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第46話 差し入れは監視業務です

昼時の〈クビキリ堂〉。

今日も今日とて、隣の部屋からドカドカと足音を立てて、正義の騎士令嬢が乗り込んできた。


「おい、ダン! 昼飯の時間だぞ!」


ロッタは俺の机の真ん中に、やけに豪華な三段重の弁当箱をドンと置いた。

中には、肉料理を中心に、彩り豊かな野菜がぎっしりと詰め込まれている。


「……なんだこれは。俺に対する新手の嫌がらせか?」

「か、勘違いするな! これは監視業務の一環だ! 国家公認となった監視対象に、栄養失調で倒れられては私の警備に傷がつく。だから、仕方なく作ってやっただけだ!」


ロッタは耳の先まで真っ赤にしながら、そっぽを向いて腕を組んだ。


「お言葉ですが、ローレッタ殿。その弁当は塩分濃度が高すぎます。彼の昨日の魔力波長の乱れから推測するに、今日はもう少し消化に良いもの――例えば私が用意したこの特製スープなどを摂取すべきです」


フィオナが無表情のまま、どこからともなく魔法瓶を取り出してロッタの弁当を牽制する。


「フィオナ殿のスープは確かに消化に良いですが、カロリーの摂取効率が悪すぎます。ダン氏の午後の業務パフォーマンスを維持するためには、私が計算したこの完全栄養食パックが最適解です」


さらにノーチェまでが、ゼリー状の不気味な栄養食を差し出してきた。

おい、お前ら。俺の昼飯の主導権を巡って、またしても静かなるアンチ同士の陣取り合戦を始める気か。


(俺の健康状態すら自分たちの手で管理し、生かすも殺すも自由にしてやろうという、実に粘着質な監視ヘイトだな)


俺が三人の牽制し合う姿を見て、感心して頷いていたその時だった。


パリンッ!


背後の窓ガラスが突然割れ、鋭い風切り音と共に、銀色の何かが俺の首筋めがけて飛んできた。

俺が公認代行人になったことで、王都での裏稼業を追われた闇の追放業者の残党だろう。手口が実に短絡的で青臭い。


俺はため息をつき、飛来する毒矢を指先で弾き落とそうと手を伸ばした――が。


「させんッ!」


ガキンッ!

俺が動くよりも早く、ロッタが鞘から剣を抜き放ち、飛来した毒矢を完璧な軌道で弾き飛ばしていた。


「なっ……!?」


窓の外の路地裏で、襲撃者が驚愕の声を上げる。

ロッタはそのまま窓枠を蹴って外へと飛び出し、逃げようとした襲撃者の背中に鞘ごとの一撃を叩き込み、一瞬にして地面に押さえつけた。


「……国家公認の代行人を白昼堂々襲撃するとは、いい度胸だ。お前には、王都騎士団の尋問室でたっぷりと絞られてもらおう」


ロッタが冷たく言い放ち、手早く襲撃者を縛り上げる。

その一連の動きは、一切の無駄がない、洗練された騎士の制圧術だった。


「お見事。だが、俺の獲物を横取りするなよ」

俺が窓から顔を出してボヤくと、ロッタはふぅっと短く息を吐き、額の汗を拭った。


「馬鹿者。お前が反応するより、私の方が早かっただけだ。……怪我はないな?」

「ああ。だが、襲撃者からのヘイトを味わい損ねた」


俺は少し不満げに肩をすくめ、先ほどの弁当箱に視線を戻した。


「それにしても、食事の提供から襲撃者の排除までセットになった、至れり尽くせりの二十四時間監視ヘイトとはな。俺も随分と贅沢なアンチを飼ったもんだ」

俺が心底嬉しそうに笑うと、ロッタはカッと顔を怒らせた。


「ふざけるな、バカ男! 誰がアンチだ! 私は正義の騎士として、お前の外道なやり方を見張って――」


怒鳴り散らそうとしたロッタの言葉は、俺が弁当の肉を美味そうに放り込んだのを見て、不自然に途切れた。

彼女は何かを言いかけて口を噤み、俺が無傷で弁当を食べている姿を見て、怒った顔のまま、どこかホッとしたように肩の力を抜いた。


【本日のヘイト評――補給物資つきの監視ヘイト。塩気と温度がある。★測定不能】



襲撃者を騎士団の詰め所に引き渡し、自室のベッドに倒れ込んだロッタは、赤くなった自分の顔を両手で覆った。


『お前の外道なやり方を見張って――』


いつも自分に言い聞かせてきたその言葉が、ひどく空々しく響いていた。

先ほど、窓ガラスが割れて彼が狙われた瞬間。自分の頭の中にあったのは、『正義』や『監視対象の保護』といった立派な建前ではなかった。


(ただ……彼が傷つくのが、嫌だった)


自分の作った弁当を、彼に食べてほしかった。

彼の背中を、誰の悪意からも守りたかった。


ロッタは剣を置き、ベッドの上でギュッと目を閉じる。

もはや、『監視』という言葉では、この胸の奥底で暴れる感情を説明しきれなくなっている。

彼がどれだけ自分のやり方を「外道だ」「ヘイトだ」と嘯こうとも、ロッタの目には、不器用に泥を被る優しい男の姿しか映っていなかった。


(……だが今はまだ、監視という名目でいい)


彼が本当に自分の心を見せてくれるその日まで。

不器用な騎士令嬢は、一番近くで彼を守るための言い訳を、もう少しだけ使い続けることにした。


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