表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/50

第42話 判決、公認――どうして

公開審問の最終日。

王都の視線が集中する大法廷で、俺は被告席に立ち、主任審問官グラデルの言葉を待ちわびていた。


昨日、審問庁の強硬派が仕掛けてきた『無関心作戦』は、俺の優秀なアンチである三人の少女たちによって見事に打ち砕かれた。

俺の存在感は今や王都全体を巻き込み、頂点に達している。

あとはグラデルの口から『有罪』という最高の言葉が発せられれば、俺は名実ともに王都が認める社会の敵、極悪人としての名誉を手に入れることができる。


「さあ、判決を言え。俺の罪の重さを、世界に知らしめてくれ」


俺が不敵な笑みを浮かべて煽ると、グラデルは手元の答弁書を見つめたまま、深く、長く息を吐き出した。


「……被告人、ダン。本審問において、あなたの言葉が多くの市民に精神的苦痛を与えた事実は免れ得ない。優しさ憲章の理念に照らし合わせれば、あなたの行為は極めて非人道的である」


グラデルの厳しい言葉に、俺は「いいぞ、もっと言え」と心の中で喝采を送る。

だが、グラデルはそこで一度言葉を切り、ゆっくりと法廷全体を見渡した。


「しかし、これまでに提出された証拠と証言により、この社会が『優しさ』の名の下に、多くの問題を放置し、真面目な弱者を泣き寝入りさせてきたこともまた、否定できない事実であった」


法廷が静まり返る。

検察席の保険会社や出版ギルドの連中は、血の気を引かせた顔でグラデルを睨みつけている。


「……本件については、王宮法務局からの特命により、王権の裁定が下された。被告人ダン。あなたを完全な無罪とすることは、現行の憲章において不可能だ。だが、完全な有罪として切り捨てるには、あなたが社会にもたらした『膿を出す効果』は無視できない」


グラデルはまっすぐに俺を見据え、その口から信じられない言葉を紡いだ。


「よって、判決を下す。被告人ダンを、慈愛審問庁の厳重な管理下に置く。そして……社会に必要な劇薬として、特例により『国家公認追放代行人・第一号』の免許を授与する!」


ドッと、傍聴席からどよめきが沸き起こった。

……は?


「こ、公認……?」


俺は自分の耳を疑った。

国家公認? 俺が? 社会の敵である俺が、国からお墨付きをもらっただと?


「ふざけるなああああっ!!」


俺は被告席の机を蹴り飛ばさんばかりの勢いで身を乗り出し、グラデルに向かって吠えた。


「俺は外道だぞ! 公認なんかされたら、依頼主から頼りにされちまうだろうが! 俺が求めているのは正当な社会的地位じゃない、理不尽な逆恨みと極上のヘイトだ! 俺を社会の敵に戻せ! 頼むから有罪にしてくれ!」


必死の抗議。魂の叫び。

だが、俺が絶望して騒げば騒ぐほど、群衆の目は奇妙な熱を帯びていった。


「……見ろよ。国家公認という最高の名誉を与えられても、あいつは少しも驕っていない」

「権力に媚びず、最後まで自分の悪役という立場を貫こうとしているんだ……!」

「なんという謙虚さ……! 本物の仕事人だ!」


法廷が、割れんばかりの拍手と称賛の嵐に包まれた。

俺の絶望的な叫びは、またしても群衆の都合のいい善意フィルターによって『権力に媚びない謙虚な姿勢』へと変換されてしまったのだ。


「違う、やめろ……俺を褒めるな……!」


俺は拍手の渦の中で崩れ落ち、ただ一人、世界で一番不幸な男のような顔で天井を仰いだ。



数日後。

王都の路地裏にある〈クビキリ堂〉の事務所は、朝から異様な活気に満ちていた。


「所長! やりましたね! 国家公認ブランドですよ!」


ピノが、俺の絶望などどこ吹く風で、ものすごい勢いで新しい羊皮紙に文字を書き込んでいた。


「これまでの基本料金を三割増しにします! さらに『国家公認・優先枠オプション』『審問庁公認・法的リスク回避プラン』を新設! これでうちは、王都で一番儲かる代行業の完成です!」


狐の耳をピンと立て、銭ゲバの笑みを浮かべるピノ。俺が公認されたことによる社会的信用を、一ミリの遠慮もなく金に換算している。


「……当然の結果です。私が二十四時間体制で収集し、論理的に構築した観察データが、社会のシステムにバグを認めさせたのですから」


向かいの席では、フィオナが誇らしげに胸を張り、自分の分厚いノートを撫でていた。

俺を法廷で助け、公認の決め手を作ったのは自分の監視記録であるという、アンチとしての謎の優越感に浸っているらしい。


「ふん。公認されたからといって、お前のやり方が正義だと認められたわけではないからな!」


隣の部屋から顔を出したロッタが、腕を組んでビシッと俺を指差す。


「だが、国が管理しきれないというのなら仕方がない。私が引き続き、この隣の部屋からお前を二十四時間監視してやる。国家に代わって、このロッタがお前という危険人物を見張るのだからな!」


公認という肩書きすら飛び越えて、自分個人の監視権限を正当化しようとする理不尽な宣言。


「……素晴らしいです。国家公認となったことで、これまでアクセスできなかった審問庁の裏データや、ギルドの非公開統計にも堂々とアクセスできるようになります」


ノーチェは灰色の瞳の奥に、かつてないほどのギラギラとした光を宿し、眼鏡を何度も押し上げていた。

無表情のままだが、俺というデータ集積体を国のシステム内で自由に観測できる権限を手に入れたことに、彼女の内なる計算機がショートするほど興奮しているのが分かる。


(……なるほど)


俺は机に突っ伏しながら、三人の様子を横目で見た。


(国から公認されたことで、群衆からの野生のヘイトは薄まってしまった。だが、こいつらは『国家公認』という新しい枠組みを利用して、俺をさらに効率よく搾取し、監視し、独占しようとしているんだな)


俺という社会の敵が、今度は国家のシステムに組み込まれた飼い犬として、彼女たちの都合のいいように弄ばれる。

それはそれで、極めて屈辱的で、腹立たしく……そして、悪くないヘイトの形だった。


「……まあいい。公認だろうが何だろうが、俺は俺のやり方で憎まれるだけだ」


俺は深く溜め息をつきながら、ピノが作った新しい料金表に、嫌々ながらも承認のサインを書き込んだ。


【本日のヘイト評――国家公認。最悪だ。だが嫉妬と反発の余韻は悪くない。★4.9】


========================================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ