第18話 『怪物の通過点』
【保有タグ数】
【11枚】
灯真は息を呑む。
九条も絶句していた。
開始から数分。
十一枚。
それは。
十人以上を倒したという意味だった。
「化け物かよ……」
九条が呟く。
灯真は森の奥を見る。
木々が揺れている。
まだ戦いは続いている。
御門皇牙。
序列十二位。
そして。
今の自分では届かない存在。
その時だった。
観測者が反応する。
【タグ反応】
【前方112m】
【保有数:3】
灯真は顔を上げる。
三枚。
本戦進出条件。
九条も気づいた。
「行くか」
灯真は頷く。
今は皇牙じゃない。
まずは生き残る。
◇
森の奥。
小さな広場。
そこには倒れた生徒たちがいた。
四人。
全員脱落。
そして。
中央に立つ少女。
短い茶髪。
鋭い瞳。
首元には二枚のタグ。
観測者が反応する。
【対象解析】
【白石結衣】
【推定順位34位】
【戦術特化】
白石は木の枝へ飛び乗る。
軽い。
無駄がない。
「止まりなさい」
その言葉と同時。
左右の茂みから二人の男子生徒が現れた。
挟撃。
待ち伏せ。
灯真は理解する。
罠だ。
白石はため息を吐く。
「しつこいなぁ」
男の一人が笑う。
「そのタグ置いてけ」
もう一人も構える。
二対一。
白石は不利だった。
その時。
観測者が反応する。
【勝率予測】
【白石単独】
【34%】
低い。
灯真は舌打ちする。
助ける義理はない。
本来なら。
だが。
次の瞬間。
男の一人が白石の死角へ回った。
卑怯な動き。
灯真は反射的に叫ぶ。
「後ろ!」
白石の目が見開く。
ギリギリで回避。
攻撃が空を切る。
その瞬間。
白石が灯真を見る。
驚いたように。
そして。
少しだけ笑った。
「借り一つね」
九条が前へ出る。
「二対二なら文句ないよな!」
地面を蹴る。
轟音。
正面の男と激突。
吹き飛ぶ。
だが。
九条は止まらない。
純粋な身体能力。
力なら負けていない。
灯真も動く。
観測者。
侵食適応。
相手の重心。
視線。
呼吸。
全部見える。
男が踏み込む。
灯真は半歩ずれる。
回避。
さらに。
二歩目。
予測。
三歩目。
完全に読んだ。
「なっ!?」
男の体勢が崩れる。
灯真は足を払う。
転倒。
首元のタグを奪う。
一枚。
その時。
白石の蹴りが決まる。
残った男も倒れる。
勝負あり。
静寂。
四人が息を吐く。
そして。
観測者が反応した。
【タグ獲得】
【合計3枚】
灯真は首元を見る。
条件達成。
本戦進出。
だが。
喜ぶ暇はなかった。
その時だった。
轟音。
森全体が揺れる。
木々が倒れる。
全員が振り返る。
近い。
あまりにも近い。
観測者が警告を鳴らす。
【高脅威反応接近】
【距離42m】
白石の顔色が変わる。
九条も息を呑む。
そして。
現れた。
御門皇牙。
傷一つない。
呼吸も乱れていない。
まるで散歩の途中だった。
その周囲には。
倒れた生徒たち。
無数のタグ。
皇牙は歩く。
静かに。
ゆっくりと。
だが。
圧倒的だった。
白石が一歩下がる。
九条も無意識に拳を握る。
灯真だけは動かない。
皇牙の視線。
それが自分へ向く。
数秒。
沈黙。
そして。
「残ったか」
短い言葉。
灯真の鼓動が鳴る。
覚えられている。
皇牙は地面のタグを見る。
興味を失ったように呟く。
「三枚か」
そして。
それ以上何も言わない。
歩き出す。
灯真たちの横を。
まるで。
道端の石を見るように。
誰にも手を出さない。
誰とも戦わない。
そのまま通り過ぎる。
静寂。
白石が呟く。
「今ので助かったと思う?」
誰も答えない。
皇牙は自分たちを敵と認識していない。
それが一番恐ろしかった。
◇
その頃。
森のさらに奥。
皇牙は一人で歩いていた。
首元には大量のタグ。
17枚。
誰も近づかない。
近づけない。
皇牙は一枚の端末を取り出す。
現在の参加者一覧。
その中に。
一つの名前。
【久瀬灯真】
皇牙は数秒見つめる。
そして。
小さく笑った。
「まだ落ちていないか」
興味。
ほんの少しだけ。
だが。
次の瞬間。
皇牙の視線が別の名前で止まる。
【白瀬蒼司】
沈黙。
さらに。
その上。
【鷹城迅】
皇牙の口元が上がる。
「ようやくか」
拳を握る。
タグには興味がない。
本当の目的は別。
強者。
怪物。
自分と同じ領域にいる者。
皇牙は進路を変える。
森の最奥へ。
そこには。
白瀬と鷹城がいる。
予選はまだ終わらない。
だが。
怪物たちの戦いが始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
感想・評価励みになります。




