第17話 『三枚のタグ』
「悪いな」
「お前らのも貰う」
男が笑う。
開始から十秒。
森へ入った直後。
既に二枚のタグを首から下げている。
灯真は目を細める。
早い。
あまりにも。
つまり。
弱くない。
観測者が反応する。
【対象解析】
【高槻隼人】
【推定順位:58位】
【近接戦闘特化】
灯真は息を呑む。
順位持ち。
しかも。
かなり上位。
その瞬間。
高槻が地面を蹴る。
速い。
一直線。
九条へ向かう。
「っ!」
九条が反応する。
だが。
間に合わない。
その時。
観測者が警告する。
【回避推奨】
灯真は叫ぶ。
「左!」
九条が反射的に動く。
轟音。
拳が木へ突き刺さる。
太い幹が砕けた。
九条の顔が引きつる。
「笑えねぇな」
高槻は笑う。
「避けたか」
その時だった。
左右の茂みから二人。
仲間。
高槻チーム。
三対二。
数でも負けている。
九条が舌打ちする。
「開始直後からこれかよ」
灯真は周囲を見る。
森。
木々。
地形。
相手の重心。
呼吸。
癖。
全てを観察する。
その時。
観測者が反応した。
【勝率計算】
【正面戦闘】
【勝率21%】
低い。
かなり。
だが。
次の表示。
【連携戦闘】
【勝率47%】
灯真は九条を見る。
信じるしかない。
「九条!」
「右を止めろ!」
九条は即答した。
「任せろ!」
迷いがない。
高槻の仲間が飛び出す。
九条も踏み込む。
正面衝突。
轟音。
二人が激突する。
その隙。
灯真は動いた。
高槻。
その視線。
足運び。
観測者が流れを示す。
見える。
以前より。
はっきり。
侵食適応。
あの試験で得た力。
高槻が拳を振る。
灯真は半歩ずれる。
回避。
さらに。
二歩目。
予測。
三歩目。
完全に読んだ。
高槻の目が見開く。
「なんで読める!」
灯真は答えない。
代わりに。
足を払う。
高槻の体勢が崩れる。
その瞬間。
首元のタグへ手が伸びる。
引き抜く。
一枚。
タグ獲得。
高槻の顔が歪む。
「てめぇ!」
だが。
その時。
九条が笑った。
「余所見してんじゃねぇ!」
拳。
高槻へ直撃。
吹き飛ぶ。
地面を転がる。
勝負が決まった。
高槻は立ち上がれない。
敗北。
静寂。
残った二人の仲間は顔を見合わせる。
そして。
逃げた。
即座に。
タグを守るため。
追うべきか。
灯真は考える。
だが。
観測者が反応する。
【推奨】
【深追い非推奨】
【高脅威反応接近中】
灯真の表情が変わる。
高脅威。
誰だ。
その時。
木の上から声。
「判断は悪くない」
全員が見上げる。
白瀬蒼司。
序列七位。
測定不能。
木の枝の上。
腕を組んでいた。
いつからいたのか分からない。
高槻ですら気づいていなかった。
白瀬は降りてこない。
ただ見ている。
観察している。
灯真を見る。
そして。
「前よりマシになった」
短い評価。
それだけ。
助けない。
戦わない。
ただ見ている。
まるで試験官だった。
灯真は眉をひそめる。
「監視か?」
白瀬は答えない。
その代わり。
森の奥を見る。
その瞬間。
白瀬の表情が僅かに変わる。
初めて。
警戒。
そんな色が見えた。
「来るぞ」
静かな声。
灯真の背筋が凍る。
何が。
その時だった。
観測者が警告を鳴らす。
【高脅威反応検知】
【識別成功】
灯真は息を呑む。
表示された名前。
【御門皇牙】
怪物。
序列十二位。
そして。
続く表示。
【保有タグ数】
【11枚】
静寂。
九条が固まる。
「……は?」
開始から数分。
十一枚。
つまり。
十人以上を脱落させた。
たった一人で。
白瀬ですら小さく息を吐く。
そして。
森の奥から轟音が響いた。
木々が倒れる。
地面が揺れる。
誰かが戦っている。
違う。
蹂躙している。
灯真の鼓動が速くなる。
皇牙が来る。
怪物が。
そして。
観測者の最後の表示。
【脅威評価】
【現時点勝率】
【0.8%】
灯真は拳を握った。
まだ届かない。
だが。
いつか超える。
そのために。
まずは生き残る。
首元には奪ったタグが一枚。
九条のタグと合わせて二枚。
あと一枚。
本戦まで。
あと一歩だった。
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