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第31話 公開審問のお知らせ――祭りだ

王都の中心にそびえる、白亜の建造物。慈愛審問庁の大法廷。

俺が重い木の扉を開けて中に足を踏み入れた瞬間、法廷のドーム状の天井に反響し、鼓膜を突き破るような怒号が降ってきた。


「この悪魔め!」

「よくも人の人生を壊してくれたな!」

「極刑にしろ! 王都から永遠に追放しろ!」


傍聴席を埋め尽くした数百人の群衆が、一斉に俺に向かって憎悪をぶつけてくる。殺意、軽蔑、敵意。ありとあらゆる負の感情が、巨大な濁流となって俺の全身に押し寄せる。

……ああ、たまらない。

俺は息を深く吸い込み、濃厚なヘイトの香りを肺の奥までたっぷりと味わった。街のあちこちに俺の手配書のような布告が張り出されて以来、この日を待ちわびていた。


布告には、祝福市場だの人工ざまぁだのという複雑な事情は書かれていない。

ただ一言、追放代行人ダンこそが社会不安の元凶だと、分かりやすい悪役の顔だけが貼り出されていた。


王都規模で嫌われる、俺のための巨大な祭りの始まりだ。


「被告、所定の席へ」


法廷の中央、一段高い裁判官席から、主任審問官のグラデルが重々しい声で告げる。彼の顔には、善良な役人特有の疲労と苦悩が色濃く滲んでいた。

一方、検察側の席には、ざまぁ保険会社の調査部長ベルディや、先日俺が追い出した出版ギルドの関係者たちが、俺を食い殺そうとギラギラした目を向けて並んでいる。彼らにとって俺は、自分たちの甘い汁を吸うシステム――『祝福市場』を壊す害悪そのものなのだ。


俺は周囲から浴びせられる罵声を心地よい音楽のように聞き流し、余裕の足取りで被告席に座った。

すると、俺のすぐ後ろに用意された弁護人席で、静かだが激烈な争いが勃発していた。


「私が彼の真後ろに座ります。対象の心拍数、微細な魔力変動、およびストレス値を最も正確に記録・解析できるのは、この位置だけですから。そこをどいてください」

フィオナが銀灰の髪を揺らし、無表情のまま、被告席の真後ろの椅子をガッチリと掴んで離さない。


「待て。背後の警備は騎士である私の役目だ! 群衆からいつ物が投げ込まれるか分からないんだぞ。不審な動きがあれば私が斬る。お前こそ端に寄れ、魔術師!」

ロッタが剣の柄を握りしめ、フィオナの肩を強引に押しのけようとする。


「お言葉ですが、法廷闘争は数字と証拠の戦いです。瞬時にデータを提出し、検察側の論理的エラーを指摘するためには、最もアクセスしやすい中央の席は私が使用するのが最適解です。どいてください」

ノーチェが分厚い資料の束をドンと机に置き、二人の間に無表情で割り込んでくる。


三人の少女たちが、俺のすぐ後ろの特等席を巡って、バチバチと激しい火花を散らしている。

周囲の傍聴人たちが「なんだあいつら……」「危険人物にたぶらかされた哀れな女たちか?」と呆気に取られているが、無理もない。


「所長。とりあえず、弁護団としての特別出張手当と、万が一所長が有罪になった場合の保釈金の前借り請求書です」

隅っこの席にちゃっかりと陣取ったピノが、俺に書類を差し出してきた。


「俺は弁護団なんか頼んだ覚えはないぞ。俺は今日、ここで心ゆくまで糾弾され、世界中から嫌われに来たんだ。俺を助けようとするな」


「却下します。私の観察対象が、不純なデータによって社会のシステムから排除されるのは許容できません」

フィオナが紫紺の瞳を細め、冷たく言い放つ。


「外道はお前一人で十分だ。あんな腐りきった連中の陰謀で、お前を不当に裁かせるものか。私の正義が許さない!」

ロッタが碧眼に怒りを燃やして、検察側のベルディたちを睨みつける。


「数字は嘘をつきません。私は、あなたの正しい数字を証明し、保険会社の矛盾を叩き潰すためにここに来ました」

ノーチェが眼鏡の奥の灰色の瞳を鋭く光らせる。


……なるほど。

こいつらは、俺を裁く権利、俺を監視する権利は自分たちにしかないと信じて疑わないのだ。

自分たちがずっと敵視してきた極上の獲物を、ぽっと出の保険会社や審問庁に横取りされるのが我慢ならないらしい。


(俺というヘイト避雷針を巡る、アンチ同士の苛烈な陣取り合戦か。いいぞ、もっと争え)


俺が一人で嬉しそうに頷いていると、グラデルが木槌を叩いた。


「静粛に! これより、追放通知代行人ダンに対する公開審問を開始する!」


法廷内が水を打ったように静まり返る。


「被告、ダン。そなたには以下の容疑がかけられている。優しさ憲章違反に該当する『配慮なき通告』。それに伴う多数の市民への『精神的被害』。さらには不当な追放による『社会不安の増大』、および国家の承認を得た市場構造への干渉……すなわち『祝福市場への業務妨害』である」


グラデルが読み上げる罪状に、傍聴席から再び「そうだそうだ!」「厳罰を!」と激しい野次が飛ぶ。


「検察側、最初の証人を」


グラデルの促しに、保険会社のベルディが立ち上がり、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「はい。まずは、この悪魔のような男によって、不当にパーティから追い出され、精神的な深い傷を負った『被害者の会』の代表に証言していただきます」


ベルディが芝居がかった手振りで、証人喚問の扉を指し示す。

手元の被害者名簿。その先頭に記された名前を見て、俺は思わず吹き出しそうになった。


『証人:ガルド』


ガルド。

それは、俺がこの〈クビキリ堂〉を開業して初めて通知を行った、あの慢心エース剣士の名前だった。

俺に追放され、逆恨みで決闘を挑んできて、俺の歩法と防御の前に木っ端微塵に返り討ちにされた男。


(なるほど。あの青臭い逆恨みの直球を、この大舞台で再び味わえるというわけか)


「極上のヘイト祭りの、開幕だな」


俺は法廷の中心で、これから浴びるであろう最高級の憎悪に胸を躍らせながら、深く、満足げな笑みを浮かべた。


【本日のヘイト評――開廷前の群衆ヘイト。樽で欲しい。★5.0候補】


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