領主の街へ
チラチラと雪が降る中、魔術師はかなに乗って街道を進んでいた
雪は外套の肩に落ち、すぐに消えていく
並木が途絶え、視界が急に開けると、白く霞む先に灰色の城壁が見えた
「かな、止まって。ここからは歩こう」
魔術師はかなから降り、石畳の上を門へ向かって歩いていった
雪はまだ地面を白く染めるほどではなく、足元にも積もっていなかった
雪の時期に街道を行き交うものも少なかった
門番は遠くからこちらに気付き、じっと様子をうかがっている
門番のひとりが背筋を伸ばし、槍の石突きを石畳に打ち付けた
その小さな音が、凍てついた空気の中でやけに大きく響いた
かなが魔術師を見上げると、大丈夫だというように、かなの頭を撫でた
「止まれ。用向きを聞こう」
門の入口に着くと、低くかすれた声で門番から問われた
「ツムギ村より、村長の代理で参りました。こちらを」
魔術師は、村長から預かった手紙を門番へ渡す
門番は手紙に押された領主の印を確認し、内容を改めると、かなへちらりと視線を向けた
「通っていいぞ。領主様のお屋敷は街の一番奥だ」
手紙を魔術師に返すと道をあけた
「ありがとうございます」
魔術師は一礼すると、街の中へと入った
石畳の通りに、屋台の骨組みだけが並んでいた
その上にハラハラと雪が落ちていた
行く人も少なく、濡れた石畳は足音を吸い込み、とても静かだった
それでも村とは比べ物にならない街並みに、かなは目を輝かせ、きょろきょろと辺りを見回していた
軒を連ねる家々の煙突からは煙が上がり、パン屋は表の棚を引っ込めて、店の中の棚にパンを並べ直していた
焼きたての小麦の香りや甘い焼き菓子の匂いが漂い、どこからか煮込みのいい匂いもしていた
「あるじ、すごいね!」
かなはしっぽをゆらゆらと揺らし、楽しげにしていた
その様子が伝わったのか、ポシェットの中でキュッとあおが鳴いた
魔術師が蓋を開けると、あおが顔を出す
「あお、起きたの?」
かなが寄ってきて、あおの前に立った
あおはキュッと返事をすると、周りを確かめるように見回している
「街に着いたんだよ」
かなが寄り添うようにあおの隣へ並んだ
「さぁ、寄り道は後にして、領主様のお屋敷へ行こう」
魔術師はかなを促す
初めての街に目を輝かせ、辺りを見回す二人の姿がまるで兄弟のようで、魔術師は微笑ましく思った




