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第47話 好感度、測定不能

「ダン氏。本日は、あなたの現在の『好感度』を測定する実験にご協力いただきたい」


国家公認となってから数日後の〈クビキリ堂〉。

ノーチェは灰色の瞳に一切の感情を浮かべず、俺の机の上に怪しげな箱型の魔導器械を置いた。


「好感度、だと?」


「はい。国家公認代行人となったことで、王都の市民があなたに対して抱いている無意識の好意、あるいは悪意の総量を、この特殊な魔導センサーで数値化します。今後のリスクマネジメントに必要なデータです」


なるほど、そういうことか。

確かに、あの狂乱の公開審問を経て、俺の世間的な評価は「社会の敵」と「不器用な英雄」の間で真っ二つに割れている。俺としては、どれだけの人間が俺を正しく憎んでくれているか、具体的な数字で知りたいところだった。


「いいだろう。俺の極悪人としてのヘイト値がどれほど上がったか、見せてもらおうじゃないか」


俺は上機嫌で、器械から伸びる水晶のセンサーに右手を置いた。


――ピピピピピピピッ!


手を置いた瞬間、器械のメーターが狂ったように跳ね上がり、警告音のような甲高い電子音が事務所に鳴り響いた。


「おお、すごい勢いで数字が上がっていくぞ!」


俺が歓喜の声を上げた、次の瞬間。


バチィィッ!!


器械の内部から激しい火花が散り、焦げ臭い煙と共にメーターの針が振り切れたまま、完全に沈黙した。

以前の審問庁での測定や、国家公認式典の時と同じだ。俺の周囲の魔導器械は、どういうわけかよく壊れる。


「……本日の好感度を記録します。……測定不能。器械の故障と思われます」


ノーチェが眼鏡を押し上げ、全く動じない無表情のまま、淡々と手帳に記録を書き込んだ。


「なんだ、ただの故障か? いや、待てよ」


俺は煙を上げる器械を見つめ、一つの結論に達した。


「俺の集めたヘイトが強大すぎて、安物の器械では計りきれなかったってことじゃないか? 測定不能の敵意。素晴らしい、俺のヘイトもいよいよ高級品の域に達したというわけだ」

俺が胸を張って大喜びしていると、背後からフィオナがすっと顔を出した。


「お言葉ですが、ノーチェ殿。その測定器の術式構造は古すぎます。対象の複雑な魔力波長と感情ベクトルを解析するには、私が構築した多層式観測術式を用いるべきです。貸してください、私が正しい数値を出します」

フィオナが壊れた器械を横取りしようと手を伸ばす。


「こ、好感度だと!?」

さらに、隣の部屋から顔を出したロッタが、顔を真っ赤にして叫んだ。


「馬鹿なことを言うな! こんな外道な男に好感度などあるわけがないだろう! あ、あるとすれば、それは私が彼を厳しく監視しているという、その、市民からの安心感の表れであって、決して彼自身に向けられた好意では……!」


ロッタが一人でパニックになり、フィオナが器械を分解し始め、ノーチェがそれを無表情で阻止しようとする。

俺は、俺のヘイト値を巡ってまたしても三人のアンチが不毛な陣取り合戦(牽制)を始めたのを見て、深く満足げな溜め息をついた。


「まあ、焦るな。俺への憎悪は王都全体にたっぷり用意されている。お前たちだけで独占しようとしなくても、極上のヘイトは逃げやしないさ」


俺の能天気な言葉に、三人の少女たちは一斉に動きを止め、信じられないものを見るような目で俺を睨みつけてきた。


【本日のヘイト評――測定不能。冷たいはずなのに、妙に体温がある。★測定不能】



夜。〈クビキリ堂〉の片隅に置かれた自分のデスクで、ノーチェは今日の観測データを整理していた。


(……器械の故障。いいえ、違います)


ノーチェは、白状しなければならなかった。

あの時、魔導器械がショートしたのは、ダンが放つ感情のせいではない。測定器を通してダンと接続した瞬間、観測者であるノーチェ自身の内側から、器械の許容量を遥かに超える巨大な『ノイズ』が逆流したからだ。


心拍数の上昇、体温の微細な変化、視線の固定化。

過去のデータをどれだけ照合しても、この現象を説明できる論理的な数式は存在しない。

いや、本当は分かっているのだ。数式にできない、この感情の名前を。


(私は、彼を……)


ノーチェは万年筆を握り、これまで完璧な数字と客観的な事実だけを記してきた手帳の余白に、初めて私的な文字を書き込んだ。


『恋愛感情』


書いた直後、彼女はハッとして、慌ててその文字を二重線で消そうとした。

査定員に私情は不要だ。こんな不確定な変数を組み込めば、彼を正しく観測できなくなる。


ガリッ、ガリッ。

何度もペン先で文字を塗りつぶそうとするが、筆圧が強すぎて紙が破れそうになるだけで、その文字は手帳の奥深くにしっかりと刻み込まれてしまった。


(……消せません)


ノーチェは灰色の瞳を伏せ、小さく息を吐き出した。

数字にできないものを、初めて自分の記録として保存する。

それは、冷徹な査定員であった彼女が、一人の恋する少女として決定的なエラーを受け入れた瞬間だった。


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