↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるじとかな  作者: 夜霧
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/17

熱

 魔術師は食後のお茶を入れ、長椅子に座った

 かなを見ると満足気に毛繕いをしていた


 魔術師はかなの様子に優しく目を細めると、魔導書を開いた

 夕食後のいつものゆったりとした時間

 かなが寝ようと言うまで魔術師は本を離さない


 ふいにかなが毛繕いから顔を上げた

「あるじ、殺気だった人間が来る」

 かなが魔術師を守るように玄関前に走っていった

 魔術師が窓から外を覗くと、かなを抱き上げた

「かな、大丈夫だよ。落ち着いて。殺気と感じるのはきっと焦っているからだ」

 魔術師は不思議そうに見上げるかなを撫でた


 ドンドンドン

「魔術師様、夜分に申し訳ありません」

「はい、今開けます」

 ドアを開けると、そこには松明を掲げ、雨に濡れたように汗を流し、息を切らした男が立っていた

「塔の魔術師様、どうか助けてください。子供の熱が下がらんのです」

「わかりました。必要なものを取ってきます。お話は向かいながら聞きますので、ここでお待ちを」

 魔術師は地下へ降り、かなを床へ下ろすと、倉庫からいくつかの包みを袋へ入れた

「かな、今から村へ行く。かなはここで待つ?」

「あるじと一緒に行く」

「かなは村人と関わるのは初めてだ。分からないことや、驚くような事もあるかも知れないけど、私がいるから大丈夫だよ」

 魔術師はかなを再び抱き上げ優しく微笑みかけた

「わかった。ぼく何もしない。あるじのそばにいる」

「かな。ありがとう」

 魔術師がかなの頭を撫でた

 肩に袋をかけ、ランプを持って玄関へ戻った

「行きましょう」

 男に声をかけ、暗い夜道へと歩き出した


 男の家に着くとベッドで苦しそうにしている女の子がいた。側には母親が居る

 かなは戸惑ったように様子を伺っていた

「娘は大丈夫でしょうか…」

 男が心配そうに尋ねた

「大丈夫です。薬を飲ませて安静にしていたら熱も下がってきますよ」

 魔術師は包みを開け、水に溶いて男に渡すと、母親が女の子の身体を起こし、ゆっくりと女の子に飲ませた

「にがい」

 女の子は泣きそうな顔で言った

「にがい!」

 かながとても嫌そうな顔をした

「あるじ、にがいの、かわいそうだよ」

 魔術師はかなの言葉にハッとした

「そうだね、小さな子には苦いのは辛かったね。なにか、水飴とか蜂蜜とかありますか?」

 そう言うと、今度は母親へ顔を向けた

「はちみつ!ぼく取ってくるよ!」

 今にも駆け出しそうなかなに母親が微笑んだ

「優しい聖獣様。この子が飲む分位なら家にもありますから大丈夫ですよ」

「よかった」

 かながぺたりと座り込んだ


 母親がハチミツを足した薬を女の子に飲ませ、横にならせたが女の子の呼吸は荒いままだった

「あるじ、つらそうだよ」

 かなが心配そうに女の子を見つめる

「熱が有るからね。病気と戦うために必要だけど、高い熱が続くのは良くないんだ」

 魔術師がかなを抱き上げ言った

 かなは女の子の枕元に降り、寄り添った

「ほんとだ、すごくあったかい。ぼくこのままここにいて良い?」

「かながそばにいたらすぐに下がりそうだね。かなは冷やすのが得意だから」

 魔術師は母親へ微笑んだ


「このまま朝まで私たちが様子を見ています」

「わかりました。よろしくお願いします」

 母親は一礼すると男と共に部屋を出て行った

 かなは頭を下げ、眠りについた

 魔術師は魔導書を広げ、読み始めた


 コンコンコン

 静かにノックする音がした

「あるじ、誰か来た」

 かなが目を覚まし魔術師へ声をかける

 魔術師が魔導書から顔を上げ、かなを見てはっとした

 女の子が穏やかに眠る姿を確認し、扉を開けた

「娘の様子はいかがでしょうか」

 母親が心配げに尋ねた

「熱も下がり、穏やかに眠ってますよ」

 扉を広く開け母親を中に招き入れる

「お母さん?」

 女の子が目を覚まし起き上がろうとした

 かなは慌てて床へ降た

 母親は女の子の傍らに跪き、おでこを触り、顔色を確認した

「猫ちゃん?」

 女の子の視線を追った母親は、かなを見ると立ち上がり

 深々と頭を下げた

「魔術師様、聖獣様。娘を助けて頂きありがとうございました」

「猫ちゃんじゃなくて、聖獣様が助けてくれたの?」

 女の子がかなを見ながら言った

「かながそばにいたから早く熱が下がったようだね」

「ぼく?その子がつらそうだからそばにいただけだよ」

 女の子は母親の顔を見て、それからかなと魔術師へ視線を移すと

「聖獣様、魔術師様。ありがとうございました」

 と笑顔で言った


「では、私たちはこれで帰ります。かな、帰ろう」

 本をしまい、魔術師はかなに声をかける

「お待ちください」

 母親が慌てて部屋を出ていく

「お礼にもなりませんが、これをお持ちください」

 戻って来た母親は紙袋を魔術師へ手渡す

「いい匂い」

 かなが嬉しそうに言った

「頂きます。ありがとうございます」

 魔術師は受けとると礼を言った

「こちらこそ、ありがとうございました」

「聖獣様、バイバイ」

 母親と女の子がそれぞれ別れの挨拶をする

 男が玄関で二人を見送り、その姿が森の中へ消えるまで頭を下げていた








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。