冬支度
『あるじとかな』第二章、本日より開始いたします
第一章では、あるじとかな、あおが家族となり、村の人々との繋がりを深めてきました
第二章では、いよいよ新たな世界へ
引き続き、あるじとかなの物語をお楽しみいただけましたら嬉しいです
収穫祭が終わると、冬の気配は日に日に濃くなっていった
朝霧に包まれた森では、色づいた葉が静かに舞い落ち、木々は梢をすぼめていた
魔術師は、倉庫で冬支度の品を確認していた
魔術師の魔法で一定温度に保たれた倉庫には、毛布、燻製や干し肉、木の実、干した果実、保存用の野菜が整然と並べられていた
いつもの冬なら、雪が溶けるまで、一人地下に引きこもり研究を続けていれば良かった
しかし、今年はかなとあおがいる
村人たちは、かなとあおに木の実と干した果実をたくさん分けてくれていた
それでも、長い冬をかなとあおがどのように過ごすのか、魔術師には想像がつかなかった
何が必要になるのかも分からない
魔術師が倉庫内を眺め思案していると「あるじ!」とかなが呼んだ
振り返ると、かなとみのりが立っていた
「冬支度のお手伝いに来ました。かなちゃんが案内してくれたのでここまで来てしまいました」
みのりは少し困ったように笑った
「みのりさん、いらっしゃい。助かります」
魔術師はみのりの顔を見て安堵したが、そんな自分が少し可笑しくて、くすりと笑いがこぼれた
「かなちゃんとあおちゃんに必要になりそうなものもお持ちしました。全てこちらに運びますか?」
「ぼくも運ぶ!」
みのりの問いかけにかなが元気よく答えた
「こちらで大丈夫です。かな、お願い出来るかな」
「うん!」
魔術師の言葉にかなは嬉しそうに返事をすると、玄関へ駆けていった
「みのりさん、ありがとうございました」
倉庫内の整理も終わり、みのりに礼を言った
ふと魔術師は辺りを見回したが、かなが見当たらない
かなは荷物運びを手伝い、ご褒美と言ってみのりからひとつ焼き菓子をもらって食べていた
先程まで焼き菓子を大事そうに両手で持ち、嬉しそうに頬張っていたが、今は姿が見えなかった
「かなちゃんなら、さっき上にあがっていきましたよ」
魔術師の様子から察したのだろう。みのりが教えてくれた
みのりとともに居間へ行くと、くるみとあおが楽しそうに遊んでいた
かなは塔の二階にいたようで、階段を降りてくると魔術師の足元に来た
「あるじ……ちょっと来て」
かなが耳を伏せ、元気なく魔術師を見上げた
かなに言われるまま、みのりと塔の二階へ登っていくと、かなは出窓へと飛び乗った
「あるじ。ここ、ひなたが無くなっちゃった」
かなは耳を伏せ力なくしっぽを垂らし出窓の床を見る
いつもかながお昼寝をしている場所は、まだお昼過ぎだと言うのに暗く、日陰になっていた
窓の外には影が伸び、わずかに木漏れ日が差し込むだけだった
「そうか。ひなたじゃなくなってたんだね」
魔術師はかなの頭を優しく撫でた
「日が低くなって、日当たりが悪くなってしまったんですね」
みのりは、かなの悲しそうな姿に胸を痛めた
「ぼく、ひなたでお昼寝したい」
かなは耳を伏せ、甘えるような瞳で魔術師を見上げた
「そうだね、かなはひなたが好きだから、ひなたがいいよね」
魔術師はかなに微笑みかけた
魔術師はもう一度、暗くなった出窓へ目を向けた
かなが毎日丸くなって眠っていた場所
冬が来るたびに、ここは日陰になってしまう
「……そうか」
小さく呟くと、魔術師はかなを抱き上げた
「みのりさん、少し外へ行ってきます」
「わかりました。下にいますね」
みのりは返事をすると、一階へ降りていった
魔術師はかなを抱いたまま外へ出ると、塔を見上げた
かなも不安そうな顔で、同じように塔を見上げていた
今の塔の高さでは、冬の低い日差しは届かない
「かな。冬でも陽の当たる新しい部屋を作ろうか」
「ほんと!」
かなの耳がピンと立った
かなは目を輝かせ、魔術師の頬へ頭を擦り寄せた
魔術師は一度中に戻りみのりに声をかけた
「みのりさん、暖かくしてあおとくるみちゃんと、一度外に出てもらえますか?」
「わかりました」
みのりはくるみにコートを着せるとあおをポシェットへ入れてくるみに渡し、自分もコートを着ると、くるみを促して外へ出た
「お母さん、こっち」
少し離れたところから、かながみのりを呼んだ
「あるじが離れててって」
みのりたちが見守る中、魔術師はしばらく塔を見上げていた
やがて袋からひとつかみの金色の粉を取り出した
金色の粉は光を帯びながら空へと舞い上がり、螺旋を描くように昇っていく
その軌跡を追うように、塔の輪郭が下から上へと形作られていく
金粉が塔の先まで到達するとまるで花火のように花開き、静かに落ちていった
金粉の輝きが消えると、そこには空へと伸びる塔が現れていた
みのりは感心したように見上げ、くるみは驚きに目を丸くし、口を開けている
輝きが収まると、かなは魔術師に駆け寄った
かなは嬉しそうに魔術師の周りを走り回る
「あるじ!ありがとう」
かなはそのまま塔の中へ駆け込んで行った
「あるじ!ここ!いい感じ!」
森の木よりも遥かに高い出窓から、かなが顔を出して叫んだ
「気に入ったようですね」
みのりが魔術師の元へ歩み寄りながら言った
「それにしても、かなちゃんのために塔を造ってしまうなんて……魔術師様らしいですね」
みのりが新しく建てられた塔を見上げた
「魔術師様。私も上に登っていい?」
くるみはおどろいた顔をしていたが、上から顔を出したかなを見て、行きたい気持ちを抑えられなくなった
「いっておいで」
魔術師の言葉にくるみも嬉しそうに駆け出した
その日、新しい塔の窓辺には、冬の優しい陽の下でお昼寝するかなとしっぽにしがみつくあお
そして、かなの隣で眠るくるみの姿があった




