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あるじとかな  作者: 夜霧
第一章

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11/17

消えた二人

 村人たちの収穫も終わり、動物たちも忙しく冬支度を始めていた

 村では収穫祭の準備が進み、忙しく準備を進める大人たちに混じって手伝う子供たちもいれば、邪魔をして叱られる子供もいた

 今日も村は笑い声に満ちていた


 豊穣神への祭壇には毎年、子供たちが木の実や藁などで作った動物を飾る

 今年はかなや魔術師も参加するため、いつも以上に子供たちが張り切っていた


「これじゃダメだ。もっと大きな松ぼっくりじゃないと」

 そうたは動物を組み立てながらため息をついた

 かなを作るなら、もっと大きく立派な松ぼっくりが必要だ

 村の近くは、もう子供たちに拾い尽くされているが、森の奥なら見つかるかもしれない

 そうたは立ち上がった


「兄ちゃん、待って!」

 弟のゆうたが追いかけてきた

「ゆうたは家にいろよ、危ないから」

「やだ、兄ちゃんと行きたい」

「森へ入るから危ないだろ、家にいろ」

「やだ!」

 弟と揉めている声が聞こえたのか、くるみがこちらへやって来た

「連れてってあげなよ。村が見えるところまでなんだからそんなに危なくないよ」

「……………」

 答えられないそうたを見て、くるみの顔色が変わった

「もしかして奥まで行く気なの?」

「かなを作れるほど大きい松ぼっくりが無いんだよ…」

「ダメだよ、危ないよ。それに入口が見えるところまでって決まりがあるんだよ」

「わかってるよ!でも、かなを作りたいんだ!すごいの作ってかなに見せたいんだよ!」

 そうたは勢い込んで言った

「くるみにならわかるだろ?かなを喜ばせたい俺の気持ちが」

 くるみは言葉につまった

「明るいうちに帰る。約束するよ」

「絶対だよ!約束だからね」

 くるみは泣き出しそうな顔で言った

「あんまり奥まで行かないでね」

「大丈夫だって。ゆうた、行くぞ」

 二人は色づく木々の森へ消えていった


 出窓にいたかなが不意に目を覚ました

 かなは耳をぴくぴくと動かし、暗闇でなにかの気配を感じ取ろうとしているようだ

「あるじ、くるみが泣いてる」

 かなの声に魔術師が顔を上げた

 気づけばもうすっかり暗くなっていた

「ぼく、村へ行ってくる」

「かな、私も一緒に行こう」

 魔術師は机の上に置いてあったランプを手に取るとあおをポシェットへ入れ、かなとともに村へ向かった


 暗い森の先、村の方角だけがぼんやりと明るくなっていた

 村に近づくにつれて、チラチラと明かりが見え、ザワザワと人々の声もしていた

「何かありましたか?」

 魔術師が村人に声をかけると、村人の間から「かなちゃん、助けて!」と声が聞こえた

「くるみ、ぼく来たよ」

 その声にかなが駆け寄ると、くるみがひときわ大きな声で泣き出した

「私、止めたの。でも行くって。かなちゃん喜ばせたいからって。止められなかった。ごめんなさい」

 泣きながら切れ切れにくるみが説明した

「居なくなったのは誰ですか?」

 魔術師がそばにいたみのりに尋ねた

「そうたとゆうたの兄弟です」

「そうたとゆうたなら、ぼくが見つけられる」

「かな、待って」

 みのりの言葉に駆け出しそうなかなを魔術師が止める

「かなと探しに行ってきます。必ず連れて帰りますから、皆さんは村から出ずに待っていてください」

 魔術師は村人を見渡して言った

「くるみちゃん、あおを預かって貰えるかな?」

 くるみの前にかがむと、泣きやまず、嗚咽を繰り返すくるみにあおのポシェットを渡した

 くるみは顔を上げあおを受け取る

「はい…あおちゃんと、待ってます」

 魔術師は微笑みくるみの頭を優しく撫でると立ち上がった

「後をお願いします」

 みのりが魔術師の言葉に頷いたのを確認するとかなに声をかけた

「かな、行こう」

 魔術師とかなは暗い森へと消えていった


 暗い森の中をかなは迷いなく進んでいった

 時折確認するように立ち止まるがすぐにまた歩き出し、やがて崩れた道の端で止まった

「あるじ、二人はこの下にいる」

 魔術師が手をかざし呪文を唱えると、大きく強い光を放つ炎がゆらゆらと中に浮かんだ

「そうたくん、ゆうたくん。そこにいるね?」

 魔術師は崖下を覗き込み声をかけた

「え?誰?」

 怯えた声が返ってきた

「あるじとかなだよ。迎えに来たんだ」

「え?かな?」

 かなが声をかけると、返事の後に、小さく泣く声も聞こえてきた

「怪我は無いかい?二人とも動けるかな?」

 魔術師が心配そうに尋ねた

「……うん。転んで落っこちたけど、多分平気」

 そうたが答えた

「良かった。もう大丈夫だよ。かなが今からそこへ降りて行くからね」

 魔術師が二人に声をかけると炎を二つに分け、ひとつを崖下へと送る

 ゆらゆらと崖下へ降りていき、そうたとゆうたの周りをゆっくりと一回りした

「かな。二人を背に乗せて安全なところまで移動してくれるかな?私はこのまま村の方へ引き返すから途中で落ち合おう」

「わかった。あるじも気を付けてね」

 そう言うと、かなは崖を降りていった


「かな!」

 かなの姿が見えるようになるとそうたがかなを呼んだ

 ゆうたがグズグズと鼻を鳴らしながら泣いていた

 そうたも今にも泣き出しそうな顔をしていたが、弟を心配させないために我慢していた

「ぼくが来たから大丈夫だよ。ぼくの上に乗って一緒に帰ろう」

 かなが二人に近付いた

「いくらかなでも、俺たちふたりは無理だ。弟を乗せてやってくれ」

「大丈夫、二人とも乗って」

 かなはそう言うと雪豹の姿に戻り、二人が乗りやすいよう地面にお腹をつけて伏せた

 かなの姿が変わったことに驚き、ゆうたは泣き止んだ

 そうたも驚いた顔のまま動けずにいた

「これなら乗れるから」

「かな?」

「そうだよ、ぼくだよ。二人とも乗って。村へ帰ろう」

「わかった」

 ゆうたを促しそうたはかなの上に座った

「捕まっててね」

 かなはゆっくりと立ち上がった

 二人のそばでふわふわと浮いていた炎は泳ぐように移動し、少し先で止まった

「帰ろう」

 かなはゆっくり村へ向かって歩き出した

 炎はかなの動きに合わせるように、静かに尾を引きながら前方を泳ぎ、暗い森を照らしていた


 かなの背で揺られているうちに、そうたは弟の体温とかなの体温を感じられるようになった

 温かい……ようやく崖下に落ちた恐怖から、気持ちが落ち着いてきたようだ

「かなの背中に乗るなんてあおみたいだな」

 そうたは自嘲気味に言った

「そうだね、あおと同じだ」

 かなの返事にそうたは自分が小さくて弱いと言われている気がして落ち込んだ

「あおは体が小さいから遠くまで行けない。だからあおよりも体の大きなぼくが乗せて移動するんだ。今日はそうたもゆうたも疲れているし、暗くて危ないからぼくが乗せていく。そうたも出来ないことは出来る人に頼めば良いんじゃない?」

 そうたはかなの言葉に恥ずかしくなった

 意地を張らずに大人に頼めばよかったんだ……

「……かな、迷惑かけてごめん」

 そうたはなんだか泣きたくなったが泣くまいと歯を食いしばった

「ぼくは良いけど、くるみがすごく泣いて心配してた。村の人も心配してた」

 そうたはくるみと約束をしたことを思い出した

「けど、くるみを泣かせたのはダメだ」

 かなが僅かに低く唸ったような気がした

 かなは本当は怒っているのかもしれない。でも探しに来てくれた

「かな、来てくれてありがとう。俺、くるみにも村の人たちにもちゃんと謝る」

「うん、そうして」

 そうたは堪えきれずポロポロと泣き出した


 少し先に明かりが見えてきた

「あるじ!」

 かなが呼ぶと魔術師の側にある炎が返事をするかのようにひときわ明るくなった

「かな。ありがとう」

 魔術師はそばに来たかなの頭を撫でる

 かなも魔術師にスリスリと頬を擦り付けた

 かなの背中の二人にも声をかける

「二人とも大丈夫かい?あぁ、ゆうたくんは寝てしまったか。そうたくんよく頑張ったね」

「俺が悪いから……魔術師様ごめんなさい」

「みんなにも謝ろうね」

「かなにも言われました。帰ったらみんなに謝ります」

 魔術師はそうたの頭をポンポンとすると言った

「私がゆうたくんを抱こう」

 ゆうたをそっと抱き上げ、そうたに前へ詰めるように促すと、魔術師はかなの背へ乗った

「かな、急いで村へ帰ろう」

「わかった」


 かなが走り出した

 炎は二つになっても相変わらず前を照らすように泳いで行った

 すごいスピードなのかもしれないが魔術師に支えられていると揺れさえも感じなかった

 少し走るとすぐにたくさんの明かりが見えてきた

 村に帰ってきたんだ

 そう思った時、ズキンと膝が痛んだ

 そうたは膝に擦り傷があることを思い出した


「かな、止まって」

 村の入口まで来ると魔術師がかなに言った

 ゆうたを抱いたまま魔術師はかなから降りると炎を消し、歩き出した

 かなはそうたを背に乗せたまま村の中へと進んだ

「そうた、ゆうた!」

「無事でよかった」

「かなちゃん」

「ありがとうございます」

 様々な言葉が飛び交う中、魔術師たちは村人に囲まれた

「かなちゃんありがとう」

 くるみが泣き出し、かなに抱きついた

 そうたはかなの背中から飛び降りると

「心配かけて、ごめんなさい!」

 大きな声で言い、頭を下げた


 魔術師はゆうたを母親へと渡す

「魔術師様ありがとうございます。お姿はいつもと違いますが、こちらは聖獣様、ですよね。ありがとうございます」

 母親は雪豹姿のかなに戸惑いながらお礼を言った

「無事で良かったですね。そうたくんも疲れていますから今日はもう休ませてあげてください」

「わかりました。ありがとうございました。そうた、家に帰るよ」

 魔術師とかなへ改めて頭を下げると、そうたを連れて母親は家に向かった

「皆さんもお疲れだと思います。子供たちも無事に戻りましたので家に帰りましょう」

「魔術師様もこう仰っている。皆、解散だ」

 村長の言葉に村人がバラバラと散っていく

 広場に残ったのは、かなに抱きついたままのくるみと、かなを褒めているみのりだけになった

 いつの間にかポシェットから出てきたのか、あおがかなの背に乗っていた

「大きなかなちゃんは立派ね」

「何かあったら、ぼく、お母さんも乗せられるからね」

「あら、嬉しいわ。かなちゃんありがとう」

 かなはしっぽを大きく揺らし嬉しそうだ

「みのりさん。くるみちゃんは大丈夫でしょうか」

 魔術師はかなに顔を押し付けたままのくるみを心配した

「くるみ、ほらもう大丈夫でしょう。あら、くるみ?」

 みのりが声をかけるが、かなに抱きついたままくるみは眠っていた

「かなちゃん、ごめんなさいね。魔術師様くるみを連れて帰ります」

「くるみちゃんも気が抜けたのでしょう。私も二人が無事だとわかった時は安堵しました。くるみちゃんもゆっくり休ませてあげてください」

 魔術師はくるみの頭を優しく撫でた

 みのりはくるみが抱えていたあおのポシェットを魔術師に返すと、父親を呼んだ

 離れたところで様子を伺っていた父親がくるみを抱き上げてみのりと帰っていった

「かな、あお。帰ろうか」

「うん」

 かなは小さな雪豹の姿に戻るとあおを乗せたまま塔に向かって歩き出した









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