姿の女性。受付にいたサキュバスの女性だった。
「あら?気が付いたのね。」
そう言って桶をテーブルの上に置くと、ベッド横に置かれていた椅子に座る女性。現状の把握は出来ていても理解が追い付いていないユキナリがあわあわとしていると。
「私は【アモン】。この龍宮城で働いているの。取りあえず貴方の身に起こったことを順番に話していくわね。」
何故かぎこちない身体を無理矢理動かして、アモンさんを正面に見据えるように向きを変える。現状、彼女から情報を仕入れないと理解する事ができないのだからと、真剣に聞くという意識の表れである。
「そうね、それじゃあまずは……、服を脱ぎなさい。」
はい?という顔になるユキナリ。
冗談ですよね?と目で問いかけてもニッコリ笑うだけのアモンさん。
そのままガッシリと肩に置かれた両手は女性とは思えないほどの力で万力の様にユキナリの身体を抑えつけていた。
「ちょ!ま、待って、やっ!ぎゃーー!?」
「もう、こんなに汗だくなんですから、体調悪化させてしまったらどうするのよ?」
シャツを無理矢理脱がされた上半身裸のユキナリは無防備な背中をアモンさんに向けていた。
その背中に冷たい布が当てられる。火照った身体から発せられる熱と知らぬ間にかいていた玉のような汗を吸い取ってくれる。
「カルリリスさんを呼んでいる間に倒れちゃうんだもの、連れのエルフの女の子なんて取り乱しちゃって大変だったのよ。」
布を持ってきた桶の中の冷たい水に付けるとギュッと絞って水気を落とす。
「でも運が良かったわね、薬品や毒物に詳しいカルリリスさんが最初に見てくれたから対処できたんだしね。」
はい腕あげて~と言われるがままにあげると腋を拭われた。
体中を優しく拭かれながら聞かされた話によって、ようやくユキナリは現状を理解する事ができた。
突然の暗殺者の襲撃から逃げ出したユキナリ達であったが、逃げ場所として入った龍宮城にてユキナリが突然高熱を出して倒れてしまったとの事だ。
どうやら暗殺者の放ったナイフに毒薬が仕込まれており、掠り傷から感染してしまったようだ。
カルリリスの診断で原因と症状は分かったのものの、使われているのが魔法性の強力な毒物の為、状態異常専門の治癒師でも回復は難しいという診断が下ったらしい。
「うぇ!?じゃあ何で俺生きてるんすか?」
「それは【リリアナ】ちゃんのおかげよ。後でお礼言っときなさいな、本人もふらふらなのにあなたの看病やめようとしなかったんだから。」
(リリアナ)?
彼女達が解毒方法を探す中で、1つの可能性が見つかったらしい。それは毒薬以上に濃厚な魔力をユキナリの身体に流すことで、魔力による毒物を中和するというものだそうだ。
調べた中でも最も可能性の高い方法だったようではあるが、リスクや懸念もあった。
まずはプロの暗殺者の魔力を超える量の魔力の持ち主を複数人いなければならない。これは魔力の高い種族であるサキュバス族が多数いる龍宮城に強力してもらえればなんとかなる。
もう1つは、質の違う魔力を長時間浴びせられ続けるユキナリの身体への負担だ。魔法の適正の高い種族であっても、多様な魔力に当てられ続ければ厳しい結果になるであろう事を人間族のユキナリにやるという事はやはりリスクが大きい。
下手をすれば死んでしまうかもしれない処置に、カルリリスとアモン以外が及び腰になてしまい、処置自体をする事が難しくなってしまったらしい。
『わ、私がやります!』
そんななか、今までうつむいていたエルフ少女が突然発した一言に皆が驚いた。
『私はルヴィティス出身のエルフ族、【リリアナ・ルヴィナリア】です!私にやらせてください!』
「いやー、ビックリしたわね。さすがは魔法大国出身ね、私やカルリリスさん並の魔力を長時間放出できちゃうほどの魔力キャパシティを持っているなんてね。」
「ええ、もう大丈夫みたい。お疲れ様、リリアナさん。」
夜中じゅう魔力を放出しすぎた結果、さすがのリリアナも魔力がすっからかんになったようで気を失うように眠ってしまった。
「それでも凄いですね、カルリリスさん。エルフ族は確かに魔力の高い種族だけども、ここまでの力を持っているんですね。」
先ほどまで毒物による苦しみに魘されていたユキナリは、意識は戻っていないながらも大分落ち着いたようである。
「じゃあ、ユキナリ君のほう開いてる部屋に寝かせてきますね。」
どっこいしょとユキナリを肩に担ぎあげたアモンはそのまま部屋を出て行った。
細身ながらも長身なユキナリを軽々と抱え上げて去って行ったアモンを見送ったカルリリスは、眠ってしまったリリアナに目を向けた。
「え?……これは!?」
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