表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/50

第32話 被害者の会、感謝を始める

ガンッ! ガンッ!

静まり返った大法廷に、グラデルの鳴らす木槌の音が重々しく響き渡った。


「これより証人喚問を行う。被告人ダン、あなたの配慮なき言葉の暴力によって、深く心を傷つけられ、社会復帰が困難になった者がいる。検察側、証人前へ」


グラデルの言葉を受け、保険会社のベルディが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

大法廷の重厚な扉が開き、一人の男が入廷してきた。

かつて俺が一番最初に追放通知を行った慢心エース剣士、ガルドだ。


だが、その姿を見て俺は少しだけ目を丸くした。

以前のような見栄えだけを重視した派手な鎧ではない。使い込まれた革鎧に、手入れの行き届いた実用的な長剣。顔つきも精悍になり、油断のない冒険者の歩法を身につけている。


「証人ガルド」


ベルディが芝居がかった声で語りかける。


「あなたは被告人から『仲間を人質にした荷物』とまで罵倒され、パーティーを理不尽に追放された。その深い心の傷について、陪審員と群衆に語っていただきたい」


さあ、来い。

俺が浴びせた辛辣な言葉への怨嗟。再起するまでに味わった屈辱。俺への殺意。

それを王都の中心で大声で叫び、群衆の憎悪に火をつけてくれ。俺は身を乗り出し、極上のヘイトを待ち構えた。


「――ふざけんな。俺はこいつを恨んじゃいねえよ」


ガルドの低く落ち着いた声が、法廷に響いた。


「……はい?」

ベルディが間の抜けた声を漏らす。俺も思わず「は?」と声に出しそうになった。


「確かに、追放された直後はこいつを殺してやりたいほど憎かった。だが、ソロになって一人で迷宮に潜り、自分の身を守る誰もいない状況で魔物と対峙して……俺は初めて、自分の弱さと傲慢さに気づいたんだ」


ガルドは真っ直ぐに俺を見て、深々と頭を下げた。


「あの時、クビにされてなきゃ俺は死んでた。今、俺がソロの賞金稼ぎとして飯を食えてるのは、あんたが現実を突きつけてくれたおかげだ。……ありがとう」


法廷が、ざわわっとどよめいた。

違う、そうじゃない。なんだその爽やかな青春劇の結末みたいな顔は。お前は俺を逆恨みして決闘を挑んできた小物剣士だろうが。


「ち、違う! 彼は被告人の恐怖で洗脳されているだけだ! 次の証人を!」


顔面を蒼白にしたベルディが、慌てて次の証人を呼び込む。

現れたのは、商業ギルド会頭の息子、レオンだった。

泥臭い行商人の服を着た彼は、証言台に立つなり、俺に向かって満面の笑みを向けた。


「ダンさん! 聞いてください、俺、この前初めて隣の街との取引で金貨一枚の利益を出したんです! 親父の威光なしで、自分の力だけで!」


嬉しそうに報告してくるな。ここは法廷だぞ。


「俺に『親の肩書きが失敗を失敗にさせなかった』って言ってくれたこと、今でも感謝してます! あの言葉がなかったら、俺は今でも腐った豚のままでした!」


さらに次の証人として、あの横柄だった劇団の元主演俳優が呼ばれる。

彼は市場の八百屋の格好で現れ、「大声で野菜を売る才能を見出してくれた恩人だ!」と涙ながらに語り始めた。さらには、バルガスにしごかれていた若手騎士たちまでが「彼のおかげで騎士団の膿が出た」と感謝を述べ始める。


「ちょ、ちょっと待て……お前ら、ここは『被害者の会』だろうが! 感謝するな! 俺を恨め! もっと憎悪をぶつけてこい!」


俺がたまらず被告席から叫ぶと、群衆からは「なんて不器用な男だ」「自分の悪名を被ってまで彼らを更生させたのか」と、的外れな同情と称賛の声が上がり始めた。


最悪だ。胃がもたれる。

致死量の砂糖を無理やり喉の奥に詰め込まれている気分だ。


「……対象へ向けられる不規則な好意ベクトルを多数検知。極めて不愉快です」


俺の背後で、フィオナが魔力灯を不穏に明滅させていた。

彼女は証言台の元追放者たちを、まるで自分の所有物に群がる羽虫でも見るような、絶対零度の瞳で睨みつけている。


「……ふん。当然だ。こいつのやり方は外道極まりないが、結果的に人を救っている。あの証言者たちは、自分の足で立つ強さを手に入れたのだからな」


ロッタが腕を組み、どこか誇らしげな、それでいて少しだけ複雑そうな顔で俺の背中を見つめている。


「追放対象者の再起率、及び社会貢献度の向上を確認。……検察側の『社会復帰不可能』という主張は、データによって完全に棄却されました」


ノーチェが手元の計算機を叩き、ベルディたち検察陣に向かって無慈悲な数字の宣告を下す。


「ば、馬鹿な……こんなはずでは……」


ベルディが頭を抱えて座り込み、出版ギルドの連中も青ざめた顔で顔を見合わせている。

俺を社会的に抹殺するための公開審問。その初日は、検察側が用意した証人たちが次々と俺に感謝を述べるという、前代未聞の崩壊劇を引き起こしていた。


(違う。俺はこんな甘ったるい茶番を望んでいたわけじゃない……!)


群衆から向けられる称賛の眼差しと、背後から突き刺さる三ヒロインの重たい視線。

俺は両手で顔を覆い、全く見当違いの方向に進んでいく裁判の行方に、ただ絶望するしかなかった。


【本日のヘイト評――感謝の集中砲火。甘すぎる。胸焼けする。★1.0】


========================================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ