第44話 国家公認追放代行人の初仕事
チンッ、と。
俺は指先で、外套の襟元につけられた真新しい銀色のバッジを弾いた。
『国家公認追放代行人・第一号』。あの狂乱の公開審問の末に、国から無理やり押し付けられたクソ忌々しい肩書きの象徴だ。
「……テンションが下がる。こんなピカピカのバッジをつけていたら、善良な市民の皆様から尊敬されてしまうじゃないか」
俺が机に突っ伏して悪態をついていると、事務所の扉が控えめにノックされた。
入ってきたのは、みすぼらしい身なりをした下級役人の男だった。
「あの……公認追放代行人の、ダン殿でしょうか。どうか、私の上司を追放していただきたいのです」
男はひどく怯えた様子で、一枚の依頼書を差し出した。
対象は、慈愛審問庁に新設されたばかりの『代行業管理課』に所属する小役人。俺のような公認業者を管理・監督するための部署の人間だ。
話を聞けば、この小役人は『公認代行人を優先的に手配してやる』とか『免許の更新に便宜を図る』などと言いふらし、立場の弱い市民や業者から賄賂を巻き上げ、書類を改竄して私腹を肥やしているという。
「なるほど」
俺は依頼書をパラパラとめくり、口角を吊り上げた。
「公認制度ができた途端に、その権威に寄生して甘い汁を吸おうとするダニが湧いたか。いいぞ、腐るのが早くて大変結構だ」
俺が立ち上がると、背後で三つの気配が同時に動いた。
「対象の魔力波長と、賄賂の隠し場所の特定は完了しています。いつでも動けます」
フィオナが紫紺の瞳を細め、記録ノートを小脇に抱える。
「審問庁の役人を相手にするなら、反撃のリスクが高い。私が前衛として同行する」
ロッタが剣の柄を鳴らし、当然のように俺の隣に並ぶ。
「該当の小役人による不正な資金移動の証拠データは、既に私の手元にあります」
ノーチェが眼鏡を押し上げ、分厚いファイルの束を抱え直す。
公認されてもなお、俺の『アンチ』である三人の少女たちは、全く変わらず俺の仕事に同席しようとしていた。
(……ご苦労なことだ。国のお墨付きをもらっても、こいつらの俺への執着(監視ヘイト)は少しも弱まっていないらしい)
俺は三人の重たい視線を心地よく背中に受けながら、小役人の待つ審問庁へと向かった。
◆
「な、なんだ君たちは! ここは管理課の執務室だぞ!」
扉を蹴り開けて踏み込んだ俺たちを見て、恰幅の良い小役人が椅子から飛び上がった。
「初めまして、代行業管理課の偉い人。俺は国家公認追放代行人のダンだ。今日は、あなたの部下からの依頼で、あなたに通知をお届けに上がりました」
俺は小役人の机に、ノーチェがまとめた不正の証拠書類を叩きつけた。
「先月十日、あなたは中央区の商人から金貨二十枚の賄賂を受け取り、追放代行の順番を不正に繰り上げた。さらに先週、それを告発しようとした部下を脅迫し、監査書類の数値を改竄させているな」
「ば、馬鹿な! 証拠などあるはずが……!」
「あります。裏帳簿の筆跡、隠し口座の魔力認証記録。すべてあなたのものです」
ノーチェが無表情で追撃し、フィオナが冷たい目で小役人の退路を塞ぐように立つ。
「き、貴様ら……! 私が誰だか分かっているのか! 公認代行人の生殺与奪を握る、管理課の人間だぞ! こんなことをして、ただで済むと……!」
権威を笠に着た、醜い逆ギレ。
俺は襟元の銀色のバッジを指先でなぞりながら、冷酷に笑った。
「勘違いするな。俺は国に飼われたんじゃない。国が俺のやり方を黙認せざるを得なくなっただけだ」
俺は小役人の胸ぐらを掴み、その肥え太った顔に言葉の刃を突き刺した。
「あなたは制度を守っていない。制度の皮を被った小銭入れです」
「なっ……!」
「――以上の理由により、貴殿を追放する」
俺が追放宣告を下すと、小役人は顔を真っ赤にして暴れようとしたが、ロッタがすかさず鞘に入ったままの剣で鳩尾を突き、あっさりと無力化してみせた。
その後、証拠書類と共に小役人の身柄はグラデルの元へと引き渡された。
「……公認制度を利用した不正を、公認第一号が真っ先に叩き潰すとはな。頭が痛いよ」
グラデルが胃を押さえながらボヤくのを背に、俺は意気揚々と審問庁を後にした。
小役人が引き立てられる際に俺に向けた、あの煮えたぎるような憎悪の眼差し。権威を剥ぎ取られた人間の、惨めで香ばしい逆恨み。
「公認されて、聖人君子扱いされるかと思ったが……案外、このバッジも悪くないな。権威に寄生するダニを潰せば、しっかり俺を憎んでくれる」
俺が機嫌良く鼻歌を歌うと、後ろを歩く三人の少女たちが、揃ってやれやれと溜め息をついた。
国家公認になろうとも、俺の追放代行の日常は、これからも変わらず極上のヘイトに満ちているらしい。
【本日のヘイト評――公認制度に寄生した小役人の苦味。小粒だが香ばしい。★4.0】
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